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半導体不足のせいで、自動車の生産が滞っている。メーカー各社は相次いで、減産に追い込まれている。
→ 半導体不足が自動車業界に波及、大手各社が国内外で減産 | ロイター
→ 半導体チップの不足が自動車メーカーに打撃…トヨタ、日産などで6兆円以上の減収も
この問題は影響が大きいので、新聞社の社説でも取り上げられた。
→ 車の半導体不足 「産業のコメ」確保に知恵絞れ : 社説 : 読売新聞
→ [社説]半導体不足が映す自動車産業の未来: 日本経済新聞
この問題は、世界中の自動車産業で発生しているが、特に日本で影響が大きい。というのは、日本経済の貿易黒字の大部分は自動車産業に負っているからだ。「自動車一本足打法」とまで言われるほどだ。
→ 日本経済はいまや自動車の一本足打法で生きている | 電子デバイス産業新聞
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では、この問題はどうして起こったのか? その理由は、いくつか推定されている。
・ コロナによる「家ごもり」で、世界的なパソコン需要の急増
・ 昨年10月に旭化成の半導体工場で火災が発生した影響
だが、パソコン用の半導体が増えたからといって、ただちに自動車用の半導体が減ることにはつながらないだろう。
自動車用の半導体は、高品質で代替しにくい、とも言われるが、だったらなおさら、パソコン用の半導体不足は無関係のはずだ。
旭化成の半導体工場の火災は、いくらかは影響するだろうが、世界中の自動車産業全体に影響するほどではあるまい。規模が全然違う。
というわけで、普通の説明では、うまく説明しきれない。
そこで、じっくり調べて考察した記事が出た。
→ 世界的にクルマ減産へ、車載半導体不足の本当の原因 ボトルネックは台湾TSMCの先端半導体| JBpress
要旨はこうだ。
・ コロナによる需要急減と生産縮小で、昨年夏に自動車会社は半導体の注文を大幅にキャンセルした。
・ その後に注文を増やしたが、応じられるのは台湾の TSMC ぐらいだ。
・ しかも、そのうち最先端の半導体ばかりが不足する。
・ ここがボトルネックとなっていて、解決が困難だ。
・ 生産能力の増強には、1年以上かかるかも。
しかし、これは話がおかしい。そもそも、もともと半導体は不足していなかったのである。単に大量キャンセルによって不足が発生しただけだ。だったら、元に戻すだけで、不足は解消するはずだ。別に生産設備や工場を新規建設する必要などはないのである。(それを必要だと見なす上記記事はおかしい。)
では、真相は?
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そこで、私が解説しよう。これは「ボトルネック」という概念を理解すれば、解決する。
ボトルネックの原理は、前項で示したとおりだ。
→ コロナ対策と保健所: Open ブログ
その図を再掲しよう。

Wikipedia
この図を見ながら解説しよう。
図では、液体が上から下へ流れている。
それと同様に、生産工程では、上から下へという生産工程の段階がある。商品はその生産工程を少しずつ進むにつれて、少しずつ完成していく。
例:部品を装着する。ネジを締める。塗装をする。
このような直列的な生産工程においては、そのうちの1工程は、全工程のうちに占める割合は小さくとも、生産量の全体に影響する。
例。部品のどれか一つが欠けても大変だ。部品が代替できればいいが、部品が代替できないと、製品の全体が生産できなくなる。小さな部分の欠落が、全体に影響する。
ここでは、直列的な生産工程がある、ということに注意。
Wikipedia では、「80-20の法則などが示すように」と記しているが、これは誤りだ。80-20の法則では、「全体の 20%が 80の重要性を示す」というようなことだが、これは(直列でなく)並列的な生産工程における話だ。どれか一つが欠けたところで、全体に影響することはない。
一方、直列的な生産工程では、小さな部分の欠落が、全体に影響する。その小さな部分が、ボトルネックだ。
ボトルネックは、直列的な生産工程における現象だ。その部分が全体において占める割合が、1割であろうと、百万分の1であろうと、それ一つが欠けたことで、生産量の全部を止めることができる。
例。エンジン制御用の半導体が生産できなければ、エンジン全体の生産ができなくなり、自動車全体の生産ができなくなる。エンジン制御用の半導体の構成要素のうちの、たった一つが不足したせいで、1台の自動車の全体が生産できなくなる。かくて、何万台もの自動車の生産が止まる。
