2021年03月22日

◆ MRJ の行く末

fx2.jpg MRJ (「スペースジェット」に改称)は、開発が凍結状態だが、この先はどうなるか? 状況が判明してきた。

 ――

 昨年の 10月に「開発は凍結」と表明されたが、この時点では「再開の可能性もあり」という含みがあった。しかし私は「このまま終結するはずだ」と見通しを述べた。
  → MRJ の開発中止が決定: Open ブログ

 その後、どうなったか? 現状について、朝日新聞が最新情報を示している。
  → 航空機産業の行方:下 利幅薄い部品メーカー、苦境続く:朝日新聞
 
 これによると、部品会社が工場を閉鎖しているそうだ。主翼を作る 旭精機工業がそうだ。こういう状況が続くと、三菱自体が MRJ をいつか再開しようとしても、もはや再開することは不可能になりそうだ。

 他の部品会社も、売上げが得られず、技術も規模も じり貧らしい。(装備品のメーカーなど。)
 その一方で、世界のライバルは、急速に延びているそうだ。
 昨年4月に巨大企業同士の合併で誕生した米レイセオン・テクノロジーズなど、装備品メーカーの巨大化が進んでいるのだ。同社の20年の売上高は565億ドル(約6兆円)で、ボーイング(581億ドル)に肉薄。航空機メーカーもこうした巨大部品メーカーの仕様に沿うような機体を開発するといった、力関係の逆転すら起きているといわれる。

 これではとうていライバルに太刀打ちできそうにない。(部品会社同士で)

 そこで、記事では識者の話として、こう示している。
「投資してから利益を生むまでの期間が長い航空機産業はいち民間企業にはリスクが大きすぎる。産官学を巻き込んだ大きな絵を描くことが大切だ」

 実は、このような方針でできたのが MRJ だ。経産省が「日本の航空機産業の再興を」というプランを立てて、それに三菱重工が乗った。その結果は? 三菱重工は1兆円を投入したが、MRJ の売上げはゼロで、単に1兆円をドブに捨てただけだった。これが「政府と企業が協調して盛り立てたこと」の結果だ。

 ――

 では、どうすればいいか? 
 実は、昔の日本の航空機産業は、これほどひどくはなかった。なぜなら、戦闘機の国内生産がなされていたからだ。F-15 , F-2 という戦闘機は国内生産された。おかげで三菱重工や関連会社は、巨額の売上げを得ることができた。
 ところが安倍首相(当時)が、トランプに迎合して、巨額の F-35 を輸入することにした。当初は「完成品の輸入」と決めていたが、その後、「国内組み立て」に変更となった。
  → 「F35」国内組み立て継続へ 完成品輸入を転換: 日本経済新聞

 とはいえ、「国内組み立て」は、単に組み立てるだけだから、国産とはまったく違う。こんなことでは、国内の航空産業の技術には役立たない。
 ステルス戦闘機のF35に至っては当初、米国製機体をまるごと購入する方式で、その後、国内組み立て方式に改められたものの、国内企業からは生産技術を維持できないとの危機感が強まっていた。
( → 次期戦闘機の開発は三菱重工と単独契約か。防衛省の狙い|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

 そこで、今度は三菱と単独契約した。
 岸信夫防衛相は30日の閣議後の記者会見で、次期戦闘機の開発主体として三菱重工業と正式に契約したと発表した。
( → 次期戦闘機、三菱重工と正式契約 防衛相: 日本経済新聞

 政府が2035年の配備をめざす次期戦闘機の開発体制の大枠が固まった。三菱重工業を開発主体として、米防衛大手でF35などの開発実績をもつロッキード・マーチンが技術支援する。
( → 次期戦闘機を日米で開発 三菱重主導、ロッキードが支援: 日本経済新聞

 では、どんな戦闘機を作るつもりか? 
 三菱重工業が主体となって開発する航空自衛隊の次期戦闘機の開発チームに、開発を一時凍結したジェット旅客機「スペースジェット(SJ)」の技術者が参加することが分かった。
( → SJ技術者、次期戦闘機へ転籍 三菱重工が主体、F2後継を開発:中日新聞Web

 聞いて呆れる。実用化に失敗した MRJ の技術者が次期戦闘機を作るという。MRJ よりもはるかに高度なステルス戦闘機を、MRJ さえも作れなかった技術者が作るという。「冗談かよ」と言いたくなるね。

 そもそも、三菱が提案している次期戦闘機(心神の改良型)は、見た目からしてひどい。
  → 空自F2後継機となる次期戦闘機の開発計画案が明らかに――防衛省の文書を入手(高橋浩祐)

fx2.jpg


 こんな小さな機体では、F2 と同レベルであって、まともな戦闘機とはなりそうにない。F-16 を改良してステルス化したぐらいのものでしかないだろう。( F2 後継だから当然かも。)

 どうせなら、ユーロファイターの最新型( ユーロファイター 2020 )を、EU と共同生産するべきだろう。それならば、次のメリットがある。
  ・ 日本の弱い航空機技術を、(欧州から)補える。
  ・ 日本の強いステルス技術を、(独自に)組み込める。


 こういうことをやれば、日本の航空機産業は生き延びることができる。また、EU に部品を輸出することもできるかもしれない。(武器輸出禁止というのは、ただのポリシーであるから、いくらでも変更可能だ。特に、相手が共同生産相手の EU ならば、大きな問題とはならないだろう。)

 米国に尻尾を振るばかりで、国内の航空機産業を撲滅しようとした安倍晋三首相が退任したのだから、日本は EU との共同生産に踏み込むべきだ。
 現状のように、三菱に次期戦闘機を任せると、MRJ の二の舞になりかねない。つまり、「飛ばない飛行機を作るために1兆円をドブに捨てる」というやつだ。しかも今回は、1兆円では済まないかもしれない。数兆円になるかもしれない。
 




 これは4年前のモデルではあるが、何ともまあ、不格好な飛行機であることか。これじゃ、中国のステルス機に比べても、大幅に劣るね。
  → いずれF-22を超える? 中国初のステルス戦闘機J-20 | Business Insider Japan





 将来、国産戦闘機と中国の戦闘機が対決したら、どうなるか? 日本の戦闘機が負けるのは、まず確実だろう。(そもそも開発費からして雲泥の差である。軍事費用の総額に大差があるからだ。)
 だが、本当は、「日本の戦闘機が負ける」ではなく、「日本の戦闘機は飛び立つこともできない」というふうになりそうだ。MRJ を見ていると、そういう感じがする。(試験機は飛び立つことができたが、最終製品は完成しなかったので。飛び立つこともできないどころか、存在することすらできなかった。)

 ※ そもそも、MRJ は国産ではなかった。朝日の記事によると、製造費用の7〜8割は、海外部品だった。この割合は、ボーイング787の比率よりも高い。
 最新鋭の787は三菱重工が主翼の設計・製造も担当、35%が日本製で「準国産機」とも呼ばれています。
( → ボーイング新型機、部品の2割が三菱重工など日本製に | 就活ニュースペーパーby朝日新聞 - 就職サイト あさがくナビ

 MRJ を国産機と呼ぶのであれば、ボーイング787を国産機と呼んでもいいことになる。しかしそれはとんでもない。要するに、MRJ は国産機ではない。なのに、そんな三菱に頼って国産戦闘機を作ろうとしても、まともなものができるわけがない。中国の戦闘機と対抗するなんて、夢のまた夢であるにすぎない。対抗すれば、撃墜される前に、滑走路でトラブルで飛び立てずにいるだろう。


posted by 管理人 at 23:49 | Comment(0) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