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ワクチン不足の状況で、政府は「在庫はありあまっている」と主張するが、各県は「在庫はなくなっている。入力が面倒なので、入力が遅れているだけだ」と反発する。
自治体や医療機関に約4千万回分の「在庫」があると主張する政府に対し、供給減少に苦しむ首長らは真っ向から反発。
加藤勝信官房長官は12日の記者会見で、「約4千万回分は未接種の状況で、各自治体、あるいは医療機関がお持ちになっている」と述べ、供給は足りているとの認識を示した。6月末までに約8800万回分を自治体に配送し、接種状況を国が一元的に管理する接種記録システム(VRS)によると、接種実績は約4800万回だったという。
この説明に納得できないのが自治体側だ。現場ではVRSへの入力が煩雑で実際の接種日より遅れが生じるため、接種実績はもっと多いと主張。
( → 「在庫4000万回分」に首長反発 ワクチン巡り混乱、河野氏は陳謝:朝日新聞 )
「VRSへの入力が煩雑で」というが、それはどのようなものか? 別記事で説明されている。
「うーん。うまくいかないですね」
記者の目の前で、川尻副院長がそのタブレットを操作しながら、こう漏らす。タブレットのカメラで読み込もうとしているのは、接種券上の縦3ミリ、横3.5センチの18桁の数字列。マニュアルにはタブレットと接種券を「約7.5センチ離す」とあるが、なかなか焦点が合わず、読み込まない。
クレームが多かったのか、約7.5センチの高さにタブレットを置くことができる台が国から送られてきた。それでもうまくいかず、接種券の下に厚さ1センチの本を置いたり、手で紙を動かしたりするなど創意工夫をこらしていた。
日ごろこの作業に従事している女性事務員は「なかなか読み込まず前に進まないことが多いんです。ストレスがたまり、肩がこり腕も痛くなります。1日8時間連続でやったこともあります」という。作業は接種券1枚あたり1〜2分ほどかかる。
( → 打てば打つほど作業増 ワクチン不足は医療機関のせい?:朝日新聞 )
問題点を指摘する動画もある。
だいたいはわかるが、具体的な画像がほしいところだ。それは、政府の公式サイトにある。
→ VRS 医療機関・職域接種等 会場担当者向け情報 | 政府CIOポータル
ここには次の二つの動画がある。( YouTube なので転載できる。)
これでだいたいわかった。特に、駄目である理由がわかった。
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VRS については、OCR でなく、バーコードか QR コードにすれば良かった、という声も多い。
→ 記録に手間?ワクチン接種記録システム「VRS」に課題 YouTube コメント
実際、バーコードでは高速に読み取れる、という実演もある。(商品化されている。)
→ VRS対応OCR・バーコードリーダー|製品情報|Imager
ではなぜ、そうしなかったのか? これはどうも、厚労省が発注した先が、技術力のないベンチャーであったせいらしい。
→ 政府の「ワクチン接種記録システム」、ITベンチャーのミラボが3.85億円で受注 4月本格稼働へ マイナンバーとひもづけ - ITmedia NEWS
3.85億円というのは、いかにも安い。安すぎるぐらいだ。
※ ちなみに、リオ五輪の閉会式で「マリオが東京からリオへ」という演出があったが、これにはほとんどコストがかかっていないのに、電通には 12億円が支払われたようだ。
→ リオ閉会式の演出は総額12億円、安倍首相のマリオは極秘扱い― スポニチ
→ リオデジャネイロ五輪閉会式での引き継ぎ式の演出などを担当した(電通)
ではなぜ、3.85億円という激安価格で発注したのか? 1億2000万人の命を救うためのシステムにかけるのだから、もっと高額にしてもよさそうだが、なぜそうしなかったのか?
