2021年02月12日

◆ フェアトレードに代わるもの

 アフリカの農民からカカオ豆を高額で買い取るには、フェアトレードでやる以外に、別の方法はあるか?

 ――

 フェアトレードに対して、私はこれまで否定的だった。
 「フェアトレードは詐欺も同然である。相手の善意を利用することで、不当な高価格で売りつけて、金を巻き上げるからだ」

 たとえば、100円の勝ちしかないものを「これはフェアトレードの商品です」と言って、「恵まれない子供のために」と言って、100円ぐらい高い価格(200円)で売りつける。差額は 100円。そのうち 95円は自分が取り、残りの5円だけを「恵まれない子供に贈る」というふうにする。たしかに「恵まれない子供に贈る」ということは成立しているが、残りの95円は自分が取ってしまうのだ。これでは 95%の詐欺だと言えるだろう。

 ※ どうしてこういう詐欺が起こるかというと、95%を自分の懐に入れるのではなく、「非効率」という無駄な経費のために消えてしまうからだ。要するに、フェアトレードというのは、「善意」を利用して、「非効率」を実行することであり、ただの無駄である。
 ※ かわりに、単に「寄付」をすれば、ほぼ 100%が「恵まれない子供のために」というふうに使われる。(ただし 10%程度の事務経費はかかる。ユニセフなどがそうだ。日本ユニセフの場合には、20%の事務経費がかかる。)

 ――

 さて。同じ目的だが、まったく別の方法を取る人が出た。朝日の記事にある。19歳の女性(大学生)が、アフリカのガーナに渡って、チョコレート工場の建設をめざして、3年後に実現した。
 3年前、アルバイトでためたお金でアフリカのガーナに渡った。
 そこで見たのは、品質管理が徹底されず、買いたたかれるカカオ農家の貧困だった。
  農家のためにできることは? 品質の高いカカオ豆を生産し、高い価格で流通させれば、ガーナも日本も幸せになれるはずだ――。
 東京都内の大学に通うかたわら、インドネシアや台湾の農場を巡って栽培法を学んだ。カカオ豆の値段を決めて買い上げていたガーナ政府とも交渉。アルバイト代やクラウドファンディングで集めた資金で、現地にチョコレート工場を建設。
 1年の半分はガーナで暮らし、地元での信頼も厚い。
( → 甘くない、ガーナの貧困 大学生はチョコ工場を建てた:朝日新聞

 これは詐欺ではない。善意を利用して高値で売りつけるわけではないからだ。
 では、これは素晴らしいことか? そうも言えない。善意を利用するわけではないのだが、やはりとんでもない高値で売りつけるからだ。それは実際の販売商品を見ればわかる。
  → ポール・スチュアート青山本店でエシカルな「MAAHA CHOCOLATE」をチェック


 画像を見ればわかるように、非常に高値である。普通のチョコレートの5倍以上の価格だろう。その点では、フェアトレードもびっくりの超・高価格品だ。
 それでもこれが「詐欺」ではないのは、(福祉のような理念でなく)「高品質」を銘打って高価格にしているからだ。「高品質・高価格」ということであれば、詐欺とは言えない。(無理やり売りつけているわけでもない。)
 とはいえ、これでは、買ってくれる人は、一部の物好きな高所得者だけだ。普通の人向けに大量販売することはできない。
 とすれば、このような形でカカオ豆を買い上げてもらえる人々も、量的にはごく限られていることになる。アフリカの現地の人々のうち、ごく一部しか救われないのだ。

 では、この問題を解決するには、どうすればいいか? 数多くのアフリカ人が救われるには、これ以外のどんな方法を取ればいいのか? 

 ――

 そこで正解を教えよう。こうだ。
 「アフリカの現地で農業指導をする。品質管理が徹底されず、買いたたかれるという状況(上記)を脱するように、農業専門家が農業技術の指導をする」

 これこそが正解だ。そして、この方法を取って成功しているのが、ベトナムだ。カカオ豆でなくコーヒー豆で、大成功を収めた。
 実際、今では世界第2位だ。
 2018年の生産量第2位は、ベトナムです。
 ベトナムは、1865年に西アフリカのカネフォラ種がフランスによって持ち込まれて生産が始まりました。1990年代には生産量が急激に伸び、第2位のコーヒー生産国にまで成長しました。
( → コーヒー豆の生産量国別ランキング!世界1位の国は? | DRIP POD

 その理由は、農業指導だった。
 品質向上には、技術革新が必要ですが、資金も情報も不足していた農家は打つ手がありませんでした。こうした中、 助け舟を出したのが外資系企業 です。彼らは、ベトナムをコーヒー豆の安定した供給先にしようと考え、ビジネスパートナーとして歩み寄りました。 農家に栽培ノウハウを指導し、生産性と品質の向上 を図りました。さらに、栽培に必要な資金を融資するような仕組みを提案するなど 、経営面にも配慮し、栽培農家を全面的に支援 していきました。
 こうした努力により、ベトナムは質・量ともに目覚ましい発展を遂げました。
( → ベトナムで注目されるコーヒービジネス【アジア・オセアニア豆知識】/マーケット情報・レポート − 三井住友DSアセットマネジメント

 味の素AGF(マキシムで有名なコーヒー会社)は、社としてベトナムのコーヒー豆作りを支援している。
 ベトナムでは2017年5〜9月にクロンナン、エアレオ地区の農家にコーヒーの苗木とベトナム味の素社の肥料を配布。それぞれの地区の公民館にて、地域の農業従事者3,000人以上を集め、技術指導も実施した。
( → 生産と流通のサステナビリティを世界のコーヒー農園から | 味の素グループ

