2020年11月19日

◆ 川辺ダムが建設へ 2

 川辺ダムの建設を熊本県知事が正式表明した。

 ── 

 朝日新聞の記事から。
 7月の記録的豪雨で氾濫(はんらん)した熊本県南部の球磨(くま)川の治水対策をめぐり、同県の蒲島郁夫知事は19日、最大支流である川辺川への治水専用ダム建設を認める考えを県議会全員協議会で表明した。
( → 川辺川にダム容認、熊本県知事が表明 白紙撤回から転換:朝日新聞

 この件については、私は前に批判した。「遊水地などで、流域治水をするべきだ」と。しかもこれは、私だけの方針ではなく、政府の新方針である。
  → 川辺ダムが建設へ 1: Open ブログ

 なのに、熊本県知事は、政府の新方針とはまったく逆のことをやっている。政府が「ダム重視」と言っていたころには「ダムを認めない」と言い、政府が「ダムよりも流域治水で」と言うようになると「ダムを認める」と言う。いちいち逆のことを言っている。
 では、熊本県は、どうしてこういう方針転換をしたか? 朝日の別記事にはこうある。
 国と県、流域市町村は8月以降、合同委員会を設置して豪雨災害を検証。国は、川辺川ダムが仮に存在していた場合、球磨川中流域の人吉市中心部などの浸水面積を約6割減らせたなどとする推計結果を公表した。一方で、遊水地の設置などダム以外の方法を組み合わせた治水策では工期は50年以上かかると示した。
( → 川辺川、ダム再び 知事転換、容認を表明 洪水時にためる「流水型」 熊本、7月豪雨で犠牲者多数:朝日新聞

 なるほど、これが事実であるならば、熊本県の方針は妥当だ。
 しかし、これが事実であるとすれば、先に「流域治水で」という政府方針が間違っていたことになる。そうなのか? 

 ──

 「流域治水で」という政府の方針は、下記に見られる。
  → 流域治水プロジェクト - 国土交通省水管理・国土保全局
  → 治水推進、政府横断で対策 水害多発に即応  :日本経済新聞
  → 社会資本整備審議会の水災害対策検討小委員会の答申

 これが政府の方針だ。これが間違っているというのか? 
 それとも、これが正しくて、熊本県(など)の今回の方針が間違っているのか?
 どっちだ? どっちが正しいのか? 

 ──

 結論を言おう。これは、政府の新方針が正しく、熊本県(など)の今回の方針が間違っている。具体的に言えば、次の箇所だ。
 遊水地の設置などダム以外の方法を組み合わせた治水策では工期は50年以上かかる

 こんなのは嘘八百だ。遊水地に 50年以上かかるとしたら、この世には遊水地などは一つも存在しないことになる。しかし、そんなことはない。ちなみに、新横浜の遊水地の場合は、こうだ。


turumi-yusui.jpg
出典:国交省(PDF)

 平成6年に起工式で、平成 15年に運用開始だ。9年間の工期で実現している。(計画や土地買収の期間を除く。) 50年もかかることはないのだ。 50年以上もかかるというのは、嘘八百である。よくもまあ、こういう真っ赤な嘘を、堂々とつけるものだ。すぐにバレるのに。
( ※ あっさり だまされる方もどうかしている。朝日新聞は政府の嘘を垂れ流すべからず。これじゃ、フェイク・ニュースだ。)

 ──

 さらに、私の考えを言うなら、こうだ。
 「工期は9年もかからない。最短で2カ月で済む」

 
 工期を縮めるので有名なのは、木下藤吉郎だ。台風で城の塀が壊れたあとで、信長が工事を命じたが、いつまでたっても工事が完了しない。そこで業を煮やした信長が、工事の担当者をクビにして、木下藤吉郎に委ねた。すると、木下藤吉郎の指示によって、工事はあっという間に進んで、たったの一晩で工事は完了した。
 これが功を奏し、労務者たちは競い合って塀の修理に勤しんだ。塀は一晩で全部元に戻った。信長は感心した。「サル、なかなかやるな。おまえの希望どおり一番早く仕上げた組に褒美をやろう」といった。このとき藤吉郎は「いや、全員にお与えください」と告げた。
( → 【歴史の転換期にみる人づくり・童門冬二氏】「個人の力を協同パワーに」木下藤吉郎

