2021年06月12日

◆ 男の乳首は何のため? 

 男の乳首は何のためにあるのか? 男は授乳しないのだから、乳首は不要であるはずだ。もともと乳房もないのだから、乳首もなくていいはずだが。

 ――

 これは誰もが思いつく疑問だろう。ググっても、この疑問は多くの人が取り上げている。だが、まともな回答は見出されない。「これぞズバリ」と誰もが納得するような回答はないのだ。
 とりあえず、いくつかの説を見ていこう。


 (1) 痕跡器官?

 男の乳首は、本来ならば退化して消失するはずだったのだが、たまたま残った痕跡器官なのだ……という説がある。
 だが、この説を否定する根拠がいくつもある。

 (i)

 痕跡器官ならば、人間だけに特有に残るものであって、他の種ではそうではないことになる。たとえば、尾テイ骨のように。
 ところが現実には、オスの乳首は、人間だけにあるものではなく、哺乳類全般にあるのだ。
  → Yahoo!知恵袋
 例として、犬の画像がある。
  → Yahoo!知恵袋

 つまり、男の乳首は、人間だけにある器官ではない。ひろく哺乳類全般に共通する器官なのだ。とすれば、それが存在するだけの理由(必然的な理由)があるはずだ。ただの痕跡器官であるはずがない。

 (ii)

 男の乳首が痕跡器官であるならば、人間の前の古い種(原人や猿人や類人猿など)では、男の乳首が有益な器官として機能していたことになる。しかし、そのような進化的事実は見出されない。
 かつて、ヒトの男性(正しくは哺乳類の雄)の乳首も痕跡器官とされたこともあるが、雄が授乳する哺乳類は過去も現在も存在しないため、明確に否定されている。
( → 痕跡器官 (生物) - Wikipedia

 (iii)

 仮に痕跡器官であるなら、もっとずっと小さくて目立たないものであるはずだ。
 実際、そのような痕跡器官として乳首が見出されることがある。それは、二つの乳首ではなく、四個・六個・八個のような乳首の痕跡器官が、たまたま発現するような場合だ。
  → 副乳 - Wikipedia
  → 副乳とは:大塚美容形成外科・歯科

 これらは副乳と呼ばれる。副乳はまさしく痕跡器官と言っていいだろう。一方、普通の乳首は、痕跡器官と呼ぶには適さない。


fukunyu.gif
出典:英文ページ



 (2) 発生学的な説明 1

 発生学的に説明されることもある。
 発生の過程では、人間(胎児)はもともとは女であるのだが、そこに男性ホルモンが作用すると、女から男になる。
  → 性分化の過程 〜 男あるいは女に発育していく過程

 それはそうだ。だが、それでは答えになっていない。
 発生学的な説明は、出生前の胎児に乳首があることを説明するが、出生後の赤子に乳首があることを説明しない。発生の後期に、男の乳首は消えてもよさそうだが、そうならないことを説明しない。

( ※ 胎内の男児に睾丸や陰茎が形成されるときに、同時に乳首が消失してもよさそうなのに、そうならない。男性ホルモンの働きによって、双方が同時に起こってもよさそうなのに、そうならない。)


 (3) 男性ホルモンとメリット

 実を言うと、男性の乳首があえて消えることには、特にメリットがないのだ。メリットがないから、あえて消えることはなさそうだ。次の見解がある。
 ちなみに、男性の乳首が無くなる可能性ですが、これは無いと言って差し支えないでしょう。
 Y染色体で「乳首を作らない(無くす)」という突然変異が起きて、そのY染色体が人類全体に行き渡る可能性、科学の観点からあえて「ほぼ」といわせて貰いますが、ほぼ0です。現実だけを見るならば、絶対にありえません。
( → Yahoo!知恵袋

 「乳首がなくなると生存率が高まる」というようなことがあるはずはないのだから、そういう自然淘汰が起こることもないはずだ。


 (4) 真相

 以上でいろいろと説を示したが、どれも今ひとつ、ピンと来ない。では、真相は? そこで新たな説を、以下で示すことにしよう。

 問題の核心は、「なぜあるか?」ではなく、「なぜあのくらいの大きさで残っているのか? なぜもっと小さくならないのか?」ということだ。そこで、この点に留意して考えると、以下のように考えられる。

 実は、「男に乳首がある」という認識そのものがが正しくないのだ。(問題の前提そのものが間違っている、と言える。)
 人々は、「男と女は、別々のサイズの乳首をもつ」と思っているが、それは正しくない。正しくは、こうだ。
  ・ 男も女も、子供のときには小さな乳首を持つ。
  ・ 男の乳首はそのままだが、女の乳首は途中で巨大化する。
   (乳房が発達するので、ついでに大きくなる。)


 人々は、男と女とを対比させた上で、「女には大きな乳首があるが、男には小さな乳首がある。前者は有用だが、後者は無用だ」と考える。しかし、この認識は正しくない。
 「女には大きな乳首がある」というのは、まったく正しくない。男も女も、子供のころには共通した小さな乳首があるだけなのだ。そして、第二次性徴期になると、女の方に限って、乳房や乳首の巨大化という変化が起こる。
 したがって、「男には無用な乳首がある」という認識は正しくない。「男も女も、子供のころには共通した(小さな)乳首を持つ」というのが正しい。
 ここで、子供のころにあるのは、「小さな乳首」というよりは、「基本サイズの乳首」と言うべきだろう。男も女も、子供のころには、「基本サイズの乳首」を持つ。その後、思春期になると、女に限って、乳房や乳首の巨大化という現象が起こる。