比喩的に、似た例を示そう。ほんのわずかな毒薬を飲むと、心臓の神経が正常に作動しなくなる。そのせいで、心臓が止まって、人間の生命活動の全体が止まる。ここでは、人間の肉体の全細胞が破壊されるわけではない。心臓という機関のうちの神経という、ほんの一部分が正常な働きを止めるだけだ。それだけで、人間の全細胞が死ぬのだ。
他方、腕や足なら、たとえ一部が欠損しても、人間の生命が失われることはない。
( ※ 前者は直列的な過程があり、後者は並列的な過程がある。そういう違いがある。)
ボトルネックには、このような重要性がある。となると、その対策は、こうだ。
(一時的に)ボトルネックが生じている場合には、ボトルネックを解消することが最重要となる。そのためには(一時的に)かなり多額のコストがかかってもいい。なぜなら、それによって他の部分の遊休が解消するので、大幅な効率改善になるからである。
これは、前項で述べたことだ。(再掲した。)
このことから、自動車産業がなすべきことは、こうだとわかる。
「ボトルネックを解消するために、一時的には多額のコストを払うのを惜しまない。必要な部品を得るために、通常の2倍か3倍の金を払ってもいい。それによって5万円ぐらいのコストアップが生じたとしても、甘受する。そのことで、自動車生産の中止による損失(1台の生産中止ごとに数十万円の損失)が発生することを止める」
自動車の生産が止まると、多額の損失が発生する。(たとえば生産ゼロでも、従業員への給料を払わなくてはならない。固定資産税や電気代もかなりかかる。設備や建物の償却費も発生する。)
一方、自動車用の半導体のコストは、たかが知れている。近年ではその比率が大幅に高まったとはいえ、リチウムイオン電池やエンジン部品やモーター部品ほどのコストがかかるわけではない。とすれば、半導体の価格を大幅に引き上げても、何とか耐えることができるはずなのだ。少なくとも、生産中止をするよりは、ずっとマシだ。
なのに、自動車会社はそれを受け入れない。「二倍の価格を払うから、パソコン用の半導体生産をやめて、自動車用に回してくれ」と言えば済むのに、そう言おうとしない。かわりに、「自分の番になったら、それをください」と言って、商品待ちの列に並ぶだけだ。これでは、決して優先配分を受けることはない。
ではなぜ、自動車会社はそうしようとしないのか? 「5万円の値上げを受け入れる代わりに、50万円の損失発生を防ぐ」という賢明な策を、どうして取ろうとしないのか?
それは、自動車会社が「ボトルネック」という概念を理解できないからである。そしてまた、「ボトルネックの回避のためには、(一時的に)多額の金を払ってもいい」という原理を理解できないからである。
だからこそ、自動車会社は多大な損失をこうむってしまうのだ。いわば、愚かにも毒薬を飲んで、心臓が止まってしまう人のように。

https://s.nikkei.com/3tunosp
無能経営者の極み。政府にお願いしてどうする。日本を社会主義経済だとでも思っているのか? そもそも国内で解決する問題ではない。
自分でできること(値上げ受け入れ)すら やらない阿呆。
> TSMCのキャパシテイの争奪戦に、車載半導体メーカーのインフィニオン、NXP、ルネサスも巻き込まれているわけである。車載半導体の最終的な顧客がトヨタ自動車、フォルクスワーゲン、GMだからといって優遇される、ということは一切ない。
> TSMCは、最先端の半導体を増産しているのだが、先端ファブレスの需要があまりにも大きいため、一旦キャンセルされた車載半導体に戻す余裕が無い。
要は、自動車用半導体を優先的に開発・製造してほしければ、自動車メーカーはファブレスよりも高い金をTSMCに積んで頭を下げろということですね。
イスラエルが高い金を出して新型コロナワクチンを真っ先に大量確保したように。
次の契約の機会に金を積んで受注が優先されるようにすることはできるでしょう。
問題はジャストインタイムを徹底しすぎたことでボトルネックとなる製品の供給に振り回されていることですね。
普通ならそうだけど、今は全部が納期遅れになっているんだから、信用もへったくれもない。
客が「納期遅れにするような会社は、信用しない。もう、おまえかからは購入しないぞ」と通告して、「かわりに他社から買ってやるぞ」と威張っても、他社からも買えなくて、結局は列の最後に並ぶハメになるだけだ。
供給不足のときには、「お客様は神様だ」と威張るのは、墓穴を掘るのも同然だ。
どんなときであれ、市場原理に従うのが最善なのである。これは「最適配分」「パレート最適」という概念で、経済学の教科書に書いてある通り。