2021年11月11日

◆ トヨタの社長と熱力学

 (前項の続き)
 トヨタの社長は熱力学の法則を理解できていない。理系ならばすぐにわかる初歩的なことを知らないから、無知なまま、変な方向に暴走するのだ。

 ――
    ( ※ 本項の実際の掲載日は 2021-11-17 です。)



 まず、 Q&A を示す。

 Q トヨタの社長はなぜ水素エンジン車に邁進(まいしん)するのか? 
 A トヨタの社長は熱力学の法則を知らないからである。物理学の初歩を理解できないのだ。

 上の Q&A が、私の見解である。これでトヨタの社長の馬鹿さ加減は説明できる。

 ――

 理系の人間ならば、大学の物理学で熱力学の法則を学ぶ。そこでは「カルノーサイクル」という概念も学ぶ。摩擦による無駄なエネルギー損失がないという理想的な条件において、熱のエネルギーをどれだけ有効に利用できるか? 理論上の最大効率はどれだけか? それについて、カルノーサイクルという原理が教える。その値は 
     ( T2 − T1 )/ T2
 で与えられる。(解説は省略する。)


karuno.png


 カルノーサイクルの原理を理解すれば、現実的な内燃機関の効率の上限は 60%ぐらいであるとわかる。
 このくらいのことなら、理系の重役でも知っているはずだ……と思ってググってみたら、まさしくトヨタの重役の発言が見つかった。彼は熱効率について、こう語る。
 (50%達成は)技術的にやれると思っている。まだ無理だが。60%となると、ほとんどカルノーサイクルの理論値で無理だろう。
( → トヨタ幹部、超希薄燃焼エンジンは「ぽっと出すかも」 燃料革新は絶対必要 | 日経

  熱効率 60% というのは、「ほとんどカルノーサイクルの理論値で無理だろう」と語っている。この人はきちんと熱力学の法則を理解できている。(理系の人間なんだから、当り前だが。イロハのイを理解しているだけだ。)

 ――

 では、トヨタの社長はどうか? 彼は熱力学の法則を理解できていない、というしかない。その理由は、以下の通り。

 まず、EV のエネルギー効率はとても高いことが知られている。
  ・ エネルギーの運搬の損失は、送電ロスがあるだけなので、10% 以下。(つまり伝達効率 90% 以上)
  ・ モーターのエネルギー利用効率は 90% 近い。


 以上の2点から、EV のエネルギー効率は
    90% × 90% = 81%

 という数値を上回る、と見ていいだろう。

 一方、水素エンジン車は、内燃機関のエンジンであるがゆえに、原理的にカルノーサイクルの効率である 60% を越えられない。
 さらに、水を電気分解するときのエネルギー損失が 30% ぐらいあり、水素をボンベに圧縮するときのエネルギー損失も 10% ぐらいあり、水素を封入した重いボンベを運ぶエネルギー損失も 20% ぐらいある。そこに加えて、モーターの損失の分が加わる。掛け算すると、
   70% × 90% × 80% × 90% ≒ 0.45

 この 0.45 と 60% という数値をかけて、水素エンジン車の効率の上限は 27 % ぐらいだ、とわかる。EV のエネルギー効率である 0.81 に 比べて、圧倒的に低い。(3分の1だ。)
 
 結局、水素エンジン車のエネルギー利用効率は、EV の 3分の1しかない。非常にエネルギー損失が大きい。こんな非効率なものを、「 EV のかわりに採用する」ということなど、ありえない。
 熱力学の法則を理解していれば、そう結論できる。
 なのに、トヨタの社長は、そう結論できない。それとは逆のことを結論する。とすれば、「トヨタの社長は熱力学の法則を理解できていない」と断定できる。換言すれば、「理系の知識をまったく持ち合わせていない、非科学的な人間である」と断定できる。

 要するに、ただのトーシロなのである。エンジンについてトーシロな人間が、エンジンの方針を決めようとする。呆れて物が言えないとは、このことだ。

 サーキットに出て レーシングカーを運転する経験を積んだことで、「おれは玄人並みだ」と思い込んだのかもしれない。度しがたいほどの自惚れ屋というしかないね。「恥を知れ」と言ってやりたいものだ。

 
posted by 管理人 at 23:17 | Comment(13) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 トヨタ(トヨタ社長も?)が一部で水素エンジンをやっているのは、EV(BEV)以外の(モーター以外の動力源としての)可能性追求でしょうね。

