2021年04月17日

◆ 所有者不明の土地の法案

 所有者不明の土地がたくさんあって、処遇に困っているので、その対策をする法案が国会で審議されている。それでいいのか?

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 朝日新聞の報道から。
 誰のものかわからない土地が、九州の面積より広く存在するとされている。こうした「所有者不明土地」をこれ以上増やさないためにはどうすればいいのか。
( → 九州より広い「所有者不明土地」 解消の課題は「相続」:朝日新聞

 取引や開発を妨げる所有者不明の土地を増やさないようにするための法制の見直し案が5日、閣議決定された。法改正で相続や住所変更時の登記を義務づけて違反に過料を科し、所有権の国庫への帰属を可能にする新法をつくる。
 登記簿上の所有者がすでに亡くなっていたり、すぐに連絡がとれなかったりするケースが数多くあり、公共事業や都市開発の妨げになっている。有識者でつくる研究会の推計では、こうした土地の総面積は2016年時点で九州本島を上回る410万ヘクタールに上り、40年には北海道本島に迫る720万ヘクタールに達する可能性があるという。
 法務省によると、登記簿で所有者が判明しないケースの約34%は転居先などの住所変更が届けられていないことが原因だった。残りの約66%は、すでに亡くなった人の名義になっており、相続が発生したときに名義変更が行われていなかったという。
 そんな問題を解消するため、住所変更時や相続時の登記を義務化する不動産登記法の改正案が今国会で審議されている。住所を変更した場合は2年以内、相続した場合は相続を知った日から3年以内に登記を申請することを義務付け、違反した場合はそれぞれ5万円以下と10万円以下の過料を科すとの内容だ。
( → 持ち主不明の土地対策へ相続時の登記義務化 閣議決定:朝日新聞

 「問題を解決したい」という方向性は正しい。しかし、難点がある。「違反者には罰金を」という厳罰政策だ。そういうふうに罰を下すという方針は正しいか?
 通常、「太陽よりも北風で国民を律しよう」という方針は、あまりうまく行かないものだ。国民が法律を守らない場合には、たいていは、それなりの必然的な理由がある。その必然的な理由を放置したまま、厳罰によって強引に国民の方向を変えようとしても、1億人以上の国民が素直に従ってくれるとは限らない。
 今回の方針も目に見えている。こんな厳罰の方針を出したところで、大多数の国民は自分が違法行為をしているとも気づかないでいる(意識していない)のだから、何も知らないまま、大量の違反者が出るに決まっている。それらの大量の違反者について、個別に違反を摘発しようとしても、現行の「正統な所有者を見つけるのが大変だ」というのと同等の手間がかかるから、実行は不可能だ。つまり、大量の違反者(違法行為)が野放しにされる。……そんな制度はもともとナンセンスだ。(禁酒法と同様で、守られない法律は意味がない。)

 ――

 では、どうすればいいか? 原則的には、「北風よりも太陽を」という政策を取るべきだ。「アメとムチ」で言うならば、「ムチ」で厳しく処罰するよりは、「アメ」で誘うべきだ。
 ただし、厳密に言えば、「アメ」は利益供与の形で与える必要はない。むしろ、「問題点を根源的に除去する」という形で対処するべきだ。

 具体的に言おう。転居や相続のときに大量の「所有者不明」が発生するとしたら、それは、そのときに余計な手続き(手間暇)がかかるからだ。そんなことをいちいちやっていられない人が多いから、「何もしない」という形で、「所有者不明」が発生するわけだ。
 ここでは、問題が発生する理由は、誰かが「悪いことをしたから」ではなく、「何もしなかったから」なのである。「何もしなかったこと」を理由に処罰するというのは、筋が悪い。納税ならば、「重要度の高い義務を怠った」ということで処罰されるのも仕方ないが、「所有権の移転をしなかった」というのは、「自己の利益を得なかった」というだけのことなのだから、可罰性が高いとは言えないのだ。納税違反ならば「他人の富を奪った」という形なので悪だと言えるが、所有権の移転をしなかったのは「自分の富を得なかった」という形なので悪だとは言えないのだ。(基本的・原理的には。)

