2021年08月23日

◆ ワクチン供給の失敗

 ワクチンの供給不足のせいで、各地で職域接種が立ち往生している。その失敗の理由は何か?

 ――

 各地で職域接種が立ち往生している。それというのも、「職域接種を推進する」という方針で、大々的に職域接種を増やしてきたのだが、肝心のワクチン供給が先細りだからだ。
 この事情を探る検証記事が、朝日新聞に掲載された。
 「職域接種については金曜日の午後5時をもって、申請を一時休止させていただく」。6月23日夜に急きょセットされた記者会見で、新型コロナウイルスのワクチン接種の調整を担う河野太郎行政改革相がそう表明した。企業などでの職域接種は、21日から本格的にスタートしたばかり。それを25日夕方から受け付けを停止するというのだ。
 会見の4日前、オンラインで開かれた全国知事会の会議では、政府の供給計画への不満があふれた。自治体で使う米ファイザー製のワクチン供給量が、6月のピーク時に比べて7月以降は4割近く減らされることになっていたからだ。

 二つの「誤算」が生じた。
 一つ目は、政府の想定以上に自治体の接種スピードが上がったことだ。
 二つ目の誤算は、政府が自治体での個別・集団接種の「補完」と考えていた職域接種に、企業や大学からの申請が殺到したことだ。
( → 首相「俺は勝負に強い」 ワクチン接種目標、2つの誤算:朝日新聞

 こういう状況については、すでに何度も報道された。問題は、どうしてこういうふうになったか、ということだ。
 それを窺わせる話は、同じ記事に出ている。こうだ。
 首相はこのころ、「1日100万回」の目標を達成したことについて、「俺は勝負に強い」などと周囲に語っていたという。

 だが、この話だけを読んでも、これがどうして混乱だらけの結果に至ったのかが、はっきりしない。

 ――

 新聞記事は事実を伝えるが、物事の本質を教えてはくれない。混乱という失敗が起こったという事実を伝えるが、その事実がどこから生じたかを教えてくれない。
 だから私が物事の本質を教えよう。こうだ。
 「人々が達成しようとした目標は、首相が唱えた目標の数字だけだった」

 これを換言すれば、こうだ。
 「人々はワクチンの接種を増やすという最終目標のことをすっかり忘れていた。そのかわりに、それの指標として首相の唱えた数字を実現することばかりにとらわれていた」


 ここで、「首相の唱えた数字」とは、何か? 朝日の記事によると、次のことだ。
 菅義偉首相は4月に「希望する高齢者の7月末接種完了」、5月に「1日100万回接種」の目標を掲げた。地方行政を所管する総務省の幹部はこの目標達成に向け、都道府県や政令指定市の幹部に直接連絡を入れて協力を求めた。

 このようにして「接種体制の充実」だけを目標とした。「そこがボトルネックなのだ」と信じて、「そのボトルネックを解消すれば、ワクチン接種は進む」と思い込んだ。

 しかし、ボトルネックというのは、それがボトルネックである限りは、それを解決することが重要なのだが、いったんボトルネックを解消してしまえば、過剰に充実しても何の効果もないのだ。なぜなら、そのときには、別のボトルネックが発生しているからだ。

 初めのころは、「医者不足」「場所不足」がボトルネックとなっていた。だから、これを解決することで、ワクチンの接種体制は拡充され、接種回数はどんどん増えていった。こうして「希望する高齢者の7月末接種完了」は、おおむね実現した。ここまではよかった。
 問題は、そのあとだ。8月以降、職域接種をするようになると、企業や大学の接種体制が大幅に追加された。それまでの自治体による接種体制に加えて、新たな接種体制が追加されたことで、接種体制は必要量の倍近くにまで膨れ上がった。
 その一方で、肝心のワクチンの供給量は、大幅に減少した。一時は欧州の生産するワクチンの半分ぐらいが日本だけに供給されるというほど大量に供給されたのだが、いったん高齢者の分が供給されると、そのあとの供給は先細りとなった。……こうなると、ボトルネックは、医者や場所ではなく、ワクチンの供給量そのものとなった。

 だから、この時点では、供給量を増やすことこそが目標となるべきだった。ところが、河野太郎ワクチン相は、供給量が先細りになることを隠していた。それどころか「供給量はたっぷりあります」という嘘の報告をしていた。そういう虚構の下で、「接種体制を拡充する」という菅首相の目標を達成することばかりをめざしていた。肝心のワクチンが入手できないまま。

 ――

 以上のことから、問題の根源がわかる。

 (1)
 第1に、「ボトルネック」の概念を理解できていない。何かがボトルネックとなっているときには、そのボトルネックを解消するべきだが、ボトルネックが解消したあとでは、そこをさらに努力しても何の効果もない、と理解できていない。

 (2)
 第2に、「供給量の総枠」という別の問題があること(それが新たなボトルネックとなること)に気づいていない。その問題があるという報告があっても、それを重視せず、むしろ揉み消そうとする。(隠蔽する。)

 (3)
 第3に、問題を解決するときに、「ワクチンの供給増加」という最終目的を忘れて、「1日100万回」というような菅首相の唱える目標の実現ばかりをめざしている。「国民のために何をするか」という発想がなく、かわりに「首相の唱えることを実現しよう」とするだけだ。……これはつまりは、官僚精神に染まっている、ということだ。(国民よりもボスが大事。)

 ――

 特に、(3) が重要だ。
 そして、こういうふうになるように仕向けたのは、菅首相その人である。何事であれ、「オレに言うことを聞け。さもなくば左遷だ」と恫喝する。そのせいで、役人は、自分の頭で物事を考えることを禁止されて、単にボスの個別命令を聞くしかできなくなる。
 以前ならば、首相が馬鹿なことを言っても、役人が咎めて正したものだが、菅首相の下では、そんなことをすれば左遷されるだけだから、どんなに馬鹿げたことであっても、素直に「はいはい」と従うしかない。
 かくて、馬鹿げた首相の掲げた目標を目指したあげく、最終的な目標はほったらかしにされるのである。

 それが今回の「ワクチン供給の失敗」の顛末(てんまつ)だ。

 

saru_saruyama_boss.png

猿山のボス





 【 関連サイト 】

 (1) 朝日新聞の社説

  → (社説)コロナと科学者 強靱な社会づくりの対話を:朝日新聞
   ※ コロナ対策では、科学者と連携して対処すべし、という話。
     「何を当たり前のことを……」という気もしなくもない。
     ただし、その当たり前のことができていないのが、菅政権だ。

 (2) mRNA ワクチンの解説。

 mRNA ワクチンについて、二つの解説がある。

 解説記事

  → デルタ株に効く? 安全性は? 「新型コロナのmRNAワクチン」(サイエンスZERO)

 解説漫画

  → 「はたらく細胞」という漫画の二次創作
  ※ 漫画のシリーズ。ツイッターでは、いくつかある画像のうち、左上の画像から順に続くので、最初は左上の画像をクリックする。



 【 関連項目 】

  mRNA ワクチンは日本でも開発が進んでいたが、安倍政権が「選択と集中」で開発中止を命じたせいで、日本はワクチン開発に出遅れた。この件は、下記項目で。
  → ワクチン開発の遅れの理由 : Open ブログ
  → mRNAワクチンとインフルエンザ: Open ブログ
posted by 管理人 at 22:39| Comment(0) |  感染症・コロナ | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