2021年11月28日

◆ 欧州車の EV 比率が高いわけ

 欧州車の EV 比率はとても高い。日本に比べて約 20倍だ。どうしてこんなに差があるのか? 

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 本日の朝日新聞の記事にこうある。
 20年の欧州の新車販売に占めるEVの割合は11%と主要市場で最も高い

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( → (Sunday World Economy)欧州EV化、インフラ格差の現実:朝日新聞

 一方、日本はどうかというと、こうだ。
 一般社団法人 日本自動車販売協会連合会が発表している「燃料別販売台数(乗用車)」1)を見ると、2020年(1〜12月)のEVの新車販売台数は約1万5000台となっています。乗用車全体の販売台数が約250万台なので、全体の約0.6%がEVです。
( → 【2021年】電気自動車(EV)の普及率はどのくらい? 「日本で普及しない」は本当? - EV DAYS | EVのある暮らしを始めよう

 日本はずっと少なくて、0.6% だ。割り算して、欧州は日本の約 20倍となる。(有効数字1桁)
 では、どうしてこんなに大差があるのか? 

 ――

 すぐに思いつくのは「補助金の差があるから」だが、現実にはそんなに差はない。
 次に思いつくのは「欧州車の EV が優れているから」だが、日産リーフに比べても、大きく優れているわけではない。価格だって、かなり高い。一般のガソリン車に比べて、かなり不利である。
 次に思いつくのは、「欧州の人は環境保護にうるさいから」だが、それも 20倍もの差をもたらすほどではない。

 いろいろ考えているうちに思い至ったことは、こうだ。
 「欧州の自動車メーカーは、ハイブリッド車を作っていない(作れない)から、そのかわりに EV を作っている」
 ということだ。ここまで来ると、かなり正解に近くなる。

 ――

 では、正解は何か? 考えているうちに、ようやく判明した。こうだ。
 「欧州では炭酸ガスの排出規制が厳しい。一定以上の炭酸ガスを排出する車を販売すると、巨額の罰金を科される。これを科されなかったのは、テスラとトヨタだけだ。テスラは電気自動車があり、トヨタはハイブリッドがある。一方、他社はみな巨額の罰金を払わされた。今年はその罰金の額がさらに増える。そこで、巨額の罰金を免れようとして、炭酸ガスを排出しない EV を大量に販売する必要に迫られた」

 裏付けとなる記事はこれだ。
 EUで自動車を販売している日米欧韓の大手自動車メーカー13社は、2021年のEUのCO2排出量目標を達成できない場合に総額で約146億ユーロ(約1兆7540億円)以上の罰金を支払うことになると予測。

 EUは2021年に、EU域内で新たに登録される自動車について、平均CO2排出量を走行1kmあたり95gにすることを求めています。規制の目標値は販売台数や自動車の重量などで違いがありますが、各社それぞれの目標値を超えると、超過1gにつき95ユーロを販売台数に乗じた罰金が発生します。
 リポートでは、上位13社の中で最も目標達成率が高いメーカーはトヨタで、目標の94.9gに対して予測値は95.1gで、超過は0.2gです。トヨタは、初めて目標を達成できない可能性があるとしています。
( → EUで巨額の罰金に直面する自動車メーカーをPAコンサルティングが予測 - EVsmartブログ

 テスラだけは、罰金を払うどころか、自社の枠を他社に売って、大きな利益を得ているそうだ。自社の車の生産では赤字でも、こちらの枠を巨額で売るので、会社全体では大きな黒字になるそうだ。
  → 迷走する日本のエコカー戦略:ホンダもひれ伏す「テスラの環境クレジット・ビジネス」の驚くべき収益力と成長率

 ――

 以上によって、欧州では EV 車の販売比率が高いことがわかった。

 一方、日本ではどうか? 日本ではどうしてEV 車の販売比率が、こんなに低いのか?
 その理由は、おそらくこうだ。
 「日本では、ハイブリッド車がたくさん売れる。だから、EV よりもハイブリッド車に注力する。欧州のように罰金が科されるわけでもないので、無理に EV を得る必要もない。ユーザーとしても、ある程度の補助金をもらえるだけでは、EV はあまり買う気になれない」

