2020年11月08日

◆ トランプと菅が支持される理由

 トランプ大統領と菅首相は、どちらも稀代の嘘つきだが、国民の半数(以上)という大量の支持を得ている。なぜか? 

 ──

 トランプ大統領がひどい嘘つきだということは、しばしば指摘されている。ネットにも記事は多い。
  → Google 検索
 こんな嘘つきは軽蔑されてしかるべきだが、どういうわけか、大統領選 2020 では国民の半数の支持を得た。これは不思議なことである。

 菅首相が嘘つきだということは、任命拒否の件で明らかだろう。これもしばしば指摘されている。ネットにも記事は多い。
  → Google 検索
 こんな嘘つきは軽蔑されてしかるべきだが、どういうわけか、世論調査では国民の圧倒的多数の支持を得た。これは不思議なことである。
 菅内閣の支持率は57%で、内閣発足直後の9月17日に行った前回調査の64%から7ポイント下落した。不支持率は36%(前回27%)だった。
( → 菅内閣支持率57% 7ポイント下落 学術会議任命拒否「問題」37% 毎日新聞世論調査 - 毎日新聞

 こういうことはまったく不思議である。まるで「馬鹿・嘘つき・悪党を国民は支持する」というようなものだ。国民はそろって白痴状態になってしまったのか? いや、そうではあるまい。
 ではどうして、こういうことが起こるのか? 

 ──

 これについていろいろと考えたすえ、とりあえず、サンプルケースとして、橋下徹(元大阪府知事)の例を探ってみた。この人は、とうてい白痴ではないし、法律についても詳しい。ならば、菅首相が法律的にメチャクチャなことを言っている点について、批判していていいはずだ。
 そう思って調べたら……
  → 橋下徹「これが学術会議『任命拒否』問題の本質だ

 要するに、「首相には公務員に対する人事権があるから、任命拒否をできる」と言っている。
 呆れた。法律家であるから法律面には詳しいのかと思ったら、まったくのデタラメを言っている。
 では、どこがデタラメか? 学術会議の委員は、形式的には特別公務員ではあるが、普通の意味での公務員ではない、ということだ。理由は下記。
  ・ 公権力を行使しない。
  ・ 日当が出るだけで、実質的にはボランティア活動である。


 詳しく説明しよう。
 第1に、学術会議の委員は、公権力を行使しない。できることは、提言を発表することだけだ。言葉を出すだけであって、いかなる権能もない。この意味で、行政府には属していないし、行政府の長の指揮下にもない。
 第2に、学術会議の委員は、日当が出るだけだ。主な業務は、提言を出すことであって、そのために調査・研究・執筆という仕事をするが、それらの仕事に対する対価はゼロである。発表などのために出席するときに限り、1日2万円弱の日当が出るが、交通費も満足に出ないらしい。東京近郊ならともかく、遠隔地から出席する場合には、交通費だけで足が出てしまう可能性もある。要するに、学術会議の委員は、ほとんど手弁当のボランティアである。実際に払われるのは、年額 20万円程度にすぎない。
  → JUNSKY blog 学術会議会員への手当ては年間僅か20万円ほど!
 一方、首相の年収は 4049万円である。これに加えて、政治活動のための手当てが多大に出る。だから、安倍首相は毎日のように会食で贅沢な食事ができたが、そのために自分で払う金はゼロだ。自動車も公用車が提供される。……これらを合わせると、首相の年収は実質的には 6000万円ぐらいと言えるだろう。学術会議の 20万円とは雲泥の差だ。

 というわけで。
 学術会議の委員は、公務員ではなくて、ただのボランティアである。やることは単に提言を出すことだけだ。公権力を駆使することはない。
 これらの意味で、学術会議の委員は、首相の指揮下に入ることはない。だから、当然ながら、首相には人事の任免権がない。

