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原爆の被爆者のうち、(当日の被爆でなく)翌日以後に「黒い雨」を浴びて放射線被曝を受けた人々について、政府は長らく被爆者と認定してこなかった。ところが広島高裁が「認定せよ」との判決を下したあと、政府は判決に従い、被爆者として認定するというふうに、方針を転換した。
ところがこのたび、その認定をするのは広島の被爆者に限定して、長崎の被爆者は認定しないことにした。(広島の被爆者との合意。)
このことに長崎の被爆者が反発した。政府は今後も協議を続けると言っているが、「客観的な資料がない」と言って、否定的な態度を崩していない。
朝日新聞の記事を引用しよう。
広島への原爆投下後に降った「黒い雨」に遭った人を被爆者と認める厚生労働省の新しい審査指針案が事実上確定した。同省は27日、広島県と広島市が案に同意したことを明らかにした。一方、長崎県と長崎市は同日、「広島に限定される案は受け入れられるものではない」と回答した。
新指針案は被爆者と認める要件を「黒い雨に遭った」「がんや白内障など11類型の病気にかかっている」の2項目とした。
長崎では原爆投下当時に郊外にいたため、被爆者と認められない「被爆体験者」が救済を訴えてきた。
長崎県・市は、国が認めている被爆地域の外でも、黒い雨や放射性物質を含む灰が降ったとの証言が約2千件あるとして、長崎の被爆体験者も指針の対象に含めるよう求めていた。
ただ、厚労省は「客観的な資料がない」として対象外とした。長崎県・市は27日の回答で「(被爆体験者らの)新たな裁判を誘発する」と批判した。厚労省は「長崎県・市と引き続き協議を進める」としている。
( → 長崎反発「広島限定、受け入れられない」 黒い雨救済指針確定:朝日新聞 )
この政府方針に対して、朝日の社説が批判している。
国は今夏の広島高裁判決を忘れたのだろうか。判決は病気にかかっているかは問わないとして原告84人全員を被爆者と認め、国側の上告断念で確定した。それを受けて当時の菅首相が「原告と同じような事情」にあった人を救済すると表明したが、判決の趣旨を十分にくみとらず、原告の共通項のみによって新指針がまとめられた。
長崎では、広島と違って「黒い雨」地域は定められていない。しかし、国の援護区域外でも黒い雨や灰が降ったとの証言は約2千件あり、裁判に訴えながら救済を求める人が数多く残されている。
( → (社説)「黒い雨」審査 新たな分断、許されぬ:朝日新聞 )
人道的には長崎の被爆者も救済するべきだと思える。だが、「広島には客観的な資料があるのに、長崎にはないのだから、両者に差が付くのは当然だ。証拠もなしに国の金を野放図に出すことはできない。公正に対応するべきだ」という厚労省の(いかにも官僚的な)方針もまた、一理あるように見える。
この両者は、対立する。あちらが立てば、こちらが立たず。困った。どうする?
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そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう……と言いたいところだが、うまい案の出番ではない。ここでは頭のヒラメキなどは必要ない。単に事実を直視するだけでいい。
事実とは何か? それは、私が調べたことではなく、NHK が調べたことだ。先日の番組で放送されたが、それを本サイトでも紹介しておいた。
→ 長崎の残留放射線: Open ブログ
ここに真実がある。詳しくは上記記事を読んでほしい。
簡単に記しておくと、長崎では徹底的な「隠蔽」があったのだ。
長崎の黒い雨の降った地域では、残留放射線がとんでもない高い数値になったし、被爆者にはひどい放射線被害が出た。ひどい症状が出て、次々と死んでいった。(死の灰の付いた農作物を食べた影響もあった。)
これらの数値や症状などには、詳細な記録が付けられ、原爆がいかに大きな被害をもたらしたかを、米国人が詳細に記録した。しかしその記録はすべて封印され、記録した米国人には「忘れろ。語るな」と厳命が下った。徹底的な「隠蔽」である。
さらには、偽証もあった。在留放射線によるひどい被害が記録されていたにもかかわらず、最高責任者は議会の証言で、「残留放射線の被害は皆無です」と偽証した。
なぜか? 残留放射線の調査チームのボスは、原爆の開発チームのボスだったからだ。彼はソ連との対抗上、原爆の開発を大幅に推進することが国家の利益になると信じた。それゆえ、「残留放射線の被害は皆無です」と偽証することで、「原爆は非人道的な兵器だ」という真実を隠蔽しようとしたのだ。(安倍首相も真っ青なほどの偽証だ。)
こうして米軍により、客観的な証拠はすべて隠蔽された。
そのあとで、「客観的な証拠がないのは、誰かが隠蔽したからではなく、もともとそういう事実がなかったからだろう」というふうに見なしたのが、厚労省だ。
歴史の真実を見ないと、おのれの無知からとんでもない誤認した推論を出す。無知な人間がやたらと頭を働かすと、事実からはるかに遠ざかった正反対の結論を導き出す。
歴史に直面したとき、人は頭を働かせる必要はない。ただ真実を直視することが大切なのだ。

出典:Wikivoyage
[ 付記 ]
厚労省は「客観的な資料がない」と言っているが、証拠なら、米国の公文書保管庫あたりに、保管されていそうな気がする。公開請求をして、資料を調べてみてはどうか?
もっとも、そうなると、強烈な原爆被害が次々と暴露されるから、日本政府にとっては不都合になりそうだ。
真実を知ることを最も恐れているのが、日本政府なのだろう。
【 関連サイト 】
番組の内容を紹介するページが、NHK で公開されている。
→ 原爆初動調査 隠された真実(前編) - NHK
→ 原爆初動調査 隠された真実(後編) - NHK
※ NHKスペシャル「原爆初動調査」(20121年8月放送)に追加取材を加えた拡大版
※ 番組の内容がわかります。