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電車が停電でストップして、乗客が車内に長時間、閉じ込められた、という事例があった。
JR山手線など首都圏の6路線で20日夕、4時間余り運転を見合わせるトラブルがあった。乗客は電気やエアコンが消えた車内に最大3時間近く取り残され、SNSには「もっと早く降りたかった」などの声があふれた。国土交通省がJR東日本に検証を指示する事態となったが、降車させるかどうかは判断が難しいのが実情で、鉄道各社は新たな「停電対策」に乗り出している。
JR東によると、停電が起きたのは20日午後5時33分ごろ。原因は東京都渋谷区にある変電所のトラブルだ。送電用ケーブルのカバーが数センチにわたって破れ、漏電が起きた影響で送電が自動停止したという。
最終的に復旧したのは約4時間後。山手線のほか、湘南新宿ラインや埼京線、中央線など首都圏の6路線が止まり、16万人に影響が出た。山手線と湘南新宿ラインでは6本の列車が駅間で止まり、約4千人は車内で待機した。動かない車内は停電でエアコンも効かず、トイレもなかったため、乗客とみられる人らが「蒸し暑いのがつらい」「尿意と戦いが始まりそう」などとSNSでつぶやいた。中には「結局降りるのなら、もっと早くに降りたかった」という声も。
( → トイレもエアコンもない車内に缶詰 JRトラブルのなぜ:朝日新聞 )
問題は、対策だ。この記事では、対策として、バッテリーが掲げられている。
鉄道各社が近年導入を進めているのが、2018年6月の大阪北部地震で指摘された、駅間で停電しても、最寄り駅まで自走できる走行用のバッテリーを搭載した車両だ。
ただ、既存の車両に新しく積むには、システムの改修や車両の重量への影響など、技術的な課題がある。JR東では現在横須賀・総武快速線のみの搭載で、トラブルのあった路線にはまだない。
既存の車両には使えないのであれば、短期的には対策にはならない。(何十年もかかる、長期的な対策になるだけだ。)
では、どうすればいい?
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ここで、問題の根源を考える。
本来、停電というのは、起こらないはずだ。なぜなら、電力の供給の系統は、網状の供給網ができているからだ。これなら、一箇所が途切れても、迂回する形で、電力を供給することができる。
安定供給への取り組み
送電線ルートを網の目状に設置し、1つのルートが使用できなくても他のルートで送電可能なよう、災害に強い供給網を整備しています。また、停電発生時には、自動停電復旧システム、24時間常駐の運転員による系統切り替え操作、および、常駐保守員が被災現場に出向し、現地で応急復旧を行うことにより、停電エリアの極小化と停電の早期解消に努めております。
( → 供給網の整備|安定供給力|東京電力パワーグリッド株式会社 )
図もある。

出典:日刊工業新聞から(転載?)
おおまかではあるが、供給網があることがわかる。
今回は、渋谷の変電所で問題が起こったようだが、通常の停電であれば、これほどの広範囲の停電は起こらなかったはずだ。
ではなぜ、これほどの広範囲の停電が起こったのか? それは、漏電だからだろう。漏電が一箇所で起こると、それとつながる全系統が駄目になる。電力を供給すれば供給するほど、ショートして、ショート電流が流れるからだ。こうなると、「停まった電力の代わりに、供給網から電力を流す」という方法は使えない。漏電した箇所を突き止めて、修理するしかない。かなりの時間がかかることになる。
困った。どうする?
