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電力分野では、ベースロード電源という概念が使われる。「安定的で低コスト」という意味でだ。特に、原発電力を意味するのが普通だ。
経産省は電力を安定的に供給できる「ベースロード電源」として原発を重視してきた。太陽光は夜間に発電できないこともあり、コストが上がっても原発の重要性は変わらないとの立場だ。
( → 発電コスト最安、原子力→太陽光 経産省試算:朝日新聞 )
原発の発電コストは、試算のたびに高くなってきた。それでも、経産省は安定的に電力供給できる「ベースロード電源」だとして重視している。
太陽光は夜間は発電できず、風力などは天候によって発電量が左右される。再生可能エネルギーが増えすぎると、悪条件が重なったときに大規模な停電が起きる恐れもある。
原発と同じくベースロード電源とされてきた石炭は、脱炭素の流れのなか縮小している。経産省や大手電力会社は脱炭素と安定供給を両立させるため、原発を活用すべきだと主張。自民党内にも原発のリプレース(建て替え)や新増設が必要だとの意見は根強い。
( → 原発、消えた優位性 重い安全対策・事故費:朝日新聞 )
だが、この概念は、原発を正当化するための概念であるにすぎない。昔はともかく今では時代に合わなくなってきている。次の3点で。
・ コスト的に最安でなくなった。
・ 安定性よりも可変性の方が重要だ。
・ 深夜電力割引との整合性
以下で説明しよう。
(1) コスト
原発はもはやコスト的に最安ではなくなった。賠償費・除染費・廃炉費・安全費用などがかさんで、以前よりもコストはかなり上がった。
→ 原発の発電コスト上昇、太陽光などより高く コスト優位性揺らぐ | 毎日新聞
→ 発電コスト、最安は原発から太陽光に 経産省が試算発表:朝日新聞
(2) 安定性よりも可変性
太陽光発電は夜間にはゼロになり、雨天時には半分になる。こういうふうにいろいろと変動が起こるので、その変動を埋めるための電力が必要だ。それは、安定的な原発ではなくて、いつでも可変的に発電量を変えられる火力発電が担う。安定性よりも大事なものがあるのだ。(個別電源の安定性よりも、システム全体の安定性が大事だ。それをもたらすのは何か……ということ。)
(3) 深夜電力割引
家庭用に 深夜電力割引を契約すると、1kWh あたり 12円48銭 となるが、これは通常の電力価格の約半額である。(送電費用や小売り手数料を含む。)
ここまで価格を下げると、原発の電力を売っても、赤字になってしまうだろう。(送電コストや手数料コストなどがかさむので。)
こんなに安値で電力を売るくらいなら、むしろ、発電を止めてしまった方が安上がりだ。(そうすれば赤字が出なくなる。)
しかし、発電を止めたくても、止められない。それが原子力発電というものだ。となると、ここでは、発電力が一定である(安定的である)ことは、有益であるどころか、有害であることになる。(赤字を出すからだ。)
このような有害な性質を、さも有益な性質であるかのように見せかけるのが、ベースロード電源という概念だ。だから、こんな概念は使うべきではないのだ。この概念はあくまで、「原発は素晴らしい」と見せかけるための、詐欺的な概念なのである。(人をだますための概念。)
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では、かわりにどうするべきか? 私としては、次の三つの概念を推奨する。
(i) 「安定電源」…… 原発のように一定の発電量を維持する電力。(従来の「ベースロード電源」に相当する。)
(ii)「不安定電源」…… 太陽光や風力のように、天候や気象という外部要因によって変動する電源。人間が制御できない要因で変動する電源。不安定な電源。
(iii)「可変電源」…… 不安定電源が勝手に変動した分を補うだけの発電をする電源。通常、火力発電であるが、水力発電も含まれる。将来的には、EV の充電池の電源も含まれるだろう。
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以上の三つに応じて、価格もそれぞれ変動させるべきだ。
・ 安定電源 …… 普通 10円/kWh 程度
・ 不安定電源 …… 安価 5円/kWh 程度
・ 可変電源 …… 高価 15円/kWh 程度
上の数字は、ごく大雑把な数字だが、おおよその目安にはなるだろう。
ともあれ、こんな感じで、電力価格に差を付けるべきだ。
「太陽光発電は原発よりも低コストだから素晴らしい」なんて言っていると、夕方から深夜にかけての時間帯に、冷房や暖房の電力が莫大に必要になったとき、「太陽光発電が止まっている!」と知って青ざめるハメになる。
かといって、原発がそれに相当する電力を、四六時中、発電しているわけにも行かない。
太陽光発電という不安定電源を使うためには、(安定電源でなく)可変電源がどうしても必要なのである。これこそが最も重要であり、これこそを最も優遇するべきなのだ。
一方、原発のような安定電源は、普通であって、特に重要ではないのである。こんなものを特別に重要視する概念は、ただの詐欺概念であるにすぎない。
[ 付記 ]
「火力発電は炭酸ガスを出すぞ!」
という批判もあるだろうが、炭酸ガスならば、他にも排出するものはいっぱいあるのだから、特に火力発電だけをやり玉に挙げる必要はない。自動車でも、調理用ガスでも、暖房用ガスでも、あちこちでいろいろと炭素燃料は使用されているのだから、それらと同様に扱えばいい。つまり、炭素税などを導入すればいい。
火力発電を用意しないまま、太陽光発電ばかりに注力すると、夕方から深夜にかけての夜間には、日本中で大停電が起こりかねない。現実を無視して太陽光偏重になるわけには行かないのだ。
※ 風力の方がまだしも安定性はある。
【 関連項目 】
1日の電力量の変動は、どんなフラフになるか? これについては、2011年のグラフがある。
→ 東電の電力状況(2011年): Open ブログ
そのうち、特に7月9日のグラフを示すと、下記だ。

※ 青線は前年同月の数値で、ピンク線は前日の数値。
上記のリンクで解説しているとおり。
電源種別ごとに料金に差をつけたくても、送電線や配電網が一緒なので難しのでは。周波数も保たなくてはならないし。太陽光の発電状況に合わせて需要家開閉器を遠隔でON-OFFしてしまいますかね。
※ 舌足らずでごめんなさい。
なお、小売り料金は、5〜15円ということはありえず、24円前後となります。さらに基本料金を追加。