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本日の朝日新聞の報道によると、イルカも水中で あくびをするそうだ。水中では呼吸をしないから、明らかに呼吸のためではない。
水族館で飼育中のハンドウイルカが、水中で「あくび」をすることを発見したと、三重大の研究チームが13日に発表した。水中で生活するクジラやシャチなどの水生哺乳類で、あくびが確認されたのは初めてという。あくびは従来、呼吸を伴うものとされてきたが、呼吸なしでもできることになる。今後、定義の変更を提案したいとしている。
ゆったりと泳ぎながら目が閉じかかっている姿がビデオ録画で確認されたため、水中でのあくびと結論づけた。
眠い時に自然にでるあくびは、ヒトだけでなくサルや鳥、イモリ、カエルなど脊椎(せきつい)動物で広く行われている。酸素を脳に送り、一時的に意識をはっきりさせる働きがあるとされる。動物行動学では「口をゆっくり開けて空気を吸い、口の大きさが最大に達した後に短く空気を吐いて口を閉じる」と定められている。
今回の水中でのあくびには呼吸が伴わず、これまでの定義には当てはまらない。研究チームの森阪匡通(ただみち)准教授(動物行動学)は「口を大きく開けるという行動自体に眠気を覚ます効果があるのかもしれない」とみる。
( → イルカが水中であくび 大学院生が14日間観察し発見:朝日新聞 )
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これを読んで私が思ったことは、こうだ。
「あくびをすることで酸素を吸入するなんてことがあるのか?」
この疑問が生じたので、ググってみたら、まさしく予想通りだった。
A あくびは一種の深呼吸のようなもので、疲労などで血中の酸素が不足しているとき、あくびによって空気を吸い込むことで、酸素を補給するとの説がずっと有力だった。
Q そう思っていたけど、違うの?
A その考え方は今は否定されているんだ。あくびをしても、体内に取り入れられる空気の量は通常の呼吸と比べてさほど多くなく、血中の酸素濃度も実際には上昇しないことが実験で分かった。
( → なぜあくびが出る?: 日本経済新聞 )
やっぱりね。
では真相は? 上の記事の話では、今のところよくわかっていないようだ。
次の記事もある。
なぜ、脳の働きがにぶくなると、あくびがよくでるのかについては、いまのところ、まだよくわかっていません。
( → どうしてあくびがでるの | 学研 )
また、冒頭の記事では、そもそも根本的な誤認もあるらしい。水中にいるイルカも、あくびをするからだ。あくびを呼吸と結びつけることが、根本的に間違っているようだ。
一方、次の推測もある。
ここから先は想像になるのですが、たぶんあくびをするときの動作と関係があるようです。
あくびは、何かの原因で、一時的ににぶくなった脳や体に、また活動をさせる働きをしているといえそうです。
( → どうしてあくびがでるの | 学研 )
もっともらしい話だが、あくびをしたことで活動が活発になるとも思えない。あくびで活動が活発になるのなら、スポーツ選手は、試合や勝負の直前に、あくびをすればいいはずだ。だが、あくびをしたら、かえって活発さが失われてしまう(気分がだれてしまう)だろう。つまり、逆効果。
というわけで、その説も駄目だ。
結局、「あくびは何のため?」という質問に対して、「これこれのためだ」というふうに答えることはできていない。困った。どうする?
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そこで、困ったときの Openブログ。うまい回答を出そう。
まず、基本はこうだ。
「生物の構造の疑問については、目的説でなく、原因説で語るべきだ」
つまり、「◯◯をするために、そうなった」というふうに目的で説明するのでなく、「××があったから、そうなった」というふうに原因で説明するべきだ。
このような方針を、これまでさまざまな分野で適用してきた。例は下記。
→ サイト内検索(一覧)
この方針を本件に適用すれば、こうなる。
「あくびは何のため?」という質問に対しては、「何かのためにあくびをなすのではない。あくびをするのは、何らかの目的があるからではない」と答える。
人々は、「あくびをすると何らかの効用(利得)があるから、あくびをなすのだ」と思いたがる。しかし、何らかの効用(利得)があるとは限らないのだ。むしろ、目的のかわりに原因があることが多い。
例を挙げよう。
・ 動物がウンコをするのは、何らかの目的のためではなく、原因ゆえの結果であるにすぎない。
・ 動物が長く走ったあとで休むのは、休むことで疲れを回復するためではなく、単に走れなくなったことの結果であるにすぎない。
・ 動物が非常に空腹になると動けなくなるのは、動かないでいると空腹が満たされるからではなく、単に動くためのエネルギーがなくなったからであるにすぎない。(正確に言えばグルコース不足)
そして、あくびもまた同様である。
では、目的ではなく原因があるとして、その原因は何か? これについて考えてみよう。
動物があくびをするのは、なぜか? 眠いからか? 仮に、眠いからあくびをするのであれば、睡眠の直前には必ずあくびをすることになる。だが実際には、そんなことはない。とすれば、眠いからあくびをするのではない。
あくびをするのは、眠ってはいけないのに眠くなるときだ。会議中とか、授業中とか、運転中とか、そういうときは、眠ってはいけない。眠ってはいけないのに、眠気が襲うことがある。そういうときに、あくびは起こる。
あくびが起こるのは、眠りたいときというよりは、眠ってはいけないときだ。眠ってはいけないのに、眠くなってしまう。そこで、「眠ってはいけない」という信号が脳から発される。「おい、おまえ。眠りそうじゃないか。それでは駄目だ。起きろ! 起きろ!」という信号が出る。そのとき、あくびは生じるのだ。
これがあくびの原因である。あくびとは、脳の「眠るな!」という信号( = 原因)によってもたらされた結果なのである。
それはたとえば、悲しいときに涙が出るとか、嬉しいときにニッコリするとか、愉快なときにアハハと笑うとか、悔しいときにシカメ面をするとか、怒ったときに目や眉を吊り上げるとか、怒ったときに怒髪天を
人がそういう感情のときに、そういう表情を取るのは、何らかの目的があるからではない。それらの表情は、原因に由来する結果なのだ。人はある感情をもつと、ひとりでにそういう顔をしてしまう。そのときの顔は、決して、何らかの目的のためになすのではない。
もちろん、例外的なこともある。たとえば、ぶりっ子が媚びるときには、わざとかわいい顔をつくりあげる。そこには何らかの目的がある。(たいていは金である。金がほしいから媚びる。)
しかしそういう目的は、生物的な目的とは違う。ただの金銭的な目的であるにすぎない。
( ※ それは随意的な運動であるから、不随意的な運動である あくび とは異なる。)
生物学的な(不随意的)行動や構造は、たいていの場合、目的論でなく原因論で説明が付くのだ。あくびもまた、しかり。
・ まずあくびをする。呼吸を止めている。
・ その 0.7秒後に、息を吸う。
・ 深呼吸はしない。
息を吸うのはどうも、0.7秒間、呼吸を止めていたせいだ、という感じだ。呼吸を止めていたので、それを補うために、直後に息を吸うわけだ。
だったら、ここで息を吸うのは、酸素を増やすためじゃないね。単に、酸素を減らさないためだ。(その直前では呼吸が止まっていたので。)
ひょっとしたら、あくびをするのは、「呼吸を止めるため」かもしれない。呼吸を止めると、苦しくなって、人は急に覚醒するものだからだ。
※ 嘘だと思うなら、眠っている人の鼻をつまんでごらんなさい。すぐに苦しくなって、目が覚めるものだ。