2021年06月02日

◆ 電力の安定化のためには?

 夏の電力が不安定になることについて、朝日新聞の社説が論じている。

 ――

 夏の電力が不安定(不足気味)になることについては、私も先に言及した。
  → 電力自由化で電力不足?: Open ブログ

 一部抜粋しよう。
 この5年で廃止された石油火力は原発10基分(約1千万キロワット)になる。

 原発10基分の電力(約1千万キロワット)を、あえて廃止してしまったのだ。それで電力不足になるとしたら、自分で自分の首を絞めているのも同然だ。

 ではなぜ、電力会社はそういう狂気的なことをするのか? 記事にはこうある。
 「電力小売りの自由化で経営に余裕のなくなった大手電力が、運転にコストがかかる古い火力発電所を、相次ぎ休廃止していることも要因だ」

 この記事は、5月16日だ。
 そして、本日になって、朝日の社説が同様に論じている。 
 《 (社説)電力不足予想 需給の安定へ抜本策を 》
 今年度の夏と冬に電力が不足する可能性がある。
 大手電力が、太陽光の増加で稼働率が下がった古い火力発電所を休廃止したことが大きい。
 経産省は、冬に予定される発電所の補修時期をずらしてもらうほか、休止中の火力の再稼働を求めることも検討する。
 次年度以降の抜本策の考え方も示した。火力発電の休廃止を事前届け出制にするなどして、需給に大きな影響を与える場合は実施を一時見合わせてもらうしくみを検討する。
 需給逼迫の多発は、電力自由化と安定供給の両立の難しさを示していると言える。高止まりする電気料金引き下げに市場の力を生かしながら、供給力の強化策を探らねばならない。
 例えば休止火力の再稼働や休廃止の見合わせを要請するなら、その費用はどう賄うのか。再稼働では小売り側などに負担を求める方向だが、保有設備も経営体力もバラバラな約700の小売事業者すべてに公平な制度を作るのは簡単ではない。
 年初の逼迫の教訓も生かし、今回は早めに不足の可能性と対策が示された。電気を使う消費者や企業も、生命や経済活動に不可欠な使用以外で節電の余地がないか考えたい。
( → 朝日新聞

 まったくピンボケである。「電力自由化と安定供給の両立の難しさを示している」というが、これは見当違いだ。電力自由化と安定供給は、対立する概念ではない。むしろ、電力自由化が中途半端だからこそ、この問題が起こったと言える。
 また、「年初の逼迫の教訓も生かし」というが、まったく生かしていない。責任のある電力会社の対策はなおざりにしたまま、消費者の方に節電の努力を求めている。これでは、見当違いというしかない。本末転倒と言うべきか。
 では、正しくはどうするべきか? 

 ――

 その件は、先に示した項目に示してある。基本は「臨時の供給力を確保すること」であり、「古い火力発電所を廃棄しないこと」である。
 また、前にも示した通り、需要面で「需給調整契約」を活用することが大事であり、そのためには「発送電の分離」が必要である。
  → 電力安定供給には発送電分離: Open ブログ

 ただ、以上の話では言い尽くしていないことがある。そこで、さらに補う意味で、以下のことを追加で示しておこう。

 ――

 社説では、次のように語っている。
 休止火力の再稼働や休廃止の見合わせを要請するなら、その費用はどう賄うのか。再稼働では小売り側などに負担を求める方向だが。

 ここでは、電力自由化の恩恵を受けている「小売り側」(新電電)が負担することが考慮されている。
 だが、それは駄目だ。電力不足の抜本解決には、供給側が供給を増やす必要がある(古い発電所を再稼働する必要がある)。そして、そのためには、供給の側(大手電力会社の側)が対処するべきなのであって、その供給を受ける側(新電電や家庭・企業)が対処するべきなのではない。
 朝日の言っていることは、「迷惑を受けたくなければ金を出せ」というもので、これはほとんどカツアゲに近い。こんなことだと、大手電力会社の側は、まともな努力をサボればサボるほど、多くの金を召し上げることができるようになる。ほとんどヤクザの手法だ。
 こんな反社会的な手法を認めるなんて、朝日はどうかしている。
 「さもないと電力不足になるので、背に腹は代えられない。カツアゲの金だろうと何であろうと、払わざるを得ない」
 というのであれば、もはや「ただの馬鹿」「言いなりになるだけの阿呆」「能なし」という判定を受けても仕方がないだろう。


Yokohama_power.jpg
横浜火力発電所( Wikipedia )



 では、どうすればいいか? 何か名案はないか? そこは、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
 「電力を安定させるため契約を、需要側と供給側が結ぶ。需要側は、電力の安定というサービスを受ける代わりに、そのための料金(固定額)を払う」

 これは、換言すれば、こうなる。
 「この契約を結んだあとで、電力不足になったら、電力の安定というサービスを受けられなくなる。その場合には、供給側が多額の違約金を払う」