 日本でも EV がまともに売れるようになるのは、日産アリア以後だろう。つまり、来年からだ。
 ただ、アリアの生産台数には限りがあるので、アリアだけではたいした台数にはなるまい。
 日産リーフが、小型 SUV になって発売されるのが 2024年ごろだ。
  → 【日産】新型車デビュー・モデルチェンジ予想&新車スクープ|2021年10月最新リーク情報
 日本で EV車が普及するのは、あと3年以上かかるようだ。
 それ以後も、EV車の販売比率は、欧米よりもずっと低いままであるようだ。(冒頭のグラフを参照)

 ――

 ここで注目されるのは、トヨタの戦術だ。
 トヨタは今のところは「ハイブリッド車重視」で乗りきるつもりらしい。だが、欧州の炭酸ガス排出規制がどんどん強まると、もはやハイブリッド車だけでは規制をクリアできなくなり、巨額の罰金を科される。今の「ハイブリッド車重視」では、今は良くとも、将来は乗りきれないのだ。
 となると、トヨタもまた EV を重視せざるを得ないのだが、トヨタの足取りはかなり鈍い。PHV 開発も鈍い。EV や PHV の開発では、日産・三菱に大きく出遅れている。先が思いやられる。
 もっと厳しいのは、ホンダだ。どうも自社単独では乗り切れないので、GM との協力に頼るつもりらしいが、EV でも 自動運転でも GM に頼り切っていて、いったい、どうなるんですかね? 
  → ホンダ・GM、EV共通化: 日本経済新聞
  → ホンダが米GMと提携強化、EV共通化だけじゃない「真の狙い」とは | 今週のキーワード 真壁昭夫 | ダイヤモンド・オンライン

 上の二つの記事を読むと、GM よりホンダが主導しているようにも読めるが。…… ホンダにそれだけの能力があるのかな? 現状では、ひどいレベルだが。



 [ 付記 ]
 欧州が EV をやたらと推進するのには、ちょっと制度的なインチキがある。EV の炭素排出量をゼロと見なすことだ。
 実際には、EV の炭素排出量は、ゼロではない。発電のうちで火力発電に頼る分は、炭素を排出しているからだ。ドイツの場合、その量は全発電量の4割程度になる。
  → ドイツのエネルギー源別発電量の推移 - ドレスデン情報ファイル
 だったら、EV の炭素排出量を、電力消費に応じた炭素排出量を割り当てるべきなのだが、現行制度ではゼロと見なしている。( ゼロ・エミッションなどと言っている。ペテンも同様だ。)
 こういうインチキで、EV を推進して、ハイブリッドを排除しているわけだ。ひどいね。

 トヨタの社長は、どうせなら、こういうペテンを批判するべきだった。「日本では化石燃料発電が多いから不利だ」なんて弱音を吐いたりせずに、「ドイツは化石燃料発電が多いのにそれを無視しているぞ。ペテンだ。EV の炭素排出量をきちんと計量しろ!」と批判するべきだった。
 社長の頭が弱いから、見当違いなことを批判して、正しく批判するべきことを批判できない。社長が威張り散らすと、ろくなことはない。



 [ 余談 ]
 今年のカー・オブ・ザ・イヤーの最有力候補は、日産ノートとホンダ・ヴェゼルが拮抗している。
  → ヴェゼルとノート&オーラが有力?日本カー・オブ・ザ・イヤー「10ベストカー」発表 | MOBY [モビー]

 ホンダ・ヴェゼル(ハイブリッド)が人気なのは、トップ・ギアがエンジン直結で、高速燃費が良いのが魅力であるようだ。
 一方、日産のキャシュカイ(ハイブリッド)は、ギアなしのモーター駆動だけなので、高速燃費がとても悪くなる。モーターは高速回転に適していないからだ。(せめてギアを使って、回転数を落とせば、燃費が良くなるのだが。ただ、どうせギアを使うのなら、エンジン直結の方が効率はずっと高くなる。)
 日産は、EV では頑張っているが、ハイブリッドが間抜けだ。EV でも電池冷却を抜いたが、ハイブリッドではエンジン直結モードを抜く。いつも肝心なところを抜いてしまうので、せっかくの先進技術も、全体としては間抜けになる。自動ブレーキでもずっと、ミリ波レーダーを抜いていたしね。……いつもいつも抜け作の日産。コストカットで、重要点もカットするのは、ゴーンの置き土産。

