2021年03月14日

◆ 民間委託で詐欺が横行

 公的サービスを民間に委託することで、コストを下げる……という政策が実行されている。いかにも うまい話だ。その結果、詐欺が横行することになった。

 ――

 公的サービスを民間に委託することで、業務効率が改善して、コストを下げることができる……というアイデアがある。「自由主義経済で万事がうまく行く」と信じている経済学派の人々が主張することだ。日本でも小泉流の規制緩和主義がこれに当たる。
 この方針で、特に公的施設を使うタイプで、公的サービスを民間に委託することを PFI と呼ぶ。
 PFI(英語: Private Finance Initiative)とは、公共サービスの提供に際して公共施設が必要な場合に、従来のように公共が直接施設を整備せずに民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供をゆだねる手法である。
( → PFI - Wikipedia

 他に、民間施設を使うタイプのものもある。業務も、それまで公的機関がになっていた業務のほか、もともと民間の公的サービス機関に委ねていた業務もある。(介護や保育などで多い。)
 いずれにせよ、公的サービスを民間に委託することで、コストを下げるということを狙いとしている。

 では、その狙いは実現されたか? 三つの例を調べよう。初めに結論を述べると、そのいずれも、「コストを下げることに成功した」とは言えない。つまり、簡単に富が生み出される「打ち出の小槌」などはなかった。変わりに、詐欺師が跋扈(ばっこ)することになった。なぜか? 「コストを下げることに成功した」のではなく、「コストを下げることに成功したと見せかける」だけだったからである。そうして、(詐欺師が)だますことで、自らの懐を豊かにしていたのである。
 その裏では、だまされたせいで被害を受けた人々がいる。

 警備員のコスト切り詰め


 公共施設の警備員が賃金切り下げの非道を訴えている。
 70歳から6年余、公共施設の警備員として無遅刻無欠勤で働いてきましたが、所属先の警備会社を退職しました。
 この会社は3年前に新規参入。同業者によると、驚くような低額で業務を落札したと聞き、仲間内で労働条件が悪くなるのではと危惧しました。
 案の定、後日、契約書が送付されてきて驚きました。前の2社と比べてすべてにコストダウン。交通費もなく、制服も警備員として威厳のない安価なものです。報告などの通信費も労働者負担。警備会社として義務づけられている、警備員に対する教育でも、交通費や拘束時間に応じた賃金もないものでした。
( → 朝日新聞・声欄・2021-03-14 )

 職場までの交通費が出ないのは違法ではない。だが、「報告などの通信費も労働者負担。警備会社として義務づけられている、警備員に対する教育でも、交通費や拘束時間に応じた賃金もないものでした」というあたりは、明らかに違法であろう。
 のみならず、ここまでコストを切り詰めると、困ったことになる。この人は憤慨して退職したそうだが、あとを埋めるのは、ほとんど経験もない無能な人間だけだろう。となると、あとでは正常な業務ができなくなる。
 つまり、コストを下げることには成功しても、肝心の警備の業務がなされなくなる。単に「人を配置しています」というだけで、無為無能な人間が置かれるだけとなる。これではいろいろとまずいことになりそうだ。下手をすると、警備員の煙草の不始末で、公共施設が火事で丸焼けになる……というようなことも起こりかねない。そして、そうなったとしても、自業自得なのである。
 「安ければいい」というのが政府や自治体の方針だが、「安かろう、悪かろう」というのが、この世の常だ。請求書の額が安上がりだけなのを見ると、サービス内容は徹底的に手抜きされる。あとに残るのは燃え尽きた残骸だけ、となりかねない。

 ※ 対策は、サービス内容を厳密にチェックすることだ。それをしなければ、手抜きサービスが横行するようになる。(詐欺の横行だ。)

 放課後デイの暴利


 放課後ティータイムというのがあった。





 それとまぎらわしいが、放課後デイという、障害児を預かるサービスがある。これで、不正受給が発覚した。
 障害のある子どもを放課後や休日に預かる「放課後等デイサービス」(放課後デイ)で、報酬を不正に受けとったなどとして運営者が行政処分を受け、営業停止する例が増えています。利益を追い求める企業の参入が背景にあるとされ、なかには6年間も不正が発覚しなかったケースもあります。
 処分理由は、常勤の責任者を置かずに基準を満たさないまま運営していたことや、必要な子の数を水増しするなどして実際より多く補助金を得ていたことだった。
 目立つのは、必要な人員を配置せずに加算を請求するなどして、給付費を不正受給して処分を受ける例だ。
 コストを下げるため、「アニメを見せるだけ」など余暇活動に偏る事業所もある。
( → 放課後デイ、一斉に営業停止 参入企業が報酬不正受給:朝日新聞

