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太陽光発電を普及させるためには、将来的にはすべての個人住宅で屋根に太陽光パネルを設置するようにしたい。
しかし、そうしたくても、実際にはできないことが多い。理由は二つ。
・ 屋根の形状が、太陽光パネルの設置に適していない。
・ 建物の構造が、重量物の設置に適していない。
こういう問題があるので、将来的に太陽光パネルが激安になっても、すぐには「おいそれ」と太陽光パネルを設置できないのだ。
そこで、将来の太陽光パネルの価格低下を見込んで、今のうちにすべての新築住宅を「太陽光パネルに対応する」という構造を持たせるといい。そのためには、それを推進するように、政府で住宅政策を方針づけるといい。
「太陽光パネル対応型の住宅には、住宅減税で優遇します」
というふうに。
今でも景気対策などで住宅減税は実施されている。
→ 住宅ローン減税制度の概要|すまい給付金
このような減税の際に、「太陽光パネル対応」という条件を付ければいいのだ。そうすれば、多くの家が「太陽光パネル対応」の屋根を持つようになるので、将来的に多くの家が太陽光パネルを設置できるようになる。
逆に言うと、このような住宅政策を実施していないと、将来、太陽光パネルのコストが大幅に低下しても、太陽光パネルを設置できないことになる。(理由は上記の2点)……これでは困る。だから、そういうまずい事態が起こらないように、今のうちに、新築住宅を「太陽光パネル対応」にしておくべきなのだ。
住宅の寿命は 50年以上もある。将来、太陽光パネルが激安になっても、そう簡単には住宅を建て替えるわけには行かない。だから、あらかじめ長期的展望を見込んで、将来を念頭に置いた構造にしておくべきなのだ。
それが本項の結論となる。
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以下では、上の2点(設置したくても できない理由)について、詳細を論じよう。
屋根の形状
屋根の形状は、太陽光パネルの設置に適していないものが多い。
具体的に言うと、太陽光パネルの設置に適した屋根とは、次のようなものだ。
・ 切妻屋根であること。
・ 屋根の傾斜が十分な角度を持つこと。
(1) 切妻屋根
屋根のタイプには、次のようなものがある。
切妻屋根
日本の住宅のなかでも最も一般的な形状のひとつで、長方形の2つの屋根が中央で山形に合わさった形を指します。面積が広いため、たくさんの太陽光パネルを設置できるのが特徴です。
寄棟屋根
4つの面が合わさった屋根のことで、住宅密集地に多い形状です。4つの面からできているため、どんな場所に建てられたとしても必ず南面にパネルを設置することができます。
片流れ屋根
1面の屋根が一方向だけに向いている形状です。屋根全体に太陽光パネルを乗せることができますが、屋根の方角が悪い場合には十分な発電量を得られないというデメリットがあります。
陸屋根
傾斜のない水平の屋根のことで、屋根全体に太陽光パネルを乗せられる反面、傾斜をつけられないというデメリットもあります。
( → 太陽光発電に適した屋根の向きや勾配は? 発電効率がよくなる設置条件 | スマートテック )
具体的な図は、下記にある。
→ 太陽光発電システム設置に向いている屋根の方位と角度とは?

以上のうち、太陽光発電に適したものは、「切妻屋根」だけだ。これの南面に、太陽光パネルを設置すればいい。大きな面積で設置できる。
「寄棟屋根」は、三角形の面積になる部分が多いので、太陽光パネルを設置できる場所がかなり限定される。つまり、小さな太陽光パネルしか設置できない。これでは無駄だ。
「片流れ屋根」は、南向きならばいいが、実際には、その逆らしい。
傾斜の方角が南だと大きい屋根にた多く太陽電池を設置することができますが、ほとんどが屋根の傾斜の方角と反対側にベランダを設置することが多く、屋根の傾斜の方角が北の場合が多い。
( → 太陽光発電システム設置に向いている屋根の方位と角度とは? )
「陸屋根」は、傾斜がないので、太陽光を受けるときの効率が悪い。
以上のことからして、適しているのは「切妻屋根」だけである。政府としては、このタイプの屋根を推奨するべきだ。
※ 別の理由もある。このタイプの屋根は、屋根裏部屋を設置しやすい。屋根裏部屋があると、物置のかわりに使えるので、とても便利である。天井の一部を引っ張ると、ハシゴが斜めに下りてくる、というタイプが多いようだ。
(2) 屋根の傾斜
