2021年09月24日

◆ 自動ブレーキの限界

 現在の自動ブレーキには、かなり重大な限界があるようだ。先日のタクシー事故から、この根源的な限界がわかる。

 ――

 自動ブレーキの性能には限界があるので、この限界を高めるという趣旨で、政府が自動ブレーキの要件を改正することを決めた。これまでは自転車は(衝突回避の)対象になっていなかったのだが、自転車を対象に含めるようにするそうだ。
 その要件は自動車、横断中の歩行者と一定条件下で衝突しないこととされ、自転車は対象外となっていた。
  現行では、乗用車の場合、時速40キロで走行中に静止中の自動車に追突しない▽時速60キロで走行中に時速20キロで走る自動車に追突しない▽時速40キロで走行中に時速5キロで横断する歩行者に衝突しないことなどが条件とされている。
 改正される規定は、……時速38キロで走行中、時速15キロで横断してきた自転車に衝突しないことが新たに求められる。
( → 自転車も作動対象に拡大 衝突被害軽減の自動ブレーキ 国交省:朝日新聞

 この改正自体は、問題ない。自転車を対象とするということは、十分に好ましいことだ。
 一方で、現行では、自動車と歩行者だけが対象となっている。ここには問題がある。

 ――

 先日、タクシーが歩道に乗り上げるという事故があった。この件は、前に論述した。
  → 自動ブレーキの不作動: Open ブログ




 ここでは、自動ブレーキが作動しなかったことに着目して、「どうしてか?」と疑問を投じていた。ただ、疑問は投じても、回答は得られなかった。

 ――

 だが、上記の朝日記事を読んで、新たに考え直すと、次の回答が思い浮かぶ。
 「街路樹は黒い植物なので、自動ブレーキでは検出できなかった。ミリ波レーダーでは電波の反射が弱くて検出できないし、単眼カメラでは黒い物体は認識対象外である。いずれにしても検出できなかったので、自動ブレーキが不作動となって、高速で衝突した」

 これは十分にありそうなことだ。実際、街路樹は真っ黒だし、そばにあるガードレールも黒っぽくて細いので見えづらい。


jido-brake-ann2.jpg


 こうなると、今の自動ブレーキには根源的な欠陥があることになる。困った。どうする? 

 ――

 そこで、困ったときの Openブログ……と言いたいところだが、別に、うまい案を出す必要はなくて、解決策はすでにわかっている。
 「ミリ波レーダーと単眼カメラを使う方式をやめて、ステレオカメラを使う方式にすればいい」

 これならば、黒い物体も認識できるからだ。ちなみに、(読者の皆さんが)黒い物体を近くに置いて、それを目で見るといい。黒い物体それ自体は見えなくても、背景が黒くなければ、黒い物体がそこにあることは(距離感も含めて)認識できるはずだ。
 ここでは、黒い物体それ自体は見えなくてもいいのだ。背景が明るければ、黒いものがそこにあると認識できるのだ。……それが(ステレオカメラ方式を使う)人間の目の能力である。

 タクシーの場合も同様だ。街路樹は黒くて見えなくても、タクシーの前照灯の光を浴びた背景が明るく見えていれば、街路樹の位置は判明する。それならば、自動ブレーキはきちんと作動する。だから、ステレオをカメラ方式を採用すれば、黒いものもちゃんと検知できるのだ。……このことは、前にも論じた。( LiDAR と対比する形で)
 LiDAR では、光を反射しないものは見えない。黒いものは見えない。しかしステレオカメラならば、たとえ対象が見えなくても、対象の位置はわかる。なぜならまわりのものが黒くないので、黒いものの輪郭はわかるからだ。
( → 日系各社の自動運転技術: Open ブログ

 ――

 結局、技術的には、ステレオカメラで解決できる。つまり、解決できる技術はすでにある。
 とすれば、あとは、これと同等の能力を義務づけることが必要だ。つまり、「黒い街路樹にぶつからない」というテストを、テスト項目に含めることだ。

 今回の規定改正では、「自転車にぶつからない」というテスト項目が追加された。だが、それだけでなく、「黒い街路樹にぶつからない」というテスト項目も追加されるべきだ。そうすれば、先日のタクシー事故のような衝突事故を回避できるだろう。



 [ 付記1 ]
 ここで衝突を回避できる対象は、街路樹だけではない。黒い服を着た人間も含まれる。
 実を言うと、先日のパラリンピック会場での事故(トヨタの自動運転車の対人衝突事故)では、「ぶつけられた人間が黒いズボンをはいていたせいで、うまく認識できなかったのでは?」という推測を掲げた。
 トヨタの LiDAR は、バンパー付近の低い位置にあるので、検出対象も低い位置のものだけになりがちだ。特に、近距離ではそうだ。とすれば、たとえ上半身は白い衣服を着ていても、下半身が黒いズボンだと、対象は黒ゆえに検知されなくなる。
 今回の事故も、それが理由であった可能性がある。つまり、「被害者は黒いズボンをはいていたせいで、機械の検出漏れが起こって、そのせいで事故が発生した」というふうに。
 これは、歩行者が黒いズボンをはいていたのが悪いのではなく、黒いズボンを検出できないトヨタの技術が未熟だからだ。この意味でも、トヨタの技術は低レベルだと言える。
( ※ しかも、どこが低レベルであるか、自分で気づいていないありさまだ。)
( → 自動運転車の事故(トヨタ): Open ブログ