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そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「電車を止めて、そこから乗客を降ろす」
これは実は、うまい方法というより、最も初歩的な方法だ。しかし通常は、この方法を採れない。なぜなら、次のことがあるからだ。
確かに停電などでの電車不通時に早く避難できることに越したことはないですが、一度でも線路上を歩かせると安全確認に時間がかかって運転再開に時間がかかるようになるので難しいところ #nhk #おはよう日本 pic.twitter.com/kg7fdivi8v
— HiRO (@MDB_HiRO) June 21, 2021
「一度でも線路上を歩かせると、安全確認に時間がかかって、運転再開に時間がかかるようになる」
とある。これは事実だ。このことがあるがゆえに、通常は、電車が止まっても、乗客を線路に降ろしてはいけないのだ。こんなことをすると、一本の電車が(たまたま故障で)止まっただけで、同じ路線の列車がすべてことごとく止まるハメになるからだ。(危険を避けるために電源を切る必要があるので。)……つまり、一つだけの停車が、全部の停車に拡大してしまうからだ。
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ところが、である。
このような問題は、今回の事例には、起こらないのだ。なぜなら、もともと全部の停車が起こっているからだ。もともと全部が停まっているのだから、「一つが全部に拡大する」という心配はしなくていいのだ。
換言すれば、もともと全体が停電しているのだから、「全体が停電しかねない」という心配はしなくていいのだ。
これをわかりやすく言うと、次のようになる。
「電車が一本だけ停車したときには、乗客を電車から降ろしてはいけない。しかし、電車がすべて停車したときには、乗客を電車から降ろしていい」(全体が停電していることを確認した上で、だが。)
これを換言すると、こうなる。
「ひとつの件に当てはまる常識は、全体の件に当てはまるとは言えない。一事が万事とは言えない」
要するに、「常識にとらわれてはいけない」ということだ。
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こうして、上のツイートの常識は忘れていい、とわかる。その上で、次のように結論するといい。
「全体の停電が起こったときには、なるべく速やかに、乗客を電車から降ろすべきだ」
今回はどうだったか? かなり時間がたったあとで、乗客を電車から降ろした。
車内に係員が来て、前方から降りて、とのこと。乗務員室と乗客ドア1箇所から。男性は乗務員室から降りろと。
— 瀧泉寺電気鉄道 (@ryusenjidensya) June 20, 2021
しかしそれまでに、長い時間がかかった。上記ツイートの人の事例では、こうだ。
停車報告: 2021-06-20 17:38:56
脱出報告: 2021-06-20 20:25:50
3時間弱も列車に閉じ込められていたわけだ。途中で、次の報告もある。
「1時間経過。がんばれ私の膀胱。」 2021-06-20 18:34:23
「がんばれ私の膀胱。あとちょっとだ。」 2021-06-20 19:23:55
「膀胱がそろそろつらい。がんばれ膀胱」 2021-06-20 20:10:10
「生還しました!人間の尊敬は守られた!」 2021-06-20 20:25:50
こんなに苦しめられたわけだ。3時間もトイレに行けないのだから、大変だ。また、女性は男性に比べて、尿を止める筋肉が少ないので、尿を漏らしやすい。「人間の尊敬は守られなかった」という女性がいたかもしれない。
※ 男性だとズボンが濡れて、大変だが、女性だと、下着が濡れても、スカートは濡れずに済む。だから、バレにくい。実際には、漏れた女性はかなりいたはずだ。本人が自己申告しないだけで。
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こういう問題が起こるのだから、なるべく早く、乗客を電車から降ろすべきだ。そのためには、電車に仮設階段を常備しておくべきだ。
それが結論となる。
[ 付記 ]
細かな話をすると……
(1) 仮設階段の代わりに、ハシゴか、避難シューターでもいい。