 とすれば、正しい解決策はただ一つ。こうだ。
 「その手続きを簡便にして、国が自動的に手続きをする。国民がいちいち申告をしなくても、国が勝手に自動的に手続きをする。こうすれば、手続きの漏れは生じなくなるので、自動的に問題は解決する」

 ――

 具体的には、次の二通りにする。

 (1) 転居の自動手続き

 転居の自動手続きは、現在で話されていない。自宅ならば、自動的に土地の住所と本人の住所が一致いするから問題ないが、自宅以外の投資用の資産ならば、土地の住所と所有者の住所とが異なる。所有者は自分の住所を申告するが、その後、所有者が転居すると、転居届が必要となる。転居届を出さないと、転居先不明となる。
 たとえば、東京の人が軽井沢の土地を持っているとする。その後、東京から大阪に転居すると、軽井沢の自治体は、所有者の住所が不明になるので、所有者に固定資産税の請求書を送っても、「転居先不明」となって軽井沢に搬送されてしまう。

 この問題を解決するには、二通りの方法がある。
  ・ マイナンバー制度で、本人住所を共有する。(住所が判明)
  ・ 固定資産税の徴収者を、自治体から国に移す。

 いずれにせよ、事務手続きの問題である。法改正をともなわずに、政府が事業をうまくIT化することで解決可能にすることもできそうだ。

 なお、この問題を解決しないと、転居者には固定資産税の徴収ができなくなる。それはまずいだろう。

 (2) 多数の相続人

 多数の相続人がいて、その全員の所有関係を調べるのが困難だ……ということがある。こちらが問題の大部分であるようだ。
 相続には複雑な事情が絡むため、権利関係の整理に大きな負担がかかる。土地の相続を登記する場合、法定相続人の間で分け方を決めて遺産分割協議書を作成し、全員が署名、実印を押したうえで、土地を管轄する法務局に提出する必要がある。全員分の印鑑証明書や住民票、亡くなった元の所有者の戸籍謄本などの書類もそろえなければならず、手間だけではなく費用もかかる面倒な作業だ。
( → 九州より広い「所有者不明土地」 解消の課題は「相続」:朝日新聞

 登記の手続きが面倒で費用もかかる現状を改めなければ、状況の改善は遠い。市民の立場に立った総合的な施策が必要だ。
 登記は第三者に権利を主張するために行われるもので、売買によって所有権が移転した場合はともかく、一般の相続では放置されることが珍しくない。
 法案では、相続登記について現在任意の届け出を義務化し、違反には過料の制裁を科す。所有者の住所や氏名が変わった場合も同様にする。あわせて、遺産分割協議がまとまっていなくても、法定相続人である旨を申告すれば義務を果たしたものと扱う簡易な方法を新設する。
 利用者・市民にとって、土地の価格に応じて納める登録免許税、戸籍謄本をはじめとする必要書類をそろえる手間、手続きを委任する専門職への報酬などが、登記を見送る大きな原因になっている。
( → (社説)所有者不明地 問題の重さを共有して:朝日新聞

 手続きを完了するには、このような莫大な手間がかかる。それを放置した上で、国民に手続きを義務づけるというのは、「自分がやりたくないことを、他人に押しつける」という方針だ。しかし論語にはこうある。
 「己の欲せざる所は人に施すなかれ」
 政府の方針はこれの逆だ。まったくもって駄目な方針だ。

 では、どうすればいいか? そういう無駄な手続きそのものをなくしてしまえばいい。では、どうやって? そこは、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
  ・ 不動産には、固定資産税の支払いを義務づける。
  ・ 固定資産税の支払いを3年以上怠ると、高額の課徴金がかかる。
  ・ 固定資産税の支払いを5年以上怠ると、差し押さえられる。


