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自動運転や自動ブレーキにおいて、ステレオカメラ方式は、遠距離の物体との距離を測定するには向いているが、近距離で広範な画角を一挙に収めるには、あまり向いていない。(たとえば、横断歩道を渡る歩行者の検知。トヨタの自動運転車は、このケースで失敗した。)
では、どうすればいいか?
(1) ヴィオニア社
スウェーデンのヴィオニア社のステレオカメラは、スバル・アイサイトの最新版で採用された。
これは、画角を2倍に広角化するものだ。単に画角を広げると、解像度が低下するので、それを阻むために、画像センサー(CMOS)の画素数を2倍にする。これでうまく行ったので、スバルに採用された。(従来の日立製は着られた。)
→ 【スバル レヴォーグ 新型】新世代アイサイトはスウェーデン社製に…日立から切り替えた理由 | レスポンス(Response.jp)
なお、現在のアイサイトは、衝突対象との速度差が 60km/h 以下であることが、作動条件であるとされる。( → メーカー公式 )
これをもっと高く引き上げるには、カメラの解像度をさらに大幅に上げる必要があるだろう。また、CPU や GPU の処理速度も向上させる必要があるだろう。
(2) 日立アステモ
日立アステモ(旧:日立オートモーティブ)は、長年、スバルにアイサイト用のステレオカメラを提供したが、最新版のアイサイトではスバルから切られた(失注した)。これはどうしてかというと、「広角化」というスバルからの要求に対して、ヴィオニア社はうまく応えたのに、日立はうまく応えられなかったからだ。
→ スバルから失注の日立、広角車載カメラを開発したのになぜ? | 日経クロステック
では、日立はどこがまずかったのか? 「広角化」というスバルからの要求に対して、日立は「画角を左右でずらす」という方式を取った。図を参照。
出典:IT Leaders
これは、うまい工夫に見える。だが、良くない。中央の重なった部分はステレオカメラ方式で立体視できるが、両側(左右側)が単眼しか使われないので、立体視できない。となると、そこでは単眼カメラ方式にするしかない。
しかしこれでは、同一のシステム内に方式が混在することになって、処理が二重化する。
また、画素数が不足気味なので、解像度も低い。
うまいことをやっているように見えるが、結果的には中途半端なものができてしまった、という感じだ。「間に合わせ用の応急手当品」「過渡的な製品」という感じが拭えない。とりあえずは要求性能を満たしているのだが、いろいろと不都合な点が見つかるので、合格点をもらえなかったのは仕方ない。
最も駄目なのは、解像度が低くなりがちなせいで、高速度に対応しにくい、ということだろう。
現在のアイサイトは、60km/h までの速度差に対応できるが、日立製だと、もっと低くなりそうだ。実際、日立製の旧製品である アイサイト ver.2 では、速度差が 30km/h までしか対応できない。( → メーカー公式 )
こんなものでは全然ダメだ、と言えるだろう。
(3) 単眼カメラと併用
本項で新たに別の方式を提案しよう。こうだ。
「ステレオカメラと単眼カメラを併用する」
これはどういうものか?
ステレオカメラは、従来品(または同様の品)を使う。画角は、あまり広角化しない。そのことで、(遠くのものがよく見える)望遠レンズ効果を狙う。つまり、遠方の物体への解像度を高める。
一方、単眼カメラも別途、設置する。これは、広角専用のカメラであって、画角はとても広い。超広角といっていい。カメラ一つで画角 150度ぐらいを確保する。
この場合、単眼カメラの解像度は低くなる。だが、単眼カメラが対応する物体は、近距離のものだけだから、大丈夫だ。
なお、それでも解像度が心配であるなら、画像センサーをモノクロにすればいい。そうれば、3色の場合に比べて、画素数が3倍になる。つまり、横方向の解像度が3倍にアップする。これで、解像度を確保できる。
※ ちなみに、ハイビジョンカメラの画素数は 1920×1080≒ 200万 だが、これは3色を含む。3色をやめてモノクロにすれば、600万画素相当の解像度を得られる。とすれば、画角 150度の単眼カメラひとつで、十分な解像度を得られるだろう。
※ この画像センサーは、できれば、近赤外線に対応する赤外線カメラにするといいだろう。(どうせモノクロだし。可視光にする必要はない。赤外線カメラなら、夜間にも対応できる。)
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ともあれ、以上では、「ステレオカメラと単眼カメラの併用」という、これまでにない新方式を提案した。従来の枠を越えた、意外な方法である。発想の型を破ったもので、あっと驚くヒラメキだ。
[ 補足 ]
前項の最後(およびコメント欄)では、「対向車線を走る車両との衝突を予測する」という話をした。この場合、速度差は2倍になるので、
60km/h + 60km/h = 120km/h
で、120km/hの速度差に対応する必要がある。日立のセンサーは 30km/h までなので、4倍に性能アップする必要がある。それにはどうすればいいか?
画像センサー(CMOS)の画素数を4倍にすればよさそうだが、駄目だ。画素数を4倍にしても、横方向の画素密度は2倍にしかならないからだ。(縦も2倍だが。)
では、あと2倍は、どうやって確保するか? それには、画角を半分に狭めればいい。こうすれば、望遠レンズ効果が出て、遠方の物体への解像度が2倍になる。
結局、「センサーの画素数を4倍にする」のと「画角を半分にする」という双方の効果で、120km/hの速度差に対応することが可能となる。
※ 単に画角を広げただけの日立は、対応する速度が低下してしまうので、方式としては、本末転倒ふうだ。……それを避けるための方法が、「広角専用の単眼カメラを併用する」という方式だ。
本稿の(3)の項目で筆者が提案された方式が、昨年から、最新のアイサイトに採用されているようですね。このアイサイトは、3眼方式で、中央のカメラが広角型です(ただし、モノクロセンサーかどうかはわかりません)。
この方式の改良型は、2023年度モデルの北米仕様アウトバックの一部グレードと、2022年9月に発表された日本仕様の新型クロストレック、そして本日(2023.4.20)正式発表された新型インプレッサに搭載されています。なお、広角カメラはデンソー製だという情報があります(Wikipedia)。
https://www.subaru.jp/safety/eyesight/
私は今日、新型インプレッサの記事をみていて、「あれ、そういえば!」と、本稿の記載を思い出しました。この新型アイサイトの市場投入時期から考えるに、スバルのエンジニアがこのブログ記事を読んでいて、それに触発されて開発した、とまではいえないでしょうが、筆者がまさに「慧眼」であることは確かですね(アイサイトの記事だけに)。
→ https://www.webcg.net/articles/-/44531
東芝や日立の技術があったのに、残念なことだ。カメラなら、日本のキヤノンが圧倒的なシェアを持っているのだし、キヤノンと共同開発できないのかな? 画像センサーなら、ソニーがあるので、ソニーと共同開発してもいい。イスラエルの技術を使っていると、リスクが高いぞ。
ただ、歴史的には、日産はゴーンの方針で、モービルアイとは初期から二人三脚でやって来たんだよね。今さら切るのは無理か。せっかく苦労して育てた果実を捨てるようなものだ。