屋根の傾斜は、おおむね、その土地の緯度と同じ角度にするのが最適である。ただし、現実には、もう少し低い角度の方が最適であるようだ。
最適角については、次の対応表がある。(緯度だけは私の調査データ。)
地点 緯度 最適角
北海道 札幌 43度 34.8度
宮城県 仙台 38度 34.5度
東京都 八王子 35度 33.0度
愛知県 名古屋 35度 32.5度
大阪府 大阪 35度 29.2度
愛媛県 松山 34度 28.5度
鹿児島県 鹿児島 32度 27.7度
沖縄県 那覇 26度 17.6度
( → 太陽光発電が最も効率よく発電する角度は?屋根の方角と緯度で変わる )
このような最適角度があるので、そういう角度にするように、推奨するといいだろう。
(3) 特別な工夫
以上の (1)(2) は、制度化に当たって必須の条件だが、さらに、もっとうまい工夫をすることができる。(私の独自提案)
それは、次のようにすることだ。
「切妻屋根にするとき、北側半分と南側半分とを、同じ面積にしない。おおむね 3:7 ぐらいの比率で、南側半分の面積を広くする」
なぜそうするか? このようにすると、太陽光パネルの設置面積が増えるからだ。「 5:5 」のときに比べて、「 3:7 」では、太陽光パネルの設置面積が4割増になる。それだけ、発電量が増える。
なお、これにともなって、「北側半分の傾斜は急になり、南側半分の傾斜は緩くなる」というふうになるが、それはそれで、別に構わない。
南側斜面の角度は、東京では 33度が最善であるようだが、25〜30度であっても構わないだろう。角度を 33度にすることよりも、屋根の面積の広さを重視するべきだ。(角度を少し緩くしても、発電量の低下はあまり大きくないからだ。角度よりも、面積を重視するべきだ。)
建物の構造
建物の構造が、重量物の設置に適していない(強度不足だ)……という旧来の建物が多い。この件は、前項で述べた。そちらを参照。
→ 太陽光発電と屋根(既存住宅): Open ブログ
そこで、新築物件では、この問題を回避するように、頑丈な構造をもつ建物であることを要求すればいい。
あらかじめ頑丈な構造を備えておけば、将来、重量物である太陽光パネルを設置できるようになる。
逆に言えば、この要件を満たしていないと、将来、太陽光パネルのコストが大幅に低下しても、その住宅には太陽光パネルを設置できない。
現在の日本の既存の住宅の大部分は、そういうふうに「強度不足」の住宅であるようだ。当然、太陽光パネルを設置できない。
太陽光パネルを設置できるのは、現在では、新築物件に限られるようだ。
しかし将来的には、既存の建築物のうち、比較的新しいものについては、太陽光パネルを設置できるようにするべきだ。
ユニット化
さらに、本項独自のアイデアを加えておこう。
太陽光パネルを設置する屋根と、そこに設置する太陽光パネルの施工部分とを、大量生産のユニットで規格化しておくといい。
これは、特に大量生産のできるプレハブ住宅では可能だ。
なぜユニット化するか? それは、日本では発電コストが著しく高いからだ。次のように。
「世界の世界の太陽光の発電コストは、2019 年上半期では、5.7 US セント/kWh にまでさがっている。なのに、日本では発電コストが著しく高い。それは、パネル自体よりも、工事費の部分が非常に高いからである」
世界の太陽光発電のコストについては、下記にある。
世界の太陽光の発電コスト(世界加重平均単 価)が 2017 年の 8.8 US セント/kWh から最新の 2019 年上半期では、5.7 US セント/kWh にまでさらに 一段と下がっている。
( → 日本の太陽光発電の発電コスト|資源エネルギー庁 )
工事費の話は、下記にある。
こうした日本の太陽光発電の世界とのコスト差について、木村&Zissler(2016)では資本費に特化して2014年末のコストをもとに定量的に検討した。この研究では、資本費についてドイツと比較し、モジュールコストなどハードウェアが高い以上に、それら以外の「建設工事費その他」のコストが大幅に高いことを明らかにした。その上で、建設工事費が高い理由についての検討も行った。その後、IRENA(2018)のレポートによると、日本の太陽光発電の資本費のうち、建設工事費に加えて、マージンも高いことも示されている。
( → 日本の太陽光発電の発電コスト 現状と将来推計 )
この問題を回避するのが、「ユニット化」だ。プレハブ工場のような形で、施工が規格化されていれば、日本独自の大幅なコストアップ要因は解消するはずだ。
[ 付記 ]