考えられる理由の一つは、こうだ。
「国民1人あたりの値段は、3円程度でしかない」と国が思ったから。……これは、普通ならばありえないことだが、菅首相の下では、十分にあり得る。菅首相にとって、大切なのは自分の命だけであって、国民の命などは3文の価値もないのだ。「早起きは3文の得」ということで考えると、「早起きの一日分」ぐらいか。「1文=1円」で換算すると、「国民の命の価値は3円分」というふうになる。それが菅首相の発想だ。
かくて、国民の命を救うためにに掛ける金は、3.85億円以上は出す気がなかった。菅首相にとって何よりも大切なのは、五輪に掛ける金であって、国民の命を救うために掛ける金は、3.85億円で十分だったのだ。
考えられる理由として、もう一つは、こうだ。
厚労省が民間に発注するとき、入札の価格の数字だけを見て、性能の欄は空欄にしておいたから。
そこで、読み取り速度は「1枚につき1分間」「読み取り精度は 90%以下」という劣悪なシステムであっても、入札の価格の数字さえ低ければ、受注できるのだ。性能よりも値段なのである。要するに、「国民の命を救う」という目的に合致するかどうかは考慮されず、「国が支払う金が少なければ少ないほどいい」と判断したのだ。
だから、バーコードも QR コードも使わずに、OCR だけを使う、という方式にしたのだ。
その理由は? OCR 認識ならば、スマホのアプリだけで実現できるからだ。開発コストが激安で済む。
→ 【2021年】 おすすめのOCR(文字認識)カメラアプリはこれ!アプリランキングTOP10
一方、バーコードを使うと、どうか? 実は、バーコードの印刷は、すべての自治体が実施しているわけではなく、一部の自治体では実施されていない。(報道済み) そこで、バーコードが印刷されていない接種券に対応するには、OCR 読み取りも必須となる。つまり、OCR 読み取りとバーコード読み取りの双方に対応する必要が出てくる。それだと、開発費が少し上昇するので、入札で不利になる。
《 訂正:削除 》
→ VRS対応OCR・バーコードリーダー
QR コードにすれば、どうか? やはり同様の問題が生じる。しかも、ワクチン接種券には、もともと数字番号とバーコードという2種類しか印刷されていない。

そこには QR コードは印刷されていないので、QR コードは使えないのだ。(最初から QR コードで印刷しておけば良かったのだが、間抜けぞろいだから、その発想がない。)
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結論。
正しい方法は、接種券に QR コードを印刷して、QR コードの読み取りをすることだった。しかし接種券に QR コードを印刷していないので、それができない。
ならば、せめてバーコード読み取りにすれば良かったのだが、バーコードの印刷をしていない自治体がある。バーコード対応にすると、バーコード読み取りと OCR読み取り の双方に対応する必要が生じるので、そのために開発コストが少し上がって、3.85億円では済まなくなる。5億円ぐらいになるかも。
しかし政府としては、アプリの開発に 5億円もかけたくない。金の節約が大事だ。そこで、アプリの開発費を下げた。(1億円ぐらいを節約しようとした。)
そういう節約の結果として、低劣なアプリのせいで、読み取りが困難となり、日本中で多大な遅れが発生した。かくてワクチン接種にひどい遅滞が生じた。
結局、電通やパソナ以外には金を払いたくない……という体質が、この遅れをもたらしたと言えそうだ。
あるいは、「払う金の節約ばかりを重視して、性能の要件をまるきり考えなかったから」ということかも。
「ケチはクズをつかまされる」という見本かも。「安物買いの銭失い」とも言う。

【 追記1 】
けなすばかりでは申し訳ないので、少しは褒めておこう。ひとつだけ褒めていい点がある。それは次のことだ。
「高木浩光氏の提唱する 23桁の番号を採用しなかったこと」
高木浩光氏の 23桁番号は
→ 接種券番号を 23桁にする?: Open ブログ
仮にこれを採用していたら、エラー発生率が倍増して、職員の負担は倍増となり、阿鼻叫喚の地獄となっていただろう。(現行は 10桁なので、実は倍増以上の悪化となる。)
高木浩光方式を取らなかったのは、不幸中の幸いだった。セキュリティ・オタクの方式を採用すると、セキュリティは頑丈になるが、業務効率は大幅に低下する。(業務効率のことをまるきり考えていないので。)