 不正受給というが、ここでは余計に金を奪っていたわけではない。国から得ていた金は同じである。ただし、支出を切り詰めた。出すべき金を出さなかった。
  ・ 常勤の責任者を置かない
  ・ 基準を満たさない
  ・ 必要な人員を配置しない
  ・ 「アニメを見せるだけ」など、サービス内容を低下させる

 こういう形で、支出を切り詰めた。

 しかしこれは、サービスの対価を受け取るのではなく、サービスなしで対価を受け取ったのだから、詐欺の一種だ。

 そこで、政府は対策として、補助金を引き下げようとする。
 19年度の障害福祉施設の経営実態調査では、企業の利益率にあたる「収支差率」が放課後デイは 10.7%と、全サービス平均の 5.0%を大きく上回る。
 厚労省は今年4月の障害福祉サービスの報酬改定で、基本報酬を最大1割程度減らす一方、ケアの必要性が高い児童への支援に加算することにした。放課後デイで働ける人を保育士と児童指導員に限るなど、開設のハードルも上げた。収益ばかりを追う事業所を排除し、サービスの質を保つねらいからだ。

 ボロ儲けしている会社が多い。そこで、「収益ばかりを追う事業所を排除し」という。「ボロ儲けができないように、補助額を減らせばいい」というわけだ。
 しかしこれは、本質を見誤っている。業者は、金を多めに取っているのではない。受け取る金に対して、サービス内容を低下させているのだ。なのに、国が払う金を減らしても、規制の方向が見当違いなので、何の対策にもならない。むしろ、逆効果が発生する。
 「かるがも花々会」の放課後デイは、……指導員には保育士資格をもつ人が複数いる。子ども10人に対し、基準を上回る常勤職員3人と非常勤職員2〜4人を常に配置してきた。 こうした手厚い配置をする事業所にとって、見直しは打撃となる。基本報酬が減るうえ、保育士など専門職の指導員の加算も減るためだ。

 悪徳業者を排除する効果はなく、逆に、良心的な業者を排除する効果がある。これでは本末転倒だ。悪貨が良貨を駆逐することになりかねない。

 では、正しい方策は? 実はこれも、上の警備の詐欺と同様である。
 警備会社の場合には、警備のサービスが手抜きされた。放課後デイでは、障害児に対するサービスが手抜きされることになる。
 とすれば、正しい対策は、サービス内容を厳密にチェックすることだ。それをしなければ、手抜きサービスが横行するようになる。(詐欺の横行だ。)
 現実には、そういう厳密なチェックをしない。そのせいで、コスト削減のために手抜きをする詐欺師がのさばる。

 結局、小泉流の規制緩和主義が諸悪の根源だ。余計な規制を緩和するのはいいが、必要な規制を次々と緩和すれば、規制をかいくぐった詐欺師が跋扈(ばっこ)するようになる。悪貨が良貨を駆逐するようになる。悪人が善人を駆逐するようになる。それが規制緩和主義の行き着く果てだ。

 クルーグマンと PFI


 このような問題は、前にクルーグマンが「刑務所の PFI 」という話題で論じたことがある。
 この件は、当時に私が言及したつもりでいたのだが、過去記事をあれこれと調べても見出されないので、勘違いだったようだ。そこで改めて紹介する。
 要旨はこうだ。
 「刑務所の業務を民間業者に委託すれば、コスト削減とサービスアップが望めると見込んだ。ところが実際にやってみたら、業者は利益拡大ばかりをめざして、サービスを手抜きしたので、刑務所の環境はひどく劣悪になった。民営化論者の発想は誤りだ」

 この記事は、朝日新聞に翻訳掲載された。私はそれを読んだが、原典は下記にある。
  → Opinion | Prisons, Privatization, Patronage - The New York Times( Paul Krugman )June 21, 2012

 これを機械翻訳して一部抜粋すると、こうだ。
 ニュージャージー州のハーフウェイハウス(民間が運営する通常の刑務所の付属施設)のシステムについて。
 タイムズ紙の報道では、この世の地獄に近いものが描かれている。人手不足で運営がうまくいかず、やる気を失った労働力を抱え、そこから最も危険な人物が逃亡して破壊行為を行うことが多く、一方で比較的軽度の犯罪者が他の受刑者の手で恐怖と虐待を受けている。
 この話は、刑務所の運営を含む政府機能を民営化しようとするアメリカの権利者たちの全国的な動きという広い文脈で見る必要があります。
 市場の魔力、つまり政府の計画よりも自由市場の競争の方が優れているという保守派の信念を反映していると言いたくなるかもしれません。確かに、右派の政治家はそのように問題を設定したがる。
 しかし、少し考えてみると、刑務所産業複合体を構成する企業が行っているのは、自由市場での競争ではないことがわかる。それどころか、政府との契約で生活しているのです。ここには市場はなく、したがって、効率性における魔法のような利益を期待する理由はありません。
 そして案の定、刑務所の民営化が大きなコスト削減につながるという多くの約束にもかかわらず、そのような削減は、米国司法省の一部である司法支援局による包括的な調査では、「単に実現していない」と結論づけられている。私設刑務所の運営者がコスト削減に成功しているとすれば、それは「人員配置、フリンジベネフィット、その他の労働関連コストの削減」によるものである。
 では、見てみましょう。民営化された刑務所は、看守やその他の労働者の数を減らし、彼らに低額な報酬を支払うことでコストを削減しています。そして、これらの刑務所がどのように運営されているかについての恐ろしい話が出てきます。

