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バイデン大統領は、北朝鮮政策を転換することにした。トランプ流ともオバマ流とも異なる方針を取る。朝日新聞に記事がある。
サキ米大統領報道官は4月30日、記者団に対し、バイデン米政権が進めている対北朝鮮政策の見直しが完了したと明らかにした。新たな対北朝鮮政策について、トランプ政権の「グランドバーゲン(一括取引)」とオバマ政権の「戦略的忍耐」のアプローチはとらないと明言。
サキ氏は「我々の目標は朝鮮半島の完全な非核化であることに変わりはない」と強調したうえで、過去の歴代米政権がこの目標を達成できていなかったと指摘。「我々の政策は『グランドバーゲン』を重視したり、『戦略的忍耐』に頼ったりすることはない」と語った。( → 米政権、北朝鮮政策を見直し 「現実的アプローチ」へ:朝日新聞デジタル )
トランプ政権の方針は、「北朝鮮が核を放棄するまで何も与えない」ということだった。
オバマ政権の方針は、「何もしないでじっと待つ」(相手が音を上げるまで何もしない)という無為無策だった。
そして、そのいずれも失敗に終わった。
私としては、「少しずつ取引をする、ギブ・アンド・テークを段階的に実施するべきだ」と思っていたのだが、そういう政策は取られなかった。
そのあと、バイデン政権が登場した。そこではどうやら、私の考えていたとおりの政策が実施されるようだ。その点では、私としては、「私の言う通りになった」と歓迎できる。

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とはいえ、それで話が終わってはつまらない。
私としては、「少しずつ取引をする、ギブ・アンド・テーク」という段階的な政策よりも、もっとうまい方法を提案したい。困ってなくても、Openブログ。うまい方法があるなら、提示するわけだ。
それは、次のことだ。
「北朝鮮が核開発の放棄を少しずつ出すたびに、米国からも制裁緩和を少しずつ出す。ただし、制裁緩和は時限措置とする。一定期間(たとえば2年間)がたてば、その制裁緩和は解除される」
こういうふうに「時限措置」があると、北朝鮮は「損した」と思うかもしれない。そこで、この「時限措置」の分は、追加で加えるおまけとすればいい。
例。「核開発の放棄を部分的に実施するならば、北朝鮮からの輸出を、年間 20億ドルまで認める。ただし、さらにおまけとして、年間 10億ドルを追加する。その追加分は、2年間だけの時限措置だ」
ここで、北朝鮮が「時限措置はイヤだ」と言い出したら、「あ、そう。だったら、おまけの分はやめておきます。これはもともとおまけなんだからね」と言って、おまけの分を引っ込める。
すると、北朝鮮は「仕方ない。時限措置であっても、ないよりはマシだ」と思って、時限措置を引き受ける。
そして、1年たったら? 北朝鮮は、こう考える。
「2年後のその日が来たら、おまけの分の 10億ドルが消えてしまう! それはすごく困る。制裁が発動されるのと同様だ。今さら 10億ドル分の輸出が消えてしまうわけには行かない。それじゃまずいので、 10億ドル分の輸出が維持されるように、さらに核開発の放棄をするように、新条約を結ぶ」
こう思うので、2年後のその日が来るまでに、いっそう大きな譲歩をする新条約を結ぶことになる。
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この方式のミソは、「生産がいったん拡大したあとで、生産が縮小すると、不況の状態になって、ものすごく大きな痛みが発生する」ということだ。
一般に、景気変動(上下の波)が発生すると、何もない平常状態に比べて、大きな損失が発生する。景気が
100 → 100 → 100
ならば何も起こらないが、景気が
100 → 110 → 90
だと、倒産や失業のような大きな痛みが発生する。
そこで、あえて後者のような状況を作り出すために、「時限措置」という方式を取るのだ。
これは「(上下する)景気変動を強制的に起こす」ということに相当する。そして、その痛みがいかに大きいかは、「バブル発生とバブル破裂」を経験した日本ならば、よくわかるはずだ。
[ 補足 ]
実は、上記の方式は、前に「泉の波立ち」( 4月13日c )で述べたことだ。
その記事の該当箇所を丸ごと転載しよう。以下、転載。
* * * *
( 独裁体制を倒すにはどうするべきか? 戦争をすればいいか? いや、それはまずい。)
[ 補説 ]
では、どうするべきか? 軍事独裁を放置するべきか? あるいは、平和的に経済封鎖で対応するべきか? 違う。そのどちらも正しくない。
私は、単純な平和主義ではない。「軍事独裁を放置せよ」とは言わない。アメリカのような暴力賛美は大嫌いだが、だからといって、平和主義者のように無為を好んでいるわけでもない。たとえば、フセイン政権は崩壊させるべきだったと思う。また、上記のミャンマーや韓国の政権も崩壊させるべきだった。── ただし、その方法が異なる。アメリカのように何千人も殺すような国家テロを、私は支持しない。むしろ、一発の弾丸も使わずに、1人の人間も殺さずに、相手国家を崩壊させるべきだった。
そんな方法はあるのか? ある。それは、経済学を使うことだ。
相手国家を崩壊させるには、経済的に完全に崩壊させてしまえばよい。そして、それは、可能である。その方法は、「極端な景気変動を起こすこと」である。
日本を見るがいい。バブルのあとで、ひどい不況になって、国民は青息吐息だ。ここでは、5%程度の景気変動にともなって、スパイラルが発生して、国家経済は非常に苦しくなっている。これよりもさらに大規模で景気変動を起こせば、国家経済は完全に崩壊する。
では、強引に景気変動を起こす方法は、あるか? ある。それは、「経済封鎖を断続的に実施すること」である。
たとえば、ミャンマーや北朝鮮(あるいは以前のイラク)に対して、こうする。
- 経済封鎖を実施する。
- そのあとで、経済封鎖を解除して、3年ぐらいかけて、経済を大幅に成長させる。
- そのあとでまた経済封鎖をして、せっかく成長させた部分をすべて崩壊させる。
- そこでまた経済封鎖を解除して、3年ぐらいかけて経済を大幅に成長させる。
- …… 以下、繰り返し。
だから、こういうことをやれば、戦争などを起こさなくても、相手国を崩壊させることができるのだ。逆に、単純な経済封鎖では、景気変動が起こらず、単なる途上国の段階に留まるだけだから、ほとんど効果がない。それは、北朝鮮、ミャンマー、キューバなどを見てもわかる。単なる経済封鎖は、ほとんど効果がないのだ。実際、キューバも北朝鮮も、60年たっても、国家は崩壊しない。
最後に言っておこう。「戦争」とか「単純な経済封鎖」とか、そういう馬鹿げた方法で国家を崩壊させようとしているのは、保守派だ。彼らは、「景気変動」という最善の破壊策を、独裁国家には適用しないで、逆に、自国に適用している。
小泉は、「構造改革」と称して、日本を不況のどん底に落としている。経済学的には保守派に属する古典派は、マネタリズムやサプライサイドという妄想を信じて、日本を不況のどん底に落としている。こういう保守派は、独裁国家を崩壊させるかわりに、日本を崩壊させようとしているのだ。
特にひどいのは、「ふたたび資産インフレを起こせ」と主張しているマネタリストだ。彼らはあえて、「バブル発生とバブル破裂」を再来させようとしているのだ。経済学的な国家破壊主義者。
( 2003年4月13日)