2021年12月16日

◆ トヨタは日本から出て行け

 トヨタの社長は「脱炭素を進めると日本で生産できなくなる」と言っている。ならば、トヨタは日本の国外に出て行くべきだ。

 ――

 トヨタの社長は、「 EV 推進が進むと、従来の下請け企業などで大量の雇用が失われる」と言っている。(これは当たり前のことだ。)

 トヨタの社長は、「脱炭素を進めると日本で生産できなくなる」とも言っている。これは別に間違いではない。ならば、トヨタは日本の国外に出て行くべきだ。そのことを本項は主張する。(結論)

 以下で、その詳細を説明しよう。

 ――

 トヨタの社長は、こう言っている。
 「2050年のカーボンニュートラル(炭素中立)に対応しないと、日本ではクルマが造れなくなる。その結果、自動車関連産業に従事する約550万人のうち70万〜100万人の雇用が失われる可能性がある」──。
 日本自動車工業会(JAMA)会長の豊田章男氏(トヨタ自動車社長)は2021年3月11日にオンラインで開催した定例会見でこのように述べ、炭素中立が日本の自動車産業に突き付けている課題に対する危機感を示した。
 豊田氏によると、「LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)」ベースで自動車産業が炭素中立を実現するには、エネルギーのグリーン化が大前提になるという。エネルギーのグリーン化とは太陽光や風力、バイオマス(生物資源)などの自然エネルギー(再生可能エネルギー)で、クルマの生産に必要な電力などのエネルギーを作ることである。
 現在の日本の電力事情を見ると、総発電量の約75%を火力発電が占める。さらに、再生可能エネルギーのコストは、火力発電よりも高い。このままでは日本でクルマが造れなくなり、「エネルギーのグリーン化が進む地域に生産をシフトしていくことが予想される」(豊田氏)とした。
( → 「炭素中立に対応しないと100万人の雇用を失う」、自工会会長 | 日経クロステック

 これは別に間違いではない。間違いなのは、そのあとの結論部だ。
 日本メーカーの海外への完成車の輸出台数は2019年で約482万台。豊田氏は、「日本で生産するこの輸出分が、エネルギーのグリーン化が進む地域に移管される可能性がある」と指摘する。その結果、約550万人のうち70万〜100万人の雇用が失われるという。
 こうした最悪の事態を招かないために、「クルマを中心に据え、エネルギー政策や産業政策とセットで炭素中立を考える必要がある」と豊田氏は強調する。

 「こうした最悪の事態」というが、そこが根本的な間違いだ。それは「最悪の事態」ではなく、「最善の事態」なのだ。だから、それを避けるのではなく、まさしくそこをめざすべきなのである。一企業としては、それが当然だ。
 そもそも、雇用が失われるかどうかは、日本政府が考えるべきことであって、トヨタが心配するようなことではない。雇用が失われると困るというのなら、政府がそのための対策をすればいいだけであって、トヨタがその対策をする必要はない。そもそも、トヨタ1社だけの力で、できるはずもない。(国家権力が必要だからだ。)
 トヨタとしては、自社にとって最善のことをするだけでいい。そして、それは、火力発電の多い日本を脱出して、海外で生産することだ。日本政府が「再生エネをろくに増やすつもりもない」というのであれば、トヨタとしては粛々として日本国外に脱出すればいい。トヨタは日本から出て行くべきなのだ。

 ただし、いきなり出ていくのは、都合が悪い。だからトヨタとしては、今のうちにあらかじめ宣言するべきだ。
 「このままでは再生エネの比率が低すぎるので、今後、国外へ脱出します。日本国内での生産を大幅に縮小します。それで大量の雇用が失われますが、仕方ありません」
 と。そういうふうに宣言することが、トヨタのなすべきことなのだ。(国外脱出宣言)
 今のように、「怖いぞ、怖いぞ」と告げるだけなのは、オオカミ少年と同じで、誰にも信用されない。それよりもはっきりと「出ていきます」と告げるべきなのだ。つまり、三行半を突きつけるべきなのだ。それこそが、トヨタの社長のなすべきことだ。

 ――  

 上記では、日本政府の方針として、「再生エネをろくに増やすつもりがない」というふうに記した。
 それを聞いて、「いや、再生エネを増やすだろ」と疑う人も多いだろう。確かに、いくらかは増やす。とはいえ、その増やし方は、「焼け石に水」とまでは言わないが、かなり小規模なものだ。
 政府の公式見解を示そう。
 政府は2030年度の新たな電源構成について、総発電量に占める再生可能エネルギーの比率を「36〜38%」とする方向で調整に入った。いまの計画の「22〜24%」から大幅に引き上げる。原発の比率は「20〜22%」で維持する方向だ。
 30年度の再生エネ「36〜38%」は、19年度の実績(約18%)の2倍に相当する。
( → 再生エネの電源比率 2030年度に36〜38%程度へ:朝日新聞

