――
海底の地震・津波観測網がある。S-net というものだ。
「日本海溝海底地震津波観測網」というものがあってですね、3.11以降、プレート境界で発生する地震をより高精度に観測するために敷き詰められた海底ケーブルなんだけど、この国の、災害と戦い続ける執念が集約されてるようなシステムなので是非調べて欲しい… pic.twitter.com/pKG2RdMqzH
— ジオ・レスペデーザ (@gio_lespedeza) March 11, 2021
これは、下記で話題になった。
→ プレート境界で発生する地震を観測するために5500kmにも及ぶケーブルで敷き詰められた「日本海溝海底地震津波観測網」という執念のシステム - Togetter
「すごい、すごい」という声が並んでいる。しかし、ちょっと待った。
これがいかにすごいとしても、これが役立つ日は来そうにない。なぜなら、大きな津波が来ることは、今後は当分ないからだ。東日本だし震災の津波は「千年に1度」ぐらいの規模だったから、あと千年ぐらいは来ないだろう。昭和三陸沖地震(1933年)ぐらいの規模なら、80年に1度ぐらいの頻度で起こりそうだがだとしても、あと 70年ぐらいは来そうにない。そのころには、これを読んでいるたいていの人は死んでいる。
というか、70 年後には S-net の機器がもはや寿命を迎えて、役立たずになっている可能性が高い。そして、寿命を迎える前には、津波は来そうにないので、役立ちそうにない。
※ 先日の宮城沖地震ぐらいの、中規模の地震を知るには役立つが、中規模の地震なんて、無視しても差し支えないから、観測網があっても、たいして役立たない。
――
それよりもっと大事なのは、南海トラフ地震だ。こっちはかなり差し迫っている。次で調べるといい。
→ 歴史的な津波の一覧 - Wikipedia
ここに、次の記述がある。
1707年10月28日(宝永4年10月4日) 宝永地震(南海トラフ巨大地震) - M8.6程度。津波は伊豆半島から九州までの太平洋岸から瀬戸内海にまで及んだ。死亡者20,000人、流失家屋20,000戸。土佐湾沿岸各地が亡所(『谷陵記』)。大坂では津波が安治川や木津川を遡り2万人以上の犠牲者を出したとする記録も有る。
宝永地震の項目を見る。
宝永地震(ほうえいじしん)は、江戸時代の宝永4年10月4日(1707年10月28日)、東海道沖から南海道沖(北緯33.2度、東経135.9度)を震源域として発生した巨大地震。南海トラフのほぼ全域にわたってプレート間の断層破壊が発生したと推定され、記録に残る日本最大級の地震とされている。
――
このような震源域が広大な超巨大地震は日本において明治以降の近代観測の中では知られていなかったが、2011年(平成23年)に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は超巨大地震のメカニズムに対し新たな知見を与えるものとなり、また南海トラフにおいても過去に宝永地震と同等またはそれ以上と考えられる過去の複数の地震痕跡が発見された。
これは南海トラフ地震である。歴史上、何度もあった。そして前回は 1707年だ。とすれば、遠くない将来、南海トラフ地震が来るのは避けがたい。それがわれわれの寿命農地に来る可能性も十分にある。特に、東日本大震災の影響で、地殻のひずみが溜まっている現状では、東日本大震災の余波の形で、南海トラフ地震が起こる可能性は十分にある。
とすれば、今、何よりも大切なのは、ここに海底の地震津波観測網を設置することだ。S-net のように。
では、それはあるか? ある。 DONET というものだ。
とはいえ、 DONET は S-net に比べて、あまりにもショボイ。(詳細は後述。)
こんなことでは困る。
・ すでに地震が起こった地域では、大規模な観測網を構築する。
・ 将来、地震が起こりそうな地域では、大規模な観測網がない。
これでは、逆だろう。「馬が逃げたあとで厩(うまや)の扉を閉める」というようなものだ。あるいは、「泥棒が入ったあとで鍵を閉める」というようなものだ。やることが逆である。
どうせ大規模な観測網を設置するのなら、三陸沖ではなく、南海沖にするべきなのだ。なのに、この地域の DONET は S-net に比べて、あまりにもショボイ。
それなのに、ネット民は、S-net を見て、「すごい、すごい」と喜んでいるのである。
泥棒に入られたあとでもぬけの空になった家に、どれほどすごい鍵をかけても、何の意味もない。隣には宝の入っている蔵があり、そこには安物の南京錠しかかかっていないのである。あっという間に鍵を壊されて、宝物が盗まれてしまいそうだが、まともな鍵を付けようとしない。それなのに当主は、すでに泥棒に入られて空っぽになった家に、とても立派な鍵を付けて、「すごい、すごい」と喜んでいるのだ。そんなところに泥棒は入らないのだが。
――
DONET の図は、下記にある。
→ NIED |海底地震津波観測網|地震・津波観測監視システム:DONET
そこから転載すると、こうだ。
しかし、これではわかりにくい。そこで、S-net と DONET を比較した図がある。NHK の番組(3月14日)で放送していた。
→ NHK サイエンスZERO 3.11から10年 「命を救うための挑戦“津波防災”最前線」
動画は下記。
そこからスクリーンショットを紹介しよう。
左下に DONET の場所が見えるが、中央右の S-net に比べて、はるかに規模が小さいとわかる。
結局、DONET の規模があまりにも小さいので、「まともな対策はできていない」とわかる。S-net に「すごい、すごい」と浮かれているときではないのだ。