2022年01月06日

◆ 雪と エンジン車・EV

 関東南部に雪が降った。そこで雪と自動車の関係を考える。エンジン車と EV を比べる形で。

 ――

 雪とエンジン車


 雪が降ると、自動車は大変だ。特に、SUV(ミニバンなど)は、一酸化炭素中毒の恐れがある。これは、広く知られてはいないのだが、慧眼の主が指摘した。
  → 大雪立往生での一酸化炭素中毒の原因について
 
 雪が積もって、排気口(マフラー)が塞がれると、一酸化炭素中毒になる危険がある。この件はよく知られている。
 一方、別の危険がある。室内の空気を換気するために、室内の空気について、吸入口(空気の入口)と、排出口(空気の出口)がある。このうち、後者が問題だ。
 これは(車体後部の)通気口だが、この通気口から空気が逆流して、排気ガスが室内に流入することがある。特に、通気口が車の排気口に近い位置にあると、問題だ。
 セダンならば、通気口の位置が高くて、この問題はないことが多い。
 SUV ならば、リアピラー(Cピラー)の形状などの理由で、高い位置には通気口を置けない。そこで、通気口の位置が低くなることが多い。すると、通気口から排気ガスが逆流しやすい。そのせいで、室内にいる人が一酸化炭素中毒になりやすい。
 しかも、この通気口が、バンパーに隠されて、位置が不明であることが多い。すると、「通気口が低いので危険だ」と判明しにくい。

 たとえば、旧型プリウスでは、通気口は外からは見えない。
  → プリウスの画像
 一方、(下方の)リアバンパーの裏に「ドラフター」と呼ばれる通気口があることがある。
  → 絶対やっちゃダメ!禁断のクルマ実験室09 エンジンをかけたまま、ボディ後部を覆ってみる
 この状態で、まわりを雪に囲まれると、排気ガスが室内に流入するはずだ。そのことを確認するために、上の実験では、自動車の後部全体をブルーシートで覆ってみた。すると見事、排ガスはドラフター(通気口)を通じて、室内に流入した。室内にいる人は一酸化炭素中毒寸前になった。(危険な実験。真似しちゃ駄目!)

 ともあれ、こうして、プリウスのような車( SUV ではないが SUV ふうの車)では、雪の日には一酸化炭素中毒にかかりやすい……ということが判明した。
 (本日の東京のように)積雪が浅ければ(10cm以下ならば)、大丈夫だろうが、積雪が 15cm 以上になると、一酸化炭素中毒になる危険が高まる。エンジン車にはそういう危険があるとわきまえよう。

 雪と EV


 EV ならば、(もともと一酸化炭素を排出しないので)、上記の問題はない。その意味では、いちおう安全だ。
 「一酸化炭素で死ななくても、暖房用の電池の電気がなくなって、寒さゆえに凍死する恐れがあるのでは?」
 と心配する人もいる。だが、普通に充電していれば、その心配はいらないようだ。NHK が実験した。
  → 大雪! 電気自動車が立往生したら | NHK北海道

 初めが満充電であれば、エアコンをつけっぱなしにしても、10時間後も大丈夫であるそうだ。エアコンの温度設定を 25℃でなく 18℃ に下げれば、10時間たっても41%の電力が残っているそうだ。これなら全然大丈夫……と思える。

 しかし、NHK の想定は甘い。なぜなら、最初に満充電であることなど、まずないからだ。常識的に考えれば、最初の電池容量は 70%ぐらいであると見なすべきだろう。となると、「全然大丈夫」とまでは言えなくなりそうだ。
 ただ、凍死を避けるという意味では、温度設定は 12℃ でも大丈夫だから、最初のバッテリー容量が半分以上あれば、一晩過ぎてもまだまだ大丈夫だと言えるだろう。(厚着していることが前提だが。また、シートヒーターも併用することが前提だ。)

 ※ 逆に言えば、バッテリー容量が半分以下の状態で、雪の中に EV で出向くのは、自殺行為である。雪の日には、バッテリー容量に注意しておこう。容量不足ならば、さっさと充電するべきだ。命のためにも。

 ――

 暖房とは別の点で、EV には弱点があることが発覚した。雪国では(あまりにも大量の雪が降り積もるせいで)、EV の給電口が雪で埋められてしまうのだ。
  → 電気自動車の致命的な問題が雪国で発覚してしまう「エンジンなくて排熱無いから雪が解けなくて走ってると凍りつく」



 この問題は、技術的には解決可能だ。EV を寒冷地仕様にして、車体のあちこちにヒーターを付ければ、ヒーターの熱で雪を溶かすことができる。そうして問題は解決できる。
 しかし、そうすると、やたらとヒーターの熱を食うので、化石燃料車よりもエネルギー的に非効率となる。下手をすると、化石燃料車よりも多くの炭酸ガスを排出しかねない。(特に日本のように、発電には火力発電が多い国ではそうだ。)

 化石燃料車ならば、もともと捨てられるはずの熱を回収するだけで、室内の暖房も可能だし、車体の加熱も可能だ。新たな熱エネルギーは必要ない。廃物利用のような形でエネルギーを有効利用できる。これは「エネルギーの利用効率が高まる」ということでもある。
 EV には、そのことが効かない。その意味で、寒冷地では EV は非効率であり、不利なのである。この件は前にも説明した。
  → 自動車をすべて脱炭素化する?: Open ブログ の (1)

 ――

 ともあれ、寒冷地においては、EV は適さない。とすれば、
 「全面的な EV 化を推進して、化石燃料車を完全禁止する」
 というような方針は、やめた方がいい。つまり、寒冷地においては、上記方針の例外とする方がいい。

