日本は没落しつつある。では、それへの対策は? いかにして日本を没落から救うか?
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1 市場原理?
経済学的に状況を改善するというと、「市場原理と自由競争で」という案が思い浮かぶだろう。古典派経済学者ならば、そう語りがちだ。
なるほど、通常の経済状態ならば、それでいい。だが、低成長ないし不況の状況では、その方針ではうまく行かないことが多い。これはケインズ流に言えば「合成の誤謬」というのに該当するかもしれない。
もうちょっとわかりやすく言おう。
市場参加者が玉石混淆(利口と馬鹿の混在)のときには、利口と馬鹿のうち、利口が生き残って、馬鹿が淘汰されるので、全体状況は改善される。
だが、全員が馬鹿であるときには、それは成立しない。全員が馬鹿であり、全員が錯覚しているときには、自由競争や自由放任では、全員が奈落の底へ落ちるだけだ。……それが今の日本である。
前項の低成長のグラフを見れば、そのことは自明だろう。
2 現状は非正規促進
では、どうすればいいか? まずは、現実を分析する。それは、前項でなし遂げられた。そこでわかったことは、「非正規雇用がどんどん増えたことが、日本の低迷の原因だ」ということだ。
だから、「非正規雇用がどんどん増える」という状況を是正することが、対策となる。
では、そういう状況を是正するには、どうすればいいか? まずは、現状を正しく認識すればいい。「非正規雇用がどんどん増えた」というが、それはどういう状況なのか? 具体的には、現状はどうなっているのか?
その回答を言おう。こうだ。
「現状は非正規雇用を促進する制度となっている」
つまり、「非正規雇用がどんどん増える」という状況は、ひとりでにそうなったのではない。制度がそうなるようになっているから、その制度に即して、すべからく非正規雇用が増えていったのである。
では、「非正規雇用を促進する制度」とは、具体的には何のことか? こうだ。
「正規雇用で雇用を固定化すると、雇用の流動性が損なわれて、企業の体質強化には不利である。そこで、雇用の流動性を高めるべきだ。そのために、正規雇用でない非正規雇用を優遇するべきだ。そうすることによって、企業の体質は改善され、企業の競争力は向上して、日本経済全体が強化されるだろう」
こういう夢物語を信じて、政府は非正規雇用を優遇していった。詐欺師のホラに引っかかるのと同様である。そのせいで、非正規雇用は優先されていった。
結果的に、非正規雇用の労働者は低賃金にあえぐ一方で、中抜きをするパソナなどは莫大な利益を吸い上げることになった。( ※ もともとそれが狙いだったのだが。詐欺師というものは、口先だけのホラによって、まんまと人をだますものである。)
《 労働者派遣法とは 》
バブル崩壊後の経済不況に対応すべく、派遣労働の利用拡大を求める経済界の声が大きくなっていた。これらの流れのなかで、本法は1999年に大改正され、従来のポジティブリスト方式がネガティブリスト方式に改められた。これにより、派遣労働の法的位置づけは、例外的に許容されるものから原則として認められるものに抜本的な変更がなされることとなった。
( → コトバンク )
労働者派遣法は、もともと労働者の身分を守るために、派遣業を厳しく制限するものだった。なのに、1999年12月1日に大改正され、労働者のためでなく企業のために存在するようになった。
さらに、2004年の改正では、『規制改革会議』(オリックス会長 宮内義彦議長)が提出した2002年答申に基づいて、製造業務の派遣解禁、紹介予定派遣の法制化がなされた。この改正により、派遣労働者が、約33万人(2000年)から約140万人(2008年)に増加し、労働者全体の1/3が非正規労働者となった。( → Wikipedia )
1999年の首相は小渕恵三と森喜朗だったが、2004年の首相は小泉純一郎だった。このとき、オリックス会長 宮内義彦の影響下で、派遣業は大々的に推進されていった。
また、小泉政権下で影響力を発揮した竹中平蔵は、パソナの特別顧問を務めたのちに取締役会長に就任した。これは明らかに利益相反になる。(そのことを指摘された竹中平蔵は、テレビ番組で激怒したそうだ。 → リンク )
というわけで、(政商と言われる)宮内義彦 や竹中平蔵の影響下で、政府は非正規雇用を推進するように、次々と制度改革をなしていったのだった。
これはいわば、マフィアが自分にとって好都合になるように、次々と法改正をするようなものだ。
