2021年11月15日

◆ 政府の産業政策の失敗

 トヨタやホンダはどうして世界的な EV の潮流に乗り遅れたか? その理由は政府の産業政策の失敗だろう。

 ――

 トヨタやホンダはどうして世界的な EV の潮流に乗り遅れたか? その理由をいろいろ考えたすえ、私が下した結論は、こうだ。
 「トヨタやホンダは、世界的に見て特別に馬鹿だったのではない。彼らが独自に判断を間違えたのではなく、日本政府が彼らの判断を間違わせたのだ。それは政府による、次世代技術の開発方針である。そこでは、電気自動車ではなく、燃料電池車こそが次世代技術だ、と見なされた。そこで、政府の方針に則って、トヨタとホンダは全力で燃料電池車の開発に没頭した。そして見事に、世界最先端の燃料電池車の技術を獲得した。
 ところがそれはほとんど、行き止まりに近い道だった。いくら進んでも、先には到達できない。
 こうしてトヨタとホンダが、間違った道をさまよっている間に、世界の各国は、電気自動車という正しい道を進んでいった。
 トヨタとホンダが、自分たちの道は間違っていたと気づいたときには、他社は電気自動車の道を、はるか先まで進んでいた。今さら電気自動車への道へ戻れないトヨタとホンダは、グダグダと不平を唱えるばかり。
 そして、こうなったすべての原因は、政府が間違った道を示したことによる。つまり、政府が間違った産業政策を取ったことによる。」


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 トヨタとホンダが失敗したのは、彼らが独自に判断を間違えたからではなく、日本政府が間違った産業政策を取ったからなのだ。そして、それに素直に従ったせいで、両社は墓穴を掘った。
 一方、日本政府に素直に従わなかった日産自動車だけは、助かった。

 ――

 思えば、これと似たことは、歴史上には何度もあった。今回だけのことではないのだ。
 以下で列挙しよう。

 (1) 原発推進

 日本政府が「原発推進」という政策を取った。「将来のエネルギーの主役は原発だ」と。
 その尻馬に乗った東芝は、巨額の資金を投入して、米国 ウエスチングハウス(WH)社を買収した。だが、その価値はゼロとなり、莫大な損失をかかえて、とうとう東芝解体(分社・売却・分割)という結果に至った。 

 (2) 航空政策

 日本政府が「中型航空機開発」という政策を取った。「大型はともかく中型型ならば日本にも航空機産業が育つ」と。
 その尻馬に乗った三菱重工は、巨額の資金を投入して、MRJ の開発に没入した。しかし結果はご存じの通り。販売できた飛行機はただの1台もなく、事実上の開発凍結(無期限延期)に近い状態だ。

 (3) その他

 以上の2例ほど露骨ではないが、ちょっと似た感じの例がチラホラと思い浮かぶ。
  ・ 日本政府はガラケーをしたが、そのせいで日本企業がスマホで失敗したのかも。
  ・ 日本政府は富士通や NEC のスパコン開発を推進したが、そのせいで、半導体産業全体が TSMC や サムスンなどに負けたのかも。


 以上の2例は、「かもしれない」ということで、容疑は濃厚ではないのだが、その懸念がいくらか窺える。
 
 ともあれ、政府が音頭を取って、産業政策の舵取りをすると、間違った方向に日本企業を進めて、日本の産業を壊滅的な状態に導くばかりだ……と言えるだろう。
 そして、その理由は? 理系の技術のことを知らない文系の役人が、新聞記事を読んだり、半玄人の学者の意見を聞いたりして、生半可な知識で産業政策を決めるからである。そもそも文系の役人なんかが、技術の最先端のことを理解できるはずがないだろうが。東大法学部や経済学部を出た「自称秀才」が、自分には無知な技術の分野に頭を突っ込んで、ろくに方向も見えないまま、間違った道に進んでいった。
 そして、そのあとを追うだけの馬鹿社長が、会社全体を破滅の道に進ませる。そのひとつが、先の項目で示した事例である。
  → トヨタ・スバル・マツダが反EV連合: Open ブログ



