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問題提起
この件については、前項の末尾で、次のように述べた。
最初に崩落するのは、あくまで斜面の一番下である。その後、順次、引きずられる形で、下から順々に崩落していく。
そんなことは、斜面に積み木を並べて考えれば、すぐにわかることだ。
これに対して、前項のコメント欄で、疑問が寄せられた。
専門家のコメントの紹介という形だが、次の順序で起こったのではないか、というのだ。
・ 盛り土部分がまず全体崩壊して
・ その土石流が標高の低いエリアの地層を順々にえぐり取っていって、
・ 土石流の規模(土砂の量)を増しながら流れ下っていった
なるほど。その可能性はある。上端が崩壊してから、その土石流が次々と下方の流域を巻き込んでいく、というわけだ。ちょっと雪崩のようでもある。
この場合は、全体が崩落したのは上端の盛り土部分だけである。それより下方では、全体が崩落することはなく、表層だけが次々と巻き込まれていったことになる。
では、本当にそうだったのか? 検証してみよう。それには、空撮映像を見ればいい。
空撮映像
(1) 盛り土部分
盛り土部分は、まさしく全体が崩落した。そのことは、崩落したあとの跡地を見ればわかる。
たくさん積まれていた盛り土がすべて消失しており、一帯が大きくえぐられたようになっている。
ここでは、あとになって積まれた盛り土だけが崩れたのではない。この地帯の全体が、地層の深部の方まで根こそぎふうに崩落したことになる。これはまさしく、全体が崩落したことを意味する。地滑りだと言える。
(2) 盛り土以外
土砂崩れの上端では、盛り土の部分で全体崩落があったとわかった。では、上端以外の場所ではどうか? 谷間の上端でなく、中部や下部はどうだったか? 次の二つの可能性がある。
・ 中部や下部は、表層だけが巻き込まれてえぐり取られた。
・ 中部や下部も、深層まで根こそぎふうに崩落した。
先の専門家の見解は、前者だった。
一方、後者の可能性もある。
実際はどちらだったか? それは空撮映像を見ればわかる。
まずは静岡県のドローン撮影を見る。
これを見ると、中部も深部まで根こそぎ崩落したとわかる。
では、中下部はどうか? 朝日新聞の空撮映像を見よう。
中下部は、次のようになる。
反対側から見ると、こうなる。
一方、下端のあたりは、崩落した箇所がない。(実際はあるのかもしれないが、規模は小さいし、そこは土砂に埋もれてしまっているので見えない。)
以上をまとめると、こうなる。
・ 上端では、全体的な崩落がある。
・ 下端では、全体的な崩落がない。
・ その中間では、「全体的な崩落」が中規模にある。その規模の大きさは、上部から下部へと、なだらかに変化していく。
以上が、空撮映像から判明したことだ。
考察
空撮映像を見て、考察しよう。
この空撮映像からは、これまでの説はすべて否定されるとわかる。
(1) 前項では、積み木型のモデルで示したが、下部よりも上部で圧倒的に広い崩落が起こっているので、積み木型のモデルではうまく説明できない、とわかる。
(2) 先の専門家の説では、表層だけが巻き込まれてえぐり取られたことになるが、そうでない。深部まで根こそぎ崩落しているからだ。
仮に、雪崩のような形で土石流が起こったのだとしたら、 V 字の斜面の最下部(谷川のそば)だけが地層を剥ぎ取られて、 V 字の斜面の上部では地層を剥ぎ取られなかっただろう。しかし、流域の下部だけでなく、上部のあたり(盛り土のすぐ下のあたり)でも、V 字の斜面の上部で地層を剥ぎ取られている。とすれば、ただの「巻き込まれ型」の土石流があっただけではない、とわかる。
結局、積み木型のモデルも、先の専門家の説も、どちらも駄目なのだ。では、正しくは?
