原発の再稼働ができないのは、「テロ対策のため」という無意味なことをしているからである。ここを解きほぐせば、原発の再稼働は可能となる。
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前日の項目では、(電力逼迫の解決策として)「原発は再稼働可能だ」というふうに示した。そこでは、次のように述べた。
「原発の危険性」というものについて、人々が誤解しているので、その誤解を是正することで、再稼働が可能となる。
では、誤解とは? それは、こうだ。
「原発はテロリストに襲撃される恐れがあるので、テロ対策を十分にする必要がある」
これは誤解である。この誤解を解きほぐせば、原発の再稼働は可能となる。
本項では、この件について、詳しく説明しよう。
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現在、原発はほとんどが再稼働が不可能になっている。なぜか? 地震対策ができていないからか? 違う。テロ対策ができていないからだ。そういう理由で、再稼働が認められていないのだ。
九州電力は 16日、川内(せんだい)原発1号機(鹿児島県)の運転を停止した。テロ対策施設が期限内に完成しないためで、完成の遅れで原発が止まるのは全国初。最新の知見で引き上げた基準を既存の原発にも適用する「バックフィット制度」で停止に追い込まれた初のケースでもある。
テロ対策施設は、航空機によるテロ攻撃を受けても遠隔で原子炉を制御する施設。
バックフィットによる「強制停止」は原発の収益性を揺るがす。特に、残り少ない運転期間を削られる老朽原発は影響が深刻だ。
( → 川内原発1号機停止 既存施設にも最新の知見「バックフィット」:朝日新聞 2020年3月17日 )
バックフィットは電力会社の経営も直撃している。テロ対策施設の工事は原発の中枢機能をもう一つ造るような大規模なもので、1基あたり約500億〜1200億円かかっている。各社の工事費は当初の想定の2〜5倍に膨らんでいる。 これに伴って安全対策費は巨額になっている。関電では総額で1兆円を突破。九電では9千数百億円に上る安全対策費の半分をテロ対策施設が占める。
( → 川内原発1号機停止 既存施設にも最新の知見「バックフィット」:朝日新聞 2020年3月17日 )
バックフィット制度(最新の知見で引き上げた基準を既存の原発にも適用すること)は、後出しジャンケンみたいなものだが、それ自体は悪くない。これについては論じる必要はない。
問題は、テロ対策だ。なぜテロ対策をするのか? それは、自民党が原発へのテロ攻撃を極端に恐れているからだ。
テロ対策施設は、航空機によるテロ攻撃を受けても遠隔で原子炉を制御する施設
( → 川内原発1号機停止 既存施設にも最新の知見「バックフィット」:朝日新聞 )
と説明されている。だが、こんな想定はまったく無意味だ。
「航空機によるテロ攻撃」なんて、人類史上でいっぺん起こっただけだし、今後はとうていありそうもない想定だ。9・11 の事例は、アメリカという「アラブから恨まれる国」だからこそ起こったが、日本は「世界のどこかからう恨まれる国」ではない。(韓国のあれは、恨まれるというよりは、羨ましがられて、嫉妬されているだけだ。現実に日本のせいで次々と韓国人が殺されているわけではないからだ。)
そもそも日本を敵視しているテロリスト集団などはない。アメリカの場合には、もともとアラブ系のテロ組織という敵対集団があったが、日本に対する敵対集団などはない。なのに、ありもしないものを恐れるのは、ほとんど精神病だ。(杞憂ともいう。)
どうせ考えるなら、北朝鮮による攻撃だろう。その場合は、ミサイル攻撃か、ドローン攻撃だ。これは、可能性としては、十分に考えられる。
とはいえ、それは、テロリストによる攻撃ではなく、国家による攻撃だ。それはまた、「テロ」ではなく「戦争」だ。
だが、戦争ならば、戦争の開始(宣戦布告)と同時に、原発をすべて停止すればいいだけだ。停止している原発ならば、攻撃を受けても危険ではないからだ。つまり、この方法ならば、1円もかけずに対策ができる。
一方で、ありもしないテロに備えて巨額の金を投入するのは、馬鹿げている。狂気の沙汰だ。あつものに懲りて、なますを吹く。
これでは、まったくバランスを欠いている。必要不可欠な地震対策には、金をろくに投じなかったくせに、必要もないテロ対策に、莫大な金を投じる。……そのアンバランスには、呆れるほかはない。