 [ 付記1 ]
 2001年ごろに日本政府が燃料電池車を推進していた……という記録文書。以下の3件を紹介しよう。
  → 2001年1月22日燃料電池実用化戦略研究会(経産省)
  → 『低公害車開発普及アクションプラン』(環境省)(2001年)
  → JHFCプロジェクト(経産省)(2002年)

 ※ いずれも燃料電池車の推進のための機構。

 [ 付記2 ]
 TSMC に対する補助金(前項)は、どうか? これも「失敗した産業政策」と言えるか?
 一見したところは、「イエス」と言えそうだ。だが、よく考えると、そうとは言えない。「失敗した」という点では該当するのだが、「産業政策」という点に該当しないからだ。(もっとひどい、という意味だ。)
 そもそもこれは、産業政策になっていない。産業政策ならば、日本の産業を振興するはずだが、TSMC に対する補助金は、最大限の効果があったとしても、それで成功するのは外国の会社(TSMC)であって、日本の会社ではない。その意味で、日本の産業政策にはなっていない。(国内産業の振興ができないから。)
 現実には、産業振興をするどころか、産業低迷をもたらす効果がある。なぜか? 各企業に公平に補助金を出すのではなく、TSMC だけに補助金を出すと、競争上、他の企業は不利になるからだ。TSMC だけが補助金を得て、低コストでシェアを上げていけば、その分、他の国内企業は、シェアを落とす。TSMC が伸びれば伸びるほど、国内のライバル企業は衰退していく。
 その意味で、TSMC への補助金は、産業政策であるどころか、逆に、亡国政策なのである。しかも、そのために日本国民の血税を使うのだから、もはや売国政策と言ってもいい。
 やればやるほど日本を駄目にする、悪魔の政策だね。

 ※ TSMC に投入する金額は 4000億円だが、これは MRJ に投じた 500億円の8倍にもなる。どうせなら、三菱重工を倒産から救済してあげるために金を使う方が、マシだと思えるが。下手をすると、三菱重工が倒産しちゃうよ。(東芝の解体だけじゃない。)
  → 三菱航空機▲5269億円の赤字で債務超過に 20年3月期

 [ 付記3 ]
 日本政府はかつて第五世代コンピュータを推進した。これも同様だろうか?
 なるほど、そのせいで、日本はディープラーニングに乗り遅れた、という傾向があるかもしれない。部分的には、弊害があったかもしれない。
 だが、総合的には、この政策は、日本の人工知能研究を底上げしたという意味で、そんなに悪くはなかったと思う。
 何より、この計画による補助金の大部分は、研究費に使われたのであって、工場生産のために使われたのではない、という点が重要だ。その意味で、これは最初から産業政策ではなかった。どちらかというと、研究推進であるにすぎなかった。
 第五世代コンピュータというプロジェクトは、最終的な結果はごく貧しい結果をもたらしただけだったが、その途上では、研究者の底上げには役立ったったと言えるだろう。予算的にも、人件費が大部分だったようなので、そんなに悪くはなかったように思える。(11年の歳月と540億円。1992年終了。)

 それでも、結果がかんばしいものではなかったということも事実だ。しかしそれは、事前の宣伝が過大な夢を振りまきすぎたからだ、とも言える。(今から見ればとんでもない夢物語が吹聴されていた。「人工知能でバラ色の世界」というふうな。)

 ※ 特に、Prologマシンの開発は、学術研究でなくハードの開発だったので、金を食いすぎた。これだけは費用対効果が抜群に悪かったと言える。とはいえ、これが第五世代プロジェクトのメイン事業だったんだよね。その意味では、このプロジェクトは大失敗だったとも言える。


 なお、私はこのころ、「人工知能を作るのであれば、人間の脳を模したパーセプトロン型であることが必要だ」と思っていた。だが、それが実際に現実化するのは、約 20年後に、ディープラーニングが成立したころからである。私のアイデアは、20年ぐらい早すぎたようだ。

