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報道
デジタル庁については前にも言及したが、それから2カ月半が経過した。どうなっているか、気にかかっていたが、朝日新聞が報道している。
→ デジタル庁、「敗戦」からの発足 目詰まり打破できるか:朝日新聞
現状についていくらか記しているが、字数が多い割には、まともな情報は少ない。何をやるのかもはっきりとしない感じだ。
平氏は政府の新型コロナ対策のテックチームの一員として、ココアの開発の仕様書をまとめた。ココアについては「歴史的な失敗」だという。「厚労省の現場が発注して終わりになっていた。テックチームが解散し、厚労省では政治家が責任を持って見ていなかった。デジタル庁があったら起きなかった問題だ」
こういう話はあるが、だったらデジタル庁はいったい何をするのかというと、どうもよくわからない。
ネット情報
そこで私が別途、ネットの情報を調べてみた。
→ デジタル庁 - Wikipedia
※ いろいろと説明してあるが、どうもあまりはっきりとしない。
→ デジタル庁(準備中) [note]
※ 準備室のブログみたいなものだが、タイトルが公式(下記 ↓)と同じなので、まぎらわしい。「デジタル庁準備ブログ」みたいないなサイト名にするべきだ。こんなところで、ITリテラシーの低さを見せてしまった。発信力が素人レベルなんだよ。
→ デジタル庁(準備中) [公式]
※ 開設から時間がたっている割には、中身があまり充実していない。準備段階だから、仕方ないのかもしれないが。
ただし、次の図(組織図)が掲載されたのは好もしい。

