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非常階段はどうなっていたのかが疑問に思えたが、今日になると、いくらか情報が出てきたので、まとめてみる。
(1) 動画
ニュースの動画がある。現場の解説図なども示されている。
(2) 産経の記事
産経新聞の記事。
出火元となったビルは、建物内に避難経路となる非常階段が1カ所しかなかった。こうした施設で階段付近に火の手が上がれば、たちまち避難は困難となる。
鉄筋8階建てで4階は約95平方メートルだが、非常階段はクリニック出入り口の外側にある1カ所のみ。患者らは普段は昇り降りにエレベーターを利用して出入りしていたという。
ただ、元患者の40代男性は「エレベーターは狭く、なかなか来ないこともあるので、非常階段を使っていた」と打ち明け、「階段は2人も並べないぐらいの狭さだった」とする。
消防法では、事件が起きたビルのように、屋内に階段が1カ所しかなく、1〜2階以外に不特定多数の人が出入りする施設がある建物を「特定一階段等防火対象物」と定め、火災報知設備の設置などが義務付けられている。市消防局によると、平成31年3月の定期検査では、事件が起きたビルに設備の不備は確認されなかったという。
だが、元東京消防庁麻布消防署長で市民防災研究所理事の坂口隆夫さん(74)は「(今回のような事件が起きれば)打つ手がない」と指摘。
不測の事態が発生した際に避難経路となる階段から避難できるとは限らない。13年に東京・歌舞伎町のビルで発生した火災では、階段に置かれた障害物などが避難の妨げとなり、44人が命を落とした。
( → 階段1カ所…大阪市、類似施設に立ち入り検査 北新地ビル火災 - 産経ニュース )
歌舞伎町のビルを私も連想したが、やはりいくらか似た事情にあったようだ。まともな避難路がなかったことになる。
(3) 専門家の解説
大阪の放送局 MBS 毎日放送で、専門家が解説している。
「このビルの火災は雑居ビルの火災ですので、非常に面積が小さいところでの火災と考えられます。そうすると避難できる階段がたぶん1か所しかなくてですね、そこの近く、もしくは入り口付近で何かしらの火災が起きると、避難路がなくなってしまうという状況が考えられる」
「ビルとしてはたくさんあるビルです。雑居ビルでこのような階段が1つしかないビルは。実はもう少し大きなビルになると、2つ階段をつけなくてはいけないということになるんですが、おそらくギリギリのラインだと思います。大きさとして」
( → 【解説】都市防災の専門家は『個室ビデオ店放火事件』との類似点を指摘「小さな空間の中であまり窓もなく避難路が狭い」大阪のビル火災 - よんチャンTV | MBS )
(4) NHK の記事
NHK には、さらに詳しい記事がある。
【ビル設備に消防法上の不備なし】
大阪市消防局によりますと、火事のあったビルについて、おととしの3月19日に4年に1度の定期的な立ち入り検査を実施しましたが、ビルの設備に消防法上の不備はなかったということです。
その後、去年の9月25日にも消防が委託した消防振興協会が立ち入り検査を実施しましたが、この際も不備はなかったということです。
【専門家“避難経路1つが問題に”】。
建物の火災に詳しい、神戸大学都市安全研究センター 北後明彦 教授は今回の火災について、「被害が大きくなったのは、建物が小さく避難経路が1つの階段しかないことや、1つのフロアが大きな1部屋になっているので煙が一気に広がりやすいことが原因だ。特に、2つの方向に避難できないのは致命的だ」と指摘しました。
そのうえで、「建築基準法では建物の小ささや用途で規制が緩和されていて、今回火災があったビルでは、階段が1つでも、法律上は問題がないと思われる。しかし、その逃げ道から火が来た場合、どうしようもなくなる。これまでいろいろな建物火災を分析してきたが、この緩和について大きな課題があり、見直しが必要だと考えている (以下略。
【ビルの防火・避難対策は】
国土交通省によりますと、火災の際に安全に避難できるようにするため、建築基準法の施行令では原則として、6階以上のビルには地上につながる階段を2つ以上設置するよう定めています。
ただ、この基準は昭和49年の1月以降に着工されたビルが対象で、登記簿によると、今回の建物は昭和45年の建設とされているため、この基準には該当しないとみられます。
また、5階以上のビルの場合は多くの人が安全に避難できるよう階段部分などの防火性能を高めた「避難階段」を設置するよう定めていますが、建物の用途や構造によって設置しなくてもよい場合もあります。