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そもそも、技術的に言って、対策がナンセンスだ。仮に、テロ組織が存在して、日本の原発にテロ攻撃を仕掛けるとしよう。その場合、「テロ対策施設を作る」というのは、対策としては無意味だ。
なぜなら、テロ対策施設をテロ攻撃されれば、一挙に無効化するからだ。テロリストならば、当然、両方をいっしょに攻撃する。ゆえに、「テロ対策施設を作る」という対策はまったくナンセンスなのだ。
これに対して、「テロ対策施設を隠しておけばいいだろ」と思うかもしれないが、隠すことはできない。なぜなら、「バックアップ施設は、原子炉から 100メートルの場所に設置する」と規定されている(*)ので、「原子炉から 100メートルの位置にあるためものだ」と自動的に判明してしまうからだ。
(*)出典 → 特定重大事故等対処施設について
参考 → 原発のテロ対策施設、九電川内1号機で完成 全国初:朝日新聞 2020年11月11日
さらに言おう。「主施設(中央制御室)が万一、動かなくなった場合」というのに備えることは大切だ。似た例だが、福島原発では「電源が停止」ということが実際に起こった。だから、そういうことに備えることは必要だ。
ただし、その方法は、私は前に提案したことがある。「水棺にしろ」と。これは、重力式(水は高きから低きに流れる方式)であり、手動で動くものであって、別電源や別装置を特に必要としない。また、タンクと配管と手動弁だけで済むから、コストもあまりかからない。これで十分なのだ。
なのに、「テロ対策施設」という巨額のものを設置するというのだから、無駄遣いをするにもほどがある。
こんなものは不要なのだ。
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そして、「こういうものが設置されていないから」という理由で、再稼働ができないでいる。そここそが、問題だ。
「超巨額のテロ対策施設を設置する必要があるが、それがまだ設置されていないので、原発の再稼働を認めない」
これが、現状だ。(設置の条件を満たしたのは、川内原発だけだ。)
これ以外の原発は、あまりにも巨額なテロ対策施設を設置する金がないので、なかなか再稼働ができないでいる。
だから、こういう馬鹿げた規定(原発の再稼働にはテロ対策施設を設置する必要があるという規定)を廃止すればいい。そうすれば、大半の原発は、今すぐにも稼働可能となる。
これにて、原発再稼働の問題は、解決する。
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「それでは安全性が担保できないぞ」という反論があるかもしれないが、大丈夫。
代替策として、別の方法を取ればいい。つまり、「遠隔制御」という本格的なものは必要ない。単に「外部操作によって、燃料棒を引き抜くことで、原発を自動停止する」というシステムだけを用意すればいい。……比喩で言えば、自動車で、自動運転装置は必要なく、自動停止装置だけがあればいい。それだけで危険は回避できるし、コストは大幅に下がるからだ。
[ 付記1 ]
航空機で原発施設に衝突する……というのは、実は荒唐無稽である。そんなことができるわけがない。なぜなら、パイロットは素人だからだ。
9・11事件のときには、テロリストがパイロットを皆殺しにして、自分で操縦した。どうしてそんなことができるのか? 本来ならばできないのだが、今では「フライト・シミュレーター」という便利なものができている。これを使って事前訓練することで、初めて操縦するジェット機でも、そこそこ操縦することができるのだ。だから 9・11事件のときには、テロリストがジェット機を超高層ビルに衝突させることができた。
しかし、超高層ビルに衝突させることは容易にできても、地上の施設にピンポイントで衝突させることは非常に困難だ。超高層ビルなら、上下方向に少しぐらいずれても、どこかにぶつかる。しかし地上施設だと、上下方向に少しでもずれたら、衝突はできない。
「いや、ペンタゴンには衝突できたぞ」
という反論もありそうだが、不適切だ。ペンタゴンというのは、非常に巨大で目立つ施設である。その巨大な施設のどこかにぶつかればいいのだから、簡単だ。また、ペンタゴンというのは、遠くからでもすぐに見つかるので、視認しやすい。
→ https://goo.gl/maps/xEYrR4kTHNdNSrnD6
一方、原発の施設は、はるかに小さい。また、遠くからでは視認しにくい。