 これに対しては、反対論もあるだろう。
 「いや、炭素排出量をゼロにするためには、例外は認められない!」
 というふうな。 
 しかし、それはナンセンスである。なぜなら、たとえ自動車を全面的に EV化したとしても、暖房や調理のためにはガスの利用が今後もずっと続くはずだからだ。

 「炭素排出量をゼロにする」
 というのを必達の目標とするのであれば、寒冷地の化石燃料車を禁止するよりは、一般的な暖房や調理のための化石燃料使用を減らした方がいい。
 ちなみに、最近は石油価格が非常に高騰しているが、これは暖房用の化石燃料使用が増えているからだ。また、暖房用の電力をまかなうための火力発電所で、化石燃料使用が増えていることもある。
 これらにおいては化石燃料使用が莫大にあるのに、それを放置して、自動車の分野だけで「化石燃料の使用をゼロにしよう」というのは、ナンセンスだ。

 欧州や日本は、「 2035年までにガソリン車を禁止」というような方針を取る国が多い。
  → ガソリン車が販売禁止になるって本当?世界で加速するEV化について
 だが、そんな方針を取るのならば、一般家庭や工場においても、「暖房の用途で化石エネルギーの使用禁止」を決めるべきだ。
 なのに、そうしないで、「自動車だけで化石燃料車の禁止」を掲げるのは、あまりにも不平等であり、ナンセンスだ。それよりはむしろ、「寒冷地においては化石燃料車の使用を許容するが、かわりに(暖房などの)他分野で化石燃料の使用を減らす」という方針の方が、ずっと合理的なのだ。

 《 加筆 》
 特に日本においては、火力発電で石炭利用の比率がとても高い。2030年でもまだ高い比率を保つ方針だ。
 世界が「脱石炭」の流れに向かう中で、日本は電源の 32%を石炭火力に頼っており、2030年度でも 19%を石炭火力が占める計画だ。
( → (取材考記)COP26合意事項、政府発表に記されず 脱石炭火力、世界と向き合う意識を 香取啓介:朝日新聞

 このような石炭依存を減らすことの方が重要だろう。自動車の炭酸ガスだけを減らしても、意味がない。
( ※ さらには、あろうことか、条約における「石炭削減」の方針を隠蔽して発表した、という不行跡もあった。詳しくは上記記事を参照。)



 [ 付記1 ]
 寒冷地では、エネルギー的にも、化石燃料車を使う方が賢明である。
 なるほど、物を動かすというような運動エネルギーのためであれば、電気によるモーター駆動はとても有益だ。だが、単に熱を得るだけというような用途では、電気を使うよりも、化石燃料を使う方が有効であることが多いのだ。というのは、熱を利用するのであれば、熱効率というものが十分に高くなることが多いからだ。
 自動車の移動のような場合には、有効に利用されなかったエネルギーが無駄に排出されるが、その無駄になったエネルギーは、熱となる。一方、暖房や調理の場合には、熱はそのまま熱として利用されるので、無駄になる部分はとても小さい。だから、暖房や調理の用途であれば、化石エネルギーを使うことはそんなに悪いことではないのだ。

 [ 付記2 ]
 積雪の多い寒冷地では、EV にはデメリットがある。(上記)
 一方、エンジン車には、一酸化炭素中毒の危険がある。
 この両者は、ともに難点がある。とすると、残りは PHV だ。寒冷地では、PHV が最強かもしれない。
  ・ 街中では、充電せずに、ガソリンの補給だけで足りる。
  ・ 雪の中で渋滞になったら、電気で暖を取れる。
  ・ 電気がなくなったら、ガソリンで暖を取れる。
  ・ 充電不足なら、走行しながら充電できる。
   特に、充電専用の走行モードがある。( → 出典
   雪の日には、降る前に、ガソリンで大幅充電が可能だ。


 PHV は、ただの折衷ではなく、いいとこ取りをしている感じだ。雪国では PHV が最強かもね。

 [ 付記3 ]
 「寒冷地の北欧では、ガソリン車よりも EV が普及しているぞ。寒冷地でも EV で大丈夫だ」
 という説がある。だが、これは妥当ではない。
  ・ 北欧では EV の充電所が普及しているが、日本は違う。
  ・ 北欧では雪があまり降らない。日本の降雪量はずっと多い。

 この二点については、次の言及がある。



 [ 付記4 ]
 真に炭酸ガスの排出を減らそうとするのであれば、暖房や調理などの用途のために用いる化石燃料の使用を減らすべきだ……と最後に結論した。
 そして、そのために大きな効果があると見込まれるのが、「太陽熱温水器」だ。
 この件は、前にも述べた。
  → 屋根に太陽光パネルを載せるな: Open ブログ の (2)
 東京都は、「住宅に太陽光パネルを義務化する」という方針を取る。だが、それよりむしろ、「住宅に太陽熱温水器を義務化する」という方針の方が、よほどまともであろう。

( ※ 太陽熱温水器の余談は、翌日の項目で。)
posted by 管理人 at 23:58 | Comment(2) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 [ 付記2 ] の PHV について、次の3行を加筆しました。

 ――

  ・ 充電不足なら、走行しながら充電できる。
   特に、充電専用の走行モードがある。( → 出典 )
   雪の日には、降る前に、ガソリンで大幅充電が可能だ。
Posted by 管理人 at 2022年01月07日 07:22
 本文の最後に 《 加筆 》 を付け足しました。

 特に日本においては、火力発電で石炭利用の比率がとても高い……というような話。
Posted by 管理人 at 2022年01月07日 07:45
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