2021年12月22日

◆ 川沿いの危険地からの移転

 川沿いの危険地から高台へ移転させよ……と前に提案したことがあったが、それが実現することになった。

 ――

 政府が新たな方針を決めた。被災後に被害者に補償するかわりに、前もって危険地から移転することに金を出す、と。
  河川のはんらんなどの自然災害リスクがある地域に暮らす人が、あらかじめ「被災後に元の場所には戻らず、リスクの低い場所に移る」と合意していれば、移転に様々な支援金を出す制度を政府がつくる。元の地域で住民が暮らすための安全工事が不要になり、浮いたお金を支援に回す。
 例えば、川沿いの住宅が水害に遭った場合、事前の合意をもとに住民に移転してもらい、跡地は遊水池として活用する。これで安全のための川底の浚渫(しゅんせつ)がいらなくなり、浮いたお金を移転の支援に回せるようになる。
 住み慣れた土地からの移転を住民に強いるものではなく、あくまで復旧・復興の選択肢を増やす目的だという。
( → 被災後の移転、住民と事前合意すれば補助金 復興支援へ政府が新制度:朝日新聞

 川沿いの危険地から高台へ移転させよ……ということは、本サイトでも前に提案したことがあった。つい先日(11月24日)も、こう述べた。
 くねくねと蛇行する川筋のそばでは、氾濫しやすい場所と、氾濫しにくい場所とが、区別される。……氾濫しやすい場所をさけて、なるべく氾濫しにくいところへ、移転すればいい
( → 霞堤と集団移転: Open ブログ

 これは近くに高台がない場合の例だが、三陸のように高台がある地域では高台への移転が好ましい。
 熊本の水害の場合もそうだ。
 川から少し慣れたところに、丘陵があり、その奥の台地に人家が多い。だから、この台地に人家を移転してもらえばいい。一方、川のそばの広大な低地は、すべて水没させてしまえばいい。

 こうすれば、「天然の遊水地」を作るのと同じことになる。しかも、費用は格安だ。
( → 川辺川ダムは必要か?: Open ブログ

 また、高台がなくとも、川から離れれば標高が上がるので、水没を免れることが多い。そういう場所に移転するといいだろう。2017年の九州北部の豪雨の被害ではそうだった。
 氾濫による建物の被害が出ているが、被害が大きいのは、川のすぐそばだけである。川から離れたところでは、床下浸水や床上浸水ぐらいの被害はあるとしても、命に関わるような被害は生じていない。
( → 豪雨の被害を減らすには: Open ブログ

 これらの方針を強めるために、「居住制限をせよ」という方針を打ち出した。これは、言葉は強いが、個人住宅は対象とされない。介護施設のような公共性を帯びた社会的な施設が対象だ。公営ならともなく、私営では、土地が安いという理由で、危険な川沿いのそばにあえて施設を作る例が多々ある。そういうのを規制するべきだ……という趣旨。
 個人の住む自宅を「居住禁止」にして追い出すのは、さすがにまずい。この点は、あくまで自己責任でいいだろう。危険とわかっていて住みたければ、その自由はある。愚行権の行使だ。自殺する権利とも言える。
 一方、自分でなく他人を危険にさらす行為は、禁止するべきだ。特に、介護施設や病院や幼稚園などは禁止するべきだ。
( → 川沿いの危険地は居住制限せよ: Open ブログ

 ただし、その方針は生ぬるかった、と後日、反省した。次のように。
 今にして思えば、これは甘かった。「愚行権の行使」を認めたせいで、50人の命が奪われる結果となったのだ。その損失はあまりにも大きすぎる。
( → 豪雨の被害を減らすには: Open ブログ

 個人の自由を認めて危険な川沿い地域への居住を許容する……というふうに甘い方針を取っていたら、「住み慣れた家を離れたくない」と言い張って危険な土地に住み続けた高齢者が、一挙に 50人もなくなった。
 こういうことを放置していいはずがない。ここでは、たとえ嫌われ者になってでも、政府が率先として危険な土地からの移転を推進するべきだ。
 つまり、「危険地には高額の課税をする」というような形で、半強制にすることが好ましい……とも述べた。
  → 豪雨の被害を減らすには: Open ブログ

