2020年12月13日

◆ 軽症療養者が放置で死亡

 (コロナの)軽症者向けの療養施設で、中年の患者が放置されたまま、死亡した。この問題にどう対処すべきか? 

 ――

 本来、死ぬべきでない患者が、放置されたせいで死亡した。これは他人事ではない。厳密に対処するべきなのだが、全然、できていない。

 まず、記事を紹介しよう。
 神奈川県は12日未明、新型コロナウイルスの軽症・無症状者向けに県が設けている宿泊療養施設に入っていた、県内在住の50代の男性が死亡したと発表した。施設側が連絡しても電話に出ない状況が数時間続き、室内で心肺停止の状態で発見されたという。
( → 切れた電話、4時間後に部屋へ行くと…宿泊療養中に死亡:朝日新聞

 男性は当初から血液中の酸素濃度が低いことがあり、11日の午前中も86%と、医師の診察が必要な数値でしたが、本人が息苦しさはないと話したことなどから経過観察とし、診察は行わなかったということです。
( → 軽症でホテル療養中死亡 死因はコロナによる急性気管支肺炎 | 新型コロナ 国内感染者数 | NHKニュース

 8時04分 
 LINEによる健康観察に回答あり。(体温37.8℃、SpO2(86%)、頭痛とだるさあり、せきと息苦しさはなし)

 9時35分
 現地看護師から内線・携帯に電話。携帯はつながるも切電される。
( → 県の宿泊療養施設における入所者の死亡について(第2報) - 神奈川県ホームページ

 SpO2(86%)という危険数値が出たのに、本人が自覚症状なしということで放置した。さらにその後、電話に出なくなったのに、何時間も放置した。電話や LINE に出ないということが何回も繰り返されたのに、放置した。……ここでは二重の放置どころか、三重・四重(それ以上)の放置がある。ひどいものだ。

 ――

 このあと、神奈川県は方針を改めた。(朝日新聞の地方版 2020-12-13 による。)
  ・ SpO2 濃度の低下には、必ず対応する。
  ・ 電話連絡なしには、必ず対応する。
  ・ 有識者の意見を聞く。


 「これで同じ事件の再発は防げるだろう」と思ったのだろう。だが、てんで駄目だ。そのことを指摘しよう。

 ――

 なるほど、上記のようにすれば、「これで同じ事件の再発は防げるだろう」とは言える。だが、それだと、同じ事件は防げても、「似て非なる事件」は防げない。対症療法をしているだけであって、根源対策をしていないからだ。
 では、根源対策とは? それは、次のように考えるとわかる。

 そもそも、これはシステム(組織・構造)の問題である。システムに問題があるから、こういうことが起こったのだ。
 具体的に言えば、今回は、職員の対応がまずかったわけだが、対応がまずかったのは、ルールが整備されていなかったからだ。ルールが整備されていなかったのは、ルールを整備する組織が駄目だったからだ。組織そのものがまともな組織ではなかったのだ。
 つまり、「医学に無知な職員が、間違ったルールで運営していて、それを是正する人もいなかった。どこからどこまで無知なアマチュアが運営していて、プロの医師の指導には従っていなかった」という問題があったのだ。

 こういうふうに、システムの問題があった。ならば、事件の再発を防ぐには、システムにメスを入れる必要がある。そのためには、システムを実地調査する必要がある。
 神奈川県は「今後はルールを変えたから、再発はしない」と思っているようだ。しかし、これはルールの問題ではない。駄目なルールに基づいて運用されていたという組織の問題だ。
 だから、ルールの問題が見つかるたびに、付け焼き刃でルールを一つ一つ修正すればいいのではない。そんなことでは、新たな形の犠牲者が続出する。そうではなくて、システムそのものを根源的に変更するべきなのだ。まずはルールの策定の時点で、医学のプロの目を導入する必要がある。つまり、ルールの制定そのものを全面改訂する必要があるのだ。今回のルールを二つだけ改定して、それで事足れり、というのは、とんでもない間違いだ。

 今回の件では、県知事に経営能力がないことも判明した。「何とかしろ」と部下に命じたから、部下が「何とかします」とツギハギをしたのだろう。穴のあいたところにパッチワークを当てるように。……しかし、そういう「その場しのぎ」みたいなことでは駄目なのだ。これは「組織の問題だ」と認定して、組織そのものを改定するように、「組織改革のチーム」を投入するべきなのだ。たとえば、「失敗学の研究チーム」みたいなのを。

 そこでは、もちろん、現地調査が絶対に必要だ。組織を調べて、対人面接をして、ルールの運用状況を調べる……というような本格的な調査が必要だ。単に「有識者の知識を後知恵で拝借する」というような方針では駄目なのだ。

 ごく簡単に言えば、「失敗の理由を科学で調べよ」ということだ。「科学の力で人の命を救う」というわけだ。(科捜研の女みたいに。)



 [ 付記 ]
 ついでだが、このような調査で歴史的に有名なのは、ファインマンの「ロケット事故爆発調査」だ。
 将来のミッションのために新しい安全装置と組織を導入することを求めている。
( → ロジャース委員会報告 - Wikipedia

 普通の調査ならば、「新しい安全装置を導入することを求める」で終わっただろう。しかしこの調査は「新しい安全装置と組織を導入することを求めている」というふうに、組織の改革にまで踏み込んでいる。物事の本質を見抜く天才というのは、そういうふうにするものだ。
 
 なお、Wikipedia には面白い話もある。
 委員会のメンバーのうち、最も有名な者の1人が理論物理学者のリチャード・ファインマンである。委員会のスケジュールに従わない彼の調査のスタイルは、ロジャースを困らせ、ある時は「ファインマンは悩みの種だ」とコメントされたこともあった。
 ファインマンの独自の調査で、NASAの技術者と幹部の間の情報の断絶が想像されていたよりもずっと著しかったことが明らかとなった。NASA高官に対する彼のインタビューは、基礎的な概念の驚くべき誤解があることを明らかにした。
 ファインマンの調査は最終的に、チャレンジャー号の事故の原因の大部分はNASA幹部の安全率に対する誤解にあることを示唆した。
 NASAの幹部と技術者と対した彼の経験から、ファインマンはNASAの幹部の科学理解の欠如と、2陣営の情報共有不足、そしてスペースシャトルのリスクについての偽りの公表が事故の原因であったと結論付け、NASAは内部の矛盾を解決し、スペースシャトルの安全性に関する正直な絵を描けるまでスペースシャトルの打上げを中断することを求めた。

 ファインマンは、事故の原因が組織にあることを明白に指摘したのだが、委員会の他のメンバーは組織改革にまで踏み込む気がないことに気づいた。そこで彼はどうしたか……という話は、上記項目で。

 ともあれ、物事の本質を見抜けば、失敗の本質は組織にあると判明するものだ。
 


 【 参考記事 】

 → チャレンジャー号爆発事故 - Wikipedia
 → ファインマンが見た 巨大装置の安全性
 
posted by 管理人 at 22:43| Comment(0) |  感染症・コロナ | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