2021年07月20日

◆ 統合失調症の解明

 統合失調症については、ネット上の文献は古いままであるが、現実には、2019年ごろから急速に解明が進んでいる。そこで私が最新事情を解説する。

 ――

   ※ 本項は公開前に、専門家の監修を受けました。(チェック済み。)

       (監修者についてはコメント欄を参照。)



 ネットの情報


 統合失調症については、ネット上の文献は古いままである。たとえば、Wikipedia 日本語版は、「原理はわからない・不明である」というふうに記すばかりだ。
 発病メカニズムは不明であり、明確な病因は未だに確定されておらず、いずれの報告も仮説の域を出ない。仮説は何百という多岐な数に及ぶため、特定的な原因の究明が非常に煩わしく困難であり、今日の精神医学・脳科学の発達上の限界・壁である。

根本的な原因は不明であるが、遺伝子の影響のほかに、胎児期のストレスの影響などが原因として考えられている。
( → 統合失調症 - Wikipedia

 統合失調症の原因では、統合失調症の発病因子と考えられる仮説・要素について述べる。なお、様々な要素が提言されているが、いずれも仮説の域を出ていない。
 遺伝と環境の両方が関係しているが、遺伝要因の影響が大きいと考えられている。
 明確な原因は未だに確立されておらず、発病メカニズムは不明である。仮説は何百という多岐な数に及ぶため、特定的な原因の究明が非常に煩わしく困難であるのが、今日の精神医学・脳科学の発達上の限界・壁である。
( → 統合失調症の原因 - Wikipedia

 以上のように、「わからない」と述べた上で、さまざまな仮説をあれこれと紹介している。

 英語版 Wikipedia はどうか? 「わからない」と述べることはないが、あれこれと仮説を紹介するだけで、結局はどれだとも言っていないのは、日本語版と同様である。日本語版と大差ないと言っていいだろう。
  → 統合失調症:Google 翻訳
  → 統合失調症の危険因子:Google 翻訳

 こういうふうにネット上では「よくわからない」と結論して、たくさんある仮説を羅列的に紹介するだけだ。しかし真相は 2019年に判明している。

 新たな研究(2019)


 2019年に新たな研究成果が出た。下記だ。
  → 硫化水素の産生過剰が統合失調症に影響 | 理化学研究所

 これについては、その時点で、私が解説文書を書いた。
  → 統合失調症の原理を解明: Open ブログ

 とはいえ、話の内容が専門的すぎて、普通の人にはうまく理解しかねるようだ。実際、私が読んでも、「言っていることはわかるが、何がどうなのか、よく判断が付かない」という感じだった。
 人によっては、「これもまた多くある仮説のひとつなのでは?」というふうに感じるかもしれない。

 そこで本項では、この説の位置づけをしよう。この説がどうして(他の説と違って)真実であると言えるか……という説明だ。
 そのためには、他の仮説と対比する必要がある。

 単一遺伝子? 


 統合失調症の原理については、「単一遺伝子が原因だ」という説があった。遺伝子に欠陥があると、何らかの症状を発症する……という遺伝子疾患がいくつか知られている。そこで、統合失調症についても、そういう単一の遺伝子が原因であることが疑われた。
 そこで、かなり初期にそういう遺伝子を探す研究が試みられたが、すぐに結果は判明した。「そんな単一遺伝子はない」ということだ。
 人間の遺伝子は、全ゲノムの読み取りによって、完了している。その一つ一つの遺伝子と、統合失調症とを、照合してみたが、「この遺伝子が特異的に影響している」というような事例は見つからなかったのだ。
 こうして「単一の遺伝子が原因だ」という説は否定された。

 ただ、そのことは、遺伝子を調べるまでもなく、とっくの昔にわかっていた。なぜなら、双子と統合失調症の関係が判明していたからだ。その関係度は 50% である。(一卵性双生児の)双子がいて、一方が統合失調症であるときに、他方が統合失調症である割合は、50% でしかない。まったく同じ遺伝子をもつ双子であっても、こうなのだ。
 これは、「単一の遺伝子が原因だ」ということに矛盾する。ゆえに、「単一の遺伝子が原因だ」という説は、とっくの昔から否定されていた。

 複数遺伝子? 