 ※ 技術畑の 関潤 が社長になっていれば、こんなに技術音痴の経営にはならなかっただろうに。自動車会社の社長を文系の人間がやるというのが、根本的に駄目なんだよ。トヨタも日産も、イーロン・マスクにはまったく負けている。ホンダの社長は、技術畑だが、今の社長も先代も、学歴がひどすぎる。人材不足か。 

 ――

 蛇足だが、私がカー・オブ・ザ・イヤーに1票を入れるとしたら、三菱の PHEV に入れたいところだが、発売日が 12月16日。だったら、これは来年に回すのが妥当だという気もする。そうなると、アリアと競合して、負けてしまいそうだが。



 【 追記 】
 現実的には、欧州の EV はまだまだ価格競争力を持たない。たとえば、売れ線の ID.3 は、こうだ。
 ID.3のボディサイズは欧州のCセグメントに属し、ほぼゴルフに近いサイズで全長4,261×全幅1,809×全高1,552mm。(ゴルフは全長4,265×全幅1,800×全高1,465mm)

 ID.3のベースモデルは3万5,574.95ユーロ(約449万円)。
 ステアリングホイールヒーターやシートヒーターなどが追加された「ID.3ライフ」は3万7,787.72ユーロ(約477万円)。
 スタイリッシュになった「ID.3スタイル」は4万946.04ユーロ(約517万円)で、キーレスなどを標準装備した「ID3.ビジネス」は4万1,287.22ユーロ(約521万円)。
( → 自動車EV化の現状とは?VWの電気自動車ID.はいつ日本に来る?


 一方、三菱アウトランダー PHEV は、前席シートヒーターは全車標準装備で、価格は 4,621,100円から。
  → 【公式】アウトランダー|三菱自動車
  → アウトランダー|こだわりの充実装備|装備・メーカーオプション

 EV でなく PHV だが、装備は圧倒している上、価格は安くて、4WD もあり、3列シートもある。パワー部分(モーター・電池・エンジン)以外なら、200万円分ぐらいの品質差がある。常識的に考えて、ID.3 にはまったく価格競争力がない。

 要するに、現時点で最強なのは PHV であって、EV ではない。なのに欧州が EV 一辺倒で進もうとするのは、ハイブリッドや PHV の技術を持たないからだ。で、そのせいで、ユーザーは馬鹿高い EV を買わされるハメになる。(補助金はもらえるが。)
 日本メーカーとしては、当面は PHV を主力に据えるのが最善だ、と私は考える。そう意見表明しておこう。

 ※ ノートやキャシュカイも、あとちょっと充電池を足すだけで、PHV になって、補助金をもらえるんだが。日産は、ここでも大切なものが抜けている。いつも抜け作の日産。 nissan あらため nukesan という名前にするべき。

posted by 管理人 at 22:57 | Comment(8) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後の少し前に [ 付記 ] を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2021年11月29日 00:39
 最後に  【 追記 】  を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2021年11月29日 13:06
 他の大きな要因として、ガソリン・軽油の小売価格の高さがあるのではないでしょうか。下の資源エネルギー庁のレポートでは、イギリス・フランス・ドイツは、いずれもガソリンや軽油が日本よりも2割くらい高いです(2021年2月のデータ)。いっぽうで、家庭用電気料金は、イギリスが日本と同じくらいで、フランスが日本より安くてドイツは日本より高いです(2019年のデータ)。

 https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/2-2-4.html

 なお、ガソリン価格はもう少し前のデータを比較するほうがいいと思い、探したら2015年2月のデータがありました(みんカラの記事)。これによると、もっと差があります(欧州各国が高い)。EVが順調に普及しているノルウェーは、日本の約1.8倍(ドル換算)です。

 https://minkara.carview.co.jp/userid/285744/blog/35147843/

 ノルウェーといえば、下の日産のサイトによると、EVにはさらにインセンティブや免除がたくさんあるとのこと。(1990年代後半から徐々に導入。)