 なお、移転のために多額の補助金を出しても、かえって安上がりに済む……という原理も示した。
なぜなら、その分、治水対策の費用が浮くからだ。
 現実には、ほんのわずかな人家のために治水対策をすることで、ものすごく巨額の金が支出される。たとえば、「 200戸の水害を防ぐために、1000億円のダムを建設する」というふうな。(これだと1戸あたり5億円も費用をかけることになる。)
 こういう馬鹿げたことをするくらいなら、被災地にある人家を引っ越しさせた方が、はるかに低コストで済むのだ。
( → 災害危険地域に居住禁止: Open ブログ

 ただし現実には、この方針は徹底されない。実際、「 200戸の水害を防ぐために、1000億円のダムを建設する」というような方針は、川辺ダムで取られている。
  → 川辺川ダムは必要か?: Open ブログ の 【 追記 】

 ――

 ともあれ、前から何度も提案していたことが、ようやく実現の運びになるわけだ。慶賀すべきことだと言えよう。

 ※ この新方針は、「流域治水」という概念が広まったことにともなう。
    → ダムに頼らない治水: Open ブログ
   この記事は 2021年05月04日 だから、政府の新方針は今年になってからのことだ。


   *   *   *   *    *   *

     本文はここで終わりです。
     このあと、【 追記 】 では、いったん本文を部分否定する話が出てきます。
     しかしそのあとの 【 後日記 】 では、さらにそれを否定して、否定の否定の形で、本文と同趣旨に戻ります。

     したがって、以下の話を読む必要はないのですが、無駄な話だというわけではなく、詳しい話があるので、興味があればお読みください。




 【 追記 】
 本サイトで提案していたことが実現する……と述べたが、実は、政府の方針は、本サイトの提案とは違うようだ。次の差がある。
  ・ 本サイト …… 事前に移転する
  ・ 政府方針 …… 事後に移転する

 つまり、事前と事後という違いがある。(移転という点では共通するが。)

 ――

 だが、政府の方針はおかしい。これでは被害を避けられないからだ。被害を受けたあとで移転しても、「後の祭り」である。比喩的に言えば、「火事が起こったあとで、火事の予防をする」というようなものだ。「馬が逃げたあとで、うまやに鍵をかける」というようなものだ。
 特に、人が死んでしまった場合には、元には戻らない。あとでいくら大金を払っても、死んだ人は生き返らない。これでは何にもならない。「手遅れ」なのである。

 政府が「事後」に限定するのは、「対象を実際の被災地に限れば、金を出す対象を絞れるので、金額を減らせる」という意図なのだろう。
 だが、そもそも金を出す必要はないのだ。水害への補償は、私有財産への補償だから、原則、国が補償する必要はない。

 そもそも、危険な土地にあえて住むという愚行をした人に限って金を払うというのでは、人々が危険な土地に住むこと(もしくは退去しないこと)を促進することになるので、災害予防の意味では逆効果だ。
 危険な土地にあえて住むという愚行をした人には、金を払うのではなく、金を徴収するべきだ。「危険地域から退去しないことの罰金」というような形で。

 たとえば、「川のそばの土地はとても安いので、ここに老人ホームを建てれば、ボロ儲けできるぞ。それで老人が死んでも、知ったこっちゃない。人の命より、オレの金が大事」という老人ホームがあった。
  → 水害の死者は金儲けのため: Open ブログ
 こういう悪徳な施設に対しては、高額の罰金をかけて、川のそばから退去することを促すべきだ。

 なのに、政府のやることはその逆だ。
  ・ 川のそばにずっと居続けた人に限って、金を払う。
  ・ 川のそばから自主的に移転した人には、金を払わない。

 事後の移転には金を払うが、事前の移転には金を払わない、というわけだ。悪党には金を払うが、善人には金を払わない、というわけだ。これがいかに愚行であるかは、熊本の老人ホームの事例を見ればわかる。
  ・ 私の案ならば、こんな愚行をした悪徳施設には、高額の罰金が科される。
  ・ 政府案ならば、こんな愚行をした悪徳施設には、高額の補助金が出る。

 「火事が起こったあとで火事の予防をする」というバカさ加減もさることながら、「悪人に限って金を払ってあげる」というバカさ加減には、もはや呆れてものが言えない。倒錯的だと言える。