(2) 仮設階段などの設置場所は、座席を取り外すことで得られる。現在でも、車椅子用に、座席を部分的に外している車両がある。それと同様だ。そこに器具を搭載すればいい。
(3) 大事なことは、なるべく早く判断を決めることだ。
・ 仮に原因が個別列車にあるのならば、原因はすぐに判明するだろうし、「乗客を降ろさない」という決断もできる。この場合には、停まった電車の代わりに、代用の電車を接近させて、そちらに乗り移らせればいいだろう。あるいは、代用の電車から給電してもいい。
・ 一方、原因が電力網にあるのならば、すぐに直るはずがない。電力が止まった原因もすぐには解明しないだろうし、修理する方法もすぐにはわからないだろう。そこで、「わからない」ということを、なるべく早く確認するべきだ。できれば 10分後には、「修正策はわからない」と確認するべきだ。そしてまた、多数の電車がすでにストップしていることを確認するべきだ。ここまで確認したら、「全員を下車させる」という判断を、速やかに決めるべきだ。
( ※ 今回は、それができなかった。「下車させる」という決断が出るまでに、2時間半がかかった。そこが最大の失敗だ。)
( ※ 今回は規模の点でも、電車1本だけでなく、「首都圏の6路線が止まり、16万人に影響が出た。山手線と湘南新宿ラインでは6本の列車が駅間で止まり、約4千人は車内で待機した」とある。多くは駅でうまく下車できたようだが、一部は駅間に留め置かれたわけだ。)
[ 補足 ]
現実には、別の問題があったようだ。
山手線に併走する中央線は電気が止まっていなかったので、そちらの電車は動いていた。そこで、中央線を止めるのに時間がかかったそうだ。
社員数名が来て乗客誘導の準備中とアナウンス。
周囲の電車をすべて止め次第、降りられるとのこと。
2021-06-20 19:04:33
いま中央線を止める手配中とのアナウンス。
95分経過とのこと。
暑さでちょっとぐったり。
2021-06-20 19:10:05
あ、非常灯切れた。車内真っ暗
2021-06-20 19:14:30
中央線を止めるのに時間がかかったとのことだが、いくら何でも、2時間半もかかるのは、時間のかけ過ぎでしょう。最短なら、電車が次の駅に来るまでで、10分ぐらいで済みそうだ。中央線の快速は、快速停車駅まで走らせるにしても、20分ぐらいで済みそうだ。2時間半もかかるのは、遅すぎる。
というか、中央線を止めるのに2時間半もかけた、という方針そのものが根本的に間違っている。最初の停電から 30分後には、中央線の電源そのものを落とすべきだった。そのせいで、中央線の電車がいくつか、途中停止するだろうが、かまわない。中央線の電車に乗っている人も、電車から地上に降りてもらえばいいのだ。……被害は拡大する形になるが。
その決断ができなかったせいで、他の路線では、3時間待ちという異常事態が起こった。これが真夏の真昼や、真冬の深夜なら、死者が出ていたかもしれない。
JR は、「被害者数を減らす」ことだけを目的としていたので、「深刻な被害を減らす」(人命や健康を優先する)という方針を、ないがしろにしていたのだ。これはほとんど「経営数字を優先した人命無視」に近い。根本的に方針が間違っている。
※ とはいえ、「停電事故への対策として、あえて停電事故を人為的に起こす」というのは、常識はずれの方法だ。そこまではできないのかもね。
(頭が固いと、救えるものも救えなくなる。)
【 関連サイト 】
上のツイートは、下記に連続表示されている。
→ 6月20日に起きた山手線停電による車内閉じ込めにあった体験まとめ - Togetter
https://tokutomimasaki.com/2018/07/baby-car-in-yamanote-line.html
追加で必要な物品は、@災害用の組み立て式トイレ、Aアコーディオンカーテン(ドア)、Bトイレットペーパー、C消臭スプレー、D電池式の音消し装置(音姫様?)、E窓があればそちら側の目隠しボードくらいでしょうか。
現行車両に改造を加えるところは、天井にカーテンレール?を設置するくらいです。あとは、これらの物品を普段収納しておくための棚かキャビネットを、このスペースの上部に作ってもいいでしょう。むしろ、これらを車掌室などに設置しても、いざ有事の際になかなか使われない(車掌も運転士も忙しい)と予想されるので、運悪く便意をもよおしてしまった乗客が率先して設営できるようにしておくほうがいいと思います(この程度の作業ではミスも起こりにくいし、素人がやってもトラブルにはなりにくいでしょう)。
