2021年11月16日

◆ マイナンバーの自己矛盾

 政府はマイナンバーカードの促進に、金をばらまこうとしている。だが、肝心のマイナンバーそのものが法的に自己矛盾に満ちている。

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 政府はマイナンバーカードの促進に、金をばらまこうとしている。
 自民、公明両党は10日、@マイナンバーカードの新規取得者に最大5千円分A健康保険証として利用登録した場合に7500円分B公金受け取り用の預貯金口座を登録した場合に7500円分、という3種類の枠組みで、1人当たり最大2万円分のマイナポイントを付与することで合意した。
( → 最大5千円分のマイナポイント付与 カード取得済みの未申込者にも:朝日新聞

 何としてもマイナンバーカードを普及させたい、ということのようだ。
 まあ、その気持ちはわからなくもない。だが、「金で釣るよりは、手続きを何とかしろ。取得のために面倒臭い手続きを強いられるが、もっと簡単に取得できるようにしろ」というのが、私のこれまでの立場だった。
  → マイナンバーとキャッシュレス推進: Open ブログ
  → マイナンバーカードの普及: Open ブログ
  → マイナンバーカードの失敗: Open ブログ
 上記の3項目では、カードを簡単な手続きで取得できる方法を、いくつか示している。つまり、代案だ。


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 さて。それはそれとして、別の話をしよう。(上の話は前振りで、以下が眼目だ。)

 マイナンバーは、それ自体が法的に自己矛盾に満ちているのだ。
 そもそも、マイナンバーを使うのは、行政手続きの効率化が目的だ。いろいろと文字を書いたり印刷したりするのが面倒だから、デジタル的な番号処理だけで済ませることで、行政手続きを効率化する、というわけだ。
 ところが現実にはどうかというと、その逆になっている。マイナンバーを使うことで、行政が効率化されるどころか、非効率化される。それはどうしてかというと、マイナンバーにおける「個人情報の秘匿」が過剰になされるせいで、そのことが桎梏(しっこく)となって、情報の共有化が妨げられるからだ。

 具体的に言うと、A という組織と B という組織が、同一の個人の情報を共有している。これはこれで問題ない。ところが、ここにマイナンバーが加わると、「個人情報の秘匿のために、情報を他組織に流してはいけない」という制約が加わる。そのせいで、これまでなら情報を共有できていたのに、マイナンバーが加わったせいで情報の共有ができなくなる。

 具体的な例としては、次のような例が考えられる。
 (1) 引っ越し者が、A という市から B という市に引っ越す。このとき、マイナンバーを使うと、A という市に所属するその人の情報を、提供できなくなる。情報の引き継ぎができなくなる。
 (2) ある個人の所得情報は、財務省または自治体が握っているので、所得別に提供される自治体のサービスについては、その情報を用いれば簡単だ。ところが、組織間の情報の共有が認められていないので、それぞれの個人はそのたびごとに所得証明書(課税証明書)を発行してもらう手間がかかる。

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 以上のことは、ただの懸念ないし想定ではない。現実に起こっている例もある。それは、ワクチン接種歴のデータだ。引っ越し者については、ワクチン接種歴のデータを、自治体間で情報の共有をするべきだ。たとえば、A 市でワクチンを2回接種してから、3回目の接種を(引っ越し先の)B市で行う、というふうな場合では、A市と B市で、その人のワクチン接種歴の情報を共有するべきだ。
 そのような情報の共有は、できるか? マイナンバーがなければ、情報の共有はできる。だが、マイナンバーがあると、情報の共有はできなくなる。マイナンバー法によって、情報の共有が禁じられているからだ。
 他の市町村に引っ越すと新型コロナワクチン3回目の接種券が届かない――。12月から始まる3回目の接種をめぐり、そんな恐れが出てきている。自治体間の情報共有が難しいためだ。
 国が導入した「ワクチン接種記録システム」(VRS)のデータなどをもとに自治体が対象者を抽出し、接種券を発送する。
 VRSは接種記録を一元管理するためのシステムで、マイナンバーと一緒に個人の接種記録が登録されている。登録データは各自治体が管理している。別の自治体が本人の同意なしにデータを参照することは、マイナンバー法上できない仕組みになっている。
( → 3回目接種券、引っ越すと届かず? 情報共有困難、転出先に申告必要:朝日新聞

 行政手続きの効率化のためのシステムなのに、逆に、行政手続きの効率化を阻害するために働いている。つまり、正反対の効果となっている。
 これでは、逆効果といってもいいし、本末転倒といってもいいし、倒錯的といってもいい。あまりにもひどい。

