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政府は25日、2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」実現に向けた実行計画「グリーン成長戦略」を発表した。30年代半ばに乗用車の国内新車販売をガソリンだけで走る車以外の「電動車」に限る目標を設定。洋上風力発電や水素利用など重点14分野の実施年限や技術的課題を定めた工程表を作成した。看板である脱炭素へ政策を総動員する。
( → 50年「脱炭素」へ政策総動員 車、30年代に電動化 ――「グリーン成長戦略」で計画:時事ドットコム )
同様の記事。
→ 脱炭素、原発新増設に含み 2050年グリーン成長戦略、政府発表:朝日新聞
→ 脱炭素化へ、課題山積 軽EV化→価格高騰/水素普及→運搬・貯蔵にコスト:朝日新聞
さらに詳しい記事。
→ 「脱炭素社会」2050年実現へ その具体的な道筋は? | 環境 | NHK
特に自動車について詳しい記事。
→ 「脱炭素社会」2050年実現へ 車の電動化は進むか? | 環境 | NHK
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計画は総花的だ。
そのすべてに言及することはしないで、本項では一点について言及しておこう。こうだ。
「太陽光発電や洋上風力発電で再生エネを発電するのはいいが、発電した電力を蓄電することが必要だ。特に、夜間に発電した風力発電については、それを蓄電しておかないと、昼間に使うことができない。
この蓄電という目的のためには、電気自動車のバッテリーを使うのが最善である。
しかるに、燃料電池車の場合には、その方法(夜間の蓄電)ができない。ゆえに、将来の脱炭素社会の実現のためには、電気自動車の蓄電池を利用することが不可欠であり、燃料電池車は役立たずである」
これは非常に重要なことだ。
人々は「再生エネ発電」というとき、太陽光や風力の発電量を増やせばいいとだけ思っているが、それでは駄目だ。発電だけでなく、蓄電する必要もある。ここを見失ってはならない。(さもなくば、発電量が不安定になるので、火力発電所に頼るほかなくなって、脱炭素社会は大きくそがれる。)
ここで、電気自動車のバッテリーを使えば、不安定な再生エネ発電の電力を蓄電することができる。しかも、その量は、実際に電気自動車が消費する電力量の何倍にもなる。
たとえば、日産リーフe+ のバッテリーは、62kWh もあって、航続距離は 570kmもある。この電力量を1日で全部消費することは、ほとんどないだろう。普通は 30〜50km ぐらいの走行距離だから、バッテリーの1割以下の電力しか使わないことになる。
ところが、これを蓄電池として使えば、毎日 62kWh の電力を蓄電することができる。(実際には、全部使い切るとまずいので、50kWh ぐらいに留めるかもしれないが。)
ともあれ、電気自動車があれば、実際の消費量に比べて、その 10倍ぐらいの電力を蓄電することができる。
電気自動車の電力消費量が、総発電量の2割だとしたら、その 10倍にあたる 20割(つまり2倍)の電力を蓄電できるわけだ。つまり、電気自動車のバッテリーだけで、再生エネの不安定な発電を安定化させることが十分に可能だ。(お釣りが来るほどだ。)
一方、燃料電池車の場合には、そうは行かない。そもそも、蓄電するのではなく、水素を発生させるので、蓄電能力がない。せいぜい「エネルギーを水素の形にして蓄える」ということができるぐらいだが、この方法は、非効率であるし、すごく高コストだ。さらに、実際に使用する消費量の1倍までしか、エネルギーの蓄積能力がない。(電気自動車ならば、10倍も蓄電できるのに。上記。)
というわけで、将来の脱炭素社会のためには、電気自動車が何よりも必要なのであって、燃料電池車は役立たずだ、と言えるわけだ。
世間では「燃料電池車は究極のエコカーだ」という説もあるが、全然、そんなことはないわけだ。「燃料電池車はただの役立たずだ」と言ってもいいくらいだ。
[ 付記 ]
この計画では、「脱炭素社会」と言いながら、大量の火力発電に頼ることになっている。
30―40%程度を原子力・二酸化炭素(CO2)回収前提の火力発電で賄う。
( → 情報BOX:政府の脱炭素「グリーン成長戦略」のポイント | ロイター )
しかし、火力発電に頼らなくても、電気自動車の蓄電でまかなうことは可能なのだ。その分、太陽光や洋上風力に頼ることができる。……そういうことを、本項では示した。
※ ただし燃料電池車では、それはできない。(なのに燃料電池車を推進するのは、馬鹿げている。)
【 補説 】
太陽光発電と洋上風力発電の潜在的なエネルギー量については、次のグラフを示せる。
先日投稿した再エネポテンシャルのグラフですが、私のミス(エクセルへの数値誤入力)により、太陽光のポテンシャルを著しく過小評価していたことが判明しました。謹んでお詫び申し上げると共にver.2として訂正致します。#インスタ映えするデータとエビデンス https://t.co/r03qvwpt83 pic.twitter.com/bZ4JQJlsiG
— 安田 陽 (@YohYasuda) December 18, 2020
→ 拡大グラフ
実は、この図にそっくりな図は、前に別項で示した。(太陽光発電の潜在的な発電量は小さい、という趣旨。)
→ 洋上風力を推進すべきか? 2: Open ブログ
ところが、そこに示した図は、まったくの間違いだった。データの入力ミスで、「太陽光発電の潜在的な発電量は小さい」というふうに示したが、実は、そんなことはないそうだ。正しくは、上で示したグラフのようになるそうだ。
このグラフを書いた人は、
京都大学大学院 経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 特任教授。博士(工学)。専門は風力発電。
( → 安田 陽さん (@YohYasuda) / Twitter )
とのことなので、すっかり信用していたのだが、嘘をついたわけではないにせよ、あまりにもひどい初歩的なミスで、間違いを犯してしまったそうだ。
で、私もそれに引っかかってしまった。そこで、本項では、データの修正を兼ねて、上記の図を示しておくわけだ。
※ 元の項目の記述は、すでに修正済みです。
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なお、グラフから、何がわかるか?
以前は、(間違ったグラフに基づいて)こう記した。
「太陽光発電だけでは、日本の必要な発電量をまかなえないので、太陽光発電のほかに、洋上風力発電を増やすことが必要不可欠だ」
しかし、そのグラフは間違っていたので、かわりに、次のように結論できる。
「太陽光発電だけでも、洋上風力発電でも、日本の必要な発電量をまかなうことができる。原理的に言うのなら、太陽光発電でも、洋上風力発電でも、どちらでもいい。実際にどちらに頼るかは、将来の技術発展しだいである」
では、そのどちらが(技術的に)有望か? …… その話は、次項で。
タイムスタンプは 下記 ↓