参考記事:
→ ワクチン接種予約システムの欠陥: Open ブログ
【 追記2 】
QR コードを使うといいのは、読み取りエラーが少ないことだ。カメラで撮影する場合には、バーコードよりもエラー率が低い。さらに、桁数を多くして、エラー補正用のハッシュ値を多くもぐりこませることで、エラー率を大幅に下げることができる。事実上、エラー率をゼロ同然にできる。(だからこそ、PayPay などでは決済用のコードに QRコードを採用したのだ。バーコードではこれほどにもエラー率を下げることは難しい。)
本文中の政府の動画では、「エラーがないかどうかを人力で確認する」ということになっているが、QRコードを使ったなら、エラー・チェックは自動化することができたのだ。
なのに、そうしなかったという点で、政府の責任は大きいね。IT知識が足りていないと批判されても仕方ない。
【 追記3 】
【 下記の灰色部分は、取り消します 】
コメント欄で教わったが、動画を見ると、バーコードの認識は出来ているようだ。
ただし、「バーコードの認識で完了」とは行かず、「 OCR読み取りも完了する必要がある」という設定であるようだ。(だからこそ冒頭の記事では、認識がうまく行かないまま、誤認識が繰り返される。)
これではバーコード認識機能があっても、ちゃんと活用されていないことになる。「宝の持ち腐れ」状態だ。
VRS システムは、「技術的に未熟である」というより、「仕様の設定がまずいせいで、せっかくの機能を殺してしまっている」という状態であるようだ。
ともあれ、結果的には、「何度も何度もエラーが生じて、処理能力が低い」というシステムになってしまっている。「検品・検収ができていないまま納入された」ようなものだ。というか、検品・検収の基準さえもなかったのかも。ひどいものだ。IT知識が欠落しているせいだが。
【 追記4 】
上の【 追記3 】では、「バーコードの認識は出来ているようだ」と述べたが、実機で確認したところ、「バーコードの認識は出来ていない」と判明した。このことは、コメント欄(下記)を読むとわかる。
Posted by 名無しさん at 2021年08月05日 12:03
Posted by 名無しさん at 2021年08月05日 13:40
つまり、OCR 認識の機能だけがあり、バーコード認識の機能はない。ただしアプリの画面上では、あたかも「バーコードを読み取った」かのように表示される。(動画でわかる。ただし動画は削除済み。)
【 関連項目 】
なお、この件では、「デジタル庁が発注するべきだ」というふうに提案したことがある。
政府の予定では、「 ITに強いデジタル庁が、各省庁にデジタル業務の仕方を指導する」というつもりのようだが、私はそれを否定する。
日常的な通常の業務は、各省庁に任せていいが、ソフトの導入( COCOA やワクチン接種システムなど)については、デジタル庁が自ら遂行するべきだ。
ただし、そこでいうデジタル庁とは、各省庁の上に位置するものではない。各省庁の内部に取り込まれたものだ。いわば各省庁の「情報システム部」みたいなものである。
( → デジタル庁の組織: Open ブログ )
ここでは「ワクチン接種システム」と具体的に例を示して、「デジタル庁がソフトの導入を遂行するべきだ」と述べている。仮に、そうしていたら(厚労省でなくデジタル庁がソフトの導入を遂行していたら)、今回のような愚策・失敗は回避できただろう。
> 一方、バーコードを使うと、バーコードリーダーという独自の機械を用意して、独自のソフトも開発する必要があるので、高コストになる。(参照リンクは略)
⇒ ちょっと疑問なのですが、この春 PayPayで自動車税を支払ったのですが、払い込み票?に印刷されたバーコードを自分のスマホ(カメラ)で読み取って決済処理しましたよ。
https://paypay.ne.jp/event/bill-payment/
納付番号は20桁、確認番号は6桁、バーコードの下に書いてある対応数字(コード)も数十桁で、かなり込み入っている普通のバーコードのようでした(簡略的なものではなさそう)。なお、今年は不動産取得税の払い込み票?も来ましたが、同じようなものでした。
このへんのところ、必要があれば追加の解説をお願いします。
それにともなって、別の箇所も少し書き換えました。