 再生エネ「36〜38%」は、19年度の実績(約18%)の2倍になるとはいえ、まだまだ小さい値だ。欧州と比較すればわかる。
 欧州連合(EU)の行政を担う欧州委員会は14日、電源構成に占める再生可能エネルギーの割合を、2030年に65%に引き上げる目標を打ち出した。現在の比率を倍増させる野心的な目標だ。
 現状では再エネ由来の電源は約33%(18年)だ。
( → EU、30年に再エネ電源65% ガソリン車販売禁止も:朝日新聞

 特にイギリスは優れている。
  → イギリスの総発電量に対する再エネの比率が約45%に
  → ジョンソン英首相、「2035年までに全電力を再生可能エネルギーでまかなう」

 日本は欧州に比べて遅れている、と指摘する記事もある。
  → 遠い「再生エネ先進国」 発電比率18%、欧州の半分: 日本経済新聞
  → 再生エネルギー発電比率「周回遅れ」の日本 欧州は20年早く目安到達

 以上のように、 日本の再生エネ比率は、とても低い。「現状比で2倍に増やすぞ」と威張っているが、2倍と言っても「36〜38%」であるから、4割に満たない。しかもこれは楽観的な目標値だから、実際には良くても 33% だろう。つまり、3分の1だ。一方で、欧州は「30年に再エネ電源65%」だから、3分の2だ。両者は大差が付く。

 そして、(ここが大事だが)日本の再生エネ比率が低いと、日本製品は欧州に輸出できなくなりそうだ。あるいは、課徴金を大幅に課せられて、実質的に輸出困難になりそうだ。この件は、前に述べたとおり。
 欧州の炭素排出量削減の方針( LCA規制)に従うと、EV の製造で炭素排出量が少ないことが求められる。これは正式決定はされていないが、この方向で準備中だ。
  → 自動車業界、震源地は欧州 環境問題≠ノ迫られる対応 | 共同通信社
  → EV化で見え始めた欧米の異なる思惑、日本の競争力を脅かす「LCA」とは

 この方針を取ると、再生エネの比率の高い欧州には有利で、火力発電の比率の高い日本には不利だ。そこで、この方針によって、日本企業の自動車生産を、日本から欧州に呼び込む効果がある。そのことで、欧州では雇用を増やせるが、逆に、日本では雇用が減る。……これがトヨタ社長の恐れる「雇用の空洞化」だ。

 できる対策はただ一つ。こうだ。
 「日本国内で再生エネ電力をたくさん購入して製造する」
 これだけが唯一の解決策だ。
( → EV 部品工場は九州に作れ: Open ブログ

 ここでは、対策として、「日本国内で再生エネ電力をたくさん購入して製造する」という方法を示した。現時点では、九州に工場を建設すれば、そのことが可能となる。
 しかし、短期的にはともかく、長期的には日本全体で再生エネ電力を増やすしかない。では、そのための方法は? 何か方法はあるか? 
 朝日記事には、こうある。
 目標年度まで9年しかなく、運用開始まで時間がかかる洋上風力発電の拡大は期待しにくい。
 比較的短期間で運転を始められる太陽光発電をいかに増やすかが、課題となる。ただ、太陽光パネルを設置する適地は少なくなっている。
( → 再生エネの電源比率 2030年度に36〜38%程度へ:朝日新聞

 記事では「適地は少ない」そうだ。
 しかし私は、別の方法を示した。
 「太陽光発電の禁止という現行方針を撤廃すればいい」
 と。
 具体的には、こうだ。
 「現状では、農地で太陽光発電をすることが禁止されている。そこで、この禁止措置をなくせばいい。耕作放棄地や中山間地などで、太陽光発電をするのを認めればいい」
  → 太陽光発電を増やす妙案: Open ブログ
  → 太陽光発電は屋根より中山間地で: Open ブログ
 耕作放棄地や中山間地には、大量の平地があるのだから、これらの土地に太陽光パネルを置けば、日本の太陽光発電量は一挙に、大幅アップが可能なのだ。

