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日産自動車が長期経営戦略「Nissan Ambition 2030」を発表した。
→ 日産が長期経営戦略「Nissan Ambition 2030」を発表 グローバルでの電動化に意欲
→ 日産、2030年度までに23車種以上の新型電動車投入など新長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」発表
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→ 日産、EV向けに5年で2兆円投資 全固体電池「28年度に実用化」:朝日新聞
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このうち、全固体電池については、はてなブックマークでは評判が悪い。「全固体電池は成功の見込みが薄い」というもの。
だが、次の社長発言がある。
24年にパイロット工場を立ち上げ試作を開始。26年までに1400億円を投じ、28年に搭載したEVを市販する。
日産の内田誠社長は「リチウムイオン電池と性能が同じなら開発の意味はない。航続距離や充電時間など、EVの使い勝手を大幅に向上させる」とした。
具体的には、エネルギー密度はリチウムイオン電池の2倍、充電時間は3分の1に短縮することを目標とする。これによって、大型車両のEV化が可能になる。さらにkWhあたりのコストを65ドルまで引き下げ、「EVの車両コストをガソリン車同等まで引き下げる」(内田氏)とした。
( → 日産、全固体電池EVを28年販売 充電時間3分の1に - ITmedia ビジネスオンライン )
「24年にパイロット工場を立ち上げ」ということからして、この技術はすでに実験室内ではほぼ完成していると見ていいだろう。
また、後段の説明からしても、出来映えもいいはずだ。
ともあれ、リチウムイオン電池と同程度の出来であるなら、工場を立ち上げるはずがない。リチウムイオンを大幅に上回る製品を出すか、あるいは、工場を建設中止にするか、二者択一だ。「ろくにできていないものを、量産化する」ということは、ありえない。
その意味で、全固体電池については、あまり危惧しなくていいだろう。「成功するか、中止にするか」の二者択一であって、「欠陥品を量産する」という失敗はありえないからだ。
( ※ 駄目な電気自動車を量産しようとするトヨタの方が、よほど心配である。)
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とはいえ、別の点では、問題がある。それは、デザインだ。

出典:Car Watch
三つの EV のモデルがある。いずれもコンセプトカーだ。
コンセプトカーなので、市販は前提となっていないが、あまりにもひどすぎるデザインだ。イカレているとしか思えない。

ネオンみたいな線がピカピカ光るのは、別に構わない。たぶん CG だろうし、どうでもいい。
駄目な点は、別にある。それは、「車体の先端が角張っている」ということだ。このことで、空力がまったく駄目だ。こんなことでは、空気の流れが乱れるので、空力がひどく悪化する。論外である。こんなに空力の悪いデザインで EV を出そうということが、世界の流れから完全に脱落している。
EV では高速燃費に最も影響するのが、空力だ。抵抗の半分以上が空気抵抗だからだ。そこで、EV については空気抵抗を徹底的に減らそうというのが、近年の流れだ。
昔は Cd が 0.3 を切ると、「とても優秀」とされたものだが、今では驚くことに、 Cd が 0.2 にまで下がっている。
ベンツの EV は Cd が 0.2 だ、という記事。
→ 【空気抵抗係数0.20】メルセデス・ベンツEQS 市販車最高レベルの空力性能実現 次期旗艦EVセダン
→ メルセデス・ベンツの新型EV「EQS」が公開 ブランドのデザイン哲学を体現するシームレスな外観
テスラの EV は Cd が 0.208 だ、という記事。
→ テスラ モデルS「プラッド」ローンチイベント徹底レポート
新興メーカーのルーシッドの EV は Cd が 0.21 だ、という記事。(昨年)
→ 米Lucid Motors、開発中のEV「Lucid Air 」が他社EVをしのぐ空気抵抗係数を達成
→ ルーシッド・エア 航続距離800km以上の最新鋭EV、生産開始 新興企業の底力
写真を見ればわかるが、いずれも流麗なデザインである。「流線型」と言ってもいいぐらい、なめらかだ。こういうデザインこそが、空気抵抗を減らす。
ひるがえって、日産の三つの EV のデザインは、空気抵抗のことをまったく考えていない、と言える。
イカレているとしか言いようがないね。
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ただし、上の三つは、いずれもコンセプトカーだ。つまり、ただのオモチャだ。市販されるわけではない。
市販される車では、日産アリアは、空気抵抗のことをよく考えたデザインだと言える。
