――
少子化の原因は、保育所不足だ、と思われている。だから政府は、保育所を増やそうとしたり、育休制度を整備しようとする。マスコミもその方針を唱えている。
しかし事実は違う。そのことは数字を見ればわかる。

出典:厚労省
保育所の利用率(≒ 利用者数)は、上のように急増している。特に、2015年(平成27年)以後は急増している。
ならば、出生率は急激に上昇したか? いや、上昇するどころか、かえって低下している。特に、2015年(平成27年)以後は低下している。

出典:日本経済新聞
「コロナのせいだ」という反論もありそうだが、コロナは 20年だけだから、他の年は関係ない。また、そもそも出産には 10カ月がかかるのだから、コロナの影響はすぐには出ないはずだ。
結局、少子化の原因は、「保育所の不足」ではないのだ。
――
では、少子化の原因は、何なのか? 真犯人は、何なのか? それは、次の記事からわかる。
厚生労働省が4日、人口動態統計を発表した。20年の出生数は、90万人を初めて割り込んで「86万ショック」と呼ばれた19年の86万5239人から、さらに大きく減り、統計がある1899年以降で最少となった。
婚姻件数は前年から一気に7万3517組減った。日本では婚姻件数の減少に合わせて出生数が減る傾向にあり、今後の出生数をさらに押し下げる可能性がある。
( → 昨年出生数、最少84万人 婚姻数12%減、戦後最少に:朝日新聞 )
50歳時点の未婚率は上昇を続け、2015年には男性で23.37%、女性で14.06%を占める。背景に、低賃金の非正規雇用の広がりがあると指摘されてきた。非正規雇用者の数は2090万人(20年)と、この30年で2.4倍近くに増え、労働者全体の4割近くに達する。
内閣府の統計によれば、非正規の人の方が配偶者のいる割合は低い。25〜29歳で配偶者がいるのは、正規は3割でも非正規は1割。「30〜34歳」で正規は6割になるが、非正規は2割にとどまる。平均で正社員の7割程度の賃金が、結婚に二の足を踏む要因になっているとも指摘される。
( → 出生減、低賃金にコロナ追い打ち 「自分で精いっぱい」 :朝日新聞 )
「男性で23.37%、女性で14.06%」が 50歳でも未婚である。それほどにも未婚者が多いのだ。
なお、女性の方が未婚率は低いが、これは、一人の男性が複数の女性と結婚することが多いからだ。といっても、「一夫多妻制」ふうに同時に複数の妻を持つわけではない。いったん元の妻と別れてから(離別・死別してから)、別の妻と結婚するだけだ。50歳の時点で比較すれば、男性の独身者も、女性の独身者も、ほぼ数は同じだろう。(ただし女性は、生涯のどこかで結婚を経験した人が多い。)
ともあれ、 50歳の時点では、男性で23.37%が未婚である。ほぼ同数の女性が独身である。つまり、結婚していない人の数が、それほどにも多いのだ。そのことが、少子化の原因であるとわかる。
ではなぜ、人々は結婚しないのか? その理由も、上記の記事に記してある。それは、経済的な困窮である。「自分一人でも食べていくのがやっとだ」という人が多いので、「結婚なんてとうてい無理」というふうになるのだ。

上の記事には女性の事例もある。
20歳を過ぎ、初めて就いた職が洋服店のアルバイトだった。少しでも待遇の良い仕事を求め、派遣社員としてコールセンターでも働いた。キャリアの大半は非正規雇用。勤めた職場の数は覚えきれない。手取りは月20万円前後で、次の派遣先が決まらず、収入ゼロの時期もあった。不安定な就労のなかで貯金はできなかった。
恋人はいた。結婚したら子どもはほしかった。「でも、自分の暮らしで精いっぱい。ほかのだれかを育てられるのかな」。将来が描けなかったという。
数年前、アパレルの正社員になれた。手取りは月20万円ほど。月6万円のアパートで一人で暮らす。
( → 出生減、低賃金にコロナ追い打ち 「自分で精いっぱい」 :朝日新聞 )
このような貧困の理由は、「正社員になれないこと」「非正規社員であること」である。
では、正社員になればいいか? そうしたいのは山々だが、そうはうまく行かない。社会の構造が、正社員数を極度に絞っているからだ。
就職氷河期世代だ。女性はファッションの専門学校を卒業してアパレルの正社員を探したが、面接にも進めなかった。「自己責任のように言われますが、非正規から選ぶしかなかった」
つまり、非正規社員が多いのは、個人の責任ではなく、社会的な構造が理由なのだ。その意味は? 簡単に言えば、「縮小均衡」である。国全体の経済規模が、小さなレベルで均衡してしまっているので、労働力が正規の仕事に就くことができなくなってしまっているのだ。これはいわば、経済政策の失敗である。そしてまた、「やたらと非正規を増やそう」という企業の責任でもある。
――
ここまで見れば、少子化の真因はわかる。
少子化の原因は、(保育所不足ではなく)未婚率の上昇である。そのまた原因は、非正規社員の増加(正規社員の減少)である。そのまた原因は、経済の縮小均衡である。そのまた原因は、政府の経済政策の失敗である。
だから、少子化を解決するには、保育所を増やしたり、育休率を上げたりしても、あまり効果はないのだ。それらは「まったく無効だ」というわけではないが、その効果は限定的である。「焼け石に水」というほどひどくはないが、それに近い弱さがある。
むしろ、もっと効果的なことをなすべきだ。それは、経済政策を変えて、「景気拡大」をもたらすことだ。そうすれば、経済の縮小均衡を脱して、経済は大きな規模で均衡する。そのとき、非正規社員は激減して、正規社員が増える。……ちょうど、昔の日本がそうであったように。
これこそが、少子化解消の正しい政策なのである。
※ ひとことで言えば、「対症療法でなく、根源対策を取れ」だ。マルクスふうに言えば、経済構造が社会の基盤なのである。
【 追記 】
(1) 未婚率の上昇を示すデータ。