 この自動運転車(トヨタeパレット)は、トヨタ車だ。一方、冒頭のタクシーも、トヨタ車だ。どちらもトヨタ車で、どちらも同様の自動ブレーキ技術を採用している。
 とすると、トヨタ車で自動ブレーキ不作動が続くのも、ただの偶然ではないのかもしれない。仮にスバル車で、ステレオカメラを採用していたら、このような衝突事故は起こらなかったかもしれない。

 [ 付記2 ]
 別途、「赤外線カメラを使う」という方式もある。この方式でも、街路樹や、黒い服を着た人間を、十分に検知できる。(自動車の前照灯を点灯させることが条件だ。)
 赤外線カメラの事例は、下記。




 このことからすると、横断する自転車への対策よりは、夜間の歩行者への対策の方が、優先課題だと言えるだろう。下記を参照。
  → 自動ブレーキと夜間歩行者: Open ブログ
 
 《 加筆 》
 夜間対策という点で、今の自動車には欠点がある。前照灯の照らす範囲が狭いので、暗くてよく見えないのである。右折時・左折時には、それが特に顕著になる。
 たとえば、右折時には右方向が暗いままなので、歩行者が横断していても、よく見えない。そのせいで、事故が起こりやすい。上記リンクの項目から、再掲しよう。


 

 これを解決するには、次の二点が必要だ。
  ・ 右折時には、右側を照らすような照明。(一部で実現済み)
  ・ それを検知する自動ブレーキ。


 政府は、このような衝突回避テストをするべきだった。

 ※ このようなテストは、自転車対策のテストよりも、はるかに必要性が高い。自転車の事故は、自転車の側の赤信号無視が原因であることが多い。夜間歩行者の事故は、自動車の側の前照灯の範囲が狭すぎることが原因であることが多い。前者は自業自得なので自動車には責任がないが、後者は自動車の側に責任がある。(ドライバーよりも自動車の性能に問題がある。) 責任が高い分、衝突回避テストの必要性も高くなる。
 
 ※ より詳しい話は、上記項目の記述を参照。
   → 自動ブレーキと夜間歩行者: Open ブログ

 
posted by 管理人 at 22:35| Comment(3) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 前の記事の時に書こうと思っていたのですが、このクラウンタクシーは、14代目クラウン(210型)アスリートの「前期型」ですね。クラウンの210型という筆者の見立ては正しいのですが、フォグランプの形状が、後期型の異形角型ではなくて前期型の丸形のように見えますので(フロントバンパーがつぶれて変形しているのでわかりにくいですが)、前期型だと思います。
 それで、肝心なことは、もしこのクラウン・アスリート(のハイブリッド? 細かい車型は私にも不明)が「前期型」だとすると、自動ブレーキというか衝突回避支援システムは全くついていない可能性があります。この時代は、クラウンでもオプション装備ですので。単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせた衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense P」がクラウンに標準装備されたのは、後期型の途中(2016年8月販売モデル)からです。
 さらに、この210前期型クラウンでのオプション装備品は、プリクラッシュセーフティシステム(※)といって、フロントグリルのエンブレムの中にミリ波レーダーシステムがあるだけ(カメラはなし)のものです。前車との相対速度15km/h以上で自律的にブレーキが作動し、最大30km/h程度減速します。自動停止(車速ゼロ)も可能で、一応歩行者も検知するようです。しかし、装着率は低かったようで(オプション価格に見合った機能・性能と考える人も少なく)、今回のような個人タクシーでは、付けていない可能性が高いと思います。
 筆者は前の記事で、「新車当時の価格は 400万円以上だったはずだ。自動ブレーキも最高級レベルのものが搭載されていたはずだ」と書かれていましたが、実際はこんなものです……。

 ※ トヨタの「プリクラッシュセーフティシステム」は、搭載された車種・時期によって何種類もあるので、詳しくは下の Wikipedia などを参照してください。私が述べたのは、この Wiki 内の表にある上から2つ目のタイプ(14代目クラウンにも搭載と記載)です。

 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%9D%E7%AA%81%E8%A2%AB%E5%AE%B3%E8%BB%BD%E6%B8%9B%E3%83%96%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%AD
Posted by かわっこだっこ at 2021年09月25日 00:08
> オプション …… 装着率は低かったようで(オプション価格に見合った機能・性能と考える人も少なく)、今回のような個人タクシーでは、付けていない可能性が高いと思います。

 ご教示ありがとうございました。私もその可能性は考えたのですが、そこまで詳しく調べるすべもなく、推測だけ書いておきました。
 ご教示の点は、該当項目で補充しておきます。
Posted by 管理人 at 2021年09月25日 07:56
 最後に 《 加筆 》 の箇所を書き足しました。
Posted by 管理人 at 2021年09月25日 07:56
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