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報道を三つ並べよう。
おととし、横浜市の京急線の踏切で立往生していたトラックと電車が衝突した事故について、国の運輸安全委員会は、再発防止には信号機の位置や数を適切に配置することが必要だなどとする調査報告書をまとめました。
( → 京急線踏切事故 調査報告書まとまる “信号機の適切な配置を” | 事故 | NHKニュース )
運輸安全委員会は18日、横浜市神奈川区の京急線の踏切で2019年に快特電車が大型トラックと衝突して脱線し、トラック運転手(当時67)が死亡、電車の乗客乗員が負傷した事故の調査報告書を公表した。踏切の異常を伝える「特殊信号発光機」(特発)が架線柱などで断続的に遮られ、運転士が気付くのに遅れた可能性があると指摘。負傷者は乗客乗員77人だった。
報告書によると、電車は当時、時速約120キロで走行。運転士は特発が見える位置を過ぎてから4秒後に通常のブレーキをかけた。認識が遅れて踏切までに停止できなかった可能性がある。予期せず作動する特発にすぐ反応するのは困難で、目視できるようになってからも断続的に遮られる場面があったことが影響したもようだ。
通常のブレーキをかけた6秒後に非常ブレーキを使用。すぐに非常ブレーキを使えばさらに速度を抑えられたが、京浜急行電鉄はブレーキの使い分けを運転士の判断に任せていた。衝突時は時速約60キロだった。
トラックに対しては、交差点を右折して踏切に進入する際、道路の幅が狭く、通行に時間がかかったと分析した。
京急は事故後に現場や他の踏切で特発を増設。設置ルールを見直し、ブレーキ操作に余裕ができるよう踏切からより離れた場所に置く。特発の点滅を確認したら直ちに非常ブレーキを使うよう内規も変更した。
安全委は、踏切の障害物を検知すると電車に即座に伝わる仕組みや、自動列車停止装置(ATS)と連携するシステムの検討を京急に要望した。
( → 異常信号遮られ、認識遅れ 京急線踏切事故で安全委: 日本経済新聞 )
横浜市の京急本線神奈川新町駅で2019年9月、快特列車とトラックが衝突し、列車が脱線した事故について、国の運輸安全委員会が18日、調査報告書を公表した。踏切の異常を知らせる信号機が柱に遮られて運転士から見えにくくなっており、ブレーキが遅れて事故が起きた可能性が考えられると指摘した。
この事故では、時速120キロで走っていた列車のブレーキが間に合わず、踏切にいたトラックを67メートル引きずって脱線しながら停止。トラックの運転手が死亡し、乗客や運転士ら77人がけがをした。
報告書によると、運転士がブレーキをかけたのは、踏切まで422メートルの地点だった。はじめは制動力の弱い通常ブレーキを使い、時速101キロまで落ちた244メートルの地点ではじめて非常ブレーキに切り替えたが、間にあわなかった。トラックに突っ込んだ時は時速62キロだった。運輸安全委の調査では、運転士がどの地点で異常を知らせる信号機の点滅を確認できたかはわからなかったが、少なくとも踏切から567メートルの距離に近づいた地点で点滅の確認が可能だったとした。理論上は、そこで点滅を確認し、踏切から477メートルの距離に近づく1.8秒以内の間に非常ブレーキをかければ、踏切の手前で止まることができたという。
だが、踏切から567メートル地点のすぐ先は、柱に遮られて信号機が見えにくくなっていた。このため運輸安全委は、見えにくさのせいで運転士の反応が遅れた可能性があることを指摘。信号機の設置位置が踏切に近かったことと合わせて、運転士のブレーキが遅れた要因として挙げた。
運輸安全委の調査官は、踏切の手前で止まることは可能だったとしながらも「あまりにも条件が厳しいといえる」と指摘した。
( → 「信号機の見えにくさ」が一因と指摘 京急事故調査報告:朝日新聞 )
要するに、(踏切の設置の仕方の)構造上の問題で、運転手には信号がよく見えなかったので、踏切内にいるトラックに気がつくのが遅れて、電車がトラックに衝突した……ということだ。
※ それにしても、1年半もかかるとは、ずいぶん報告が遅れたものだ。もっと早く出そうなものだったが、あまりにも遅れたという感じがする。
報告書の内容は、おおむね予想の範囲内だと言える。要点は、
「運転手が気づかなかったことが主因だ」
ということだ。そして、気づかなかったのは、運転手に瑕疵があったからというよりは、
「(踏切の設置の仕方の)構造上の問題で、運転手には信号がよく見えなかった」
ということが理由となる。人為的な責任だと見なして、運転手個人のせいにすることはせず、鉄道会社の構造的な問題があったのだ……と見なした点では、好ましいと言える。
※ ちなみに、JR西の大事故(福知山線の尼崎)では、人為的な原因があったが、その根源は、会社の人事制度だった。
※ スキーバス事故では、人為的な原因があったが、その根源は、半素人の高齢者をいきなり大型バスの運転手にしたという人事的な採用制度に問題があった。
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さて。京急の踏切事故の件では、本サイトでも言及した。
(1)
→ 京急線の踏切事故: Open ブログ(2019年09月05日)
