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この件については、先に言及した。次の趣旨。
「熱海市の土砂崩れでは、盛り土を構築した会社が犯人と目されて批判されているが、むしろ真犯人は、盛り土を構築してよいと許可した誰かだろう。
それは自治体だろうと思えたが、実は、1ヘクタール以下の土地は許可が不要で、届け出だけで済む。そういう法律の不備がある。
ただし、現実には1ヘクタール以上の開発がなされたので、その時点で違法性が発生した。それを放置した自治体(静岡県)に問題がある」
→ 盛り土を許可した真犯人: Open ブログ
上記は、森林法の観点から考察した。
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一方、新たに別の法的観点が思い浮かんだ。
・ 市街化調整区域では宅地開発は不可では?
・ 災害警戒区域 では宅地開発は不可では?
この二つの疑問が浮かんだので、調べてみた。
市街化調整区域
市街化調整区域という法的規制がある。
市街化調整区域は、インフラの整備が遅れたり生活施設から遠かったりするので土地が安価です。
しかし、住宅などを建設する際には、各都道府県知事から開発許可を取ることが必要です。
( → 土地の種類は?地目変更はどうすればいい?|不動産コラムサイト【いえらぶコラム】 )
このことからして、例の盛り土のあたりは市街化調整区域になっているのだろう……と推定したのだが、実際はそうでなかった。
「線引き」とは何でしょうか。都市計画法における線引きとは、都市計画区域について、市街化を促進する「市街化区域」と、開発を規制する「市街化調整区域」の2通りのエリアに分けること。線引きされた市町村は「線引き自治体」、そうでない市町村は「非線引き自治体」と呼ばれます。
( → 八街児童死傷事故 「非線引き自治体」とは何か? | 千葉日報オンライン )
集団下校事故があった八街市は「非線引き自治体」なので、「市街化区域」と「市街化調整区域」との区別がなされていなかったそうだ。その結果、乱開発されて、まともなインフラ整備がなされなかったそうだ。
非線引き自治体は開発規制が緩く、基本的にはどこでも住宅が建てられます。
規制の緩さから開発が広範囲かつ無秩序に行われてしまい、結果的にインフラ整備が行き届かず非効率な街となってしまうことも少なくありません。このような現象は「スプロール現象」と呼ばれます。
八街市はそのスプロール現象に悩まされた典型的な地域と言えます。
( → 同上 )
では、熱海はどうか?
熱海市は、全域が非線引き都市計画区域となっており、3,000平方メートル以上の「開発行為」を行う場合は、都市計画法の規定により静岡県知事の許可を受ける必要があります。
なお、平成18年4月1日より、静岡県から熱海市に権限が移譲されました。
( → 都市計画法による開発行為|熱海市公式ウェブサイト )
熱海は全域が「非線引き」であるのだから、市街化調整区域の規制はかからない。
ただし都市計画法により、3,000平方メートル以上の開発は規制がかかる。今回は、0.9ヘクタール(= 9,000平方メートル)の開発なのだから、規制がかかることになる。
開発の届け出は 07年3月なので、熱海市への権限委譲はなされていなかった。権限は静岡県にあった。
結局、結論はこうだ。
「現地は山林部だが、市街化調整区域ではないので、市街化調整区域としての規制はない。農地転用などもやり放題だ。とはいえ、3,000平方メートル以上の開発は県知事の許可を得る必要があるのに、届け出だけで済ませていた。これは違法である可能性がある」
ただし前出項目では、「森林法は、造成面積が1ヘクタールを超える場合は都道府県知事の許可を得なければならないと規定している」という森林法の規定を示している。
この規定は、すぐ上の規定とは矛盾する。どちらの規定が優先されるのかは、はっきりとしない。
※ ただし今回の事例では、(二つの規定の)どっちにしても違法である。届け出時には1ヘクタール未満だったが、途中で1ヘクタール以上になったからだ。
土砂災害警戒区域
次の法的規制がある。
山林や原野、雑種地は農地転用をせずに建物の建築が可能です。