 基本サイズの乳首と、成人女性の乳首とでは、巨大化の倍率に一定の限界がある。たとえば、百倍とか千倍とかの大きな倍率になることはない。女性ホルモンによって生じるのは、主として細胞の巨大化だからだ。(細胞の数が増えることの度合いは小さい。)
 仮にこの倍率が5倍だとしたら、将来のあるべきサイズに比べて、現在のサイズは5分の1が必要となる。というわけで、一定限度の大きさがどうしても必要になるのだ。……このことが、「基本サイズの乳首」の大きさを制限する。(ある程度以上は小さくなれない。)
 こう考えれば、「基本サイズの乳首」をもつ子供に、ある程度の大きさの乳首があることがわかる。そして、その乳首を、男性の場合もずっと持ち続けるから、成人男性は小さな乳首を持つのである。
 その乳首は、成人男性に特有の乳首なのではなく、子供の時期の乳首(基本サイズの乳首)を、成人後もそのまま持ち続けただけのことなのだ。

 「成年の男はなぜ乳首を持つのか?」
 という疑問を持つとき、人々は勘違いをしている。
 人は生まれながらにして成年男性であったわけではない。もともとは子供だったのだ。そして子供のころには、男女に共通する(小さな)乳首がある。それだけのことだ。そして、成年男性ではそれが消えなかったというだけなのだ。


 (5) 発生学的な説明 2

 最後にオマケふうに、発生学的な説明をしておこう。
 上記の説には、反論があるかもしれない。
 「男と女に、共通する乳首があるというが、外性器は生まれたときから、男と女に差があるぞ。共通する外性器なんかないぞ。だから乳首だって、初めから男女別々にあってもいいはずだ」と。

 なるほど、それはもっともらしい反論だ。だが、その反論は成立しない。なぜなら、外性器は思春期になっても特に変化しないからだ。乳房が急激に拡大するような変化は、外性器には起こらない。外性器における第二次性徴は、あることはあるが、「乳房の急拡大」のような急拡大は起こらない。
 外性器は生まれたときにすでに男女別々で完成しているので、思春期になって急変・急拡大することは起こらない。だから、両者はそれぞれ、まったく別のことなのだ。( 乳首・乳房 ≠ 外性器 )
 つまり、上の反論は、反論になっていないのだ。

 ――

 ただし、強いて言えば、次のことがある。
 男性器に女性器の痕跡が残っていることはないのだが、逆に、女性器に男性器の痕跡(みたいなもの)が残っているように見えることがある。それは陰核だ。男に小さな乳首が残っていると見えるように、女には小さな陰核が残っているように見える。いわば、男の亀頭のかわりに。

 ただし、そのいずれも、見かけだけであって、真実ではない。
  ・ 男性には乳房の痕跡が残っているわけではない。(前出)
  ・ 女性の陰核は男性の亀頭の痕跡ではない。(順序が逆だ。女性が先だ。)


 発生学的には、女性の陰核亀頭と男性の陰茎亀頭とは、相同であるが、それだけのことだ。痕跡というような話ではない。


 (6) 最後に

 最後にひとこと述べておこう。
 「男に乳首があるのはなぜか?」と問うとき、「女の乳首が本来のものであり、男の乳首はダミーみたいなものだ」と思いがちだ。しかし、それは正しくない。
 もともとは、「男の乳首が本来のものであり、女の乳首はそれを変形させることで生じたもの(二次的なもの)」なのである。その関係は、漫画で言えば、原作と二次創作みたいな関係だ。あるいは、原作漫画の「鬼滅の刃」と、アニメの「鬼滅の刃」みたいな関係だ。
 アニメの「鬼滅の刃」を最初に見て、色彩豊かで動きも見事な作品に感嘆した人は、「原作の方は必要ないね。ただの痕跡器官みたいなものだろ。なくてもいいんだよ」と思うかもしれない。しかし、それは違う。いくらアニメの方が優れていたとしても、原作がなければ、アニメは生まれなかったのだ。
 二次的な派生物の方がどれほど優れていたとしても、それは原作あってのものなのだ。「原作なんか不必要だ」と思うのは勘違いである。

 成人女性の乳房や乳首がどれほど立派なものであるとしても、それは子供のころの「基本サイズの乳首」があってのものなのだ。「基本サイズの乳首なんか不必要だ」と思うのは勘違いである。



 [ 付記 ]
 タイトルに即して言うと、「何のため?」に対する答えはない。これは、目的論で語ることではなく、原因論で語ることだからだ。
 男の乳首があることには、何らかの目的はあるわけではない。ただし、何らかの原因がある。その原因について、本項では述べた。(原因でなく理由といってもいい。)
 
 なお、「基本サイズの乳首」があったあとで、なぜそれが消失しないかというと、いちいち消失させることのメリットがないからである。この件は、(3) で述べた通り。

 
posted by 管理人 at 23:05| Comment(0) | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
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