 ・ 付加価値税(VAT)免除 ※通常は25% ←これは大きい!
 ・ 道路使用税免除
 ・ 一部の市営駐車場での駐車料金無料
 ・ 社用電気自動車減税(化石燃料車両よりも低率)
 ・ 一部地域で通行料金割引または無料
 ・ 乗客を乗せている場合はバスレーンの走行可
 ・ 一部の駐車場、通行料金、フェリー運賃半額

 https://ev2.nissan.co.jp/BLOG/622/
Posted by かわっこだっこ at 2021年11月30日 12:27
欧州車がEVに切り替えている事情は理解できるのですが、それによってトヨタが不利とも言えないようにも思います。
充電インフラが整う米中欧ならともかく、他の国はそうもいかんでしょう。ガソリン車で排ガス対策も出来るHVは当分の間ニーズは残ると思います。欧州車がEV一本になったら、それらの国はトヨタの独壇場では?
案外トヨタ社長はシメシメと思っているかも。
Posted by 飛び魚 at 2022年05月06日 16:21
 短期的にはそうですけど、ここで言うのは長期的な話です。今はいいけど、2030年、2040年になったら、EV で出遅れている日本メーカーは大幅に不利になります。
 ちなみに日産リーフは、一昨年までは上位にあり、去年もベスト10に入っていたようですが、今はランキングの圏外になってしまって、ほとんど売れていません。凋落の一語。
 トヨタだけの問題じゃないんです。日本メーカー全体の問題。世界の流れに取り残されている。かろうじてアリアが何とかなっているが、半導体不足で生産できない状態だ。
Posted by 管理人 at 2022年05月06日 16:58
 2022年1月の EV 世界販売台数で、日本車がすべてランキング圏外に。
  → https://www.hyogo-mitsubishi.com/news/data20220505235900.html

 韓国車は多数が欧州販売のランキングに入っているので、日本企業はもはや韓国企業に大幅に負けていると言える。トヨタは現代自動車の傘下にでも入った方がいいね。現代自動車の子分になれば、倒産しないで済む。
Posted by 管理人 at 2022年05月06日 17:46
日産やホンダはEVに切り替えています。ここではトヨタに話を絞らせて下さい。管理人さんはトヨタの社長はバ◯だと言われていますが、そうでもないのかも、と思っているのです。

長期的に見ても全世界中に充電インフラが整備されている未来を想像できないのです。必ずニーズは残るでしょう。その時、競合メーカーはもういません。シェアのほとんどを取り、利益率も高いでしょう。その利益をEVのコストダウンに回せば、米欧中のメーカーと互してやっていけるかもしれません。その頃は、さらに円安になっていて、国内の安い人件費でHVやEVをじゃんじゃん作れます。

EVに課題がないわけではなく、生産に資源を使いすぎで、銅やレアアース不足の懸念もあり、コストは高くなっていくでしょう。テスラも排出権クレジットで今はコストが下がっていますが、いつまでも独占は出来ませんし、途上国では意味がないかもです。

EVが増えるであろうことは同意しますが、EVのみになるとは思えないのです。
Posted by 飛び魚 at 2022年05月07日 10:08
> EVのみになるとは思えないのです。

 それはそうです。2030年でも、EV 以外が過半数を占める予想になっています。
 2040年でも、ガソリン車は全廃はされません。生産中止にするメーカーがいくつか出るらしいが、いずれも小規模会社のみ。大規模会社は違う。

> その時、競合メーカーはもういません。

 いやいや。競合メーカーはあふれるほどあります。今ある莫大な生産設備は、10年たっても消えません。ほとんどがそのまま残ります。
 
 世界の自動車生産台数は 8000万台弱なので、2033年には、ガソリンエンジンの生産能力が7000万台分で、実際に生産されるのは、ガソリン車が 3000万台で、PHV車が3000万台で、EV が 2000万台ぐらいでしょう。ガソリンエンジンの生産設備は、合計 6000万台分が稼働する計算になります。
 EV一辺倒というのは、2050年ぐらいにならないと、無理だろう。そのころには、私はもう死んでいるかもね。


https://response.jp/article/2017/10/11/300895.html
Posted by 管理人 at 2022年05月07日 11:17
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