→ アリア のデザイン
実を言うと、アリアの Cd は、ベンツの SUV に比べると、かなり劣る。というか、ベンツの SUV が特別に優れている。(床下の凸凹をなくしているせいらしい。これはコストがかかる。)
アリアは一応、及第点だが、ずっとひどいものがある。トヨタの bZ4X だ。これは、発音できそうにない名前もひどいが、空力もひどい。
→ bZ4X のデザイン
前輪の前の「空気取り入れ口」のところだけは、アリアやベンツに似ているので、及第点だ。だが、それ以外が全部駄目だ。特に、面と面の接する稜線のあたりが全然ダメだ。ここになめらかさがないと、乱流が発生して、空気抵抗がひどく悪化する。そのことは、次の雑誌で水野和敏という優秀な技術者(元 GTR 開発リーダー)が解説している。
→ ベストカー12月26日号 - 自動車情報誌「ベストカー」
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トヨタの EV は、コンセプトカーという冗談車ではなく、これから社運を賭けようとする市販車だ。それで、ものの見事に滑っているのだ。「空気抵抗のことをろくに考えていない失敗車」として。
EV の高速燃費にとっては空気抵抗を減らすことが至上命題だ、という基本のキをも理解できていないのだ。呆れるばかりだ。
この点では、日産の方がはるかにまともだと言える。
→ 航続距離の向上に期待?日産「アリア」風洞実験公開 空気を切り裂くEVクロスオーバー
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日産は、コンセプトカーという冗談車では(イカしたつもりで)イカレているが、市販車ではイカレていない。
トヨタは、市販車でイカレている。
どっちがひどいかについては、言わないでおこう。
[ 付記1 ]
日本メーカーが低レベルの争いをしている間に、テスラははるかに先に進んでしまった。空気抵抗が 0.208 というだけではない。次のスペックを見よ。
航続距離(推定) 637 km
0-100 km/h 2.1 秒
最高速度 322 km/h
最大出力 1,020 馬力
( → Model S | テスラ ジャパン )
出力は GTR の 570馬力 をはるかにしのぐ。(約2倍だ。)
それどころか、スーパーカーの最高峰である「ランボルギーニ・アヴェンタドール ウルティメ」の 780 馬力をも大きくしのぐ。それでいて値段ははるかに安い。
テスラ Model S は、あらゆるスーパーカーを過去の遺物にしてしまった。
ルーシッド・エアも、最大出力 1080ps、最高速度 380km/h というモンスターだ。
こうなると、今さら日産が新型 GTR を開発しても、何の意味もない、というところだ。
その間に、トヨタみたいな会社は、「空気抵抗が大切だ」ということすら理解できないまま、ジタバタしているのである。
[ 付記2 ]
なお、1000馬力を超えるとなると、モーターは永久磁石モーターでは不可能なレベルかもしれない。だからこそテスラは電磁石モーターを採用したのかもしれない。
[ 付記3 ]
それにしても、一挙に 1000馬力を超えるとは。
これはまるで、10万馬力のアトムが、100万馬力のプルートーに跳ね返されて惨敗してから、アトムも 100万馬力をめざす……というのを思い出させる。パワー競争だね。
日産が次期 GTR については、
新型GT-Rに関して日産の設計責任者のアルフォソ・アルベイザ氏が「世界でもっとも早いスーパーカーでなければならない」と語っている
( → GT-Rがフルモデルチェンジで2023年以降に登場 )
ということから、どうせ出すなら、2000馬力にしてもらいたいものだ。そのときの名前は、そうだな、「ボラー」という名前がいいでしょう。
書籍案内。
「プロジェクトGT‐R―知られざる成功の真実 by 水野 和敏 」
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プロジェクト・マネージャーの在るべき姿が描かれています。
ただし、一般のビジネス書ではありません。
プロジェクト・マネージャーとは型にはまっていてはいけない。
そんなことを体を張って見せています。
人が育つ組織とはこうやって作るのだ。
目から鱗が落ちるとはこのことでしょう。
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大企業の中で、自らから考える世界最高の自動車を作る大変さ苦悩を御自身の子供・入社までさかのぼり、水野さんの講演(ネット動画で見ました)の口調のような、なめらかな引き込まれる文書の本でした。
300q以上で走るスーパカーは普通、雨の日・雪道は危険で走る事が出来ない常識を、変え安全に早く走る車を開発目標にし、0.1oの高い精度を生産ラインに求め、日本の職人なら出来る・を証明されました。大量生産で希薄になった商品が生み出す感動、作り手の真剣さ・おもてなしの心、魂が大切であると確信しました。