 《 加筆 》
 「水害保険」という発想もある。「事前には保険料を払い続けて、もし被災があれば、多額の保険金を受け取れる」というものだ。
 これは、「事前の罰金」と「事後の補償金」という双方の効果をもつ。反対が比較的 少なくて、導入が容易そうなので、これが最善かもしれない。(単なる「罰金だけ」や「補償金だけ」に比べれば。)
 


 【 後日記 】( 2022-01-09 )
 上に述べた 【 追記 】 の箇所では、本文を修正したが、実は、この【 追記 】 の方が間違っていたのかもしれない。(つまり、朝日新聞の記事が間違っていた、ということ。)

 というのは、記事にある「事後に移転する」という方針とは違って、「事前に移転する」という方針が取られているからだ。そのことは、次の記事からわかる。
 島根県美郷町……西日本豪雨……
 約半世紀ぶりの豪雨に襲われ、屋野さん宅を含む、川沿い約700メートルに点在する5軒すべてが浸水した。
 地区では、梅雨時と台風の季節に大雨が降る。近年は規模が増していると感じていた。話し合った末に、国の事業を活用して、集落で移転することを決めた。
 集会所のすぐ裏手、標高 47メートルの山の中腹へ引っ越すことになった。
( → (未来のデザイン:6)グリーン 気候危機、残された時間は:朝日新聞 2022-01-09

 ここでは、次の二点が示されている。(予定として)
  ・ 国の事業を活用して、集落で移転する
  ・ 川沿いから、山の中腹へ移転する

 
 なお、氏名を検索すると住所がわかる。すると、現地の地図は下記だとわかる。




 その 3D マップ画像は、下記。


kawa-iten.jpg


 このうち、最も川に近い住宅が、現住所だ。
 移転予定地(記事中に記してある)は、そのすぐそばの山の中腹だ。山のなかの斜面に転居するわけだ。それでは、老人は、上り下りが苦しいだろう。自動車も通りにくいだろうし、宅配便や郵便局の人は大変だ。
 こんな場所に移転するために、(多額の)国費を投入する[土地造成する]なんて、馬鹿げていると言える。近くにはいくらでも空地や空き家があるのだから、そちらに転居してもらう方がいいだろうに。
 たとえば、現地から北東9km の位置に、次の場所がある。






 ここには、開発放棄地らしい空地もあるし、ただの畑のような場所もある。こういうところに転居する方がマシだろう。
 引っ越し先が山の中腹だなんて、馬鹿げている。ポツンと一軒家じゃあるまいし。

 ――

 蛇足だが、正月にたまたま、ポツンと一軒家を見たら、「山の中腹で農業をしています。ブルーベリー栽培をしています」という男性の例が出ていた。(編集・再放送版)
  → 「ポツンと一軒家 〜山頂に謎の施設?母のため故郷に戻り20年…親子2代で受け継ぐ愛〜」
 番組ではゲストが「素敵な生活ですね」と称えていたが、実は、本人の収入だけでは暮らしていけず、奥さんが高収入なので、奥さんの稼ぎで暮らしているそうだ。ブルーベリー栽培が夢だったので、本人は夢の実現で喜んでいるのだろうが、「山の中腹で農業を」なんてのが、成立するはずがない。

 上記の「川沿いから、山の中腹に移転」というのも、猫の額のような農業を営んでも、まともに生活できるはずがない。どうせなら、北関東か濃尾平野あたりの農地を得て生活した方がいい。
 それができないとしたら、国の制度が根本的におかしいね。

posted by 管理人 at 23:37 | Comment(10) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ちょっと疑問なのですが、管理人様はこのことを誰にご提案されているのですか?
Posted by Monterey at 2021年12月23日 12:23
 誰になんて考えていません。別に実施が目的ではありません。
 たとえば MRJ は駄目だ、と提言したとき、三菱がその提言を受け入れることを期待しているわけではありません。
 ただし 15年後に読み返すと、「 15年前に Openブログに書いてあったことにしたがっていれば、1兆円も損しないで済んだのに」と三菱は後悔できるでしょう。

 その意味では、対象は、15年後の読者かもね。

 ――

 ただし、今はネットが発達しているので、優秀な官僚がネットをググれば、本サイトの記事も引っかかるでしょう。そのとき有益な情報を見つけることができるかもね。すると、「ああ、よかった。有益な情報を見つけたおかげで、1兆円を無駄にしないで済んだ。有益な情報を見つけたオレは偉い」と威張れるかもね。
Posted by 管理人 at 2021年12月23日 12:53
>政府が新たな方針を決めた。被災後に被害者に補償するかわりに、前もって危険地から移転することに金を出す、と。