 単一の遺伝子が原因でなければ、複数の遺伝子が原因なのだろうか? そういう説も生じた。これは、二通りの説が考えられる。

 (i)直列型

 直列型(掛け算型)というのは、「複数の遺伝子がすべてそろったときに発症する」というタイプだ。たとえば、「 A,B,C という三つの遺伝子がそろったときに限って、発症する」というふうに。
 この説は、考えられるが、現実に調べると、そのような組み合わせとなる遺伝子のセットは見出されなかった。
 特に、「 A,B や、 B,C や、C,A ならば発症しないが、 A,B,C ならば発症する」という遺伝子のセットは見出されなかった。
 また、そもそも、先と同じように、双子では(すべての遺伝子がそろっているが)必ずしも発症しないことからも、この説は否定される。

 (ii)並列型

 並列型(足し算型)というのは、「複数の遺伝子が独立的に少しずつ関与する」というタイプだ。つまり、「 130ぐらいの遺伝子があって、それぞれが数パーセントぐらい、発症のしやすさに関与する。どれもが少しずつ独立的に関与する」というタイプだ。……これは、実際にそうであることが判明した。
 とはいえ、それぞれがまったく独立的かというと、そうでもない。特に、次のことが問題だ。
 「たくさんある遺伝子のうち、その関与する遺伝子の量に応じて、症状が段階的に増していくのではない
 これは不思議なことである。仮に、それぞれの遺伝子が独立的に関与しているのであれば、それぞれの遺伝子が増えていくにつれて、症状もまた段階的に増していくはずだ。だが、そういうことはないのだ。

 こうして (i)(ii) がともに否定されたことで、「複数の遺伝子が原因だ」という説も否定された。

 単一構造


 以上のことからわかるのは、次のことだ。
 「遺伝子は統合失調症の直接的な原因ではない」

 なるほど、遺伝子は何らかの影響があるし、まったく無関係というわけではないのだが、遺伝子がただちに(直接的に)発症の原因になっているわけではないのだ。
 では、どうなっているのか? 直接的でないとしたら、間接的であることになる。つまり、こうだ。

  ×  遺伝子 ―――――――――→ 発症 : 直接的
  ○  遺伝子 ―→ (何か) ―→ 発症 : 間接的


 直接的でなければ、間接的だ。間接的だということは、間に(何か)が挟まっていることになる。では、(何か)とは何なのか? 

 ――

 ここではその(何か)を「構造」と呼ぼう。
 統合失調症が発症するときには、遺伝子が影響するが、遺伝子が直接的に影響するのではない。遺伝子が体内にある何らかの「構造」に影響して、その構造が発症をもたらす。
 ここで、発症をもたらすような状態を ON と呼び、発症をもたらさないような状態を OFF と呼ぼう。そして、この状態の切り替えを「スイッチ」と呼ぼう。
 統合失調症が発症するのは、構造においてスイッチが ON になったときだ。構造においてスイッチが ON にならなければ、発症はしない。
 そして、スイッチが ON になるかどうかには、たくさんの遺伝子が影響するのだが、それぞれの遺伝子はあくまで部分的に影響するだけだ。特定の遺伝子だけが決定的に影響するというようなことはない。
 また、これらの遺伝子が、遺伝子だけでスイッチを ON にするわけではない。スイッチが ON になるには、後天的な状況も影響する。たとえば、次のような場合には、スイッチが ON になりやすい。
  ・ ストレスを受ける。
  ・ 疲労が溜まる。
  ・ ある種の病気になる。
  ・ ステロイドなどの薬剤を摂取する。
  ・ 麻薬などの薬物を摂取する。


 以上のように考えると、統合失調症の発症をうまく説明できる。だから、このような「構造」があることが原因だ、と見なしていいだろう。

 ――

 では、このような構造とは、具体的には、何か? 
 科学的に言えば、「スイッチが ON になる」というのは、「何らかの物質(脳内物質)が発生する状況だ」と考えていいだろう。
 では、そのような物質とは何か? それが問題だ。