 「3日で仕上げた」という文献もあれば、「1日で仕上げた」という記述も見たことがあります。
( → 清洲城修繕で、なぜ、秀吉は信長を呼んだのか? | EARTHSHIP CONSULTING

 さて。1〜3日で片付けた木下藤吉郎には負けるが、私もそれにならって、50年以上もかかるという遊水地の工事を、たったの2カ月で済ませることができる。その方法は、こうだ。
 「単に越流堤だけを作る。遊水地を囲む堤防は 作らない。(または、作るとしても、後回しにする。)」

 これでいい。
 越流堤を作る場所はどこか? 人吉市の市街地よりも上流に当たる、広い領域だ。そのいずれも、川の両側はほとんどが田畑だ。越流堤ができると、これらの田畑はすべて水没する。そのかわり、人吉市の市街地は水没しなくなる。





 仮に遊水池を作るとしたら、これらの田畑の一部を遊水地にして、そのまわりに堤防を築くことになる。しかし、そんなことのために多額の工事をする必要はない。
 横浜市の場合には、周囲は市街地だから、特定の場所を遊水地にすることには意義がある。(市街地をすべて水没させるわけには行かないからだ。)しかし、球磨川流域の場合には、田畑をすべて水没させてしまってもいい。そのあとで水害補償金を払うだけでいい。こうすれば、遊水地の堤防を延々と作る必要はない。(そもそも田畑を守るために巨額の堤防を作るということがナンセンスである。)

 だから、遊水地は「 50年以上かけて作る」のでもなく、「9年かけて作る」のでもなく、「作らない」のが正解なのだ。こんな田舎の場合には。(人口の多い首都圏に遊水池を作るのとは事情が違う。)
 というわけで、正解は、こうだ。
 「2カ月かけて、越流堤をいくつか作る。そのための工事は、数億円程度。ただし、別途、水害が起こったときには、水害補償金を、農家に支払う。その分は、水害1回につき、数百万〜数千万円程度。それが数年にいっぺんか、数十年にいっぺんぐらい、あるだけだ。50年間の総費用は、10億円程度だ。
 これが私の代案だ。

 ──

 なお、越流堤であふれさせる水の量は、たいした量にはならない。なぜか? 堤防が破壊されるわけではないからだ。
 今夏の水害では、球磨川が決壊して、多大な水量が人吉市の市街地を襲った。
  → Google 画像検索
 この場合は、決壊したので、川の水量の全量が市街地に襲いかかったことになる。
 一方、越流堤の場合には、上部の越流堤を越えた分(1〜2割程度)だけが外にあふれる。残りの8〜9割は、そのまま川を流れて、下流に運ばれる。だから、越流堤からあふれる水の量は、今夏の人吉市のようなひどい量にはならない。それよりも圧倒的に少ない量で済むのだ。





 堤防が決壊すれば、こういう圧倒的な水量が氾濫する。しかし、越流堤によって堤防の決壊を避ければ、あふれる量はずっと少なくて済むのである。そして、その程度ならば、上流の田畑で受け入れることができるのだ。あえて特別な堤防を築かなくとも。
 ゆえに、工期は2カ月で足りる。



 [ 付記 ]
 それとは別に、人吉市の人家を、川のそばの低地から、川から離れた場所(高台というほどではないが、ちょっと高い平地)へ移転させるといい。これも、ダム建設に比べれば、大幅に少ない額で実現できる。
 というか、川のすぐそばの低地に人家を作るというのが、そもそもの自殺行為である。こういう自殺行為を放置しておいて、巨額のダムを作るというのは、本末転倒というものだ。
 この件は、下記項目で論じた。
  → 熊本の水害(2020): Open ブログ の (4)

 
posted by 管理人 at 20:46 | Comment(1) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後のリンクが間違っていたので、修正しました。
Posted by 管理人 at 2020年11月20日 07:47
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