 ―― www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。

 ※ 上記の翻訳では「低額」という箇所がある。機械翻訳ではどういうわけか「高額」と翻訳されていた。ひどい誤訳だ。正反対に翻訳されている。呆れたので、私が正しく直しておいた。(原文は  paying them badly )

 ともあれ、上記記事では、「効率性ではなく労働コストの削減(賃下げ)によってコストを下げているだけだ」と示されている。そして、その代償として、サービスの低下がある、と示されている。その具体的な例が、
 やる気を失った労働力を抱え、そこから最も危険な人物が逃亡して破壊行為を行うことが多く、一方で比較的軽度の犯罪者が他の受刑者の手で恐怖と虐待を受けている

 という地獄のような状況だ。先の二つの例(警備員と放課後デイ)と同じですけどね。

 結論


 公的サービスの民間委託は、やってもいいが、やるなら規制が必要だ。つまり、サービス低下(という手抜き)が起こらないように、きちんとチェックするべきだ。単にコスト削減だけを見るのでなく、サービスがきちんとなされているかをチェックするべきだ。
 逆に、価格だけを見て、提供物を見ないと、コスパが悪くなる。安かろう悪かろうになる。安物買いの銭失い。……これが今の状況だ。

 「市場では自由放任によって自然に改善する」という発想がある。だが、公共サービスというのは、市場ではない。市場ではないところに、市場原理は成立しない。( by クルーグマン)
 「市場では自由放任によって自然に改善する」というのは、性善説による。しかし、市場でないところでは、性善説を取るべきではない。性悪説を取るべきだ。さもないと、悪(詐欺師)がのさばる。

 実は、この件は、もともとの自由主義の発想そのものに含まれている。もともとの自由主義は、何でもかんでも自由にしろとは言っていない。最低限の規制は必要だと言っている。それが夜警国家という発想だ。
 夜警国家
 国家は外敵の侵入を防ぎ,国内の治安を確保し,個人の私有財産を守るという必要最小限の任務だけを行い,その他は自由放任にせよと主張する自由主義国家観をいう。
( → コトバンク

 ここでは必要最小限のものとして、警察のような規制は残されている。何でもかんでも自由放任ではないのだ。
 なのに、その原則を忘れて、「何でもかんでも自由放任」「規制は一切なし」というふうに誤った方向に進んでしまったのが、右派の人々だ。
 自由という言葉の本来の意味を見失ってしまったがゆえの暴走だと言える。そのせいで、あっちでもこっちでも、詐欺師が跋扈するようになるわけだ。いかにも愚かなことだが。

 ※ ついでだが、こういう方針は、今の自民党や日本政府の体質にしみついている。だから、たとえば COCOA のバグの放置のようなことが起こる。勝手に随意契約して、引き渡された品物については、検収すらもしない。あくまで性善説で、相手のことをまるきり信じているから、ゴミをつかまされる。かくてゴミを買うために、莫大な金を支払う。……かくて詐欺師が跋扈する。(国の方針のせいで。)



 【 関連項目 】

  → ツタヤ図書館の代案: Open ブログ

 図書館の PFI の話。良し悪しは一概に言えない。成功例と失敗例がある。
 きちんと管理すれば成功するが、図書館業務以外のこと(スタバやTポイントなど)ばかりを優先すれば失敗する。業者が金儲けばかりを狙えば、図書館としての実態はないがしろにされて、詐欺師の食い物にされるだけだ。

posted by 管理人 at 23:46| Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 同種の例が他にもあった。
  → 民間委託の学童保育で雇い止め 指導員が無効求め提訴へ
  https://www.asahi.com/articles/ASN597FYPN58PTIL019.html

  ※ コストが下がってよさそうだと思ったら、大幅なサービス低下で、学童が被害者になった。
Posted by 管理人 at 2021年03月15日 12:33
 「放課後デイ」という言葉が耳慣れないので、調べてみた。
 そんな言葉は、どこにもない。朝日新聞が勝手に作り出した造語だ。

 ネットで見つかるのは「放課後等デイサービス」という用語だけだ。

 そして、デイサービスという用語の英語はない。ネットで調べると、 day service は和製英語である。英語では day care という。
 放課後デイ に相当する英語は after-school care である。

 日本語では「学童保育」というまっとうな用語がある。
Posted by 管理人 at 2021年03月16日 01:31
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