2020年12月19日

◆ トヨタの時代逆行

 トヨタ自動車社長が、「脱ガソリン車」という世界の潮流に、1人で反発している。

 ──

 英国が「脱ガソリン車」の早期実現をめざしている。日本もそれに追従しようとしている。だが、こういう世界の潮流に1人だけ反発しているのが、トヨタの社長だ。ほとんど時代錯誤と言える。

 初めに、毎日新聞の記事がある。
  → トヨタ社長「自動車のビジネスモデル崩壊」 政府の「脱ガソリン」に苦言 - 毎日新聞

 これは前にコメント欄でも紹介したものだが、そのときは次のように講評した。
> トヨタは「燃料電池車に全集中」なんていう方針らしいが、これじゃ、全滅しそうだ。
 
 と上記で述べたが、これと同じことをトヨタの社長が公式に認めた。つまり、白旗を揚げた。
 「もはやわが社は生き残れないので、ガソリン車廃止という流れそのものをやめてくれ」
 だってさ。
 https://mainichi.jp/articles/20201217/k00/00m/020/371000c
 
 世界の流れに、たった1社のエゴで抵抗しようとする。時代遅れになって消えゆく会社か。馬車や蒸気機関車みたいなものかな。

 まさしく、「脱ガソリン車」という世界の潮流に、1人で反発している。
 この時代錯誤ぶりは、あまりにも頓珍漢であり、ほとんどドン・キホーテのごとく滑稽だ。なのに可哀想なことに、本人は気づいていないようだ。そこで、その無知ぶりを具体的に指摘してあげよう。

 ──

 毎日新聞の記事は簡単すぎたが、もっと詳しい記事がある。
  → 自工会 豊田章男会長 、カーボンニュートラルと電動化を語る 「自動車産業はギリギリのところに立たされている」 - Car Watch

 そこから引用しつつ、個別に論じよう。(以下はトヨタ社長の言葉。)
 カーボンニュートラル2050と言われるんですが、これは国家のエネルギー政策の大変化なしにはなかなか達成は難しいということをぜひともご理解いただきたいと思います。
 例えば日本では火力発電が約77%、再エネ(再生エネルギー)とか原子力が23%の国であります。片やドイツとかフランスは、この火力発電が例えばドイツですと6割弱、再エネと原子炉47%、フランスは原子力中心になりますが、89%が再エネ&原子力で、何と火力は11%ぐらいです。
 ですから、大きな電気を作っている事情を絡めて考えますと、例えば当社の例になってしまいますが、「ヤリス」というクルマを東北で作ってるのと、フランス工場で作るのは同じクルマだとしても、カーボンニュートラルで考えますと、フランスで作っているクルマの方がよいクルマってことになります。
 そうしますと、日本ではこのクルマは作れないということになってしまう。

 エネルギー元となるガソリンと電気を比較するだけでなく、車の製造にかかる炭素使用量も考えるべきであり、そうなると、原発で炭素排出量の少ないフランスは有利であり、火力発電所の多い日本は不利である。だから日本では自動車生産ができなくなる……という趣旨だ。

 これは、もっともらしいことを言っているようだが、論理に飛躍がある。
 「フランスは原発の比率が高く、日本は火力発電の比率が高いから、フランスの方がカーボンニュートラルにおいては有利だ」
 という事実はある。しかし、だからといって、
 「日本ではこのクルマは作れない」
 ということは成立しない。理由は二つ。順に述べよう。
 
 第1に、カーボンニュートラルという概念は、国全体で実施するべきものであって、個別の産業や会社ごとに実施するものではない。仮にトヨタ社長の言い分通りにしたら、個別の産業や会社ごとにカーボンニュートラルをすることになるので、あらゆる工業会社は事業が不成立で、農業だけは事業が成立する……というふうになりかねない。そんな馬鹿げたことはありえない。誰もそんなことは主張していない。
 「日本では火力発電の比率が高いから、日本では工業が成立しなくなる」
 というのは、トヨタ社長ただ1人の妄想であるにすぎない。誰も言っていないことを勝手に持ち出して、そのありもしない相手の不当性を批判する。それは一種の藁人形論法だ。
 こういう馬鹿げたことを主張するのは、カーボンニュートラルという概念を理解していないからだ。独りよがりな曲解だけがある。