( ※ アメリカでは銃所持が合法化されているが、それと似たようなものだ。莫大な献金によって、議員を買収して、銃規制を骨抜きにする。銃マフィアによる買収とも言える。)
3 非正規雇用の対策
以上で、非正規雇用を促進する制度が生じた原因がわかった。そして、原因がわかれば、対策もわかる。要するに、逆のことをやればいいのである。「企業の利益のために労働者を酷使する」というような制度を改めて、「労働者を人間として尊重する」という人間重視の制度に改めればいいのだ。
この方針の下で、いくつかの制度改革をなすことができる。列挙する形で示そう。
(1) 派遣社員に「定昇」を導入する。毎年3%程度の自動昇給をもたらすことで、待遇を改善する。
→ 野党の取るべき政策: Open ブログ
→ 派遣社員には定昇を: Open ブログ
(2) 失業手当の会社側負担を引き上げる。非正規社員は失業しやすいし、失業手当の給付率が高いので、その分、事業者には高い負担金を払ってもらう。
→ 野党の取るべき政策: Open ブログ
→ 派遣社員を正社員にするには?: Open ブログ
(3) 失業保険の給付額は、高い給付額を払えるようにする。現状では、上限があって、低い額しかもらえないので、上限を撤廃する。
→ 非正規社員の失業問題: Open ブログ
→ 派遣社員を正社員にするには?: Open ブログ
(4) 「5年で雇い止め」などが、今は会社側がやり放題なので、これを制限する。そのために、「会社都合で失業」となった場合には、失業保険の給付額の全額を、会社側に支払わせる。(会社が勝手に解雇したのだから、会社が負担するのが当然だ。失業保険制度の機構側が払うのは、筋違いだ。)
(5) 派遣社員の選考は、法律で禁止されているので、これを遵守させる。
→ 派遣先が受け入れる派遣労働者を選考することは?|パソナ
→ 派遣労働者を特定する行為の禁止|知っておきたいリーガル知識
(6) 派遣社員の選考は、現実には横行している。それを認識した上で、違法な法律破りをする企業を、労基署が摘発するべきだ。
→ 派遣顔合わせ・職場見学とは?面接との違いや流れについて解説します
→ 派遣社員の選考面接は禁止なのに掟破りが横行する理由
(7) 派遣会社の「中抜き」(ピンハネ)の額が高すぎるので、もっと低くなるように、何らかの是正手段を取るべきだ。
→ 派遣会社のマージン率: Open ブログ
以上、(1)〜(7) を示した。他にもありそうだが、とりあえずはこの諸点を示しておく。
4 労働者の対抗策
非正規雇用の抑制には、労働者の側も自ら努力する必要がある。特に、労組が頑張る必要がある。
ところが現実には、労組が頑張っていない。それどころか、労組は自ら会社側の手先となって、労働者の権利の抑圧を推進している。いわゆる御用組合だ。これが日本の労働運動の現実となっている。
はっきり言えば、連合の中核を占めるのは自動車労連であり、自動車労連の中核を占めるのは全トヨタ労連である。これが会社側に与する御用組合となっている。
→ トヨタの御用組合: Open ブログ
→ 全トヨタ労連が自民に接近: Open ブログ
具体的に言えば、連合の会長として、労働者側に立つ人物(相原康伸)を擁立しようとしたら、御用組合である全トヨタ労連が反対したせいで、実現しなかった。
→ 労働組合の中央組織「連合」初の女性会長が誕生 選出された背景は
こうして、御用組合である全トヨタ労連が連合を牛耳って、連合の全体を会社側に立つ御用組合にしてしまった。(会長として御用組合派の人物[芳野友子]を据えた。)
かくて、労働運動全体が、御用組合に牛耳られることになった。こういう状況を、何とかするべきだろう。
なお、常識的には、御用組合でない第二組合を設立して、それに加入すればいい。このことは法律や憲法で許容されている。
ところが、御用組合と会社(トヨタ)が結託して、第二組合に入った労働者を解雇する(雇い止めする)という挙に出た。これは違法だから、処罰するべきなのに、なぜか裁判所がこの違法行為を容認してしまった。
→ 全トヨタ労連が自民に接近: Open ブログ
となると、まずは日本を「法律を守る法治国家」にすること必要になるが。……それはどうも心許ない。
日本は独裁者のような強権者の影響下で、国民の権利はないがしろにされているのだ。

【 補説1 】
補足的な話をしよう。
日本の賃金が韓国よりも劣っている……というのは、実は、名目賃金で比較しているのではなく、購買力平価の賃金で比較している。このことは、関税が高くて物価が高い日本の労働者を、直撃する。名目賃金が高くても、実質賃金が低下するからだ。
