2021年04月12日

◆ 鉄道駅の車椅子対応

 JR東 の鉄道駅に行こうとしたら、車椅子非対応だったので、身障者が文句を言った……という件が話題になった。

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 この件はネットで話題になったので、リンクを紹介する形で、情報を整理しながら述べよう。

 話の発端は、この記事だ。
  → JRで車いすは乗車拒否されました : コラムニスト伊是名夏子ブログ

 JR東 の来宮駅(熱海の一つ西側の駅。東海道線ではなく伊東線)という駅を訪れようとしたが、ここは無人駅であって、エレベーターもないので、車椅子に対応していない。事前に連絡もしないで、いきなり行ったので、JRとしてもうまく対応しきれない。そこで、交渉したりして、さんざん手間がかかったので、文句を言っている。「身障者にも旅行をする権利はある。.いつでも好きなときに行くから、きちんと対応してくれ。そうしないのは差別だ。差別するな」という趣旨。
 
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 これに対して、「事前連絡ぐらいは必要だろ。北欧だって、事前連絡が必要なことが多い」という反論があった。元記事は twitter だが、それを無断転載して、まとめた記事がある。
  → はてサが大好きな福祉先進国北欧の車イス対応についてのメモ
 
 また、重たい電動車椅子を持ち上げるには、人員4名の労力が必要だ、という試算もある。
  → 1台の電動車椅子を持ち運ぶのに何人の駅員が必要か? ただし労働基準法に従うものとする - 本しゃぶり

 こういうのを見ると、「無人駅で事前連絡なしに車椅子利用をしたい」という要求は、過剰な要求であることがわかる。そんなことを要求しても、とうてい実現不可能なのだ。(もともと人がいないからだ。)
 
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 では、どうすればいいか? 実は、これは、エレベーターも労力もなしに、ただのIT情報だけで解決できる。それは、次のことからわかる。
 今回、この人は、そこが無人駅であることもエレベーターがないことも、知らなかった。車椅子非対応の駅であることを知らなかった。だから、初めから情報を知っておけば、問題はなかったのだ。
  → 車椅子対応の問題はネットリテラシー

 なぜそうかと言えば、あらかじめ旅行先を決める時点で、無人駅(来宮駅)でなくて、バリアフリー対応の駅を選べば、問題は起こらなかったから。
  → 続・車椅子対応の問題はネットリテラシー
 結局、「ネットリテラシーさえあれば、車椅子の人であっても、何不自由なく旅行ができる」ということで、話は解決するのである。あらゆる無人駅をバリアフリーにする必要はない。JR のサイトを見やすくすればいい。それだけのことなのだ。問題の解決すべき点を、間違えてはいけない。

 これで問題はすっかり片付いているわけだ。

 実は、この問題は、乙武氏のレストラン騒動と、同様である。事前に車椅子対応か否かという状況を調べておけば、問題はなかったのに、いきなりその場所に行って、「車椅子対応でないのは問題だ。けしからん!」と騒ぎ立てる。そんなことで騒ぎ立てるぐらいなら、最初から「車椅子対応か」ということを調べておけばいいのに、それだけのネットリテラシーがないから、自分の無知を棚上げして、「相手が悪い!」と言い張る。
 
 今回のご本人も、結局は、「全国の津々浦々をすべて車椅子対応にせよ」というふうに無理難題を吹っかけているのではなくて、「調べる手間暇をかけるのが面倒だ」と駄々をこねているにすぎない。
 事前に調べて、連絡すると駅員も集まりやすく、私の待ち時間も減り、お互いにとっていいと思います。しかし、歩いている人たちが電車に乗る時に、駅が使えるかどうかを調べることはほとんどないと思います。「車いすなんだから調べるのは、仕方ない、連絡もしないといけない」というのは、改善していきたいです。なぜなら調べるのも、連絡するのも、手間も時間もかかることだからです。その手間と時間が障害者にだけ強制されるは、差別があるということと同じはないでしょうか。
( → JRの合理的配慮への改善を求める補足 : コラムニスト伊是名夏子ブログ

 「その手間と時間が障害者にだけ強制されるのは、差別がある」というふうに述べている。要するに、バリアフリーの社会を改善したいというよりは、単にものぐさがっているだけだ。
 こういうふうに「ものぐさをしたい」ということこそが、この人の主張の本質だ。
 逆に言えば、「ものぐさをしないで、事前に調べて、連絡を取る」というふうにすれば、あらゆる問題は一挙に解決してしまうのだ。
 
 問題の本質がどこにあるかは、以上のことからわかるだろう。

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 ただし、それとは別に、「バリアフリー社会を実現したい」という狙いはある。その狙いの点から論じると、次の記事が参考になる。