ここでは、トラックが踏切で立ち往生するに至ったことの理由を調べている。事故の根源を探っているわけだ。大型トラックがカーナビに従ってこの道に入ると、自動的に踏切内で立ち往生せざるを得ない……という道路設計の問題を示している。現状ではどうなっているかは不明だが、もともとのままだとしたら、踏切での立ち往生はふたたび発生しそうだ。(せめて「大型トラックは進入禁止」というふうにしておけば、避けられそうだが。)
(2)
→ 《 お知らせ 》(京急線の踏切事故): Open ブログ(09月08日)
ここでは、運転士のミスが主因らしい、と述べている。信号が見えるはずなのに、見えてもブレーキを踏まなかった(踏むのが遅れた)ということから、主因は「運転士がブレーキを踏まなかった(踏むのが遅れた)のが主因だ」と考えている。
これは、電車の側から、原因を探っている。ただし運転士がどうしてミスをしたのか(どうして気づかなかったのか)についてまでは、述べていない。報告待ちである。
(3)
→ 京急の踏切事故の謎: Open ブログ(2019年09月22日)
事故から 17日後になっても、まだ報告が全然出ないので、呆れ返っている。
「県警は17日、神奈川署に特別捜査本部(53人体制)を設置した。人員面などで体制を強化し、事故原因の解明を進める」
というくせに、その後もなかなか報告が出なかった。県警からも、事故調からも。
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その後、続報がないので、本サイトでも言及しなかった。
これまで何度も、「まだ出ないのか、まだ出ないのか」と思っているうちに、忘れてしまったが、忘れたころになって、ようやく出てきたわけだ。
それまで何らかの報告はなかったのかな、と思って、ネットを調べてみたが、やはり、これまでずっと報告は出なかったようだ。
事故から1年後、昨年の9月に、次の記事が出たが、内容は「不明である」というだけだ。(つまり、報告書は何も出ていない。)
→ 京急踏切事故から1年。現場で改めて感じる「たられば」(橋本愛喜)
Wikipedia を見たが、同様である。
→ 京浜急行本線神奈川新町第1踏切衝突事故 / 日本の鉄道事故 (2000年以降) - Wikipedia
つまり、今回の報告(2021年2月18日)まで、途中報告はまったく出ていない。
まったく、これまで県警も事故調も、何ら途中報告を出さなかったのだから、その秘密主義には呆れ返るばかりだ。
上記の「信号がよく見えなかったこと」は、かなり早い段階でわかっていたはずなのだから、「……の可能性が強い」というぐらいの形で、途中報告を出すべきだった。
警察と事故調の秘密主義・隠蔽主義は、どうしようもないね。
運輸安全委員会HPで公表されている過去の報告書を眺めてみたら、事故発生日から概ね1年〜1年半くらいに正式に公表されている事案が多いですね。ということは、今回の京急の事案も、特に遅すぎるとまではいかないかと。
報告書を見ると、鉄道だけでなく、自動車関連の調査も(年跨ぎで)行っているようですし。
それよりも短い期間で公表されているものもありますが、それらは事故内容が単純な案件です。
言葉尻を捕らえるようで恐縮ですが、「秘密主義」はまだしも、『隠蔽主義』は不適切な表現かと思いますよ。(どこかの首相や前首相のように、何かやましいことをしたわけではありませんので)
航空機の事故では、事故原因について途中報告があることが多い。最近の B777 でもエンジンの異常があったと、すぐに途中報告があった。こういうのが公開主義。これがあるべき姿。
航空機の事故調査を見習うべきだ。
今までは直ちに非常ブレーキを使わなかった、なぜならしょっちゅう点滅するのでダイヤが乱れる原因になっていてそれが原因での事故も起きなかった。
余程の民間や世論からの請求が無い限りは、
公表はされないでしょう。
公表と同時に再発防止はどうなんだ、
とつつかれるのが世の常ですから。
産業用の移動体で人に頼る時点で、
事故の言い訳はたたないでしょう。
踏切トラブルなんか、それをトリガにして、
いくらでも列車は止められます。
が、それをしないだけでしょう。
安全第一でなく利益優先だからです。
それに対して、何の咎めも言う気もしませんが。
産業上の利益の確保を、世の人がどう考えるか。
JR西の事故は自暴自棄的な新しい事故ケース、
これも含めると自動制動機能をつけるべき。
は会社の倫理責任でしょうけど、
費用は会社の存続との天秤でしょうからねぇ。
しかもそんな事故にお金持ちは巻込まれないから
優先度も低いでしょうし。
京急のブラック労務体制。
→ https://diamond.jp/articles/-/266735
京急の決算は、ここ数年、売上げ 300億円、利益 15億円。鉄道としては比較的良い利益率だ。
→ https://www.nikkei.com/nkd/company/kessan/?scode=9006&ba=1
今ごろになってようやく司法処理が決まった。
→ 京急電車とトラックの衝突脱線事故 電車運転士を起訴猶予 | NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220324/k10013549921000.html
なお、トラックの運転士は事故死していたので、最初から不起訴。