しかし、土砂災害警戒区域に指定されていることもあり、場合によっては建築できないことも。
( → 土地の種類は?地目変更はどうすればいい?|不動産コラムサイト【いえらぶコラム】 )
農地転用には(市街化調整区域として)法的規制がかかるが、山林の転用にはもともと法的規制がかからないらしい。
これは意外だった。日本中の山林は、どこもかも勝手に伐採してから、宅地にすることもできるし、ソーラーパネルを設置することもできるわけだ。(ただし大規模な面積になると、開発規制がかかる。)
ところが、それにも限度がある。土砂災害警戒区域に指定されていると、山林の転用ができないのだ。
では、今回の事例では? まさしく土砂災害警戒区域に指定されているという報道があった。
今回、熱海市で土石流が発生した場所は、「土砂災害警戒区域」に指定されていました。
( → 熱海の土石流、発生場所は「土砂災害警戒区域」(メ〜テレ(名古屋テレビ)) )
とはいえ、これは1行だけの情報で、出典がない。出典を調べてみる。
→ 熱海市土砂災害ハザードマップ (PDF)
該当の図(一部抜粋)を、衛星写真とともに並べて示す。
上の図の × の箇所が、盛り土の場所だ。(私が記入した。)
そして、ここは、着色された区域には入っていない。その少し北側の道路のある区域が、「警戒区域・土石流」(薄橙色)に入っているだけだ。
とはいえ、道路のある区域は「警戒区域・土石流」(薄橙色)に入っているのだから、このあたり一帯は開発規制がかかっていて、開発不能であったはずだ。(許可を得なければ。)
なのに、届け出だけで済ませて、許可を得なかったというのは、法の規定に反していると言える。つまり、違法だ。
この件は、はっきりと「違法だ」と言っていいようだ。
宅地化と盛り土
そもそも宅地化が認められるのは、道路のある部分だけだろう。
一方、盛り土のあった部分は、谷間であって、宅地化が認められる場所とは違うと言えそうだ。
このような谷間を宅地化することは、法的に可能なのだろうか? どうやら可能であるらしいが、それは法的な欠陥であるとも言える。
というのは、次の疑いがあるからだ。
「谷間を埋めるという方法で宅地化をするのは、ものすごく危険な宅地造成なので、現実的にはなされそうにない。ただし、宅地化をするという名目で、産廃の投棄地として利用することは考えられる。
とすると、今回の盛り土の場所は、もともと(宅地でなく)産廃の投棄地として利用されることが目的だったのだろう。ただし、あからさまにそれを口に出すと問題視される。そこで、宅地造成という名目で、隣に土地の造成をしながら、それと一体化して開発することで、産廃投棄地という本来の目的を隠蔽する」
これが今回の真相だったとも思える。つまり、「宅地開発に名を借りた産廃投棄地の開発」である。
なお、どうしてそういうことをしたかというと、この業者が大量の産廃を排出していたからだ。
→ 熱海“盛り土”会社 小田原で11か所造成(日本テレビ系(NNN))
土地開発をした不動産会社が、小田原市内の 11箇所でも土地造成をしていた。とすると、既存の建物の取り壊しなどで、大量の建設残骸という産廃を出していたことになる。その処分のために、産廃の投棄地を必要としていたのだ。
盛り土を造成した業者は、同じころに熱海市内の別の2か所で行った工事でトラブルを起こしていたという証言が相次ぎました。
盛り土から山を隔てて、南西に約1キロの場所では、同じ業者が、平成20年からよくとしにかけて、古い建物を解体し土地を分譲するための工事を行っていたといいます。
( → 盛り土を造成した業者 熱海の2か所でトラブルの証言|NHK 静岡県のニュース )
「古い建物を解体し」とある。やはり、建設の廃棄物を出していたわけだ。(こちらは熱海市内の産廃)
こうして「産廃の投棄地としての場所」として、例の盛り土の場所が活用されたのだ、とわかる。それが本当の目的だったわけだ。
- 《 加筆 》
「小田原と熱海とでは距離があるのでは? 小田原の産廃を熱海に捨てるのは無理では?」という疑問があるかもしれない。だが、地図で見ると、小田原南部から盛り土(産廃投棄地)までは、「自動車で 31分、距離で 17km 」とわかる。
→ Google マップ
この程度の距離ならば、楽に運べるだろう。