→ https://goo.gl/maps/9D7cB2BfBBjd2TXs8
しかも、ぶつける対象は、格納容器という小さな部分である。そこにピンポイントでぶつける必要があるのだ。……そんなことは、フライトシミュレーターで訓練した程度の素人には、できるわけがない。大幅にマトを外すに決まっている。
そして、それがわかっているから、頭がまともなテロリストなら、原発なんかを狙わないのである。
実際、9・11のテロリストは、超高層ビルとペンタゴンを狙った。それこそが容易な対象であるからだ。
一方、彼らはホワイトハウスや米国議会議事堂を狙うことはなかった。マトが小さくて、きちんと衝突させることが困難だからだ。
→ https://goo.gl/maps/PGTUzkz9zs7nRxEJA
要するに、「テロリストが原発に飛行機を衝突させる」なんていうのは、あまりにも荒唐無稽で馬鹿げたことなのである。……そんなことを「ある」と想定して、再稼働の条件にするなんて、馬鹿馬鹿しいにもほどがある。自民党の勘違いによる恐怖であるにすぎない。
[ 付記2 ]
その一方で、地震に対する対策は、まるでできていない。想定する地震の規模は、800ガル程度だが、現実には 2000ガル以上の地震がしばしば起こる。
要するに、南海トラフ地震ぐらいの規模の地震が起こったら、下図の大部分の黄色領域では、原発は破損する。(ここには、浜岡原発・伊方原発も含まれる。)

出典:南海トラフ巨大地震の震度分布(気象庁)
他の地域も、(南海トラフ事件の危険はないとしても)、それなりに地震の可能性があるし、耐震性の弱さもある。(たとえば、新潟の柏崎刈羽原発には、新潟沖地震の危険がある。)
原発の多くは地震の危険があるのだが、そのいずれも耐震性は弱い。前に何度か示した通り。
→ サイト内検索
こういう問題があるので、耐震性の観点から、原発の稼働は必要最小限に留めた方がいい。
その一方で、地震の可能性はかなり小さいので、必要最小限の範囲であれば、限定的に認めてもいい。ただしそれは、「全面的な解禁」を意味するものではない。
※ 「テロ対策や地震対策を完璧にやれば、再稼働を認めてもいいだろ」という見解もありそうだが、現実には無理である。そのためには、非常に高額の費用がかかるので、赤字になってしまうからだ。2000億円の費用をかけて、1500億円の収益しか得られない、という感じになる。やればやるほど、赤字が出るだけだ。何もしないで廃炉 or 稼働停止にした方が、よほど赤字が少なくて済む。
※ とはいえ、ブラックアウトが起こると、それこそ超巨額の損失が発生する。だから、それを避けるためには、必要最小限の原発の稼働を(限定的に)認めてもいい……というのが、私の立場だ。
[ 付記3 ]
航空機による自爆攻撃のほかに、地上部隊による襲撃というテロも考えられる。
この点は確かに心配がありそうだ。しかし、それだったら、(重火器で武装した)自衛隊という軍隊を配備すればいい。「襲撃犯は即、射殺」という方針を取っておけば、襲撃する馬鹿はいなくなるだろう。
また、「大型トラックでバリケードを突破する」というような方針があったとしても、重火器のバズーカやロケット弾で大型トラックを破壊することができる。
こういう対処は、(軽武装の)警察ではできない。現状では、テロリストに襲撃されたら、ひとたまりもないと言える。……しかるに、そういう(危機管理の甘い)状況で、(重武装の)自衛隊を配備するという方針を取っていない。
このことからして、政府は「テロリストによる襲撃」というものに、本気で対策するつもりはない、とわかる。「大型トラックでバリケードを突破する」というような方針には何ら対処しないで、ありもしない旅客機による自爆攻撃ばかりを心配しているからだ。テレビか映画の世界の話でも夢想しているだけだろう。本気でテロ対策などを考えているわけではない。
たぶん、本当の目的は、「数千億円の工事費」だろう。それで袖の下をもらうことが真の狙いだ。
- ( ※ 「自衛隊を全国の原発に配備したら、莫大なコストがかかるぞ」と思うかもしれないが、心配ない。コストはほぼゼロで実現できる。なぜなら、既存の陸上自衛隊の部隊を、配置換えするだけで済むからだ。そもそも陸上自衛隊は、戦時における頭数をそろえることが大事なのであって、平時にどこに配備するかはどうでもいいことだ。既存の駐屯地に配備してもいいし、かわりに原発に配備してもいい。いずれにせよ、戦時になったら、人員は活動部隊に召集される。その一方で、平時には、人員はどこに配備されていてもいいのだ。だから、普段は原発に配備されていても、全然構わないのだ。かくて、コストゼロで、原発に人員を配備できる。)
