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NHK の「サイエンス・ゼロ」という番組で、コロナを扱っていた。もともとは昨年末の放送だが、新たに再放送があった。それを見たので、紹介しよう。
番組は、「世界中の多数の論文を AI で調べ尽くして、有益な話をピックアップする」というもの。
何だかすごいことをやっているように吹聴しているが、よく考えたら、Google がやっていることと大差ないね。「多くの論文で引用されているような主要論文を有力論文と見なす」という手法も、Google がやっている検索ランキングの手法と同じだ。また、そもそもすでに学界でやっている方法とまったく同じだ。威張るような方法ではない。
それはさておき。
この番組では、主に四つの話題を扱っていた。そのうち三つを取り上げよう。以下、順に述べる。
湿度
冬になるとインフルエンザやコロナの感染者が急に増えるのはどうしてか? それは湿度が大きく影響しているそうだ。
「湿度が下がると免疫力が低下する」
というふうに漠然と考えられていたのだが、その細かなメカニズムが判明した。気管支の部分の表面には線毛という部分があって、これがウイルスのような異物をどんどん上方に運んで、体外に排出させているそうだ。ただしその機能は、湿度が下がると急激に低下してしまうという。
その能力は、湿度が 40%〜60% のときに最大化して、湿度が 10% だとゼロになる。こうなると、ウイルスのような異物を体外に排出できなくなるので、感染してしまうそうだ。
意外だったのは、湿度が 80% や 100% という高い湿度のときにも、やはりこの排出力は大幅に低下してしまう、ということだ。湿度は高ければいい、というわけではないようだ。過ぎたるは及ばざるがごとし。適度な(中くらいの)湿度がいいらしい。
なお、加湿器がない場合には、マスクを使うと、湿度を保てるという。逆に言えば、マスクを使うことで、保湿ができるので、感染を防げるわけだ。……これは前に私が言ったこと(マスクは保温と保湿によって感染を防げるという話)と同じである。
→ インフルエンザが減ったわけ: Open ブログ
心筋炎
若い人は、無症状の人が多いのだが、それでも精密検査すると、心筋炎の人が 15%もいる、と判明したそうだ。
自覚症状がないまま、「自分は無症状だから問題ない」と思っていると、気がつかないうちに臓器を傷つけられて、深刻な事態になりかねないそうだ。特に心筋炎は危険だ。「胸がちょっと痛いな」と思っていながら、状況を甘く見て、勝手に運動をしていると、突然、心臓が止まってポックリ逝ってしまう、というようなことが起こりかねない。
心筋炎になっても、三カ月もすれば快癒するらしい。だから、感染したら、少なくとも全治したあと2週間ぐらいは、運動を避けて安静していた方がいいそうだ。
要するに、後遺症が結構ある、というわけだ。前から何度も言われてきたことではあるが、コロナという病気は、結構タチが悪い。ただの風邪とは違って、下手をすると命を奪う危険な病気なのである。甘く見るべからず。コロナそのものよりも、患者の楽観が死をもたらす、ということになりがちだ。
そう言えば、今の日本もそうだ。菅首相の楽観が、今日の感染爆発と医療崩壊という事態を招いた。日本を死の寸前にまで導いたのは、菅首相の楽観だったのである。
ネアンデルタール人の遺伝子
コロナの重症者に特有の遺伝子を調べたところ、その8〜9割で、「ネアンデルタール人からもたらされた遺伝子」と共通していることが判明したそうだ。これはあまりにも頻度が高いので、決して偶然ではありえない。
つまり、人類のなかには、「ネアンデルタール人からもたらされた遺伝子」を持っている人と持っていない人がいて、持っている人は重症化しやすい、というわけだ。
これは何を意味するか? 番組は特に解釈を述べていない。単に「そういうものだ」と述べているだけだ。
そこで、私なりに解釈を述べよう。こうだ。
「ネアンデルタール人の遺伝子を持つ人々がコロナで重症化しやすい」ということは、「ネアンデルタール人の絶滅は病気のせいだ、という説を裏付ける」ということだ。
これまで、「ネアンデルタール人の絶滅はなぜか?」ということがしばしば話題になった。これに対して、私は「ネアンデルタール人の絶滅は病気のせいだ」という説を唱えた。
「ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は、近縁の生物種なので、同じ病気に感染した。そして、前者は免疫ゆえに滅亡を免れたが、後者は免疫不足ゆえに(数を減らして)滅亡した。両者を分けたのは、病気への免疫力の差だった。免疫力が足りなかったネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスから感染させられる形で、病気に罹患して、滅亡したのである」
ここで念頭に置かれた病気とは、一時的な伝染病ではなくて、根絶が不可能なまま何万年も続くような永続的な伝染病である。それはつまり、インフルエンザだ。それに対する抵抗力(免疫力)の差ゆえに、ホモ・サピエンスは生き残ったが、ネアンデルタール人は滅亡した。……それが私の仮説だった。
→ ネアンデルタール人の絶滅: Open ブログ
そして、その仮説が、まさしく遺伝子的に裏付けられた、と言えるだろう。
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なお、番組では、次のことも述べられていた。
「東アジアの国々(日本や韓国や満州など)では、ネアンデルタール人からもたらされた遺伝子を持っている人が少ない」(*)
(*)のことは、どうして起こったのか? 次のように推定できる。
「東アジアの国々の人々の間では、ネアンデルタール人の遺伝子を持つ人々は、ほとんどが死に絶えてしまった」
換言すれば、こうだ。
「これらの国の祖先は、インフルエンザの強い淘汰圧にさらされたことがある。たぶん、シベリア(バイカル湖のあたり?)を通る途中で、インフルエンザの猛威にさらされて、ネアンデルタール人の遺伝子を持つ人々はみんな死んでしまった。だから、生き残ったのは、ネアンデルタール人の遺伝子を持たない人々ばかりになった。