新たな説
判明したことをすべて説明できるように、新たな説を出そう。次のように。
まず、通常の地滑りと比較する。通常の地滑りとは、阿蘇の土砂崩れのようなものだ。
→ 阿蘇大橋の衝撃: Open ブログ
この場合には、先の積み木型のモデルが成立する。斜面の全体が一挙に崩落するわけだ。
ただし、阿蘇の場合と今回の場合とは、決定的に違うことがある。それは、次のことだ。
「今回は、全体が谷間になっていて、V 字の斜面をもつ。仮に地滑りが起こるとしたら、上流から下流に向けて地滑りが起こるのではなく、V 字の斜面の上端から下端に向かって地滑りが起こる」
このことが決定的に重要だ。
先の積み木型のモデルは、V 字の斜面については成立する。この斜面の上端から下端に向かって地滑りが起こるだろう。そのことで、この部分の全体が根こそぎ崩落することになる。だから、上部でも中部でも、根こそぎ崩落したような形になったのだ。
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ではどうして、この崩落が起こったのか? それが問題だ。
仮に、伐採地からの降水が流れ込んだのが原因だったとしよう。その場合には、V 字形の斜面の片側だけ(南西側だけ)が崩落したはずであって、もう片側は崩落しなかったはずだ。しかし現実には、両側がほぼ等しく崩落している。
とすれば、原因は次のことだろう。
「最初に盛り土部分が一挙に崩落して、そこから生じた土砂崩れが、 V 字形の谷間を、上流から下流に流れていった。このとき、V 字形の谷間の下部がそぎ落とされるのにつられて、V 字形の谷間の上部も引きずり落とされた」
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なお、このような崩落(V 字形の谷間の上部も引きずり落とされたこと)の理由は、大量の降水であるが、伐採地から寄せてくる地下水も、大きな影響があったはずだ。
このことは、次のことから推定できる。
「 V 字形の谷間の伐採地側では、滝のような水が 10本以上も流れ落ちている」
出典は前出項目だ。
滝のように流れ落ちる地下水は、3本だけでなく、もっとたくさんあるとわかる。10本以上ありそうだ
( → 静岡の土砂崩れ・続報: Open ブログ )
こういう滝のような地下水が、崩落に大きく影響したことは、まず間違いないだろう。
特に盛り土の箇所では、V 字形の全体が埋め尽くされていたので、V 字形の斜面の双方がいっしょに崩落することになる。そこに、地下水は大きく影響したはずだ。
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さらに、注意するべきことがある。こうだ。
「今回の崩落のあとでは、V 字形の斜面は、ほとんど垂直に近いほどにも、切り立った斜面になっている」
これは、雪崩のような現象とはまったく異なる。雪崩のような現象(通常の土石流)では、それが終わったあとでは、ほぼ水平に近い斜面が残るはずだ。残渣が下方に残るからである。
一方、今回は逆に、V 字形の斜面はほとんど垂直に近くなっている。これは、ひどい崩落があったことを意味する。
そして、そのことの主たる原因は、地質構造だろう。この件は、先に述べたとおり。
→ 静岡の土砂崩れ・続報: Open ブログ
該当ツイートを再掲しよう。
熱海で土石流が発生した場所を地理院地図の土地条件図で見たところ、ちょうど土石流堆のところだった。 pic.twitter.com/H1SCBzJBrt
— ひろみ (@hiromi_tr) July 3, 2021
その図だけを示す。
黄色い Ψ 型の中央部が、左上に向けて延びている。そこには
[水] [水]
という記述がある。ここが土石流帯の崩れやすい部分だ。再掲しよう。
土石流堆
斜面上方の山崩れによって生じた土石あるいは渓床に堆積していた土石などが大量の水と一緒に渓流に沿って流下し(土石流),山麓に堆積して形成された地形.土石流堆の見られるところは,土石流による災害の危険性があります.
( → 山麓堆積地形 )
ここでは山麓の部分だけが警告されているが、谷間の部分だって同じように危険なのだ。
つまり、図の黄色い細長い部分は、細かな土石などが堆積していて、流れやすい構造物となっている。そこが水を含むと、堆積していたものが一挙に流れ落ちる危険があるわけだ。
今回はまさしくそうなった、と推定される。
※ 堆積物は、近年になって積もったものなので、流失しやすい。何万年〜何十万年も前からある土壌ならば、しっかりした固まりになっているだろうが。
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結局、以上をまとめると、今回の崩落には、さまざまな要因があったことになる。
・ 盛り土が崩落した (きっかけ)
・ 盛り土の土石流が流れていった
・ 盛り土の土石流が谷底を削った
・ V 字形の斜面で崩落が起こった
・ 伐採地からの地下水が大量にあった
・ 盛り土の箇所に、地下水は大きく影響した
・ 谷底には土石流堆があって、流されやすかった
なお、盛り土と伐採地は、どちらも同じ会社の所有になる。だから原因は、同じ会社の事業(つまり伐採)であったと言える。とすれば、崩落の原因はメガソーラーであった、と言っていいようだ。この件は、次項で述べる。
@ 本稿で、空撮映像〜(2) 盛り土以外〜「中下部」として示されているエリアのうち、「中部」までくらいは、最初に盛り土があったエリアに含まれるかもしれません。報道によっては、この盛り土があったエリアは、横幅約100m×長さ約200mなどとされているので。
A また、崩落エリアの大部分についても、災害発生当日から多くの専門家は、空撮映像をもとに「表層のくずれではなく、深層崩壊(深層での地すべり)である」と指摘していました。上端付近に盛り土があったという情報が出る前からです。それは、崩落による欠損部の深さが最大数十mもあり、かつ上端部が最も急傾斜であると目測できることからです。なお、斜面崩壊の典型的モデルは「円弧すべり」といって、崩落後の(鉛直方向の)断面形状は円弧状にえぐれたものとなるようです。
B つまり、前項のコメントで私が紹介した専門家の見解のうち、「・ 盛り土部分がまず全体崩壊して」というのは、「盛り土のエリアがまず全体崩壊して」という意味であって、「従来地層を含まず後から積み上げた盛り土だけがまず崩壊して」ということではありません(表現が不適切だったかもしれません)。盛り土の存在によって周辺の水の流れも変わっていたでしょうから、盛り土の下の従来地層のどこかに水がたまり、そこが滑りやすくなりかつ水圧で剥離して、一気に盛り土とその下の地層が滑って崩壊したメカニズムが考えられます(前項のコメント:Posted by かわっこだっこ at 2021年07月06日 11:20 を参照)。
※ここでは、長さ約200メートル、幅約60メートルとされています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/592e99f0ad5950563aad09cc34bb8cf8e604aa6f