 このような物質については、初期にはいくつかの候補が挙げられた。最も有力なのは、ドーパミンと、グルタミン酸だった。
  → 統合失調症の原因 - Wikipedia

 だが、いずれも「仮説」という域に留まって、決定的な支持を得るには至っていない。要するに、ドーパミン仮説も、グルタミン酸仮説も、支持される状況には至っていないのだ。「現実には一致しないので、否定された」と言ってもいいだろう。

 硫化水素


 そこで新たに「硫化水素」という候補を出して調べたのが、理研だ。
 すると、この仮説の下で、さまざまな状況がいろいろと整合的に説明されたので、非常に有望となった。詳しくは、冒頭付近にも記したリンクを参照。
  → 硫化水素の産生過剰が統合失調症に影響 | 理化学研究所
  → 統合失調症の原理を解明: Open ブログ

 特に、次の仮説が有望だ。
 脳の発達期(胎児期〜周産期)に、微細な侵襲(酸化・炎症性ストレスを引き起こす)を受けると、脳では逆の代償的な抗酸化反応(還元反応)が生じ、還元反応の一環として硫化水素(抗酸化作用を持つ)やその派生分子であるH2Snの産生が亢進し、その亢進はゲノムDNAのエピジェネティック変化によって"通奏低音"のように生涯持続すると思われる(サルファイドストレスあるいはイオウストレス)。

riken2019.jpg



 エピジェネティックス


 上の説では、遺伝子の影響についても説明されている。
 遺伝子は、遺伝子が影響するというよりは、遺伝子を修飾するエピジェネティックス(ヒストンのメチル化など)が影響する。つまり、先天的な要素が影響するというより、後天的な要素が影響する。その影響の仕方が、先に「スイッチが ON になる」というふうに示した事例だ。(ストレスを受けることなど。)

 ここでは、遺伝子そのものよりも、遺伝子の発現の仕方が問題であることになる。
 遺伝子の異常ではなく、遺伝子の発現の異常のせいで、おかしな状況になってしまうのだ。そのおかしな状況というのが、硫化水素の産生である。ここから、あれこれと症状が発生する。(理研のレポートを参照。)


参考:DNAメチル化 - Wikipedia

DNA_methylation.png


 自己免疫? 


 さて。ここで私の見解を述べよう。(理研のレポートには書いてないこと。)
 理研のレポートでは、こう示されている。
 「初期に微細な侵襲を受けると、脳では酸化・炎症性ストレスが生じるが、すると、逆の代償的な抗酸化反応も生じるので、(還元的な)硫化水素の産生が進む。するとその硫化水素が悪さをする」

 これはちょうど、「サイトカイン・ストーム」の原理に似ている。
 「サイトカイン・ストーム」は、「ウイルスの浸潤を受けると、肺では炎症が起こるが、すると、逆の免疫反応が起こるので、(白血球による)攻撃が進む。その攻撃が、自分自身の肺に悪さをする」となる。

 いずれにせよ、外部からの攻撃があったとき、その攻撃に対抗しようとして、敵をやっつけようとするのだが、そのとき誤って、敵でなく自分自身を攻撃してしまうわけだ。
 こういう原理は、統合失調症とサイトカイン・ストームの双方に共通する。
 そしてまたこれは、(広い意味で)「自己免疫」と呼んでもいいだろう。
 つまり、統合失調症というのは、一種の自己免疫なのである。

 ※ 「統合失調症というのは、一種の自己免疫だ」というのは、私の考えであるが、私の独自の考えというわけでもない。同様のことを述べた人は、先にもいる。この件は、前にも紹介した。
   → 統合失調症は自己免疫?: Open ブログ
   → 精神疾患の新説(トーマス・R・インセル): Open ブログ

 なお、統合失調症は、「一種の自己免疫だ」とは言えるが、「正真正銘の自己免疫だ」とは言えない。原理は似ているが、正確には、自己免疫とは違うからだ。というのは、「抗原・抗体」の反応をもたないからだ。
 「自己免疫と似ているが、似て非なるもの」と評価するべきだろう。
 