これで、「東アジアの国々では、ネアンデルタール人の遺伝子を持つ人が少ない」ということが説明される。
(*)のことからは、「東アジアの国々では、コロナの重症者が少ないはずだ」という推測も出ているようだ。
これは、前に話題となった「ファクターX」という話題に似ているようだが、かなり違う。「ファクターX」で話題になったのは、
「東アジアの国々では、コロナの感染者が少ない」
ということだ。一方、番組で話題になったのは、
「東アジアの国々では、コロナの重症者が少ない」
ということだ。
両者は、「感染者」と「重症者」という違いがあるので、別の話である。
実際、「東アジアの国々では、コロナの感染者が少ない」というようなことは成立しない。世界的に見ても、当初には中国と韓国で爆発的な感染増加があった。ただしそのあとでは、強力なロックダウンや 大規模な PCR検査という圧倒的な対策があったのと、ほぼ全員のマスク着用という方針を取ったことで、感染を収束させることができた。ろくにマスクも使っていない欧米とは違うから、収束させることができたのだ。ファクターXは理由とはならない。
【 関連サイト 】
(1)
NHK の番組の内容については、その要約を記している Web ページがある。下記だ。
→ 12/27 サイエンスZERO「新型コロナ第3波まっただ中!全論文解読から見えた戦略SP」 - ブログ
ここでは、4番目の話題についても紹介している。
※ mRNA を使ったワクチン開発、というような話題。
本項では特に解説しない。詳しい話は下記にある。
→ 新型コロナ用mRNAワクチンの4つのすごい設計(JBpress)
→ ワクチン開発にいたるまでの経緯 / Twitter
→ [翻訳] BioNTech/Pfizer の新型コロナワクチンを〈リバースエンジニアリング〉する
(2)
ネアンデルタール人の遺伝子との関係については、下記ページにちょっと詳しい話がある。
→ 新型コロナの重症化はネアンデルタール人から受け継いだ | 沖縄科学技術大学院大学 OIST
→ ネアンデルタール人より受け継がれた新型コロナウイルス感染症の重症化に関わる遺伝要因
【 関連項目 】
NHK がサイエンス・ゼロでコロナを扱ったのは、今回が初めてではない。前にも扱ったことがあり、そのときにも紹介した。下記項目で。
→ 新型コロナの本質: Open ブログ
※ この項目では、NHK の番組の紹介を主眼とはしていない。
「私の説を記したら、書いたあとで、NHK のサイエンスゼロが、同じ話題を扱っていると気づいた」という話。「内容がかちあっていた」というような話。
「東アジアの国々では、コロナの感染者が少ない」
ということだ。一方、番組で話題になったのは、
「東アジアの国々では、コロナの重症者が少ない」
ということだ。
⇒ ちょっと気になりましたので一つだけ。
「ファクターX」という言葉を最初に使いだしたのは、京大の山中伸弥教授だと思いますが、山中さんは、自身の情報発信サイト(下のURL)の中で、「感染者や死亡者の数は、欧米より少なくて済んでいます。何故でしょうか?? 私は、何か理由があるはずと考えており、それをファクターXと呼んでいます。ファクターXを明らかにできれば、今後の対策戦略に活かすことが出来るはずです」と書いています。
この山中さんの文章は、「東アジア」についてではなく「日本」についてなので少し違うかもしれませんが。いずれにせよ、山中さんの主張に限らず、(日本の)いわゆる第1波の頃から東アジアの感染状況については、「重症者数や死亡者数が少ない傾向だ。それらの国に比べると日本は多いので、東アジアの中では劣等生だ」と一部で言われていたので、私自身はファクターXとはそういうものだと認識していました。
https://www.covid19-yamanaka.com/cont11/main.html
※このURLの「解決すべき課題」の中の、「ファクターXは続くか?(12月1日)」のところではなく、下の方の「ファクターXを探せ!」のところが初出だと思います。山中さんはこういうブログ記事の執筆というか、個人サイトの運営に慣れていないようで、掲載日時を書いていないのでハッキリ分かりませんが。
逆に言えば、欧米で感染がひどいのは、マスクをしないから。マスクをしない程度と、感染のひどさは、ほぼ比例している。前に述べたとおり。
→ http://openblog.seesaa.net/article/479279040.html
の [ 付記3 ]
⇒ 日本に限って、感染が少ないことのファクターXが「マスク」である(マスクの影響が大きい)ことには、従前から同意です。ちょっとした事ですが、私が言及したのは、ファクターXの正体ではなくて定義の話(感染者数が少ない要因だけではなく、重症者や死亡者が少ない要因も含む)です。
それはそれとして、マスクの話題が出たのでひとつ質問です。私が最近、街中の様子を見て気づくのは、ウレタンマスクや布マスクの装着割合が増えている(不織布マスクが減っている)ことです(特に若い人に多い)。これは、昨年12月からの感染爆発と何か関係があるとお考えでしょうか? マスクの効果については、呼気(吐きだし)中の飛沫を抑制するぶんについても、ウレタンや布は不織布に比べて劣るというシミュレーション結果が出ていますよね(@)。また、札幌市では、濃厚接触者の定義を装着しているマスクによって変えているようです(A)。
@ https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5fd6c3bec5b62f31c1fe4eb8
A https://www.uhb.jp/news/single.html?id=15954
誤: 繊毛
正: 線毛
詳しくは下記。
→ https://www.seihaito.jp/structure/index.html
喉ではなく気管支にあるそうです。