 これを「安定契約」と呼ぶことにしよう。
 これは一種の「保険契約」のようなものである。「電力不足」というのは一種の事故なので、そういう事故に備えて、需要側は保険料を払う。そして、万が一の事故が起こったら、供給側は多額の補償金を払う。
 これが普通の「保険」と違うのは、「電力不足」というのはただの事故ではなくて、電力の供給の側がいくらでも対処できるということだ。
  ・ 古い火力発電所を整備しておけば、「電力不足」は発生しない。
  ・ 古い火力発電所を整備しなければ、「電力不足」は発生する。

 したがって、古い火力発電所を整備すればするほど、巨額の補償金を払うリスクは減るのである。
 逆に、「古い火力発電所を整備するための整備料を節約して、整備コストを浮かせよう」とすると、あとで「電力不足」によるブラックアウトが発生して、巨額の補償金を払うハメになる。

 かくて、この制度の下では、合理的な形で、電力会社は自然に古い発電所を整備することになる。そして、そのための費用は、保険料でまかなうことができる。
 これが「安定契約」の仕組みだ。

 ――

 この仕組みは、先の「カツアゲ」のような仕組みとは違う。先の「カツアゲ」のような仕組みだと、大手電力会社は、整備をサボればサボるほど、状況が悪化するので、カツアゲの金をたくさん召し上げることができる。だから、どんどん整備をサボるので、状況はどんどん悪化する。
 一方、この仕組み(安定契約)の下では、大手電力会社は、整備をサボればサボるほど、多額の補償金を払わなくてはならない。だから、整備をどんどん進めるので、状況はどんどん改善する。

 こうして「うまい案」が示された。    Q.E.D.



 [ 付記 ]
 実を言うと、話はこれで簡単に済むわけではない。余談のようなおまけの話がある。

 (1) 政府の正しい方針

 「古い発電所を廃止するな。休止するだけにせよ」
 というのが本項(および前出項目)で推奨する方式だが、政府もまた同様の方針を取ろうとした。1年前の方針だ。
  → 古い石炭火力発電所 災害に備え一部を「廃止」から「休止」に | NHK政治マガジン
 これは経済産業省の作業部会の方針であることに注意。検討したと言うだけであって、正式な決定には至っていない。まともな案があっても、それを採用するだけの頭は、政府にはないようだ。

 (2) 政府の誤った方針

 それとは逆の方針(誤った方針)を、環境省は取ってきた。「電力の安定供給よりは、炭酸ガスの減少が優先する」という方針で、古い火力発電所を廃止することを強要したのだ。
 九州を拠点にする西部ガスが大規模な火力発電所の建設計画を北九州市で進めている。この計画に対して環境省は、電力会社などの古い発電設備を代替する形で進めるように経済産業省に求めた。
( → 火力発電所を新設したら古い設備は廃止に、環境省が電力業界に要求:電力供給サービス - スマートジャパン

 これも決定事項ではない。環境省が経産省に要求しただけだ。とはいえ、こういう方針は、大手電力会社には「渡りに船」であっただろう。本心は「自社の利益のために、古い発電所を廃止したい」(運用コストを削減したい)という金目当ての経営方針だったのだが、それを愚かな環境省が側面援助してくれたのである。環境省はうまく利用されたピエロのようなものだ。
 ただしこの記事は 2014年。その後、どうなったかは、はっきりとしないが、今もこの記事が検索で上位に来ることから、情勢には大きな変更はなかった模様。
 実際、この方針に基づいて、大手電力会社は古い発電所を廃止してきたのだ。ただ、その根っこには、環境省の愚かな側面援護があったのだ、と理解しておこう。

 (3) 廃止された発電所の例

 廃止された発電所の例としては、秋田火力発電所がある。いくつかの発電設備があるが、次々と廃止されて、将来的には全部が廃止される予定だ。(クリスティの「そして誰もいなくなった」のように。)


Akita_Thermal.jpg
出典:Wikipedia


 この件は、下記記事を参照。
  → 秋田火力、23年3月廃止 唯一稼働の4号機停止へ|秋田魁新報



 【 関連項目 】

 古い発電所で廃止されそうなのは、たいていが石炭発電所である。(一部には、石油発電所や LNG 発電所もある。)
 「石炭発電所ならば炭酸ガスを多く出すので、廃止した方がいい」と思う人もいそうだが、年に数日程度のピーク時間帯だけならば、ちょっとぐらい稼働したからといって、炭酸ガス濃度が大幅に増えるわけではない。その程度のことは心配しないでいいのである。
 この件は、「ボトルネック」という概念で説明できる。下記項目の参考書籍(ザ・ゴール)を参照。
  → 電力自由化で電力不足?: Open ブログ
 
posted by 管理人 at 21:23| Comment(0) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
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