 ――

 さて。そもそもなぜ、このような禁止措置があるのか? それは、農水省の利権だ。農水省が「農地を所管する」という権限をもつので、その権限を守るために、「農地転用による太陽光発電」というのに、反対しているのだ。
 全国には耕作に使われていない耕作放棄地がたくさんある。これらの土地で太陽光発電をすれば、大量の発電が可能となる。しかるに、同時に、そこが農地ではなくなるので、農水省の管轄の権限が損なわれてしまう。
 ゆえに、農水省の管轄の権限を守るためには、太陽光発電を何としても阻止する必要があるのだ。そのためにトヨタが滅びようが、そんなことは農水省の知ったことではないのだ。

 農水省が特に重視するのは、日本の稲作を守ることだ。中山間地の稲作に適さない土地が、どんどん太陽光発電所になったら、日本の稲作の量は大幅減となる。そこで米不足となった分は、外国から輸入するしかない。しかしそうなると、「外国産だって、安くておいしいお米があるんだ」という真実が知られてしまう。「日本の米が一番おいしい」という神話が崩れてしまう。嘘が嘘だとバレてしまう。王様が裸だと判明してしまう。……そこで、何としても嘘を貫き通すためには、外国産の米の輸入を阻止しなくてはならない。そのためには、国産米の収量を確保する必要があり、そのためには、太陽光発電を阻止する必要がある。……かくて、農水省は、何が何でも太陽光発電を阻止したがるのだ。

 結局、日本が太陽光発電を禁止するのは、農水省や自民党の利権(農民票)を守るためなのである。
 そして、そのためには、トヨタにはつぶれてもらうしかない。日本にとって大切なのは稲作を守ることであって、自動車産業なんかつぶれたって構わないのだ。……それが農水省と自民党の方針だ。

 ――

 だからこそ、トヨタははっきりと宣言するべきだ。
 「だったら日本から出て行ってやる。それが日本政府の方針なんだからな」
 と。
 オオカミ少年みたいに「怖いぞ、怖いぞ」と何度も告げる必要はない。ただ一度、「出て行ってやる」と言うべきなのだ。三行半を突きつけるべきなのだ。

 そして、一般には、三行半を突きつけられたときに初めて、馬鹿な夫は妻の言うことを聞くようになるのだ。
 つまり、「トヨタが出て行ってやる」と言ったときに初めて、馬鹿な自民党政府は「農地における太陽光発電」を認めるようになるのだ。
 そのときようやく、日本は再生エネの先進国となり、再生エネの比率を 65%程度にまで引き上げることが可能になるだろう。それが真の解決策となる。(そのためにはトヨタの奮起が必要だ。)

 ――

 ※ ちなみに現状では、こんな感じだ。


東京電力の電源構成
tokyo-denryoku.png




 [ 付記 ]
 欧州の LCA規制(製造物の脱炭素化の推進)は、EV だけが対象なのではなく、ほとんどの製品(ガソリンエンジン車を含む)も同様に対象となるはずだ。
 だからトヨタの社長としては、「 EV 推進で雇用が失われる」と恐れるよりは、「日本の再生エネの比率が低いせいで雇用が失われる」と恐れるべきなのだ。
 だからこそ、「太陽光発電の禁止なんかをする日本からは、出ていってやるぞ」とケツをまくることが大切なのだ。
 


 [ 余談 ]
 タイトルだけを見て、別の印象を受けた人もいるだろう。
 「トヨタに出て行けというなんて、トヨタが可哀想じゃないか。この管理人は、よほどのトヨタ嫌いなんだな」
 と。しかし、もちろん、そういう意味ではない。「夫が妻を追い出す」のではなく、「妻が夫に三行半を突きつけるのを応援する」という感じである。
 


 【 関連項目 】
 本項とよく似た趣旨のことを、1カ月前にも述べた。
  → 脱炭素社会とトヨタ: Open ブログ
 
posted by 管理人 at 23:19 | Comment(11) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 筆者はトヨタ大好きですね。トヨタの株をお持ちなのでしょうか? それは置いておいて、

> 「こうした最悪の事態」というが、そこが根本的な間違いだ。それは「最悪の事態」ではなく、「最善の事態」なのだ。だから、それを避けるのではなく、まさしくそこをめざすべきなのである。一企業としては、それが当然だ。(中略)
> トヨタとしては、自社にとって最善のことをするだけでいい。(中略)
> それよりもはっきりと「出ていきます」と告げるべきなのだ。つまり、三行半を突きつけるべきなのだ。それこそが、トヨタの社長のなすべきことだ。