スプリンクラーについては設置基準が病院や福祉施設など、建物の用途ごとに細かく定められていますが、雑居ビルについては11階以上に設置が義務づけられているため、8階建てのこのビルは対象外だということです。
( → 大阪 繁華街ビル火災 4階のクリニックは|NHK 関西のニュース )
もともと規制がかなり甘い規制だったようだ。起こるべくして起こった火災被害だとも言える。
(5) 航空写真
非常階段を設置するだけの余裕はあったか? ここで情報を提供するのが Openブログだ。「 Google マップを見ればわかる」と思ったので、さっそく調べてみた。
→ https://x.gd/FK2hn
この建物は、周辺の建物よりも少し低い。しかも、周辺を他のビルに囲まれていて、ごく狭い隙間しか残されていない。とても非常階段を設置できるスペースはない。( 3D 表示で見ると、わかりやすい。)
奥の方にわずかに、小さな空間があるが、それも上位階だけだ。そこから出たすぐ下には、他のビルの屋上があるだけだ。4階部分には、非常階段を設置する余裕はなさそうだ。
つまり、今回のビルで、火災と反対側の奥の方に非常口を設けるとしても、その先には空間がないので、非常階段を設置することはできない。せいぜい、金属ばしごを用意するぐらいだろう。
また、非常口を用意するには、コンクリートの壁に穴をあける必要があるが、それは建物の強度を弱めるので、今度は耐震性が大幅に落ちてしまう。
(6) 結論
私の結論は、こうだ。
「隣のビルとの間には、空間を用意して、そこに非常階団を設置することを、義務づけるべきだ。敷地の境界線から1メートルは、建物の建設を禁止するべきだ」
このような建築規制は、第一種住居地域では法的な規制があるはずだ……と思った。そこで調べたのだが、どうも、自治体の法律(自治体の建築基準法)に委ねられているらしくて、自治体しだいであるらしい。全国一律の規制はないらしい。そして、大阪ではそのような法律はないのだと思える。(だから建築許可が下りたわけだ。)
ならば、このような建築物はすべて違法化した上で、違法状態の建築については、高額の固定資産税を課して、改築を推進するべきだろう。
危険な状態を放置して大事故を招く……というのは、福島原発で起こった事例だが、それが火災対策でも同様になっているわけだ。
自民と維新に任せると、ろくなことはない。
(7) 対策
長期的には上の方針にするとしても、それは即時実行することはできない。では、即時実行するには、どうしたらいいか?
第1に、スプリンクラーを義務づけるべきだ。現状では、小規模ビルはスプリンクラーの設置が免除されているが、これを即時、義務づけるといい。ただし、費用がかかるのが難点なので、とりあえずは「簡易スプリンクラー」がお勧めだ。これならば、費用は比較的安上がりで済む。
→ 特定施設水道連結型スプリンクラー設備: ニッタン株式会社
とはいえ、「その金さえも出せない」というケチな会社も多いだろう。そういう会社は、言うことを聞かない。困った。どうする? ……そこで、困ったときの Openブログ。以下の案を出そう。
第2に、消火器の大量設置を推進するべきだ。スプリンクラーが設置できないとしても、せめて消火器ぐらいは大量に設置すればいい。1平方メートルあたり 0.5本ぐらいをメドにする。(つまり2平方メートルごとに1本を設置する。10平方メートルならば5本だ。)
これらの消火器を、ほぼ等間隔で設置すれば、どこかで火が起こっても、すぐに消火器で消火できるだろう。
この方法ならば、ごく低コストで、かなり大きな効果が見込める。
※ ちなみに、消火器が大量に置かれている診療所というのは、これまで見かけたことがない。いずれも火災には弱いことになる。
20型
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確かに「命」がからむ病院・診療所では、過去に類似の事件が複数(放火だけではなく刃物沙汰)起きているようですが、それでいうなら、他にも危ない施設はたくさんありそうです。例えば、重症のコロナ患者に自宅待機を命じる保健所、生活保護の申請を門前払いにする福祉事務所や市役所、収容者を見殺しにする入管施設、その他にも警察、検察、裁判所、刑務所、税務署……。あれ、お役所ばかりになってしまうのは何故なんでしょう!?
建築基準法には既存遡及がありませんが消防法については期間を定めて遡及させるので、これでも昔よりはかなりマシになってきているはずです。完璧には程遠いですが。