2021年11月07日

◆ 医療の選択と集中

 医療の「選択と集中」のせいで、mRNAワクチンの開発が遅れた、という話の続編。

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 iPS 細胞への多額の研究予算投入が、かえって弊害をもたらしているが、これは「選択と集中」による弊害だ……という話が、本日の朝日新聞にある。
 新たな課題として指摘されているのが、政府の「iPS偏重」に対する反発だ。
 iPS細胞の発見から15年の間に、世界の主流は「遺伝子治療」となった。
 新型コロナウイルスのワクチン開発のカギとなった遺伝物質「mRNA」。これを扱う技術も遺伝子治療研究のたまものだ。
 だが、日本の現状は深刻だ。文科省の検討会で出た資料では、引用された回数などから影響力を示すインパクトファクターが「世界の上位10%」に位置づけられる科学誌に掲載された遺伝子治療に関する論文をみると、日本から出たものは16〜19年で0本とみられる。米国は同期間に毎年20〜30本前後、中国は19年に10本を超えた。検討会の委員で、自治医科大の小澤敬也名誉教授は「世界から何周も遅れている。何とかしないと手遅れになる」と話す。

( → iPS細胞15年、実用化へ険しい道 「死の谷」を乗り越える鍵は:朝日新聞

 15年前には iPS細胞の研究が最先端だったが、今では遺伝子治療の研究が最先端だ。なのに日本は出遅れている。 mRNAワクチンの開発が遅れたのも、その一例だ。こうなったのは、iPS細胞研究ばかりに注力するという「選択と集中」の弊害だ、というわけだ。

 ――

 mRNAワクチンの開発が遅れたのは「選択と集中」の弊害だ、という話は、iPS細胞とは関係なく、前に言及したことがある。引用しよう。
 ファイザーと同様の技術開発は、日本でもなされていたのだ。予算は少なかったが、その少ない予算を工夫して、日本でも研究開発は十分になされていたのだ。そして実用化の寸前にまで達していた。まことにすばらしいことだ。
 なのに、安倍政権がワクチン開発予算を完全カットした。それまでは少ないながらも予算が付いていたので研究開発ができていたが、最後の最後になって(育てた果実が実をつける寸前になって)中断にしてしまった。かくて、せっかく育ったものが、枯れてしまった。……こうして、ワクチン開発は途絶えたのだ。
( → ワクチン開発の遅れの理由 : Open ブログ

 わかりやすく言おう。「選択と集中」は、事業についての概念なのである。

 一方、研究というものは、そうではない。……そもそも、将来というものはなかなか見通せないものだ。見通せない将来に対しては、あらゆる可能性を考えて、研究開発を「広く浅く」にしておく必要がある。

 文系の経営学における「選択と集中」という方針を、理系の基礎研究に適用しようとした。しかしそれは、およそ見当違いな方針だったのである。
( → ワクチン開発の敗因: Open ブログ

 冗談半分だが、下記の話もある。
 どうして開発中止を決めたのか? たぶん、こう思ったからだろう。
 「こんなへんてこりんなワクチンの研究なんかやったって、意味がないね。こんなもの、役に立つ日が来るとは思えない。それよりは、従来型のワクチンに専念する方が有効だ。選択と集中で、従来型ワクチンに専念するべし。そうすれば、財源が節約できて、歳出を減らすことができる。その分、法人税を減税できる。法人税減税のために、役に立ちそうもない技術を開発するのはやめよう」

 こうして日本は、せっかく開発していた mRNAワクチン を、「開発中止」とすることに決めたのである。
( → mRNAワクチンとインフルエンザ: Open ブログ

 「選択と集中」なんていうことをやっていると、金や効率が最大の目的となるので、(無駄を覚悟した)独創的な新研究などは生まれない。こうして日本は研究の最先端から落後することになった。研究者はきちんと mRNAワクチンの研究をしていたのに、そのための研究費を取り上げてしまった。
 その結果が、この夏のコロナ流行と大量の死者だ。「今ではもうコロナのワクチンは大量に接種したし、死者も激減したぞ」と威張る人もいるだろうが、それは生存バイアスというものだ。すでに死んでしまった人は、もう帰ってこないのである。彼らがいくら反対の声を上げたくても、声を上げることはできないのだ。


 できるのは、うらみの声を上げることだけだ。


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posted by 管理人 at 13:38| Comment(0) | 医学・薬学 | 更新情報をチェックする
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