出典:デジタル庁について
四つのグループがあるが、左から二つめのグループの右側には「人材プール」というものがある。
一方、下端には、次のように記されている。(★)
プロダクト(サービス)A
プロジェクトB
※ プロダクト(サービス)やプロジェクト毎に、必要な専門性に応じて、各人材プールから人材を配置。チームを組成して、プロジェクトペースで業務を行う。
要するに、タスクごとにプロジェクトチームを組成して、タスクが完了したらプロジェクトチームも解散する……という方式であるようだ。
以上が、調べてわかったことだ。
本サイトとの比較
一方、本サイトは前に、デジタル庁の設置について、独自の提案をしていた。
→ デジタル庁の問題: Open ブログ
→ デジタル庁の組織: Open ブログ
これらと比較すると、上に述べたことは、どう評価されるか?
(1) 組織図
組織図については、後者の項目で、簡単に言及した。そこでは次のように述べた。
班 …… 各省庁に分駐して、個別案件を処理する。組織の末端。
班は固定されず、業務ごとに形成・廃止される。
個人 …… 班に所属して、実務を実行する。
事業ごとに班が形成されるので、そのたびに班を移る。
これは、上述の(★)と同趣旨である。つまり、(★)のことは、すでに私の提案に含まれていたわけだ。
そのことが実現したという意味で、私の提案通りになったので、これは好ましいことだと言える。
※ ただし、タスクごとにプロジェクトチームを組成するというのは、別に私の独創ではない。民間の会社ではしばしばなされていることだ。デジタル庁では、そういう民間の方式を導入したというだけのことだ。
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なお、私の組織図では、班(チーム)は、各省庁に分注することになっている。一方、デジタル庁(公式)の組織図では、チームがどこに在するかははっきりとしない。
ただ、今はリモートの時代なので、原則的にはネット上に存在して、リモートで勤務すると考えれば、どこに在するかは、あまり問題ではないのかもしれない。
(2) 各省庁との関係
タスクごとにプロジェクトチームを組成するのはいいが、そのプロジェクトチームと各省庁とはどういう関係にあるか? そこのところが、公式ページなどを読んでもはっきりとしない。
この件については、私が先に次のように述べた。(一部抜粋)
ここまで見ると、デジタル庁のなすべきことがわかる。それは、こうだ。
「(顧客である)発注の現場の要求をきちんと理解して、それをプログラマの用語に変換するという、翻訳者の役割」
発注の現場では、(実務で)何をしたいかということは、よくわかっている。しかしそれをプログラムの用語で説明することはできない。漠然と「使いやすくしてくれ」と言うことはできても、「では使いやすいとは何を意味するか」ということが具体的には説明できない。
そこで、発注の現場で求められていることを、きちんとプログラマ向けの言葉(つまり仕様)に翻訳する必要がある。
この図のように、現場と開発者とは、分断されている。両者は乖離している。顧客は、自分が本当に求めているものが何であるかを、うまく説明できない。
そこで、この両者をつなぐ橋渡しをする者が必要となる。それが、デジタル庁だ。
( → デジタル庁の問題: Open ブログ )
これが何を意味するかを理解するには、成功した例を見るより、失敗した例を見るのがいい。
(i)デジタル庁のサイト
デジタル庁のサイトは、表示に欠陥がある。これらの欠陥を正すことができるように、Webデザインの技術で指摘する能力が必要だ。
その能力がないとどういうふうに不様な状態になるかを、デジタル庁のサイト(公式)が身を以て示している。ピエロのように。
この件は、下記ページの前半で指摘した。
→ デジタル庁の問題: Open ブログ
(ii)COCOA
COCOA の失敗という例もある。
コロナ接触確認アプリ(COCOA) というものが開発されたが、これがまったくの役立たずのゴミぷりであることが判明した。すでに詳しく報道されたとおり。
ここでは、発注した厚労省がアプリについてまったく無知であることから、ほとんど丸投げの形で民間企業に随意契約をしたのだが、その民間企業自身が無知であるために、そこからさらに下請け会社に丸投げ状態となり、まったくの無責任体制と成り果てた。
( → デジタル庁の問題: Open ブログ )
(iii)ワクチン接種記録システム VRS
ワクチン接種記録システム VRS の失敗という例もある。
正しい方法は、接種券に QR コードを印刷して、QR コードの読み取りをすることだった。しかし接種券に QR コードを印刷していないので、それができない。
ならば、せめてバーコード読み取りにすれば良かったのだが、バーコードの印刷をしていない自治体がある。バーコード対応にすると、バーコード読み取りと OCR読み取り の双方に対応する必要が生じるので、そのために開発コストが少し上がって、3.85億円では済まなくなる。5億円ぐらいになるかも。
しかし政府としては、アプリの開発に 5億円もかけたくない。金の節約が大事だ。そこで、アプリの開発費を下げた。(1億円ぐらいを節約しようとした。)
そういう節約の結果として、低劣なアプリのせいで、読み取りが困難となり、日本中で多大な遅れが発生した。かくてワクチン接種にひどい遅滞が生じた。
( → ワクチン接種記録システム VRS: Open ブログ )
結局、小金を惜しんで、技術的にはひどいものをつかまされたことになる。これは、IT技術の評価ができないことから来る失敗だ。
現場(利用者)の求める内容は判明するし、そのための技術が何かも判明するのだが、それらを結びつけて製品の形にするための介在者がいなかった。だから、「顧客が本当に必要だったもの」を得られなかったのだ。


そこで、現場と開発者の間に立って、双方の言葉をうまく翻訳することで、「顧客が本当に必要だったもの」を得られるようにすること。……それが、デジタル庁に求められる仕事だ。
このことをデジタル庁は、はっきりと理解するべきだ。まかりまちがっても、「デジタル関係の業務をすべてリードすること」などと思ってはいけない。
公務員の仕事は、公僕として、国民に奉仕することだ。そのためには、各省庁が直接、国民に奉仕する。そのとき、各省庁が奉仕するのを助けるために、デジタル庁が各省庁(という顧客)に奉仕する。……そういう関係であるべきだ。
民間のIT会社はすべて、顧客のために奉仕しようとする。同様に、デジタル庁もまた、顧客のために奉仕することを目的とするべきだ。
まかり間違っても、「国民や民間会社をIT分野で先導しよう」などと自惚れてはならない。
※ ただしどうも、そういう自惚れの気配がチラホラと見えなくもない。そこが気がかりだ。

[ 付記 ]
ちょっとわかりにくいので補足すると、
・ 公務員の顧客は …… 国民
・ 各省庁の顧客は …… 国民
・ デジタル庁の顧客は …… 各省庁
デジタル庁は、各省庁の望みに応じて奉仕する。そのことで間接的に、国民に奉仕する。(公務員として。)