 このようにして、5年以上も固定資産税の支払いをしないでいた土地については、差し押さえて、競売に付して、売却すればいい。
 その後、本来の土地所有者が「あれは俺の土地だ」というふうに申し出たら、その申し出に従って、正当な額の金銭を支払えばいい。ここでは、問題は「土地の所有権」から「金銭の支払い」へと転じている。
 この支払い義務は、10〜20年ぐらいの時効にして、時効の成立以後には支払い義務がなくなるようにすればいい。

 かくて、九州にも匹敵する多大な土地が、将来的にはすべて国の所有に移ることになる。

 ※ 「差し押さえて、競売に付して、売却した土地」の代金は、国庫で預かっておくことにすればいい。こういうふうに、「本来なら人様の金を国が預かる」という制度は、何かあったような気がする。「預託金」とかいうような名称だったと思うが、うろ覚えなので、不明。
(誰か教えて。)



 [ 付記1 ]
 以上の方針だと、相続放棄地の多くは、数十年後に自動的に国のものになる。
 一方、政府の制度だと、相続放棄地を国庫に納入するには、高額の手数料(管理料の名目)が必要になるそうだ。
 望まない相続により土地が放置されるのを防ぐため、新法「相続土地国庫帰属法」で、相続人が取得した土地を手放せる制度を規定した。建物や土壌汚染がなく、担保が設定されていないなどの要件を満たせば、10年分の管理費相当額を納付のうえで、所有権を国庫に帰属させられるようにする。額は用途や面積、周辺環境などに応じて政令で今後定める。国有地の標準的な10年分の管理費は原野で約20万円、宅地(200平方メートル)で約80万円という。
( → 持ち主不明の土地対策へ相続時の登記義務化 閣議決定:朝日新聞

 しかし、土地をタダでくれてやるというのに、さらにこんなに高額の金をぶんどられるとあっては、誰もこんなことをしたがらないだろう。知らんぷりをして、所有者不明土地にした方が利口だ。とすれば、上の方針は、所有者不明土地を増やす効果にしかならない。
 では、どうすればいいか? 所有権の放棄については、「管理費相当額を納付」という制度をやめればいい。単に無償で国庫に納付すればいい。
 国としては、それによって管理費の負担が増えることもあるだろうが、売却によって相殺することもできる。また、個別の土地では赤字になることがあるとしても、制度全体では(多大な所有者土地を接収できるので)大幅黒字になるはずだ。制度全体で大幅黒字になるのだから、細かい赤字については不問にした方がいい。さもないと、調査のために莫大な経費がかかって、かえって損をする。

 [ 付記2 ]
 ()と似た愚行の例は、先の「 10万円の特別給付金」でもなされた。
 当初は単に「国民全員に給付」のはずだった。それならば簡単に済んだだろう。ところがその後、方針が変更された。実際には、「ごく少数の金持ちには、10万円の特別給付金を払わない」というふうに改訂された。そのせいで、一人一人について「所得の確認」などのチェックをする事務作業が多大に発生した。この多大な事務作業のために、電通に莫大な経費が支払われた。それにかかった経費の総額は、「金持ちに払わずに済んだ額」を大幅に上回った。
 比喩的に言えば、「 1000億円を節約するために 3000億円をかけた」というふうになった。それで儲けたのは電通だけであって、国民は大損した。「血税の無駄な浪費」という形で。

 「小額の金を節約するために、莫大な経費をかける」というのは、馬鹿のやることだが、日本では伝統的に、こういう愚策をやり続けている。
 所有者不明土地についても、同様になりそうだ。本項で示したようにすれば、手間をかけずに簡単に済むのだが、政府の方針では、正しい方針を進めようとして、「小額の金を節約するために、莫大な経費をかける」ということを実施することになりそうだ。(少額の管理費を徴収するために、莫大な費用をかけて所有者を探し出す。)
 


posted by 管理人 at 23:57| Comment(1) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
株式会社には所在不明株主の株式売却制度がありますが、それに似ていますね。妥当な提案と思います。
Posted by とーりすがり at 2021年04月19日 07:21
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