《 注 》
現状では、「原発特別警備部隊」という特殊警察がテロ対策で配備されていて、H&K MP5 という短機関銃を所有している。これによって、相手が歩兵部隊ならば、制圧することが可能だ。
しかし相手が重火器で武装していれば、短機関銃そのものが爆破されてしまう。警察ぐらいの戦力では、軍隊規模の襲撃には対処できない。
また、人員が眠っている間に夜襲を受けたら、たぶんひとたまりもないだろう。少数の夜警がひそかに制圧されたあとで、一挙に建物の全体を制圧されるだろう。ランボーが1人いれば、原発をあっというまに制圧できそうだ。
まあ、制圧を阻止するというよりは、制圧されることを前提とした上で、自動停止装置を配備しておけばいいだろう。(自動停止装置も制圧されそうなので、これを多重配備することが必要だ。)
[ 補足 ]
最後に補足しておくが、タイトルの「原発のテロ対策は不要だ」というのは、「テロ対策をしなくていい」という意味ではなく、「(現状の)テロ対策施設は不要だ」という意味だ。
テロ対策を否定しているのではなく、テロ対策施設(超巨額)を否定している。ほとんど金をかけないで済む自衛隊配備を否定しているわけではない。
【 追記 】
朝日新聞に原発再稼働の特集記事があった。そのなかに、次の記述があった。
昨年3月以降、再稼働済みの4基が運転停止に追い込まれた。新基準で設置を義務づけられたテロ対策施設が猶予期間を過ぎても完成せず、基準不適合となったためだ。
「コロナで経済が傷ついているときに原発を止めなければならない」。原子力規制庁幹部は昨年6月、自民党本部の会合で責め立てられた。
再稼働できた原発も、まともに運転できていない。関電高浜3号機(福井県)は16年に再稼働した矢先、運転の差し止めで停止。昨年はバックフィットの適用もあり、再稼働から5年間で運転できたのは半分ほどだ。
( → 再稼働の命運握る規制委 厳しい審査に「歴史の皮肉」:朝日新聞 )
「テロ対策施設が猶予期間を過ぎても完成しない」という理由で、稼働中の原発が運転停止に追い込まれたのだ。
これはまあ、自分で自分を傷つけるのも同然だ。「テロ対策」という名目で、自分で自分にテロ活動をしているのも同然だ。バカじゃないの? 「原発を止めるテロ活動が心配だ」と思ったら、そういう心配をすること自体が最大のテロ活動になっているわけだ。
なお、高浜3号機の運転停止は、テロ対策の不備のせいである。
→ 関電、高浜3・4号機停止4〜5カ月に テロ対策遅れ: 日本経済新聞
なお、こういうふうに原発に「テロ対策」という条件を付けたのは、自民党である。民主党政権の下で、原発の再稼働の条件を決めるときに、9・11テロへの国防意識の高まりから、「テロ対策」という馬鹿げた条件を付けることになった。
福島に津波は来ないという想定がなされていたように、原発にはテロリストは来ないという想定で、再稼働などが行われています。自民党は、テロ対策も含む安全対策が行われねばならないということを明確にしました。
( → 自民党の原発政策 | 衆議院議員 河野太郎公式サイト )
「原発テロ対策」も強化できるような内容の対策にしていただきたいと思う。
原発テロに対処するための警察と自衛隊の共同訓練に、電源設備や送電網をねらったテロにも対応できるプログラムを考えていただきたい。
( → 原子力発電所のテロ対策:経済産業委員会質疑報告A | 5期目だ!野党だ!!永田町通信 平成21年10月〜平成24年12月 | コラム | 高市早苗(たかいちさなえ) )
こういうふうにして、「テロ対策をしなければ運転停止」という方針を取り込んだ。それが、巡り巡って、現在の原発を止めるという結果に導いているわけだ。
なお、当時の自民党がやたらと原発再稼働に厳しい条件を付けた……ということは、上の朝日の記事にも解説されている。その一例が、「再稼働を決める委員は、国会同意人事として、容易に罷免できない」という制度にしたことだ。
こうして、やたらと厳しい委員が選任されて、その馬鹿げた方針(馬鹿げた法律に従って原発を止めるという方針)に従うほかなくなるわけだ。
「民主党へのイヤガラセ」というつもりで始めた「厳しい条件設定」が、今になって自分と国民を苦しめる。馬鹿丸出しというしかない。
( ※ その一方で、地震対策は大甘だ……ということも、上記の朝日記事に記述されている。)