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朝日の報道がある。
新型コロナウイルスの治療に使われる「デキサメタゾン」などのステロイド薬をめぐり、使うのが早すぎると、かえって病状が悪化するとの報告が国内外から相次いでいる。自宅療養をする人が事前にもらう場合もあり、医師らは指示に基づいて適切な時期に服用するよう呼びかけている。
ただ、ステロイドは患者の免疫を抑えるため、使うタイミングが重要だ。
酸素吸入までは必要のない「中等症T」の段階などで使うと、体内のウイルスの増殖が抑えきれず病状が重くなることが当初から懸念されていた。血糖値を上昇させ、糖尿病が悪化するなどの恐れもある。
( → コロナ治療のステロイド、投与早すぎると症状悪化の恐れ 報告相次ぐ:朝日新聞 )
これは事実として判明したわけだが、このことはもともと理論的に予想されていた。(特に私の独自見解というわけではないが)本サイトでも前に指摘したことがある。
(i)ステロイド剤は、重症者の死亡率を下げる効果はあるが、軽症者の治療には効果がない。ウイルスの増殖を止めるわけではないからだ。
(ii)軽症者にとっては、ステロイドが免疫力を抑制するので、かえって症状を悪化させる危険がある。
( → 新型コロナウイルスの話題 23: Open ブログ )
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さて。これが問題となるのは、自宅での利用だ。というのは、政府は自宅でステロイドを利用することを容認しているからだ。つまり、(医師の判断によらずに)患者が自己の判断でステロイドを投与することを認めている。
上の記事には、こうある。
新型コロナの感染拡大で、通常なら入院するような肺炎患者が自宅療養せざるをえない例が続き、厚生労働省は5月、在宅で服用できることを診療の手引に明記。8月には、急変に備えて早めにステロイドを手渡す「事前処方」ができることも追記した。
厚労省の手引では、自宅療養中のステロイド服用について、パルスオキシメーターで計測した血中酸素飽和度が「93%以下」などの基準を提示。「内服を開始する基準を遵守するよう(患者に)指示する」「電話・オンライン診療により内服開始を指示することが望ましい」などとする。
千葉大病院の谷口俊文講師(感染症内科)は「本来は投与後の状態を確認できる入院状態で使うべき薬。病床逼迫(ひっぱく)時に最終手段として自宅で服用することは仕方ないが、デメリットを含めて療養者に理解してもらうことが重要だ」と話す。同院には自宅療養で酸素投与を受けずにステロイドを服用し、病状悪化で運ばれる患者も多いという。
デキサメタゾン(Wikipedia )
私の考えを言おう。
コロナの患者には、ステロイドの自宅での使用を禁止するべきだ。つまり、病院における投与のみを認めるべき。(これは本来ならば当然のことだ。)
現状では、そうなっていない。というのは、病院が満杯で、症状の悪化した患者も入院できずに、書状が悪化して、死んでしまう……ということが次々と起こっているからだ。
→ コロナ感染 自宅で死亡した人 8月は250人 7月の8倍に 警察庁 | NHK
ならば、死ぬよりはマシだから、ステロイドを自己で投与することを認めるべきか?
