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これは以前から「ウイルス進化論」と呼ばれていて、キワモノ扱いされてきた。ところが、ごく例外的には、こういうことが実際に起こっているのだと判明したそうだ。
NHK の番組(5月13日、再放送)で示していた。
→ 「“性とウイルス” 人間を生んだ力とは?」 - ヒューマニエンス 40億年のたくらみ - NHK
世界で猛威をふるう「ウイルス」。多くの人に死をもたらす悪魔的存在だ。しかしこのウイルス、人類進化の根本に深く関わる天使の側面も持つことがわかってきた。例えば、哺乳類の胎盤に欠かせない遺伝子PEG10は、恐竜時代に私たちの祖先に感染したウイルスがもたらしたものだという。
( → ヒューマニエンス「“ウイルス” それは悪魔か天使か」 - NHK )
ここで、東京医科歯科大の石野史敏 教授が出てくるが、この人がこの発見をした人だ。
解説記事がある。
石野史敏教授らがPEG10という遺伝子を見つけたのは2000年ごろ。哺乳類だけが持つ遺伝子の中に、ウイルスにかかわる配列を探していてようやく見つけ出した。この年、胎盤で機能するウイルス由来の遺伝子がヒトと霊長類に共通して存在することが別の研究グループから報告されたが、哺乳類全体に残された遺伝子を発見したのは初めてだった。
当時、物珍しさはあったものの、そうした遺伝子に重要な機能があると考える人はほとんどいなかった。しかし、石野史敏教授らは「きっと大事な機能があるはず」と予想した。
研究は続く。哺乳類はいつ胎盤を獲得したのか。そのなぞに迫るため、石野史敏教授らは進化の過程をさかのぼってゲノムを調べていった。すると、胎盤形成に関わる遺伝子PEG10が、カモノハシなど卵から生まれる単孔類にはなく、そこから分岐し、母体から生まれるカンガルーなど有袋類やヒトなど真獣類に共通してあることがわかった。その遺伝子の配列は、まだ恐竜が生きていた1億6000万年ほど前にウイルスなどによって外から入って取り込まれた可能性を示していた。哺乳類などの祖先がまだネズミのような姿をしていたころのことだ。「胎盤を作る能力を持った生き物が生まれた時期と、胎盤を作る遺伝子を獲得した時期が全く同じだとはっきりしたわけです。進化の過程で外から入ってきた遺伝子が、生物をがらっと変えてしまうようなポテンシャルを持っていた」と石野史敏教授はいう。
(画像)
遺伝子PEG10の機能を調べるために使ったマウスの実験。通常のマウスでは胎盤が形成されるが(上)、PEG10を取り除いたマウス(下)では、不完全な胎盤しかつくられなかった
( → 脳も筋肉も、実はウイルスの助けでできている 最新研究で見えてきた世界:朝日新聞GLOBE+ )
さらに詳しい話は、研究室のホームページにある。
マウスにおいて胎盤形成に必須であるPEG10遺伝子は、LTR型レトロトランスポゾンの一種であるSushi-ichiと相同性を有する。したがって、PEG10はレトロトランスポゾンとしてゲノムに挿入された後、進化の過程で胎盤形成に関わる現在の機能を獲得したと考えられる。鳥類や爬虫類にはPEG10は存在しないことがわかっている。哺乳類特異的なこの遺伝子が、哺乳類の進化上どの段階において挿入されたのかは、胎生進化との関係を探る上で重要である。
(以下 略)
( → 石野研究室ホームページ )
この説明によると、新しい遺伝子(有胎盤類の遺伝子)がいきなり作られたわけではない。PEG10 という遺伝子が取り込まれたあとで、それを利用して(改造して)、有胎盤類の遺伝子が作られた。とはいえ、それはゼロからいきなり有胎盤類の遺伝子を作るに比べれば、ずっと楽なことだった。だからこそ、そういう大規模な進化が突発的に起こり得たのだ。
NHK の番組では、こういう大規模かつ突発的な進化が、数億年の間に3回あったと示されている。つまり、あくまで例外的な事例である。
とはいえ、そういう形で、大規模かつ突発的な進化が起こったわけだ。だからこそ、「有胎盤類」というものが、生物史上でいきなり誕生したわけだ。
※ PEG10 遺伝子は、単孔類や有袋類には存在しない。有胎盤類にのみ存在する。そして、PEG10 遺伝子は胎盤の形成に重要な働きをしており、PEG10 遺伝子の働きを止めると、胎盤の形成がうまく行かなくなる。
【 関連項目 】
ゲノム・インプリンティングについては、下記項目で説明した。
→ 異種間交雑が起こりにくい理由(ゲノム・インプリンティング): Open ブログ
レトロトランスポゾンについては、Wikipedia に説明がある。
→ レトロトランスポゾン - Wikipedia