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2019年10月31日未明、沖縄文化の象徴とされる首里城が炎に包まれた。木造で復元した正殿から出た炎は、鉄筋コンクリート造の建物に次々と燃え移り、約11時間も燃え続けた。その結果、首里城の中心施設7棟が全焼した。なぜ被害がこれほどまでに拡大してしまったのか。
( → 首里城炎上の教訓 | 日経クロステック(xTECH) )
上のような検証記事もあるのだが、これまで報道されたところでは、結局、火災の原因は不明である。
調査書によると、全焼6棟の焼損面積は計約3813平方メートル。沖縄県警も放火などの事件性は否定した上で、原因を特定できずに捜査を終えている。
「発掘した物や建物全体の焼損が激しく、物的証拠や着火物を特定できないことから、火災原因は不明」と結論付けた。
( → 首里城火災「原因不明」 消防、建物など損害53億円: 日本経済新聞 )
ただし放火説は否定されている。カメラで人影が見えなかったからだ。
城廓内外の防犯カメラ約70台の精査を集中的に行った結果、放火といった人為的出火の可能性は極めて低く、また最先端の科学捜査技術をもってしても原因特定は困難を極めた。
捜査幹部によると「特定に至らなかった」との結論は、発生から約1カ月後の昨年12月にほぼ方向性が見えていた。
( → 首里城「放火」低い可能性 原因特定できぬまま1年 警察、情報が出れば捜査継続 | 沖縄タイムス+プラス プレミアム | 沖縄タイムス+プラス )
放火ではないが、火元はわかった。
発生直後に正殿1階で炎が噴き上がる映像が防犯カメラに記録されていたことが2日、分かった。沖縄県警は、警備員らの証言も踏まえ、正殿1階が火元とほぼ断定。
( → 首里城正殿1階を火元とほぼ断定 防犯カメラに映像: 日本経済新聞 )
火元はわかったが、火災の原因はわかっていない。かくて、迷宮入りだ。困った。
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そこで、困ったときには名探偵に来てもらおう。名探偵に真犯人を捜してもらうと、意外な真犯人がわかる。

真犯人とは? 「火災の原因」なら、すでに不明と判明している。しかし、いったん火災が起こったあとで、(消火できずに)「焼失した」ことの原因は、かなり判明しているのだ。かくて「焼失の原因」がわかるようになる。
警備員のミス
火事が起こったあとで、警備員にミスがあったことがわかる。
那覇市消防局が開示した消防活動報告書
( → 放水銃1基使えず 消火活動時 イベント舞台も妨げ 首里城焼失1カ月 - 琉球新報デジタル|沖縄のニュース速報・情報サイト )
ここから警備員のミスが見て取れる。
(1) 2:34 に火災警報が鳴って、セコムに連絡したが、消防署には連絡しなかった。消防署に連絡が届いたのは、セコムが通報した 2:41 である。その間、7分の遅れた生じた。警備員がただちに 119番に通報していれば、消防車は 7分早く到着したはずだ。(実際には 2:48 に到着したが、7分早い 2:41 に到着したはずだ。それならば、火災はひどくならなかったかもしれない。)
※ なお、遅くとも 2:35 で煙が充満していたのを確認した時点で、消防署に通報するべきだった。それなら1分間の遅れだけで済んだはずだ。なのに、警備員がセコムに連絡をしたのは、非常ベルがけたたましく鳴った 2:40 になってからだった。こうして6分間の遅れが生じた。
(2) 警備は大幅に手抜きされていた。
第1に、警備をしているのは3人のうちの1人だけであって、他の二人は仮眠していた。警備の仕事をしないで、寝ているだけで、給料をもらっている。まともに警備がなされていなかったことになる。
第2に、警備の仕事で巡回をしたが、火事の起こった正殿については、外部から目視での確認をしただけであって、建物内部に入らなかった。もし入っていれば、煙がくすぶっていたりする状況を発見できたかもしれない。特に、何回も巡回してれば、きっと発見できたはずだ。なのに、巡回の回数も少なかったし、巡回の場所も限定されていた。
※ 結局、まともに警備をしていなかった。「寝ていて金をもらう」ということが大半だった。
※ 首里城は、全館木造の上、スプリンクラーが設置されていなかった。( → 出典 ) ……ならば当然、こまめな巡回で防火対策をするべきだったが、そのことはまったくなされていなかった。
警備体制のミス
警備員にミスがあるだけでなく、警備体制にもひどいミスがあった。そのうち、もっとも重要なのは、肝心の「放水銃」が使えなくなっていたことだ。
正殿周辺に設置された消火設備「放水銃」を消防隊員が使用しようとしたが、正殿裏手の1基の収納ぶたが開かずに使用できない状態だった。
さらに正殿正面の他の2基の放水銃は使用できたが、火災翌日に予定されていたイベント用舞台が放水を妨げ、一時的に消火活動の支障となったことも判明。
( → 放水銃1基使えず 消火活動時 イベント舞台も妨げ 首里城焼失1カ月 - 琉球新報デジタル|沖縄のニュース速報・情報サイト )
収納ぶたが開けられず消火活動に使えなかった問題で、ふたは特殊な工具を用いないと開けられない状態だった。
( → 「使おうと試みたが…」 特殊工具なく放水銃ふた開けられず 首里城の防火管理、不備か | 沖縄タイムス+プラス ニュース | 沖縄タイムス+プラス )
収納ぶたが開けられず消火活動に使えなかった件で、この1基が 2017年度の設置以降、防災訓練で使われていなかったことが3日、分かった。
( → 首里城火災 開かずの放水銃 設置後、訓練もしていなかった | 沖縄タイムス+プラス ニュース | 沖縄タイムス+プラス )
図を見ればわかるが、この放水中は、最も重要なものだった。これがまともに機能していれば、火災はこんなにひどくはならなかっただろう。なのに、その肝心のものが使えなかったのだから、「火事に対してなすすべもなかった」というのも同然となる。
そして、このような問題が起こったのは、まったく人為的なことが理由だった。
・ 収納ぶたの管理ができていなかった。
・ 消火訓練もできていなかった。
これらは、防火体制の問題だが、その責任の所在は、警備担当部門だろう。なのに、その警備担当部門が、施設の一部にはなっていなくて、外部の警備会社への丸投げであったようだ。こうなると、防火体制との一体的な運用もできなくなり、防火体制は構築されないのも同然となる。
かくて、上記の二点のような大問題(大ミス)が起こった。これが首里城焼失の重大な原因となった。火災そのものの原因ではないが、火災を消し止めることができない原因となって、首里城焼失の原因となった。
教訓
以上のことから、どんな教訓が得られるか?