出典:2015年国勢調査の転載
(2) 非正規社員の割合が増加していることを示すデータ。

出典:総務省統計局の転載
平成の約30年の間に、雇用者に占める非正規雇用者の割合は約2倍へ大きく増加していることが分かります。平成元年の非正規割合は約20%でしたが、平成31年には約40%と、雇用者の5人に2人が非正規雇用者となっています。平成9年の消費税増税や平成10年の金融危機の影響から景気が急速に悪化し、特に平成10年から平成15年までの5年間は非正規割合の伸び率が突出して高くなっています。この5年間の雇用者全体の内訳を見ると、正規雇用者数が減少し、非正規雇用者数が増加しています。景気の悪化を理由に、各企業が非正規化を進めたのです。
[ 余談 ]
話は変わるが、コロナと保育所の話。
コロナのワクチン接種では、保育士を優先接種するべきだ。高齢者を接種し終えたら、いきなり全年齢に拡大するのではなく、まずは保育所の職員を優先接種するべきだ。
そうして保育所の職員が接種し終えたら、保育所を開所するといい。そこで、まずは零歳児の保育を開始すればいい。零歳児はもともと隔離されているから、たがいに感染し合う危険は少ない。また、零歳児だけに限定すれば、施設は人数が少なくてガラガラになるから、たがいの距離も保てる。
というわけで、「保育士を優先接種する」というのを、提案しておこう。
※ 介護施設の職員も同様だ。
>社会的な構造
非正規にとどまらず、正規社員も所得が増えない構造的な理由を考察しているブログをたまたま見つけましたので紹介します。
===========================
『従業員の給与が上がらなかったのは「株主への配当より大事ではなかった」だけ』
https://www.financepensionrealestate.work/entry/2021/02/21/192319
『この20年、個人の所得はほとんど増加していません。その要因として、非正規雇用の増加が挙げられますが、それ自体は一面で正しいでしょう。ただ、正社員の給与もほとんど上がっていませんし、そもそも公的年金保険料、健康保険料等が増加したことで、正社員の手取りは減少しているものと想定されます。』
ソースはいろいろありそうです。例えば下記。
『姉さん女房のススメ』
https://anekon.co.jp/anesan/questionnaire/poor.html
それは疑わしいです。上記リンクは、気持ちのデータのようですが、具体的な金額を知るために、厚労省のデータを見ましょう。グラフが二つある。
https://financial-field.com/living/2019/01/07/entry-32426
男性の給与の伸びは鈍化しているが、年収 350万円弱。
女性の給与の伸びは微増だが、年収 250万円。
女性の方が大幅に給与は低いので、「所得の高い女性が、所得の低い男性を厭がる」という事例は少ないとわかります。
「自分と同程度の所得」以上を求めるだけなら、たいていの例が当てはまるでしょう。絶対額ではともに低所得でも、相対額では男性の方が上回ることが多いでしょう。
特に、保育士のように低所得の女性がかなり多いので、これらの女性は、高望みをしなければ、自分よりも高所得の男性はいくらでもいます。
仮に女性が結婚を厭がるとしても、その結果は「未婚男性増加」ではなくて、「未婚男性と未婚女性がともに増加」です。本文中に記したとおり。
結論としては、高所得の女性が男性を見下すというよりは、男女ともに貧しいのが原因だ、と言えるでしょう。
>むしろ、もっと効果的なことをなすべきだ。それは、経済政策を変えて、「景気拡大」をもたらすことだ。
→これはどういう経済政策でしょうか?需給統御理論のことでしょうか?
需要統御理論のことですね。
https://izumic.web.fc2.com/
需要統御理論のことまで知っているなら、これで十分ですが、さらに知りたければ、下記。
http://nando.seesaa.net/article/37734213.html
どういう経済政策を取るかは、必ずしも一意的に決まるわけではありません。最近話題の MMT 理論も選択肢に入ります。
手法は多様ですが、「景気拡大」という目的・結果は唯一です。そこを語ったのが、上述のこと(本項)です。
(1) 未婚率の上昇を示すデータ
(2)非正規社員の割合が増加していることを示すデータ。
いずれも グラフあり。
私が一番はじめに書いたコメントの内容と重複しますが、非正規労働者の賃金が少ないのはもちろんのこと、正規労働者も低賃金になっていることが大きな問題だと思います。
そんな中で、(何度も言われておりますが、)消費増税や教育費(特に高校と大学)が重くのしかかるような状況ならば、少子化になるのは当たり前です。