この問題を解決するには、実質賃金を上げればいい。そのためには、物価を下げればいい。そのためには、関税を下げればいい。特に、牛肉や小麦などの食料品の関税を下げればいい。
そこで、これらの関税を引き下げるべきだ、ということを先に指摘した。
→ 野党の取るべき公約: Open ブログ の 4。
→ 野党の取るべき政策: Open ブログ の 4。
→ 小麦の関税を下げよ: Open ブログ
【 補説2 】
日本の GDP が増えないことの原因には、人口の減少という点(人口要因)もある……という話を、先に示した。
→ 日本のマイナス成長はなぜ?: Open ブログ
人口の減少(少子化)は、成長率の鈍化の要因としては、非常に大きい。おそらく最大要因だろう。
ただし、これだけでは、「一人あたりの賃金の低迷」を説明できない。一人あたりの賃金の低迷まで説明するには、「非正規が増えたこと」に着目することが必要となる。(前項)
なお、少子化の対策としては、「外国人労働者を増やす」という対案もある。ただし、それを実行するには、外国人労働者として「高所得であること」を条件とするべきだ。
低所得の外国人労働者(技能実習生など)は、有害なので、禁止した方がいい。
高所得の外国人労働者(IT技術者など)は、実は、すでに移民として働くことが許容されている。(所得条件によって許可される)。ただし、こういう有能な外国人労働者は、世界各国で取り合いになっているので、なかなか日本には来てくれない。日本語の壁もあるし、(欧米に比べた)低賃金という悪条件もあるので、なかなか日本には来てくれないのだ。
それでも、インド人やタミル人のIT技術者が日本に来てくれることもあるそうだ。
南インドから来日している人ってみんな研究者とかIT技術者の超インテリばかりだから、肉体労働者は僕だけ。
( → 茨城県の実家でテイクアウトの南インド料理店を開いて、インド人に間違われながらゆるく生きています )
【 関連項目 】
本項では、アイデアをいろいろと示した。あとは、実行だ。
ただし、実行するには、問題を認識して、問題を解決しよう……という意思が必要だ。そして、その意思をもつには、政治家や政党が公約として掲げる必要がある。そのことは、前々項で述べた通り。
→ 日本にはまともな政党がない : Open ブログ (前々項)
ここの最後で述べたように、「非正規職員の待遇改善」を最優先の公約に掲げることこそ、日本の政党にとって必要なことなのである。具体的な例は、下記。
→ 野党の取るべき公約: Open ブログ
[ 余談 ]
本項を読んで、「あんまり面白くないな。前の2項目ほどではない。がっかりした」と思う読者が多いだろうが、これは仕方ない。
本項の前半は、原理的な話があったので、ちょっとは面白かっただろうが、本項の後半は、具体的な政策だった。これらは細かな話になるので、詳細はリンク先の項目で示されていて、本項ではただのリンクの列挙になっていた。
そもそも、具体的な政策というのは、実務処理のような扱いになるので、細かな数字の比較をしたりすることになって、あまり面白くないのである。「給料をもらうための仕事は面白くない」というのに似ている。
ま、面白い話は、前項で十分に示したので、それで我慢してください。
※ 明日以後はまた別の話題があるので、そちらに期待してください。
日本没落を論ずるなら、労使双方の対策が必要ですね。管理人さんは、経営する側の定年制、解雇規制の問題を意図的に避けておられるように感じます。特に解雇規制を撤廃しなければ、優秀な人材を高い賃金で雇うという当たり前の環境が作れないのでは無いでしょうか?派遣業界特にパソナの搾取は論外ですが、普通の会社の生産性低下と賃金の硬直性は
突き詰めると定年制と解雇規制に突き当たりますがどの様にお考えでしょうか?
従業員がせっせと働いても、アガリの大半を株主が吸い取る構造を変えないと根本的な解決にはならないと思います。
『株主第一主義とグローバリズムの見直しを』
https://note.com/pond_kop/n/nca2e58b644fa
お金をくださいといっても、金をくれるわけがない。労働者が自らストで戦うしかない。
「労働者はストをしろ」と私が前から何度も言っているとおり。なのに現実は御用組合で、それにすら参加しないでスマホばかりに興じる若者ばかり。
敵は会社ではなくて、スマホだ。 (^^);
昔はストをして高賃金だったのに、今はスマホで低賃金。情けない話。