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感染者数がいくらか減ってきて、PCR検査の能力にいくらか余裕が出てきた。そこで、大量の PCR検査を実施しよう、という動きがある。特に、プール方式を使うと、1度に大量の人数を処理できるので、この方式で一挙に感染者を減らそう、というわけだ。
前に、世田谷区が「プール方式で大量の検査をする」という話があって、報道された。
今度は、政府が高齢者施設で「大量の検査をする」という話がある。
流行地域の高齢者施設や病院の職員への「定期的な一斉検査」は、安倍晋三首相が昨夏の退任時に発表した対策だが、動きが本格化したのは年明けから。2月に基本的対処方針が改定され、緊急事態宣言が延長された10都府県は計画をつくり年度内に実施することになった。「リバウンド対策」の位置づけだ。
昨年10月に独自に始めた東京都世田谷区は、特別養護老人ホームや訪問介護事業所などに加え障害者施設も含めて区内の約1500カ所、約2万3千人の施設や訪問介護事業所などの職員を対象に2カ月に1度程度、定期的なPCR検査をしている。感染状況を問わず、9月まで行うという。
区によると、今年1月31日までに約25%にあたる約400施設で計約9900件実施。陽性者は24施設で93人(0.95%)確認され、内訳は職員45人、利用者48人。うち8施設で、職員や利用者ら合わせて5人以上の感染が判明した。
( → 高齢者施設のクラスター対策 定期検査というけれど…:朝日新聞 )
世田谷区の例からして、見つかる感染者は数が少なく、発見の比率は少ない。かなり効率の悪い方法だと思える。
そもそも、この方法には、原理的な難点がある。これは、「すでに感染した人を、新たに発見する」という効果はある。だが、「感染者数そのものを減らす」という効果は弱い。「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」という方式だからだ。
そもそも、こんなことをやっても、職員経由で感染が発生するのを止めることはできない。「高齢者施設の中で蔓延するのを阻止することができる」という程度だ。しかも、それを実現するには、職員を毎週(または毎日)検査する必要がある。実際には、そうすることができないから、感染を阻止する効果は弱い。
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では、どうすればいいか? もっといい方法はあるか? ある。それは、「和歌山方式」だ。つまり、すでに判明した感染者について、濃厚接触者を調べる際に、政府の指定する濃厚接触者だけでなく、もっと広い範囲で準・濃厚接触者までシラミつぶしに検査することだ。
これによって、感染の疑いの強い人々を、根こそぎ検査できる。感染の疑いのない人々を大量に検査するのではなく、感染の疑いの強い人々を検査する。それも、ほぼ漏れなく。
和歌山県は、この方式で、感染者数を激減させることに成功した。
県は濃厚接触者を国の基準を超え広めにとらえてPCR検査をする「和歌山方式」で感染拡大を抑えた。昨年春ごろの第1波、同夏ごろの2波では、散発的なクラスター(感染者集団)は発生したものの、1日の感染者は10人未満の日がほとんどだった。
「発症2日前からという国の基準はあるが、例えば飲食やカラオケのような密な状況であれば、3日前の接触者でも検査する」と話す。
( → 第3波に「和歌山方式」生かせるか 対策トップに聞く:朝日新聞 )
感染症対策において、重要なことがある。それは、「むやみやたらと大量の努力をすればいい、のではない」ということだ。「危険なものに絞って対処するべきだ」ということだ。
たとえば、マスク義務化が重要だ。なぜか? マスク装着者が 95%から 99%に上がっても、装着者はたったの4%ぐらいしか増えないので、効果は少ないのでは? そう思うかもしれない。しかし、マスク装着者を増やすことが大事なのではない。マスク非装着者を減らすことが大事なのだ。マスク装着者が 95%から 99%に上がれば、マスク非装着者は5%から1%へと激減する。5分の1にまで減る。これは感染者数を5分の1に減らす効果がある。
ここでは「危険でない人に対処する」のではなく、「危険な人に対処する」ということが大切なのだ。
同様に、PCR検査でも、「感染の疑いのない人を、むやみやたらと大量に検査する」というのでは、非効率だ。むしろ、「感染の疑いの高い人に絞って、きちんと検査する」ということの方が重要なのだ。