リンク先の朝日新聞の記事を読みました。
管理人氏が主張しているのは、災害発生「前」に安全地域に移住する際に公的援助をする旨と理解しました。
記事では災害発生「後」に移住する場合、公的援助をするとなっています。
管理人氏の主張を裏付けるのに、該当の記事を引用するのは不適切と思われます

新聞記事の読み方を間違っていませんか?
Posted by 通りがかり at 2021年12月23日 22:03
> 記事では災害発生「後」に移住する場合、公的援助をするとなっています。

 それは、「たとえば」の話の箇所に出てくるので、「後」のこともある、というだけでしょう。
 記事の冒頭を読むと、「後」に限られるというような記述はないので、「前」も含まれていると解釈できそうです。

 そもそも、「前」でなくては意味がない。災害が起こってから移転するのでは意味がない。泥棒が入ってから鍵をかけるようなものだ。人が死んだ後で「死なない工夫をする」ようなものだ。お金が盗まれた後で、お金を保護する金庫を買うようなものだ。家が火事で焼けた後でスプリンクラーを設置するようなものだ。……そのすべては「後の祭り」である。いくら政府がバカだからといって、そこまでバカだとは思えないのだが。
 ただし、日本政府のやることは常にバカだから、バカなことをやるだろう……というあなたの疑いも、マトはずれとは言えないのかもしれない。記事には明示的に書かれていないようだから、政府が馬鹿げたことをやる可能性もある。

 ただし、私としては、いくら何でも、政府がそこまでバカだとは思えないのだが。

Posted by 管理人 at 2021年12月23日 23:42
政策の是非については考慮に入れていません。
管理人氏の資料の理解の仕方について指摘しています。

リンク先の記事
 見出し「被災後の移転(略)」
 本文「被災後に元の場所には戻らず(略)」

となっており被災後の対応について明示的に限定されて書かれており、
被災前の予防的対策については言及されておりません。

ご自身の結論に囚われて、都合の良いように現実を認識していませんか。
Posted by 通りがかり at 2021年12月24日 19:47
 私が誤読していましたね。
 おっしゃる通り、事前と事後の違いがあります。
 本文に追記しておきました。
 ご指摘ありがとうございます。
Posted by 管理人 at 2021年12月24日 23:30
 朝日新聞も、最初からそのへんを政府?に突っ込んで聞くか、政府への独自提言を盛り込んだ記事にすべきでした。それがやられてないので、誤解が生ずる。やっぱり、月額1,980円は高すぎで、1,480円までならスタンダードコースへの乗り換えを検討します。
Posted by かわっこだっこ at 2021年12月25日 08:48
 最後に 《 加筆 》 を付け足しました。「水害保険」という発想。
Posted by 管理人 at 2021年12月25日 11:14
 最後に  【 後日記 】 を付け足しました。
Posted by 管理人 at 2022年01月09日 19:50
 【 後日記 】で紹介されている「国の事業」とは、

 @ 防災移転支援事業(令和2年創設)
 A 防災集団移転促進事業(昭和47年創設)

 の2種類ではないでしょうか。

 https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_tobou_tk_000009.html

 このうち、最近の@のほうが「個々の住居や施設」の移転について「登録手続きや税制面で」支援するもの、かなり前のAのほうが「住居の集団的な移転」について「財政面で」支援するもの、とのことです。
 
 ※ 上で示したサイトのコンテンツ中、防災移転まちづくりガイダンス(案)の、T)章.はじめに(PDF形式)の2ページ目から。

 また、サイト中のいろいろな資料を総合すると、移転元地については、@が「居住誘導区域又は都市機能誘導区域(※2002年に制定された都市再生特別措置法に基づき、災害とは直接関係なく指定された区域)以外の災害ハザードエリア」から、Aが「自然災害が発生した地域又は災害の怖れのある区域」から、と規定されるようです。
 すなわち、両方とも、災害発生「前」も含まれることは含まれるようですが、古いAでは「実際に発生した地域又は(隣接する?)危険性の高い区域」のニュアンスが強いのに対して、新しい@では「まだ発生していないが今後発生の可能性が高いエリア」のニュアンスが強いように思われます。
Posted by かわっこだっこ at 2022年01月11日 00:55
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