本項では、住宅のみを扱い、企業建築は扱わなかった。企業建築は、もともと鉄筋コンクリの陸屋根(平屋根)なので、話の対象外だからである。(切妻屋根にするはずもない。)
では、企業の場合は、どうすればいいか? 簡単だ。
「平屋根(屋上)の上に、太陽光パネルを水平に敷き詰める」
これで済む。これなら簡単だからだ。
一方、次の案もある。
「屋上で、斜めに傾けた太陽光パネルを、何列も並べる」
これは、駄目だ。なぜなら、台風で飛ばないように、強固な枠組みをつくって、その枠組みを強固に屋根に結合する必要があるが、普通の屋根は、その強度に耐えきれないからだ。重量の点ではなく、台風のときの風力の強度の点で。
何列も並んだ太陽光パネルに、台風の強力な風が吹きつけたら、パネルは吹っ飛びそうになる。それに耐えるために、強力な枠組みをつくっても、屋根ごと吹っ飛んでしまう。そんな強力な屋根は、備わっていない建物がほとんどだろう。(大型ビルは別だが。)
だから、台風で吹っ飛ばないようにするには、太陽光パネルと屋根に密着させる形で、敷き詰めるしかない。これならば、間に空気が入ることもないので、太陽光パネルが吹っ飛ぶこともないからだ。
ただしこの方法だと、斜めに傾けることができないので、太陽光の利用効率が低下する。これを補うためには、太陽光パネルの価格が大幅に低下すればいい。そうなる時期は、今現在ではなく、数年後だろう。
結局、企業の太陽光発電用の屋根は、今現在は何もしないで放置しておいていい。そして数年後に、太陽光パネルの価格が大幅に低下したら、そのときになって、太陽光パネルを屋上に敷き詰めればいいのだ。(傾けずに、水平に。)
【 関連項目 】
同趣旨の話は、前にも簡単に述べたことがある。
→ 太陽光発電と屋根: Open ブログ
建物の構造基準として、積雪地では積雪荷重を、強風地では風圧荷重を、割増して強度を持たせないといけない決まりになっていますから、同じような規定を設ければ、強度的には確保できるようになるのではないでしょうか。
陸屋根にナナメに設置……は、結構至る所で、やってます。
内陸部や北海道も、困難っぽい。結構、制約があるね。積雪のことはこれまで忘れていました。
湿度が高いので数十年持つパネルやパワコン部品革新が無いとペイせずか。
色々と制約多い太陽光かと。
水が豊富な日本は、当然の背反する違う再エネ課題を色々抱えてます。
例えば、イナバ物置が雪でペシャンこになってしまうのが水が豊富な北陸。
そもそも台風が来る時点で、コストをドイツ等と比較する専門家の考えが愚。
ドイツなんかは25mの突風が吹くだけで、風車がバタバタ倒れる強度設計。
そりゃ安いに決まってます。
千葉で40mの風で鉄塔などが倒れてしまうのと五十歩百歩。
風の力は風速の三乗、さらに乱流影響が効きます。洋上、血税のムダでしょ。
再エネに適した土地は日本には少なすぎる。まず議員教育しましょうよ。
100mに耐える風車構造の風車も、日本の技術で存在はしますが、
土盛強度の費用的にペイしませんからこそ、導入が進まない。
血税入れて、津軽や下北を風車だらけにでもすれば、
それなりに再エネ比率は増やせるでしょうけど、借金を子供に残すだけ。
太陽光に関しては、
太平洋側に対し、都市再構築と併せ複合住宅化とパネル設置を血税で行う
中国並みの国土計画と覚悟が必要。しかも借金を残さない形の。
風車なら、10mを超えるビルには風速80mに耐える風力設置義務付けなど。
それでも、
海外で作って運べる再エネ、これを開発するしか日本に道は無いかと。
今の経産省や経団連の行方は、結局は原発比率50%目標と診ます。
でないと色々な数字があわない感。
夜間電力で水素作ってFC走らせる。
本気で語られていた大震災前の経産省やNEDOの資料
今ではネット公開からも外されて再確認ができないのですが、
何故そう試算するしかなかったのかの背景を考えてみるだけで、
日本が如何に海外からの運搬資源に頼っているかが見えます。
頭のよい中央官僚が考えた末の結論でしたが、
原発管理が甘過ぎた。これも官僚の責任範疇でもあったはず。
アンモニアかバイオコークスで運ぶのが再エネ運搬的にマシな効率。
間違っても限りあるウランなどに頼ることがあってはならないかと。
だけど、温暖化とは言えない寒さが見え始めている昨今。
脱炭素の流れ、まま続きますかねぇ?
→ https://www.jiji.com/jc/article?k=2021041601209&g=soc
だが、今すぐ義務づける必要はない。今は屋根だけを「太陽光パネル対応型」にしておくだけでいい。実際の設置は、将来、パネルが大幅に安くなってからでいい。……それが本項の趣旨だ。