 第2に、日本では火力発電の比率が高いというのは、今現在の話だ。将来的には、太陽光発電の比率が高まるし、さらに先では、洋上風力の比率も高まるだろう。こうして大量の再生可能エネルギーの電力が得られれば、以後は、EV を使うことで、カーボンニュートラルに近づける。つまり、EV の普及は、太陽光発電や洋上風力の普及と、一体化している。(重要!)
 なのに、トヨタ社長は、それを無視している。かわりに現在の数値を見て、「現在では火力発電の比率が高い」ということを論拠としている。
 つまり、世間は「将来は太陽光発電や洋上風力発電が増える」ということを前提にしているのに、トヨタ社長だけは「現在は火力発電の比率が高い」ということを論拠として、将来のカーボンニュートラルに反対している。
 比喩的に言うと、こうだ。
 「大きくなったら、お医者さんになりたい」という子供に向かって、「いや、無理だよ。お医者さんになるには、医学部を卒業している必要がある。しかしきみは今はまだ小学生だから、医学部には入れない。医学部には入れないのだから、お医者さんにはなれない」
 これは愚論である。「将来はどうか?」と将来の話をしているときに、「現在はこうだ」と述べて、反論しているつもりでいる。(実は単に見当違いのことを答えているだけだ。)
 トヨタ社長もそうだ。「2040年代には、どうなるか?」という話をしているときに、「2020年代の状況はこうだ」というふうに主張している。(2040年以後の)太陽光発電や洋上風力が普及している時代の話をしているときに、(2020年ごろの)火力発電が多い時代を論拠としている。
 これは馬鹿げている。エネルギーをタイム・テレポートして、エネルギーを過去から未来へ移転させるつもりなのだろうか? SF みたいだが、むしろ、ナンセンスというしかあるまい。(漫才みたいなものかも。)
 
 実際ですね、乗用車400万台をすべてEV化したらどういう状況になるか、ちょっと試算をしたのでぜひ紹介させてください。
 夏の電力、使用のピークのときに全部EV車であった場合は、電力不足。解消には発電能力を10〜15%増やさないといけません。
 この10〜15%というのは実際どんなレベルかというと、原発でプラス10基、火力発電であればプラス20基必要な規模ですよということをご理解いただきたいと思います。

 これも同様だ。「将来は太陽光や洋上風力が主力になる」ということを理解できないまま、原発や火力発電を増やすつもりでいる。
 彼の頭は、原発や火力発電のことしかないようだ。世界の潮流をまったく理解できていないと言うしかない。
 
 保有すべてをEV化した場合、充電インフラの投資コストは、これは約14兆円から37兆円にかかります。

 それはそうだが、別に、どうってことはない。毎年その金がかかるわけじゃない。いっぺん設置したら、あとはそれを長期的に使うことができる。とすれば、その費用は、長期的に償却できる。何の問題もない。
 だいたい、そんなことを言い出したら、「ガソリン車のためにガソリンスタンドを設置することもできない」ということになりかねない。
 実は、ガソリンスタンドの設置にはものすごく多額の金がかかるが、充電スタンドの設置にはたいして金がかからない。ちょっとした変圧器があるぐらいで済むからだ。設置スペースという土地も少なくて済む。また、従業員という人手をかける必要もない。
 充電スタンドは、ガソリンスタンドよりも、はるかに低コストなのだから、心配するには及ばない。
 
 実を言うと、EV の台数が巨大になれば、充電スタンドの投資コストが巨大になるのは当り前のことだ。だが、いくら巨大になっても、1台あたりのコストが増えるという話とは違う。

 トヨタ社長の意見は、次の話に似ている。
 「スマホの台数が莫大になると、スマホの消費電力の総量は莫大になる。大変だ!」
 しかし、これはナンセンスだ。スマホの台数が莫大になると、スマホの消費電力の総量は莫大になるのは、当り前のことであって、大変でも何でもない。
 どうも、トヨタ社長は、量的な認識ができないようだ。もしかしたら、「1台あたりの量」という割り算の計算もできないのかも。

 それから何よりも、EV生産の完成検査時には、いわば消費される電力がございます。
 例えばEVをやる場合、その完成検査に充放電をしなきゃいけないので、現在だと1台のEVの蓄電量は家1軒分の1週間分の電力に相当します。

 完成検査には充放電をする。それは事実だ。だが、そうだとしても、その電力は、無駄に消えてしまう(放電される)わけではない。蓄電池に貯めるだけだ。
 検査のときに、充電して、放電する。そのときの電力は、「入って・出る」だけであって、消費はされないのだ。したがってって電力は無駄にはならない。わずかに、ロスの分が数%ぐらいはあるだろうが、それだけのことだ。ほとんど問題にはならない。
 だいたい、このくらいの充電ロスなら、世界中のノートパソコンやスマホでも生じている。そこで数%の充電ロスがあるから、使ってはならない……ということになったら、世界中のノートパソコンやスマホを使えなくなってしまうだろう。
 「完成検査のときに充放電をするから、バッテリーの付いている商品は使用禁止」なんていう暴論は、滅茶苦茶すぎる。トヨタの社長は、自分の理屈のデタラメさを理解するべきだろう。
 