ところが、政府はそうしない。感染者の周囲にいる準・濃厚接触者については、ほとんど放置している。感染者のいるところでは検査しないで、感染者のいないところで検査する。……これでは、ほとんど無駄になるだけだ。
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笑い話がある。
男が落とし物をした。「しまった。探さなくちゃ」
そう言って、彼は道を引き返して、さっそく路上で探し始めた。ところがどういうわけか、彼は夜道の中で、街灯の下だけを探している。明るいところだけを探していて、まわりの暗いところを探そうとしない。
それを不思議に思った人が質問した。
「いったいどうして、街灯の下だけを探すんです? まわりの暗いところも探した方がいいでしょう? ありもしないところだけを何度も何度も探しても、落とし物は見つかりませんよ」
「でも街頭の下の方が、よく見えて、探しやすいんだ。探しやすいところを探す方が、利口だろう?」
※ この男は、どこを間違えたのか? 「探すこと」が目的となっていて、「見つけること」が目的となっていないのだ。だから、「探しやすいところ」ばかりを探して、「見つかりやすいところ」を探さないのだ。
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PCR検査も、同様である。政府は、「感染者の見つかりやすいところ」を検査するのではなく、「検査しやすいところ」だけを検査する。(将来の)感染者を減らすことが目的なのではなく、(現在の)検査をすることが目的となっている。
笑い話と同様だ。
PCRの特異度はコンタミネーション等の人為ミスがない限りほぼ100%だという事実を知ってれば、当たり前の主張です。
ところが、PCR検査は精度が低く拡充してはいけないという論調が根強くあり心底忌々しく思っていました。
http://openblog.seesaa.net/article/475005876.html
擬陽性や偽陰性の検査の確度というものをを正しく踏まえてさえいれば、検査拡大によるデメリットなんてそもそもあり得ません。
ようやく目が覚めたようでよかったです。遅すぎますが。
現状のように検査機が十分に足りてきている状況では、検査をすることで(治療よりも)予防に使うのは好ましいことでしょう。
両者の話はまったく別です。
> 「判明した陽性者の周囲について大量のPCR検査を行うべき」と言う主張を2020年1月ごろから続けています。
それは、専門家会議のチームリーダーが2020年2月ごろから採用していた方針ですね。
一方、本サイトの主張は、それとは直接関係せず、その前提となるように「PCR検査機を大量に導入せよ」でした。これが実現したあとでは、「検査で予防」もできるようになるでしょう。
> 検査拡大によるデメリット
私はそんなことは言ったことはありません。それを批判したことは何度かあります。
元はと言えば NATROM さんがそう言っていたので、私はそれを批判していました。
「PCR検査を大幅に増やすことはお勧めできない」との記載から、検査反対論者かと考えてしまい、大変失礼しました。
ただ、20年5月ごろの時点では、やはり検査機の拡大やプール方式による加速を図るべきだったと考えています。
なぜなら、当時であれば無症状感染者を洗い出して隔離することが十分可能な規模だったからです。
しかしながら、不十分な検査数で4桁の感染者が見つかってしまう今となっては、とても無理な話です。
ところで、感染力を持つのは発症前後の2週間なので、国民すべてが3週間隔離生活すれば、理論的にはどんなに蔓延していてもほぼゼロになります。
もちろん非現実的な話ですが、以下のような手でも十分効果があるかもしれません。
1. 一人10万円程度の給付金予算を再度確保する。
2. エッセンシャルワーカー以外、3週間程度のロックダウン生活を要請する。
3. cocoaアプリで感染者との合計時空距離に応じたスコアを付ける。
4. 1か月後、cocoaからの申請でスコアに応じた傾斜をつけて給付金を配分する。
5. 全国的に十分な減少が確認できれば、件の和歌山方式を全国展開する。
こうすれば、スマホユーザはスコアをよくするために感染者がいそうな時空を避けるでしょう。
もちろん、エッセンシャルワーカやスマホを持たないような幼児や高齢者には別途給付金を満額配分します。
幼児や高齢者はもとより感染拡大に寄与していないため、インセンティブを与える必要はないかも知れませんが。
いろいろ抜け穴等の問題もあるでしょうけど、こうした手は考えられないでしょうか。