 ガソリンエンジン単体での熱効率は、いま45%行けるか行けないかという地点(マツダのスカイアクティブXが43%超えだとか)。トヨタは、それのさらに上、水素燃料電池ユニットの効率(水素製造時やボンベ充填での損失は除いて)に近づける、クルマの使用状況によってはそれを上回ることを目指しているようですね。

 https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1341503.html

 この取り組みが技術的に意味があるとしても、経営の観点からはいかがか(社長個人の道楽にリソースを使いすぎ)というのは、また別の話。つまり、技術(者)として批判することと、経営(者)として批判することは、分けたほうがいいと思います。仮に本稿の趣旨に従えば、全ての自動車メーカーは新規エンジン(内燃機関)の開発は即刻中断すべきで(どうせモーターの効率には及ばないのだから)、そうしないのは非科学的、技術オンチということにもなりますが、どこのメーカーもそうはしてないようですから。
Posted by かわっこだっこ at 2021年11月17日 23:23
> 仮に本稿の趣旨に従えば、全ての自動車メーカーは新規エンジン(内燃機関)の開発は即刻中断すべきで(どうせモーターの効率には及ばないのだから)、そうしないのは非科学的、技術オンチということにもなります

 なりません。本項で批判しているのは、水素エンジンを(道楽で)開発すること自体じゃなくて、EV 開発をサボっていることです。
 水素エンジンとか、ハイブリッドとかを開発して、レースごっこをしても、構わないんですよ。ただの道楽なら。
 問題は、道楽に熱を入れすぎて、本業の EV 開発をサボっていること。
 仮にトヨタが、アリア以上の EV を開発しているのであれば、水素エンジンを道楽で開発しても文句を言わないし、ロータリーでもスターリングでも、何でも好き勝手にしていい。
 だけど、そうじゃないでしょ。社長は明らかに、EV 開発をサボる名分で、水素エンジン車に熱を入れている。

 ――

 なお、日産は可変圧縮比エンジンで 50%を達成できると言っています。★
 それは立派なことだし、開発中止するべきではありません。ガソリン車はあと 10年は生き延びるので、その間は、開発を継続するべきです。PHV もあわせれば、あと 15年はガソリンエンジンが生き残る。

 ★ https://news.yahoo.co.jp/articles/c47a76d57c98e1a902e4ef0911fff7a97d2aa750?page=2
Posted by 管理人 at 2021年11月17日 23:47
> EV(BEV)以外の(モーター以外の動力源としての)可能性追求

 その目的なら、日産が可変圧縮比エンジンで高効率を追及しています。

 一方、水素エンジン車は、水素ガスの圧縮のためだけで 10%の損失があり、ボンベの運搬でも 20%の損失がある。この分だけ、ガソリン車に対する効率低下というハンディキャップが付く。
 ガソリン車の効率が 40% だとして、水素エンジン車がそれに並ぶためには、60%(カルノーサイクルの上限)が必要です。水素の製造・運搬だけで、大幅なハンディキャップが付けられるんだから。
Posted by 管理人 at 2021年11月17日 23:55
> なりません。本項で批判しているのは、水素エンジンを(道楽で)開発すること自体じゃなくて、EV 開発をサボっていることです。

⇒ うーん、だから、私も当初コメントで「つまり、技術(者)として批判することと、経営(者)として批判することは、分けたほうがいいと思います」と書いています。最初から、こちらの追記コメントのような内容とあわせて論が展開されていれば、私もコメントはしないのですが。
Posted by かわっこだっこ at 2021年11月18日 00:24
> その目的なら、日産が可変圧縮比エンジンで高効率を追及しています。
> 一方、水素エンジン車は、(後略)

⇒ これも当初コメントで書いたとおり、水素エンジンが水素燃料電池ユニットのエネルギー効率(60%くらい?)に近づけられるかどうか、クルマの使用状況によってはそれを上回ることができるかどうか、その可能性検討をレースでしているという推測を示しました。水素エンジンでも水素燃料電池でも、水素にかかわる「損失」は管理人さんが示された内容でどちらにもかかってくるので、こういう趣旨の可能性検討(追及)も、まあやってもいいんじゃないかな、と思っています。
 それと、日産・マツダなど他社と同様に、トヨタでも水素以外を燃料とする内燃機関の熱効率追求(新規技術の開発)は当然やり続けているはずですし、可変圧縮比エンジンも候補に含まれていると推測します。水素エンジンの何倍もリソースを投入していると、誰もが考えているでしょうね。
Posted by かわっこだっこ at 2021年11月18日 00:41
> 水素エンジンでも水素燃料電池でも、水素にかかわる「損失」は管理人さんが示された内容でどちらにもかかってくるので、

 燃料電池車が日の目を見ることがあるのなら、その通りですけど、燃料電池車が日の目を見ない( EV にはいつまでたっても大差で負け続ける)のであれば、負けのカードが1枚から2枚に増えるだけです。損が2倍に膨らむだけ。
Posted by 管理人 at 2021年11月18日 01:04
 あと一つだけ。「トヨタは、水素エンジンとTHSを組み合わせたハイブリッド車を構想しているのでは」と、一部で考える人もいるようですね。

https://news.yahoo.co.jp/articles/994aaec64524781436db5c9ed6784b74e7f3f799

https://bestcarweb.jp/feature/column/299821
Posted by かわっこだっこ at 2021年11月18日 01:06
> 燃料電池車が日の目を見ることがあるのなら、その通りですけど、燃料電池車が日の目を見ない( EV にはいつまでたっても大差で負け続ける)のであれば、負けのカードが1枚から2枚に増えるだけです。損が2倍に膨らむだけ。

