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その誰かというのが、ここに盛り土をつくっていいと認めた。だから、会社は盛り土を作ったのだ。とすれば、真犯人は、そういう許可を与えた誰かであろう。……そう思って、調べてみた。
すると、意外なことが判明した。その誰かというのは nobody なのである。というのは、次のことがあるからだ。
森林法は、造成面積が1ヘクタールを超える場合は都道府県知事の許可を得なければならないと規定している。一方、対象の土地が1ヘクタール以下の場合は市町村への届け出で済み、許可を得る必要はない。県などによると、不動産管理会社は07年3月に市へ届け出て翌月受理された。
静岡県熱海市伊豆山の大規模土石流で、起点の土地に不適切な盛り土をした神奈川県小田原市の不動産管理会社(清算)が、許可を必要としない約 0.9ヘクタールの面積で造成計画を届け出ていたことが10日、静岡県への取材で分かった。熱海市が届け出を受理した直後、同社は土地を許可が必要な1ヘクタール超に拡大し、その後、盛り土に産業廃棄物をまぜるなどの不適切な行為も繰り返した。県は、当初から届け出より広い面積に盛り土をしようとした疑いがあるとみて、詳しい経緯を調べる。
( → 不適切な盛り土、許可不要な面積で届け出 直後拡大 - 産経ニュース )
法律の穴を突いたわけだ。とすれば、こういうふうに法律の穴を突くっておいた立法府が悪い、と言えそうだ。
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だが、それだけではない。届け出が約 0.9ヘクタールなのに、その後に拡大して1ヘクタール超にしたのなら、その超過分は、明らかに違法である。とすれば、違法行為を認めて、自治体(県)は業者を処罰するべきだった。
ところが現実には、処罰はしなかった。せいぜい「指導」があっただけだった。
→ 「盛り土」過去に是正指導 届け出量の1.5倍か―県条例違反疑い:時事
→ 熱海 土石流 “盛り土”造成工事で過去に県と市が事業者を指導| NHK
→ 熱海市土石流起点の盛り土 是正指導していたと静岡県が明らかに|TBS
→ “盛り土”静岡県・熱海市が是正指導何度も…副知事「工法不適切」)
森林法の規定はどうか? 少なくとも懲役刑や罰金刑はあるようだ。
第二百六条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
一 第十条の二第一項の規定に違反し、開発行為をした者
二 第十条の三の規定による命令に違反した者
三 第三十四条第二項(第四十四条において準用する場合を含む。)の規定に違反し、土石又は樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為をした者
( → 森林法 | e-Gov法令検索 )
とすれば、これらの処分を下すことで、開発行為を止めるべきだった。指導なんていう甘い措置を取っていたことが、違法行為の放置と、土地の売却を招いた。
今回の「盛り土」の土地は、2007年に「県土採取等規制条例」の届け出と「県風致地区条例(当時)」の申請が出され、いずれも熱海市によって受理、許可されている。
しかし、その後、周辺の住民とのトラブルが相次いだため、市の職員が頻繁にチェックしていたところ、盛り土に木くずや建物の柱などの産業廃棄物が含まれていたことがわかり、市は県と一緒に廃棄物を取り除くよう指示していたが、取り除かないまま業者は土地を手放し、現在の所有者が産業廃棄物などを含む残土を取り除いたという。
( → 熱海市“盛り土” 過去に産業廃棄物トラブル 詳細明らかに(Daiichi-TV(静岡第一テレビ)) - Yahoo!ニュース )
土石流が発生した翌日の4日に小田原市の不動産管理会社側から連絡を受けた蜂谷英夫弁護士によると、会社側は「残土を搬入したけれど許可を取っているので問題はない。責任はない」と語ったという。現所有者(前会長)の代理人の河合弘之弁護士によると、購入時に盛り土の説明はなく、前会長は盛り土の状況も把握していなかったとされる。
盛り土があった土地を巡って、県や熱海市は行政指導を繰り返しながら、是正を強く促す命令を出す対応には至っていない。違反を重ねていた会社への対応として適切だったのか、検証が求められている。
( → 「被害拡大要因」盛り土、いつ誰が 繰り返された法令違反と指導 | 毎日新聞 )
毎日新聞の最後の指摘が、本項の趣旨と合致するようだ。(私が真似したわけじゃありません。偶然の一致。ここまで書いてきて、調べたら、今気づいたばかり。)
ともあれ、この行政の不作為が、今回の被害の本質(真犯人?)だと言えそうだ。
【 関連項目 】
本項の続編があります。
→ 盛り土の法的規制は?: Open ブログ
本当に勉強になります。
そして、行政の不作為に強い憤りを感じます。
霞ヶ関、永田町、国家が伏魔殿。