先の特集記事では、「感知器を設置する」というような機械的な対策を掲げている。
→ 感知器を使い分けて早期覚知へ | 日経クロステック(xTECH)
しかし、そんな小手先の問題では、物事の本質を見誤る。
首里城焼失の根本的な問題は、何か? それは、前項で示したことだ。
→ 民間委託で詐欺が横行: Open ブログ
そこでは、こう述べた。
公的サービスを民間に委託することで、コストを下げる……という政策が実行されている。いかにも うまい話だ。その結果、詐欺が横行することになった。
ここまでコストを切り詰めると、困ったことになる。……あとを埋めるのは、ほとんど経験もない無能な人間だけだろう。となると、あとでは正常な業務ができなくなる。
つまり、コストを下げることには成功しても、肝心の警備の業務がなされなくなる。……これではいろいろとまずいことになりそうだ。下手をすると、警備員の煙草の不始末で、公共施設が火事で丸焼けになる……というようなことも起こりかねない。そして、そうなったとしても、自業自得なのである。
「安ければいい」というのが政府や自治体の方針だが、「安かろう、悪かろう」というのが、この世の常だ。請求書の額が安上がりだけなのを見ると、サービス内容は徹底的に手抜きされる。あとに残るのは燃え尽きた残骸だけ、となりかねない。
ここでは比喩的に「あとに残るのは燃え尽きた残骸だけ」と述べた。だが、それが現実に起こったのが、首里城なのだ。警備のコストを切り詰めたあげく、まともな警備がなされなくなる。3人のうちの2人は、仕事をしないで寝ているだけで給料をもらっていた、というありさまだった。普段の業務からして、消防訓練さえまともにしていなかった。警備や防火対策を何もしていないも同然だった。
そして、そうやって数百万円の警備コストを浮かせたが、その代償として、再建費用 150億円がかかるという損失をこうむったのだ。200億円という説もある。
「前回の修復時に比べて人件費や資材費も高騰しています。いま再建しようとすると、200億円はかかるのではという話も出ています」
( → どうなる「首里城の火災保険」評価額100億円、再建費用は150億円超(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/6) )
「火災保険が出るぞ」という声もありそうだが、現実には甘くない。
「首里城の評価額は100億3500万円で、これは保険に加入する際に保険会社が算定したものです。ただ、保険金の限度額は約70億円で、これ以上の金額が支払われることはありません」
( → どうなる「首里城の火災保険」評価額100億円、再建費用は150億円超(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(2/6) )
結局、100億円 前後の損失が出そうだ。数百万円の警備コストをケチって、100億円 前後の損失。……必要な金を払わないから、危険への対策がないがしろにされて、とんでもない厄災を食らうわけだ。馬鹿丸出しというしかない。
実はこれ、津波対策を怠って原発の大損を出したのと、構造としては同じですね。
目先の小銭に目を奪われて、莫大な損失を食らうわけだ。愚かというしかない。
こういう根本原因を見失ったまま、「感知器をいろいろそろえよう」なんてことを考えても、その感知器を使いこなせないまま、またも同じ失敗を繰り返すハメになるだろう。
福島の原発で大失敗しても、首里城で大失敗しても、人々は失敗の理由を理解しないまま、原因を放置する。そうして、またも同じような失敗を繰り返そうとしているのである。
[ 付記 ]
火災の原因は公式には「不明」だが、推定では「漏電」と見なすのが妥当であろう。状況証拠もある。
→ 首里城の正殿内カメラ、火災検知の直前に電源が落ちていた
→ 首里城火災、屋内の配線近くの延長コードにショート痕、火災前の現場動画
→ 首里城の火災と漏電と延長コードの話
→ 首里城火災の原因は漏電!?
日本の国で有耶無耶にされる悪質な例