タイムスタンプは 下記 ↓
@ VRSシステムと連携させる情報、OCRライン(今回タブレット端末で読み取っている情報)は、数字10桁ではなく数字18桁です。念のため。なお、18桁の内訳は、券種(1桁)+回数(1桁)+市町村番号(6桁)+接種券番号(10桁)です。
A OCRラインの上部に印刷されているバーコードは、@の情報とは内容が異なります。こちらは、たいていは接種券番号の数字10桁を表わすものになっているようです(本稿で紹介されているタブレット端末の使い方動画でもそうなっています)。念のため。ただし、筆者も書かれているようにこのバーコードの印刷は任意となり、印刷する場合、市町村それぞれのシステムと連携しやすいよう、内容も市町村にまかされている(ただし様式はNW-7規格が指定されている)ので、OCRラインと同じというところも中にはあるかもしれませんが。
※ 以上の内容は、厚労省から各自治体への指示文書「新型コロナウイルスワクチンに係る接種券等の印刷及び発送について」(健健発1225第1号)などから。
情報ありがとうございます。とすると、追加が8桁なので、
18桁 → 31桁
となりますね。倍率が2倍弱になる。
> 両方を同時に読み取れる
確かに両方を読み取っているように見えますね。
だけど、バーコードだけでは済まず、「OCR もきちんと読み取らないとダメだ」(さもないとエラーになる)という仕様になっているのでしょう。つまり、不正確で誤作動しやすい OCR を OFF にできない仕様になっているのでしょう。だからこそ、朝日の記事のように、何度も失敗が起こって、無駄手間が生じる。
技術的にできていないと言うより、UI が悪くて、使い勝手が悪くなっているようだ。「できない」というより、「できるのに、あえて不便にしている」ようだ。
かえってタチが悪いかも。
これはOCR機能を使って数字列を直接読んでいます。バーコードを
読んでいるわけではありません。
試しにバーコードを覆ってみましたが、しっかり読み取れました。
その場合には OCR の方を入力しているだけかもしれません。(自動切り替え)
試しに数字を覆って、バーコードだけを読み取ってみてください。それで判明します。
バーコード読み取りはメニュー設定で無効にされているらしく、数字列を覆うと全く読まなくなりました。
普通のバーコードリーダーでOCRラインの上のバーコードを読んだところ、OCRラインとは全然違う桁数の数字が出力されましたね。
ということは、バーコードとOCRラインは異なるデーターということのようです。
> 18桁の内訳は、券種(1桁)+回数(1桁)+市町村番号(6桁)+接種券番号(10桁)
であり、一方、バーコードは、
> 接種券番号(10桁)
であるようです。
結局、VRSに入力しなくてはならないのはOCRラインの全桁数なので、バーコードを読む機能だけでは使えません。
もともとコメントをさせていただいた理由は、貴ブログの以下の記述が間違っているため、修正されてはどうでしょうか?という考えからです。
>実際、バーコードでは高速に読み取れる、という実演もある。(商品化されている。)
この辺にしておきますね・・・。
お騒がせしました。
> VRSに入力しなくてはならないのはOCRラインの全桁数なので、バーコードを読む機能だけでは使えません
これも VRS の欠点の一つです。本来は接種券番号だけを読み取ればいいのであって、他の8桁は入力の必要がありません。アプリの起動時に、入力者がまとめて入力すれば良く、そのあとはアプリが自動的に、その番号を接種券番号に添えればいいのです。
いちいち個別に読み取るのは、ただの無駄。エラーの原因になるだけです。
「カメラがバーコードを読む機能だけで使える」というようなシステムを作るべきでした。
※ VRS の使い方の問題ではなく、VRS そのものが根源的に駄目だ、という話。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/105522
VRS というシステム設計そのものに根源的な欠陥があることになる。接種券番号の発行から、根本的にやり直す必要があるね。
会場に到着したあと、どうせしばらく待たされるのだから、その待たされている間に、パートの事務員あたりが入力を済ませればいい。
この入力作業に看護師を使うのは、看護師の無駄遣い。