この問いに「イエス」と答えて、ステロイドを与えるようにしたのが、現行の制度だ。
しかし私は、それは妥当でない、と考える。なぜなら、重症化しかけていて、ステロイドを与えるような患者に対しては、次の措置を取る方が妥当だからだ。
「その患者をさっさと入院させる。かわりに、軽症・中等症の患者を追い出す」
ここで、病院が不足なら、宿泊療養施設に収容して、そこでステロイドを投与すればいい。宿泊療養施設には、医師が滞在するから、医師の管理下で、ステロイドを投与すればいいのだ。
原則として、自宅療養でのステロイド利用は不可とするべきだ。ステロイドは劇薬であり、劇薬を素人の処方に任せるなんて、とんでもない。どうしても医師の管理下に置くべきだ。
そもそも、ステロイドを投与すべき患者は、重症者である。ならば、呼吸困難で、寝たきり状態になり、意識をなくすことも多い。つまり、自分で投与できないことが多い。だから、「自宅で投与」という方針は、「自分で投与できない状態(重症)になったら、自分で投与してください」と言っているわけ。これでは自己矛盾だ。
そのあげく、現実には、「投与できるうちに投与する」となっている。つまり、「投与すべきではない軽症・中等症の患者に投与する」となっている。これはとんでもないことだ。
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さて。以上のことに似た方針は、神奈川県がすでに打ち出した。(9月16日)
神奈川県は十六日、新型コロナウイルスに感染した自宅・宿泊療養者へのステロイド薬の処方を停止するよう、新型コロナ患者を診る県内二千二百の医療機関に通知した。炎症を抑えるステロイド薬は肺炎の重症化を防止する効果が見込めるが、患者が自己判断で服用するとかえって症状が悪化する懸念があるため。
県は七月以降の感染者急増で病床が逼迫(ひっぱく)し、肺炎が進行しても入院できない患者が出てきたとして、八月二十日に自宅療養者らにステロイド薬を事前に処方する方針を打ち出した。
「ステロイドが必要な患者は本来、入院させるべきだ」(県医療危機対策本部室)として、今後は自宅療養者にステロイド薬は原則処方せず、症状が悪化したら速やかに入院させるようにするという。
( → <新型コロナ>自宅・宿泊療養 ステロイド処方を一時停止へ 病床使用率低下で神奈川県が通知 自己判断の服用懸念:東京新聞 )
これは、本項の方針におおむね合致するので、おおむね好ましいと言える。
ただし一つだけ、駄目な点がある。「宿泊療養者」も含めてしまっていることだ。症状の悪化した患者が、全員、入院できるのならいいが、記事を見ても、その時点ではそうなっていないようだ。(9月16日)
本日(10月04日)の時点では、患者数が大幅に減ってきて、病院のベッドには余裕が出てきたようだが、病院のベッドに余裕がないときには、宿泊療養者にも症状の重い人が来るかもしれない。その場合には、医師の管理下で、ステロイドを使用することを認めるべきだ。
せっかく宿泊療養施設に医師が滞在していて、ステロイドを持っているのに、「ステロイドの使用禁止」によって、むざむざ患者を死なせるのはよろしくない。(ゆがんだ)杓子定規な方針を取るべきではあるまい。
[ 付記 ]
ステロイドとしては、デキサメタゾンの内服が標準的であるようだが、肺が悪化している場合には、ステロイドの吸入薬が有効であるという報告もある。ただしステロイドの種類は限定される。具体的には、シクレソニド(商品名:オルベスコ)や、「パルミコート」(一般名ブデソニド)だ。
→ No.63 吸入ステロイド薬は新型コロナウィルス感染を守るか、悪化させるか?
→ 新型コロナ、喘息吸入剤に重症化防止効果=オックスフォード大 | ロイター
一方、否定的報告もある。
→ オルベスコ、COVID-19への有効性確認できず:日経バイオテクONLINE
《 加筆 》
上の報告には決定的な難点があると判明した。
→ COVID-19 に対するシクレソニド投与の観察研究(第2 報)
軽症に該当した患者が4,855 名(74.9%)、中等症に該当した患者が1,506 名(23.2%)、重症に該当した患者が119 名(1.8%)
大半が軽症で、中等症もかなりあって、重症はたったの 1.8%である。
とすれば、この報告でわかるのは、「軽症・中等症にはオルベスコは有害だ」ということだけだ。だが、そんなことは最初からわかっている。
そもそも、「軽症・中等症にはオルベスコは有害だが、重症ならばオルベスコは有効だ」というのが、調べたいことだ。なのに、それとは逆のことを調べて、「無効かつ有害だ」と結論しているのだ。話が滅茶苦茶すぎる。
この人たちは、頭がおかしいのではなかろうか? さらに、それをまともに受け止めて、「オルベスコは無効かつ有害だ」という論説を信じている人もまた、同様だ。
ステロイドは、免疫暴走(サイトカインストーム)を抑制するために使う。すなわち、免疫力を引き下げることになる。
ウイルス増殖が活発な時期に、免疫力を下げれば、ウイルス増殖を加速する。結果、増悪する。