 ※ アレルギー、サイトカインストーム、自己免疫は、似て非なる概念である。その細かな違いは、下記ページに書いてある。
   → 免疫の過剰反応とは?〜代表的な過剰反応のメカニズムや症状

 ※ 上のページには「アナフィラキシー・ショック」の話もある。これも、生体防御機能が過剰に働いて、自分自身を攻撃してしまうタイプだ。ただし産生される物質は、ヒスタミン(など)である。そこが、ちょっとだけ違う。

 治療薬


 治療薬はどうか? 
 ベンゾジアゼピン受容体作動薬のような薬が用いられることもあるが、これはいろいろと問題があるようだ。
 一方で、脳内物質を調整する向精神薬は、効果があるようだ。次の証言がある。
 「ドーパミン」「セロトニン」「ノルアドレナリン」は精神疾患治療の主幹であり、向精神薬でこれらの分泌を調整している。
 投薬を継続する私が被害妄想や幻聴に囚われないのも、これらの薬がいい方向に作用しているからである。

 今は適切な治療と投薬を受けて、普通の生活を送れている。

 現在、私は破瓜型(この名称はほぼ形骸化しているといってもいい)統合失調症の当事者であり、フルタイムのクローズで就労している。パートナーに恵まれて結婚もしており、家事も生活もそれなりにしている。
( → 藤本タツキ先生の「ルックバック」について、統合失調症の当事者が感じたこと - 蟹の話

 「ドーパミン」「セロトニン」「ノルアドレナリン」の分泌を調整する向精神薬が有効だということだが、これらと、硫化水素は、どう関係しているのか? そこのところは、よくわからない。(私が専門家ではないせいもあるが。)

 硫化水素は統合失調症の「原因」に関係するので、患者の症状を緩和する対症療法の薬とは話が違う、ということかもしれない。



 【 関連サイト 】

 硫化水素に着目したことについては、次の記事が参考になる。
  → 理研ニュース 2020−2
 
posted by 管理人 at 22:20| Comment(2) | 医学・薬学 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 「監修者の名前を出してくれ」
 という声が、はてなブックマークに寄せられた。そこで、監修者に「名前を出してもいいか?」と質問しようかと思ったが、やめておいた。

 なぜなら、監修者はこの分野で著名な研究者なので、雑用の手間をかけたくないからだ。(余計な声が届くと、手間がかかる。)

 また、本項の内容は、読めばわかるように、ごく初歩的な話が大部分だ。肝心の硫化水素のところは、ほぼすべてを理研のサイトに丸投げしており、本項の独自の説明は皆無である。監修する手間もない。

 本項の話は、高度な話はまったく含まれておらず、ごく初歩的な話ばかりだ。素人でも簡単にわかる話ばかりだ。
 この程度の初歩的な話を読んでも、まだ不安に思うようなら、頭は初心者以下の人だけなので、最初から読むだけ無駄だと言える。

 繰り返すが、本項は初心者向けである。初心者向けの平易な話も理解できないのであれば、読むのを諦めた方がいい。
Posted by 管理人 at 2021年07月21日 14:44
 なお、本項では「監修者がいる」というのは、「初歩的な幼稚なエラーがある可能性は排除されている」というぐらいの意味だ。

 一方で、「独自の言説について重鎮がお墨付きを与える」というような意味合いは、ない。なぜなら、本項では、独自の言説などはないからだ。もともと初歩的な解説しかないからだ。
 その部分(初歩的な部分)の真実性については、重鎮の検証を受けるまでもなく、まともな頭のある人ならば、誰でも自分でチェックできる。疑わしく思えるところがあったら、そこいらの平凡な大学生にでも聞いてみればいい。きっとすぐに教えてくれるだろう。
 高校生程度の頭のレベルの人は、大学生レベルの頭の人に、教わればいいのだ。そうすれば、不安は解消されるだろう。
Posted by 管理人 at 2021年07月21日 18:29
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