 [ 付記4 ]
 日の丸半導体の関連で、エルピーダメモリ(12年に経営破綻)、ジャパンディスプレイ・JDI(経営難)、という事例もある。16日の朝日新聞記事で紹介されている。
  → 政府、半導体産業支援に基金 台湾メーカーの熊本新工場に4千億円 :朝日新聞



 【 補説 】 
 政府による産業政策は、必ずしも失敗するとは言えない。逆に、見事な成功例もある。それは、下記だ。
  → 超LSI技術研究組合 - Wikipedia

 1976年度から4年間に700億円を投じたこの事業は、見事に成功したと言えるようだ。

 ではなぜ、当時は成功したのに、今では成功しないのか? 
 
 東芝の例や、燃料電池車の例では、世界的な潮流の変化を読み損なった。あさっての方向に向かって進んだ。

 MRJ の例では、企業の能力自体による。超LSI 当時の日本の企業は、生産技術では世界トップレベルにあった。逆に、三菱重工の航空機部門は、ブラジルやカナダのライバル会社よりもずっと見劣りしていたし、ボーイングやエアバスのような巨人に比べればはるかに後塵を拝していた。だが、そんなことは最初からわかっていたのだから、これもまた、政府の「読み違い」ということで理解できるだろう。

 原理的には、政府主導の「武士の商法」ということだろうか。「お役人には商売のことはわからない」ということで、要約できそうだ。
 ただ、かつての 超LSI の成功体験が忘れられなくて、「夢よもう一度」と期待するのだろう。ちょうど、ビギナーズラックで大成功した素人が、博打にのめりこんで、身を滅ぼすように。



 【 関連項目 】
 トヨタとホンダの社長は間違えたが、本サイトを読んでおけば、こういう間違いをしないで済んだだろう。本サイトはずっと前から正解を示していたからだ。
 燃料電池車と電気自動車については、私はかねて、こう主張してきた。
 「マスコミは燃料電池車ばかりに大騒ぎするが、燃料電池車なんて、いまだ夢の段階であるにすぎない。海のものとも山のものともつかない。こんなものを次世代の自動車として宣伝するなんて、虚偽報道である。むしろ、電気自動車の方がずっと実用化が近い。すでに実用化が可能な段階にある。こちらにこそ注目するべきだ」
( → 電気自動車: Open ブログ :2006年10月14日 )

 燃料電池車の見込みというのは、やはり「口先だけ」であるようだ。人々はだまされている。実用化の可能性があるのは、先日(電気自動車)に述べたように、「電気自動車 + 家庭用燃料電池」という組み合わせであるようだ。

 燃料電池車が普及するためには、次のことが条件となる
   ……(中略)……
 要するに、今現在においてノーベル賞級の技術開発があったとしても、現実に普及するのは、30年( = 15年 + 15年 )も後である。それが2036年。つまり、2020年なんて、とんでもないことだ。
( → 燃料電池: Open ブログ :2006年10月22日 )

 これらは 15年前の記事だが、おおむね、私の予想通りになっている。なお、これ以前にも「泉の波立ち」のサイトで、「燃料電池車は無理だ」と、何度か記したことがある。
  → 燃料電池車の過去記事: Open ブログ (資料)
posted by 管理人 at 22:15| Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
日本政府(高級官僚に寄生された)は実現が20年くらい先の不明瞭な目標に大量の税金をつぎ込むのが大好きだよね。で、後から考えるとなんであんなことに大金突っ込んだんだ?責任者誰だ?と言っても養分を吸い取った官僚はもうどこかへトンズラ済って感じですね。ぼちぼちこのパターンはいい加減にして欲しいですね。
Posted by 横レス at 2021年11月15日 22:50
日本政府と官僚はウソデタラメしか言わないのは歴史が証明してますね。国からの補助金や税金優遇で焼きが回った大企業はまともな判断力が失われてしまったようで。
Posted by 爺G at 2021年11月29日 18:13
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