 というか、そもそも、学術会議は政府から独立することが法的に規定されている。仮に学術会議が首相の指揮下に入るとしたら、学術会議の提言は政府の命令によって提言を発しなくてはならない。これでは、首相が首相に向かって提言することになるのだから、提言としての意味がなくなる。(自分で自分に提言する阿呆はいない。)

 なのに、橋下徹は、これらのことをまったく理解できない。かわりに、こう思う。
 「学術会議の委員は、提言をするが、それは公権力の行使だ。だから、首相の指揮下に入って、首相の命令に従って提言するべきだ」
 呆れる。自分で自分に提言する阿呆はいないと思ったが、そうすべきだと思っている阿呆が一人だけいるようだ。

 ──

 橋下徹は決してバカではない。知能指数は相当に高い。それにもかかわらず、以上のように馬鹿丸出しの主張をする。それも、自分の専門分野の法律分野で。
 では、どうしてこういうことが起こるのか? 

 これについて、いろいろと頭をひねったすえ、私が思いついたのは、次のことだ。(仮説ふう)
 「頭のいい人でさえ、トランプ大統領や菅首相を支持するときには、馬鹿丸出しになってしまう。橋下徹は言うに及ばず、米国の共和党支持者や、日本の自民党支持者は、これまではまともな人物と思えた人でさえ、馬鹿丸出しになってしまう。どうしてこういうことが起こるのか? それは、彼らが《 判断停止 》状態になってしまうからである」

 要するに、特定分野については、思考が麻痺状態になってしまう。通常ならばまともな判断ができるのに、こと特定分野(トランプ大統領や菅首相の関与する分野)になると、たちまち思考が麻痺状態になってしまう。「トランプ大統領は正しい」「菅首相は正しい」という結論だけがあって、それに至る思考がすっかり麻痺状態になってしまう。
 ここでは、急に馬鹿になるのではない。正常な思考をする過程が停止状態になってしまうのだ。これは「目が曇る」と言ってもいいし、「目をふさぐ」と言ってもいい。「見てみぬフリ」と言ってもいい。まともな目で見れば、相手の馬鹿さ加減はすぐにわかるはずなのだが、あえて自分で目を曇らせて、相手の馬鹿さ加減をあえて見るまいとするようになる。

 橋下徹の例もそうだ。仮に相手が民主党政権であったなら、同じことをやったとき、橋下徹は相手のアラを舌鋒鋭く指摘するだろう。しかし、それをやるのが菅首相であると、たちまち目が曇って、相手のアラが見えなくなってしまうのである。

 ──

 では、どうしてこういうことが起こるのか? 《 判断停止 》状態になるというのは、常に起こることではないのだが、どういう場合にそういうことが起こるのか? 
 それは、トランプ大統領支持者を見てもわかる。支持者たちは、「トランプ大統領は下品だな」と思いながらも、それでも(仕方ないという感じで)支持しているのである。そのわけは? 自分のエゴである。
  ・ トランプ大統領は、高所得者にとって利益になる。
  ・ トランプ大統領は、鉱工業の労働者にとって利益になる。
  ・ トランプ大統領は、ラストベルトの労働者にとって利益になる。
  ・ トランプ大統領は、コロナ下の飲食業労働者にとって利益になる。

 こういうふうに「自分にとっての損得」を重視して、「トランプ大統領の方が得をする」と思うと、トランプ大統領を支持するようになる。たとえトランプ大統領が、人種差別主義者で、嘘つきで、悪党であっても、少なくとも自分には利益を与えてくれるのであれば、その悪党を信じるのである。

 菅首相の場合も同様だ。日本国民は、「自分にとっての損得」を重視して、「菅首相の方が得をする」と思うと、菅首相を支持するようになる。たとえ菅首相が、法を無視する独裁体質で、嘘つきで、悪党であっても、少なくとも自分には利益を与えてくれるのであれば、その悪党を信じるのである。