 末端レベルでも、農業技術指導をしている人の報告・体験記がある。
 この秋、僕はベトナム・ダラットにあるコーヒー農園へ訪問してきました。目的は品質の確認と精製の指導。今回は農園で見てきた様子を写真を交えてお伝えしたいと思います。
( → 川野の農園訪問記 〜 ベトナムの精製 | LIGHT UP MAGAZINE

 このような農業指導が、ベトナムのコーヒー豆生産を劇的に増加させた。農家の人々の所得は急上昇した。
 ここでは、人々の所得が増えたのは、「コーヒー会社から買いたたかれることがなくなったから」ではない。「コーヒー会社などの技術指導を得て、高品質の作物を生産するようになったから」である。
 とすれば、アフリカのカカオ豆生産でも、同様のことをするのが最も効率的だろう。

 なのに、ここを勘違いしているのが、フェアトレード論者だ。彼らは「大会社が買いたたくから、現地の人々は貧しいのだ」と決めつけたあとで、「私たちは買いたたかないで、正当な価格で買い上げるから、現地の人々は豊かになる」と思い込む。しかし、そんなことをいくらやっても、現地の人々はちっとも豊かになれないのだ。なぜなら、依然として、低品質の作物を作っているからだ。

 アフリカの貧しい人々を真に豊かにするものは、下手な同情や正義感なんかではなくて、まっとうな農業技術なのである。
 こういうことは、理系の人々ならばすぐには理解できることだが、理系の知識のない人々は理解できないので、「農業技術? 何それ? それより愛が大事だよ。愛が世界を救うんだ」というふうに思い込む。
 しかし愛はそれ自体では1円も生み出さない。かわりに、「愛」という言葉にだまされた人の金を詐欺で奪い取るだけだ。
 


 【 関連サイト 】
 朝日新聞の記事から。農業支援に尽力した日本人医師の話。
 アフガニスタンで新しい切手が発行されることになった。2019年12月に殺害されたNGO「ペシャワール会」の現地代表、中村哲医師・・
 中村さんが1980年代から、アフガニスタンやパキスタンで医療や農業の支援を続けてきた功績が大きい。
 なかでも、戦乱で荒廃した国の「復興のモデル」とたたえられるのが、中村さんが00年代にアフガニスタンで進めた灌漑(かんがい)事業だ。砂漠化が進む村で、住民と力を合わせて用水路を掘り、近くの川から水を引いて、約1万6500ヘクタールを緑地に変えた。用水路は今も、約65万人の日々の暮らしを支えている。
 大統領府がカブールで開いた切手発行の記念式典では、幹部がこうたたえた。「(中村さんの)未完の事業を我々が受け継いでいく。永遠に忘れない」

( → (そよかぜ)切手になった丸腰の英雄 アフガニスタン:朝日新聞デジタル



 【 追記 】
 調べたところ、農業支援については、日本のチョコレート会社がすでに実施している。
  → 持続可能なカカオ豆生産の実現に貢献 | 株式会社 明治
  → 安定調達への取り組み | 持続可能な調達活動 | 株式会社 明治
  → 持続可能な調達|サステナビリティ|お口の恋人 ロッテ
  → カカオのサステナブル調達|不二製油グループ本社株式会社

 ただし森永は例外的で、自社でフェアトレードチョコを販売するという方針だ。
  → 森永チョコレートはカカオの国の子どもたちを支援します | 森永製菓
 これは、金だけ贈って、あとは現地の NGO に活動してもらう、というもの。自分では農業支援をすることはなく、単に金だけをたくさん贈るという方法だ。支援対象も「子供を支援」というもので、いかにも感情に訴えようとするものだ。
 「自分がいいことをしているつもり」になって、実際には自分では活動しない、というわけ。いかにも自己陶酔的なところは、フェアトレード賛同者の精神そのものだ。

 なお、不二家の方針ははっきりしないが、森永とほぼ同様であるようだ。現地で原料を確認しているということだが、現地で技術指導はしていないようだ。技術指導については「賛同する」というだけなので、口先だけであるようだ。
  → 不二家 食の安全を中心とした取り組みCSR 報告書2020



 【 関連項目 】

 フェアトレードについては、これまで何度も詳しく論じてきた。
   → サイト内 検索 (一覧)
posted by 管理人 at 23:10| Comment(5) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」という言葉が近いですかね? 相手の窮状を救うには何が本質で大切かを正しく考察することが肝要であると.
心したいものです.
Posted by 大学教員 at 2021年02月12日 23:49
 最後のあたりに 【 関連サイト 】 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2021年02月13日 11:20
 最後のあたりに 【 追記 】 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2021年02月13日 14:13
フェアトレードが適正な価格での売買を意味するのなら市場原理の元での売買全てがフェアトレードなのではないでしょうか。
逆に本来安価な価値しか無いものを高く買い取ることはフェアトレードに反してると言えます。
そういうフェアトレードでないものをフェアトレードと言うのは詐欺に当たるのではないでしょうか。

賃金を上げれば発生することのない人手不足こそアンチフェアトレードだと思います。
Posted by 単純脳 at 2021年02月13日 22:18
 「アフリカの子供が貧しいのは、先進国の大企業が不当に買いたたいているからだ」というストーリー(妄想?)があって、それへの対抗策という形で、「自分たちは正義だ」と言い張るための概念が、「フェアトレード」なんですね。

 「我こそ正義だ!」と強調する人々が うさんくさいのに似ている。
Posted by 管理人 at 2021年02月13日 22:28
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