 この記事では二つのことが指摘されている。
 第1に、東京の公共輸送機関では、車椅子対応が非常に進んでいる。だから、どこにでも車椅子で行ける。ロンドンではそうではないので、自分で車を運転する必要がある。それに比べれば、東京はずっと優しい。
 第2に、道路の段差は、あちこちにあって、車椅子の障害となっている。東京は車椅子に優しくない。

 この件で、補足しよう。
 第1に、東京の公共輸送機関では、ほとんどすべてがエレベーターを設置している。設置していないのは、中野駅ぐらいだ。
  → 意外!エレベーターのない駅5選&東西線エレベーター事情まとめ
 この記事では、エレベーターの設置されていない駅が5件掲げられているが、記事の時点は 2015年である。その後、御茶ノ水駅、八丁堀駅、浅草橋駅では、エレベーターが新規設置された。いまだに設置されていないのは中野駅だけだ。中野駅だけは、駅の構造が古くて、エレベーターが設置しにくい。しかしそれも、大々的な改造工事をすることで、4年後にはエレベーターが設置されることになった。
 というわけで、東京に関する限りは、バリアフリー(車椅子対応)は大幅に進展している。これは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、数年前から大規模なバリアフリー工事がなされていたからだ。私も数年前に、地下鉄・日比谷駅あたりを歩いているときに、「ただ今、バリアフリーのために駅構内を工事中です」という掲示を見たことがある。ここ数年、駅のバリアフリーは、大幅に進展したようだ。
 この意味で、BBC の動画が示すように、東京の駅のバリアフリーはとても向上した。いまだ完璧ではないとはいえ、十分に褒められる水準だと言えよう。

 第2に、道路の段差は、あちこちにあって、車椅子の障害となっているが、この点こそ、改良するべき点だと言える。乗降客のほとんどいない鉄道駅をバリアフリーにする努力をするよりは、新宿や渋谷などの繁華街の段差をなくすことにこそ、注力するべきだろう。
 この件は、本サイトでも論じたことがある。
  → 車椅子と歩道の段差: Open ブログ

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 なお、以上の話とはまったく別に、これまでの本サイトの記事を紹介しよう。本サイトでは「無人駅と車椅子」という話題で、前に2回、論じたことがある。
  → 無人駅と車椅子 1: Open ブログ
  → 無人駅と車椅子 2: Open ブログ

 1番目の記事では、「無人駅でバリアフリーが対応できないのなら、無人駅を廃止してしまえばいい。どうせ赤字駅なのだろうから、廃止すればいい」と述べている。そして、代案として、「ノンステップバスの導入」を提案している。

 2番目の記事では、「IT技術で解決できる。事前連絡などの手間を、IT技術で簡略化できる」というふうに述べている。

 そういう解決案もあるわけだ。詳しくは、上記項目を参照。



 【 関連サイト 】
 エレベーターを設置するのがコスト的に無理かというと、そうでもないようだ。JR 伊東線は、赤字路線ではなく、黒字路線だからだ。下記情報によると、伊東線の営業係数は 95 だ。(つまり 5% の黒字)



        画像リンク


 伊東線が黒字化した理由は? 近年、外国人観光客が増えたので、伊豆半島へ来る外国人の乗客も増えたせいらしい。

 ただ、もともと乗客の少ない無人駅では、年間の売上げもたいしたことがないから、エレベーターを設置すると、一挙に営業係数が大幅に悪化する……ということもあり得る。(下手をすると、設置費用が年間売上げを上回る。)



 【 関連項目 】

 乙武氏の問題については、前に言及したことがある。
  → 乙武のお詫びの模範文: Open ブログ
 ここに示したように、乙武氏は、事前に車椅子対応状況を調べなかった。このことが問題の核心だとわかる。

 ただ、音猛ばかりが批判されるのは可哀想だから、擁護する記事も書いておいた。
  → 乙武さんを擁護する: Open ブログ
  → 乙武批判は いじめだ: Open ブログ

 一方、これに関連して、日本と外国のバリアフリー度を比較する記事も書いた。
  → 日本のバリアフリー度: Open ブログ

 実を言うと、欧州では、バリアフリーができていない建物が多い。それというのも、昔から続く石造りの建物が多いからだ。(古い建物がろくに残っていない日本とは違う。)
 ただ、それを克服するために、「みんなで協力して、人力で車椅子を動かす」という協力体制の気運は、十分に高まっているようだ。
 
posted by 管理人 at 23:21 | Comment(1) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最後に 【 関連サイト 】 を加筆しました。
伊東線の営業係数の情報。
Posted by 管理人 at 2021年04月13日 08:00
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