※ なお、この不動産業者の開発する土地は、発展した市街地ではなく、山奥ばかりらしい。上の NHK 記事からもわかる。熱海と小田原で活動しているところからして、小田原でも南部で活動していたと推定される。
真実の判明
結局、こう言える。
「宅地開発のために盛り土をした」というのが届け出の内容だったが、実は、産廃投棄のために盛り土をしたのだ。
これは偽装だ。その偽装を、多くの人は見抜けないまま、「盛り土が悪い」「土地開発が悪い」と批判する。だが、それでは、詐欺師にだまされたままだ。「盛り土工事」「土地開発」は、あくまで偽装なのである。むしろ本質は、「産廃投棄」なのだ。
そして、その本質を「宅地開発」という偽装で実行した場合には、偽装による産廃投棄を止める法的規制はない。せいぜい規模の点で「知事の許可が必要だ」という弱い規制があるだけだ。
現状では、山林の土地開発が大甘である。それを利用して、産廃投棄が偽装によってなされているのである。
https://news.yahoo.co.jp/articles/808b53d6df64d757975234cd4f915a786c1220a9
⇒ この記事は私もチェックしていましたが、筆者の認識には少し間違い(単なるタイプミスかも)があると思います。正しくは、「熱海で問題の盛り土を行った、小田原市の不動産(管理)会社が、小田原市内の11か所で土地造成をしていた」です。
もちろん、小田原で発生した残土を熱海のほうまで運んできた可能性もありますが、それは効率が悪いので、小田原の残土は小田原で処分したのでは。いっぽう記事によると、(小田原の)11か所のうち4か所は、宅地として造成して実際に使用されているようなので、「宅地開発をかくれみのとして、産廃と残土の処分目的としてその土地を利用したのではない」と主張するのかもしれません。まあ、宅地造成らしきことを途中までやって放棄した土地(箇所・面積)が多ければ、いずれボロが出るでしょうが。
(誤)熱海市内の 11箇所
(正)小田原市内の 11箇所
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新たに 《 加筆 》 の箇所を付け足しました。小田原南部から熱海まで 31分、と記しました。
(下の記事より引用)土石流が流れ込んだ国道135号沿いで暮らす別の男性(73)も10年ほど前、土砂を積んだ横浜ナンバーの大型ダンプが連なって、山へ上っていくのを何度も目撃したという。
https://news.yahoo.co.jp/articles/898e174b730ed077c1c61368848becddb3d28191
(下の横浜市のサイトによると)横浜市は「盛り土」のメッカかも。中ほどの地図のピンク色部分が全て、谷埋めの盛り土のようです。この「大規模盛り土造成地」は(横浜)市内3,271か所! 手慣れたものでしょう。
https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kenchiku/takuchi/kento/kihon/morido.html
ということは、小田原市内に限らず、遠くからの産廃が来ることもある、ということですね。
他社(横浜市内)の産廃も受け入れていたのかも。
どっちみち、盛り土の場所の開発は、産廃投棄が主目的だったようです。
> 谷埋めの盛り土
は、正しくは原典にあるように
> 大規模盛土造成地を抽出(谷埋め型は、調査データの精度の関係から高さ2メートル以上のものを含む一連の盛土部分を抽出)
です。谷というよりは、窪みですね。横浜市は、起伏の多い土地が多いからです。この件は、前にも記したとおり。
→ http://openblog.seesaa.net/article/476535905.html
→ http://openblog.seesaa.net/article/478416704.html
起伏が多いといっても、原則としては平野部なので、土砂崩れが起こるような盛り土の場所は、ほとんどないでしょう。
あるとしたら、谷を埋めるのではなく、高い丘を階段状に削って、その一部を盛り土にした場合。
こんな感じ。
→ http://openblog.seesaa.net/article/462017851.html