⇒ トヨタの人たち(社長含めて経営陣も)は、アダム・スミスの「(神の)見えざる手」の概念を知らないのだと、私には強く思われます。
 彼らの教養の程度はともかく、トヨタで最も大事な「哲学」は、下の朝日記事のとおり、(2020年夏に全員に配布された)社員手帳にも書かれている「豊田(とよだ)綱領」であり、「TPS(トヨタ生産方式)」であり、「トヨタ社員の心構え」です。これが、バイブルであり、不滅の大典であり、かつ金科玉条ともいえます。
 これらに反するものは、それがどんなに卓越した経営戦略であろうと、どんなに革新的な開発方針であろうと、社内で日の目を見ることはないでしょうし、逆に、これらの「哲学」を余すところなく取り入れたかたちに見せて業績を上げた(トヨタでいうところの「原点回帰」を成し遂げた)人は、社内で大きく評価されるでしょう(本来は「あちらを立てればこちらが立たず」になるはずなのに、その難事業を成立させたのだから、優勝なマネジメント能力を有するはずだとされる)。
 しかしそれで、社長がさかんに言っていた「100年に1度の危機」を乗り越えられるのか、そして、その危機を乗り越えるのに必要な優れた人材が世界中から集ってくれるのかについては、はなはだ心もとなく感じます。

 https://digital.asahi.com/articles/ASN1W35L4MCYOIPE00G.html?pn=7
Posted by かわっこだっこ at 2021年12月17日 01:42
 「トヨタが日本から出ていく」=「豊田家がトヨタから出ていく(追い出される)」(ほぼ同義)
 のような気がします。したがって日本政府は、仮にトヨタが「俺たちは日本から出ていくぞ!」と言っても本気にしない、という考え方もあります。
Posted by 〇〇っこ〇っこ at 2021年12月17日 01:55
>  筆者はトヨタ大好きですね。

 私が日産の悪口をいっぱい書いていたら、「あなたはよほどの日産嫌いなんですね」というふうに誤読された。「日産のためを思って書いてあげている」という真意を見抜いた人は少なかった。
 トヨタも同様で、これまでさんざんトヨタの悪口を書いてばかりだったら、「あなたはよほどのトヨタ嫌いなんですね」と思った人も多いようだ。正しく真意を見抜いてくれる人は少ない感じです。

 悪口ばかりを言っているのは、ツンデレなんです。
Posted by 管理人 at 2021年12月17日 07:05
 最後に 【 関連項目 】 を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2021年12月17日 08:01
>悪口ばかりを言っているのは、ツンデレなんです。
それだと逆に褒める対象ほどアカン感情持ってませんか(訝しみ)
Posted by ヒルネスキー at 2021年12月17日 12:52
> それだと逆に〜

 さすがに素晴らしい洞察ですね。慧眼に感服しました。

Posted by 管理人 at 2021年12月17日 13:31
素朴な疑問なんですが、管理人さんは普段どんな車に乗っているんですか?
車種や自動車会社におこだわりや思い入れが沢山あるようなので、マイカーに何を選んでいるか気になりました。
Posted by そもそも at 2021年12月18日 23:11
 ネット上に個人情報を出してはいけません。

 なお、一般論で言うなら、自動車は実用性よりも趣味の傾向が強いので、「これにするべきだ」というような指針は成立せずに、「何であろうと好きなものを選べばいい。食事で好きなものを食べるのと同様だ」となります。結婚相手を選ぶのにも似ている。

 なお、家のそばに、高級車を扱う会社があるので、フェラーリでも、ランボルギーニでも、ロールスロイスでも、アストンマーチンでも、多種多様な超高級車を毎日のように見ています。日替わりで多数が変わっていく。
 私が乗るわけじゃないですけどね。見るだけなら、たっぷり見ている。

Posted by 管理人 at 2021年12月18日 23:27
お返事ありがとうございました。

これまで管理人さんが書いてきた自動車にまつわる記事の内容とか、運転者視点の話題が見当たらないことから、
マイカーどころか運転免許も持っていないのでは、と推測していました。
Posted by そもそも at 2021年12月19日 12:15
 本サイトは自動車ブログじゃないし。

 歌を歌う話題や楽器を演奏する話題や絵画を描く話題も書かないけど、……(以下、個人情報なので、省略
Posted by 管理人 at 2021年12月19日 12:21
共産の委員長は、極右と同じく「中国をボイコットせよ」と言いました。いわゆる犬の遠吠えで、こう言う言い方には中国に対する悪意が感じられます。本当に中国を心配するなら直接会って話すでしょう。でなければ黙っているでしょう。直接会って話そうとする気持ちもなく、ただ上から目線で言い放つだけ・・
今度は共産の悪口を書いてください。
Posted by SM at 2021年12月20日 10:38
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