上のURLの記事によれば、E235系(新型山手線)ではこのスペースは全車両にある(旧型でも1編成に2か所はある)ようですし、足りないということもないでしょう。もし、先にこのスペースを使っている人がいても、乗客の出入りがない状況ではここにいてもらう意味はそれほどないので、車いすの人もベビーカーも他の場所に移ってもらえばOKです。
若い女性だったら、衆人環視の中で、こんな仮設トイレに入りたくない。そんなのを見られるくらいなら、舌噛んで死んじゃいたい、と思いそう。(音だって聞こえるし。)
そもそも、問題はトイレだけじゃない。暑さや寒さの中で健康を害する高齢者も出てくる。さっさと下車させるのが最善。
トイレの問題じゃなくて、命の問題だ。夏は冷房が停まるし、冬は暖房が停まる。今回みたいに、ちょうどいい温度になるとは限らない。
⇒ そりゃそうです。そこは否定していません。ただ筆者の提案でも、状況を判断してJRが乗客を下車させ始めるのに、例えば30〜45分、そこから駅までたどり着くのにまた30〜45分かかって(足元が悪いので)、悪くすれば合計2時間近くはかかりそうです。高齢者や身障者ならばなおさら(駅員がおぶって運ぶのでしょうか?)。高齢者のことを持ち出すなら、そこもあわせてのうまい解決策を出してほしいものです。車内に3時間閉じ込められるのと、上のシナリオとでは、「真夏の昼間や真冬の深夜なら命にかかわる人も出る」という点はさして変わりません。
それと、乗客が降りれば、車内は当然ガラガラになります。その時に、線路を駅まで歩いてなんて我慢ができない人は、この設備があれば助かります(残って用を足してから歩く)。また、山手線だって、常に全区間が乗車率100%以上というわけでもなく、必要に応じてトイレ設置車両から乗客を移動させられるでしょう(衆人環視にはならないようにできる)。
私の上のコメントの冒頭では、勘違いして書きましたが、朝日の記事のバッテリーというのは、自走用のバッテリーですか。こんなのは実現性があるわけもなく、つい読み違えました。私が当初思ったのは、「エアコンと照明を最低限1〜2時間駆動できるバッテリー」ということです(これは多少実現性はありそう)。
筆者のいう「できるだけ早く乗客を電車から降ろすべきだ。そのためには、電車に仮設階段を常備しておくべきだ」というのは、当たり前のことです(今の時点でできていないほうがおかしい)。それ以外にも必要でやれることは何点かあって、例えば車内の仮設トイレはすぐできるということです。他にも、すぐにはできませんが、線路脇を歩きやすく整備するとか、駅まで歩かせるだけじゃなくて、何百mかの間隔で敷地からの非常口(普段は施錠)を設けるとか、高架だったら非常階段を設置するなどです。
あと、我慢できなければ、タチション・坐りションも「あり」です。
ちなみに、地方の高速道路で渋滞になった 8月31日の深夜に、止まっている観光バスから離れて、男も女も家族で草叢にオシッコしたことがあります。何十年も前の話だけど。
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緊急避難用であれば、仮設トイレという大がかりなものではなく、携帯トイレという簡単なやつでも済ませることができそうだ。
いったん車外に出れば、何とか使えそうだ。
たとえば
https://bityl.co/7a8t
何十年前のお話のついでですが、昔なら3時間もカンヅメなんて馬鹿なことはなかったと思います。さっさと降ろして歩かせていたでしょう。国鉄や私鉄のストの時は、早朝から線路を歩いて通勤して、そのことをテレビのインタビューで普通に答えてる人がいましたね。
https://www.jiji.com/jc/d4?p=kod907-photo1413&d=d4_oth
https://youtu.be/VrNKuCgvCMk
4K モニターで見ると、本物の電車の運転席にいる気分になる。それはさておき……
駅と駅の間には、平均して1箇所ぐらい、抜け出せる場所がある。階段だったり、踏切に似た横断箇所だったり。
詳しくは、動画を見ての お楽しみ。
技術的には可能でも、コスト的に無理。常時待機させておいたら、とんでもない金がかかる。
バッテリーを搭載した給電車の方がまだ簡単だ。