 ちなみに今年コロナ禍において就業者数が日本全体では93万人減ってきております。しかしながら、自動車業界は11万人増やしております。これがもし仮にカーボンニュートラルで日本で作ってるクルマはCO2の排出が多いため作れなくなるということでありますと、コロナ禍においても増やしていくような、下手をしたらゼロかマイナスの方へ行ってしまう。

 「仮にカーボンニュートラルで日本で作ってるクルマはCO2の排出が多いため作れなくなるということでありますと」という。だが、その「仮に……」という仮定は、成立しないんだよ。それはトヨタ社長の頭の中だけにある妄想なんだよ。誰もそんなことを主張していないからだ。
 カーボンニュートラルは、国全体でめざすべきものであって、個別の工場や会社が単体で実現するものではない。(前述の通り。)……この両者を区別するべきだ。
 いい加減、馬鹿げた妄想による「藁人形論法」は、やめた方がいい。自分の狂気的な妄想を語ると、気違い扱いされそうだ。
 
 これが本当にこの国にとっていいことなのかわるいことなのか、その辺はですね、みなさまのご良識にお任せいたしますが、ぜひともですね、自動車産業はそういうギリギリのところに立たされておりますので、ぜひともですね、正しい情報開示よろしくお願いしたいなと思います。

 「自分だけが正しいことを言っていて、世間はみんな間違っている。だます込みは、真実を報道してくれ」と言っているわけだ。
 呆れる。「自分だけが正しいことを言っている」のではなく、「自分だけが間違っていることを言っている」というふうに、どうして思いが及ばないのか? 反省能力というものが欠落しているのか? 

 この点では、トヨタ社長は、菅首相にそっくりだとも言える。「おれだけが利口で、世間はみんなバカだ」と思っているわけだ。
 まったく、風車を怪物だと誤認して、風車に向かって突撃するドン・キホーテみたいなものだ。あまりにも倒錯的だ。

 「自動車産業はそういうギリギリのところに立たされております」というのも、同様だ。そういう被害妄想に陥っているのは、いつまでもガソリン車にしがみついているトヨタだけだ。他の自動車会社は、ガソリン車に見切りを付けて、EV に雪崩を打って転向している。そういう現実を理解するべきだ。
 自動車産業は「ギリギリのところに立たされている」ということはない。むしろ、「大きな変革の時期に差しかかっている」と言える。
 それは、真空管時代からトランジスタ の時代へと変革期をたどった家電産業に似ている。この変革期に、真空管にしがみついていた会社はつぶれて、半導体をいち早く取り入れた会社は大成長した。後者は、東京通信工業という小さな町会社だ。他の会社が真空管ラジオを作っているときに、世界に先んじてトランジスタラジオを製造して、大躍進して、世界でもトップクラスの会社になった。そして名前を「SONY」に変えた。(今の時代で言えば、テスラのようなものだ。)
 こういう変革の時代に、流れに乗り遅れて、いつまでも真空管にこだわっていれば、その会社はつぶれるしかない。そういうことが、自動車産業でも起こるだろう。その代表例がトヨタだ。世界の流れを見失い、世界の潮流に乗り遅れて、取り残される。時代錯誤と言うしかない。

 トヨタの社長は、「燃料電池車にこだわりすぎて、電気自動車に乗り遅れた」という経営上の大失敗をした。そして、今なお、その失敗を認めることができない。
 GoTo の失敗を理解できない菅首相と同様だと言えるだろう。無能の極み。
( ※ 菅首相のせいで日本は滅び、トヨタ社長のせいでトヨタは滅びる……という感じかな。)



 [ 付記2 ]
 トヨタ社長は、充電池の性能についても懸念しているようだが、充電池の性能は今後どんどん上がる。特に豊田自身が開発している全固体電池は有望だ。自社で開発している電池のことぐらいは理解しておくべきだろう。(自社の誇れる技術も知らないのだから、ひどいものだ。)
  → EV 用電池の動向: Open ブログ