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 どうしてこうなったか? 問題の本質はどこにあるのか? 
 そもそも、組織間のデータ共有を禁じるのがおかしいのだ。やたらと個人情報の漏洩を恐れるあまり、必要な部分においても情報共有をできなくなるようにしてしまった。制度設計の失敗があった。(法制を間違えた。)

 なるほど、個人情報の秘匿は大切だ。だから、国や自治体などの「公的部門」から、一般の「民間部門」への情報流出は、阻止するべきだ。
 だが、国や自治体などの「公的部門」の内部であれば、必要な分については、情報の共有を認めるべきなのだ。特に、直接的に関連する縦組織や横組織では、情報の共有を認めるべきだ。さもないと、行政事務がまったく進まなくなる。

 その典型が、ワクチン接種情報だ。ここでは、各自治体がまったく別々の方式で番号を採用しているせいで、同じ個人番号が共有されることがある。自治体番号で区別されるが、個人番号自体は共有されることがある。(危険度が高い。)
 その一方で、各人についての情報を統一的に得る方法がない。たとえば、国がその情報を知ろうとしても、自治体経由でアクセスするしかないから、国はその情報を知りえない。そのせいで、引っ越し者の情報を国経由で伝えることもできない。
 結果的に、「本人が申告するか、本人の同意を得て転出元に照会をかけるしかない」とのことだ。(朝日新聞:上記記事)……これでは、マイナンバーのせいで、著しく行政効率が悪化してしまうことになる。

 そもそも、マイナンバーを使うからには、全国一律のシステム下で、統一的に番号を割り振るべきだったし、システムそのものを、国が提供するべきだった。なのに、結局は、それぞれの自治体がバラバラでシステムを導入することとなった。とはいえ、そのシステムを提供する会社は共通するから、自治体がバラバラに購入手続きをして、バラバラに番号を割り振ることになった。……まったくもって、無駄の極みである。
 
 こういうことは、デジタル庁が介入して、システムの共通化に取り組むべきことだった。ただ、このシステムができたときには、デジタル庁はまだ存在しなかったから、仕方がなかったとも言える。
 今ではもうデジタル庁が存在するのだから、こういう馬鹿げたシステムは改善してほしいものだ。少なくとも、3回目の接種が始まる前には。



 [ 付記 ]
 今回のマイナポイントのバラマキでは、次のようになる。
 @マイナンバーカードの新規取得者に最大5千円分
 A健康保険証として利用登録した場合に7500円分
 B公金受け取り用の預貯金口座を登録した場合に7500円分


 このうち、A が問題だ。「健康保険証として利用登録」などは、個人に許可を求めるのでなく、国が勝手に結びつけるべきだ。このような行政組織の内部での情報共有(番号共有)は、個人にいちいち許可を求める必要はなく、勝手に一挙にやるべきだ。さもなくば、国民としても、煩わしくて仕方ない。

 ただし、「組織間で野放図に情報共有をするのは問題だ」という心配があるのはわかる。そこで、次のようにするといいだろう。
 「組織間の情報共有は、その組織間(たとえばAとB)の情報共有として、一括して許認可すればいい」

 このような許認可は、たとえば、デジタル庁の専門部局(法律に詳しい専門家の部局)が裁定を下せばいい。たとえば、こうだ。
 「ワクチン接種情報については、自治体間の担当部局で個人情報を共有していい」

 こういう裁定を、専門部局が下すわけだ。そうすれば、個人ごとに1件ずつ共有の許可を得る必要がなくなる。ゆえに、莫大な無駄手間が浮く。

 また、「健康保険証として利用登録」も同様だ。
 「マイナンバーカードを健康保険証として利用できる」
 という裁定を、専門部局が下せばいい。そうすれば、個人ごとに1件ずつ共有の許可を得る必要がなくなる。ゆえに、莫大な無駄手間が浮く。

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 ついでだが、
 B公金受け取り用の預貯金口座を登録した場合に7500円分

 というのは、前回の10万円給付金の個人情報を流用すればいいだろう。前回は、世帯主への給付だった。通常、夫の口座だけで、妻の口座は登録されていない。だから、妻の分は別でもいい。だが、夫と子供の分は、もともとの口座でいい。

 ※ 子供への給付金は、子供でなく親に給付べきだ。給付金は、教育費・扶養費であって、子供の小遣いじゃないからだ。
posted by 管理人 at 21:44| Comment(0) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
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