⇒ 私もその可能性のほうが高いと思うのですが、直前に入れた私のコメントのとおり、水素エンジンと組み合わせたハイブリッド車の市場投入で、水素インフラ整備の遅れを取り戻せるかも(立て直せるかも)、ということを「ふと思いついてしまった」のかもしれません。
Posted by かわっこだっこ at 2021年11月18日 01:12
 燃料電池車というのは、化学的な機構をもつので、電子的な機構をもつ EV に比べると、効率などを含めて、原理的にはあらゆる点で負けます。

 ただ一つ、実現性の点では、化学的な機構をもつ燃料電池車の方が、実現性は早いと思われてきました。それが 1995年頃のことです。このころ、業界は「燃料電池車こそ未来の技術だ」と信じて、開発に熱中していました。
 ところが、実現のためには大きな難関があることが判明して、「3年後に実用化」のはずが、「あと3年」「あと3年」ということを、何度も何度も繰り返して、とうとう 2015年になってしまいました。そのころにはもはや電気自動車の勝利は確定的でした。(途中に難関がなかったので。)

 2021年の現在では、燃料電池車は、もはや「時代遅れの旧式技術」となっています。たとえ実用化しても、電気自動車には勝てません。
Posted by 管理人 at 2021年11月18日 01:28
燃料電池車に勝ち目がないのは同意しますが、
EVは本当に主流になり得るのでしょうか?

EVの決定的な弱点は充電時間だと思います。
ガソリンエンジンや燃料電池車なら数分でフル充填ですが、EVで同様の時間でフル充電するには
・充電の電流や電圧を上げる→バッテリーの劣化が早まる
・カートリッジ式にしてバッテリーごと交換→規格統一は可能か?他人が使ったバッテリーを信頼できるか?規格統一がその後の進歩を妨げないか?
・スタンドに自分の予備バッテリーをキープしてもらい、それと交換→出先ではどうする?
・道路にコイルを埋め込み、走りながら充電→伝送ロスを考えるとエコと言えるか?設置費用は誰が負担?電気代はどうやって精算?
と、どれをとっても「EVが主流になる未来」が見えてきません。
実際には上記の方法を併用していくのでしょうが…
Posted by のび at 2021年11月18日 13:53
EVが普及すると仮定するなら、マクロでみるとガソリンスタンドは徐々に充電ステーションに姿を変えていくでしょう。しかし、個々の店舗を見ると、ガソリンスタンドに充電の設備を併設することも多いかと思います。その場合

・EVに対応するための設備投資がかさむ
・EVは充電時間がかかる→回転率が下がり、収益性が悪化する
・充電の電流や電圧を上げる→事故の危険性が高まる
・カートリッジ式にしてバッテリーごと交換→バッテリーの保管場所がかさばる。規格統一がなされなければなおさら
・スタンドに自分の予備バッテリーをキープ→余計にかさばる

かといって、
・EV対応をしないと売り上げがじり貧
と、どれをとっても「明るい未来」が見えてきません。
実際には駐車場に充電ステーションが増えていくのかもしれませんが、例えばショッピングモールやSAの駐車マスの数割に充電用のコンセントがある、もしくはコイルが埋め込まれているといった未来は来るのでしょうか?
Posted by のび at 2021年11月18日 14:17
> EVで同様の時間でフル充電するには

 フル充電しなければいいんです。7〜8割の充電に留めて、電圧を 800ボルトまで高めれば、10分間以下で済むのではないかな。

 あと、家庭で充電することにすれば、低い電圧で一晩だから、何時間であっても同じです。ずっと待っているわけじゃない。帰宅したら充電して、翌日になったら充電解除。その間は、ほったらかし。

 まあ、EV が主流になるのは、15年先の話なので、そのころまでに、ゆっくり技術開発すればいい。
 当面は 10年後に主流となると見込まれる PHV に注力するべきだろう。アリアではなくて、ノートに充電池を増やしたタイプ。
Posted by 管理人 at 2021年11月18日 14:20
> ガソリンスタンドは徐々に充電ステーションに姿を変えていくでしょう。

 いや、ガソリンスタンドはすべて廃業でしょう。変わるとしたら、コンビニに変わる。

 充電ステーションは、1つだけ設置するという場所がたくさんできるでしょう。大きなスーパーの駐車場など。充電中に買い物をする。
Posted by 管理人 at 2021年11月18日 14:25
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