 充電池のコスト低下も今後は期待できる。トヨタ社長は「充電池の価格が高い」としきりに協調しているが、それは現時点での話だ。将来的には、大幅にコスト低下が見込める。

 さらには、電池を搭載しない「電池レス」の電気自動車が今後は主流になりそうだ。これならば、充電池のコストはまったく意味をなさなくなる。(電池を搭載しないからだ。)
  → 電池レス EV: Open ブログ

 ともあれ、EV の分野では、技術革新の度合いが甚だしい。それは「真空管 → トランジスタ → IC → LSI 」と進んだIT産業の技術革新に似ている。
 こういう激動の時期に、「技術水準は同じままである。現在の技術レベルのまま、将来における普及を推進する」というふうに勘違いしてるのは、あまりにも時代錯誤だ。
 トヨタの社長は、もはやボケ老人と言うしかないね。
 
 [ 付記2 ]
 「地方ではガソリン車が必要になる」
 という点だけは、部分的に同意できる。ただしそれは、「地方では小さな軽自動車が必要だ」という意味ではない。小さな軽自動車ならば、EV でも可能だからだ。EV 版の軽自動車を作れば済む。

 問題は、「充電スタンドがない」という僻地だ。(地方ではなくて僻地。)そういうところでは、内燃機関車車が必要となるだろう。ただし、ガソリンは持ち運びや貯蔵が困難なので、ディーゼル車が主体となる。(軽油ならば素人でも取り扱えるからだ。)
 ただ、この問題は、「例外的措置」として扱えばいい。あくまで僻地における少数の場合だけだからだ。
 この件は、前に述べた。
  → ガソリン車は全廃できるか?: Open ブログ

 なお、「貧乏人には軽自動車しか買えない」というふうに、価格面で軽自動車の心配をしているのなら、その心配は不要だ。将来的には、ガソリン車よりも電気自動車の方がコスト安になるからだ。
 というか、すでに激安の電気自動車が出ている。中国製で、43万円。軽自動車サイズ。
  → 水素時代という妄想: Open ブログ

 [ 付記3 ]
 ただ、本日、新たに考え直すと、次のようにも言える。
 「僻地の問題は、PHEV でも解決できる。ディーゼル車のかわりに、PHEV を残すことにしてもいい」
 この方がいっそう現実的かもしれない。百年後まで(ごく少数の)ディーゼル車を走らせるわけには行かないからだ。PHEV ならば、かなり多くの台数を長期間にわたって残すことが可能だろう。
 PHEV については、次項でも述べる予定。



 【 関連項目 】

 → 水素時代という妄想: Open ブログ
 → トヨタ・ミライの未来: Open ブログ

   ※ 電気自動車のかわりに燃料電池車に賭けたが、その賭けは大失敗に終わった……という話。(トヨタ)

 → 洋上風力を推進すべきか? 2: Open ブログ

   ※ 洋上風力は将来的には有望だが、実用化されるにはかなり長い年月がかかる、という話。
 
 
posted by 管理人 at 23:56| Comment(5) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ご趣旨に賛同いたします。
事業転換の遅れは、その狼狽ぶりは、
テレビコマーシャルでも見て取ることができます。
日本でも、各所でラストベルト地帯を見ることになりそうです。

ちなみに、テスラの時価総額はトヨタの2倍近くになっています。
Posted by yomoyamayama at 2020年12月20日 01:09
自社存続の危機を恐れてるのでしょう・・・
心配しなくても、軽自動車のガソリン車は必ず残るし、
散々いじめてきた下請け孫請の部品メーカーも、したたかに
トヨタからスズキに乗り換えるんじゃないのかな?


Posted by Hidari_uma at 2020年12月20日 06:28
 最後に [ 付記2 ] [ 付記3 ]を加筆しました。
 地方ではガソリン車や軽自動車が必要だ、という話への批判。
Posted by 管理人 at 2020年12月20日 08:02
>[ 付記2 ]「地方ではガソリン車が必要になる」
という部分に関して、
地方、特にポツンと1軒家でも電気だけは来ているところは多いので、EVを夜間自宅充電すれば43万円の中国EVで120kmは走行できます。遠いガソリンスタンドで給油するよりむしろ効率が良いのでは無いかと思います。特に鉄道やバス路線が廃止されたところは、無理して赤字垂れ流すより、(希望者には)EVを支給したほうが安く済むのでは無いかと思います。
https://www.asahi.com/articles/ASNCX575KNC5UHBI04F.html
Posted by 通りすがりです at 2020年12月22日 16:09
 通りすがりです さんの話題は、リンク先ですでに扱っています。「この件は、前に述べた。」と記したとおり。そちらを読んでください。
Posted by 管理人 at 2020年12月22日 18:26
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