 人は、欲が絡むと、自分で自分の目を曇らせる。── それが、トランプ大統領や菅首相が国民の多くから支持される理由である。

 そして、そう理解すれば、かつてヒトラーがどうしてドイツ国民から圧倒的に支配されていたか、その理由がわかるだろう。
 世界に惨禍をもたらした狂気的な極悪人が、当時のドイツ国民から熱狂的に支持された。それはほとんど謎に見えたかもしれない。しかし、同じことが今のアメリカと日本でも起こっているのだ、と思えば、歴史の謎は解ける。

 それでもトランプ大統領の嘘は、4年後には通りが悪くなったので、再選はかなわなかった。
 一方、菅首相の嘘は、まだ始まったばかりなので、当分は嘘が通用するだろう。嘘を聞いても、それを嘘と理解できずに、素直に信じてしまう国民が多いからである。それというのも、おのれの欲ゆえに、目が曇っているからなのだが。
 日本学術会議の新しい会員として推薦された6人の任命を菅義偉首相が拒否したことについて、「問題だ」と答えた人は37%で、「問題だとは思わない」は44%、「どちらとも言えない」は18%だった。……ただ、支持率の下落は7ポイントにとどまっており、この問題への批判は広がりを欠く面もあるようだ。
( → 菅内閣支持率57% 7ポイント下落 学術会議任命拒否「問題」37% 毎日新聞世論調査 - 毎日新聞

 


 [ 付記1 ]
 特に若い人の間では、自民党や菅首相の支持率が高いようだ。どうしてか? それには、次の記事が参考となる。
  → 情報通信白書によると10代のテレビ視聴時間が激減し30代と比較しても半分くらいの時間しかテレビを視聴していない - Togetter

 ここで、特に新聞の率だけを抜き出すと、こうなる。


koudoku2.gif


 若い人はほとんど新聞を読んでいないとわかる。これは「社会的無知」とほぼ同等だろう。だからこそ、菅首相の問題点を理解することもなく、安易に支持するのである。「首相のおかげでちょっと儲かった」と思いながら。

( ※ 本当は損をしているのだ、と気づかないまま。)

 [ 付記2 ]
 米国ではトランプ時代が終わったことで、「悪夢のような4年間が終わった」と喜んでいる人が多いようだ。
 日本では逆だ。「悪夢のような安倍時代が終わった」と思ったら、「もっとひどい菅時代が始まった」と悲しんでいる人が多い……ではなくて、「すばらしい菅時代が始まった」と喜んでいる人が多いようだ。特に、若い人では。……愕然とするね。

posted by 管理人 at 23:35| Comment(11) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そこで渋沢栄一先生の登場なのですね。
Posted by raymay at 2020年11月09日 00:24
前項の続きになります。
「トランプ大統領と菅首相は、どちらも稀代の嘘つきだが、国民の半数(以上)という大量の支持を得ている」
「国民はそろって白痴状態になってしまったのか? いや、そうではあるまい。
 ではどうして、こういうことが起こるのか? 」
「頭のいい人でさえ、トランプ大統領や菅首相を支持するときには、馬鹿丸出しになってしまう。」
「それは、彼らが《 判断停止 》状態になってしまうからである」

この仮説はもっともだと思います。

一つ質問させていただきたいのですが
NHK世論調査
https://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/
菅内閣を支持する理由として「他の内閣よりよさそう」26%「支持する政党の内閣だから」10%
合計すると概ね40%程度になっています。これは安倍政権にも同様な傾向が見られました

内閣支持は絶対的な評価ではなく相対的な評価も含まれると思います。
管理人さんの仰る仮説は絶対的な評価をベースに置いているものだと思います。
国民の中に「野党は菅(や自民党)は今ひとつだが、野党は彼らより嘘つきで無能だ。だから消極的に支持する」
という相対的な評価も含まれているのではないでしょうか。
事実野党第一党の立憲民主党の支持率はたったの4%(自民党の10分の1)しかありません。

管理人さんの仰るとおり、判断停止状態に陥った国民が、絶対的に菅政権を支持しているという見方もできますが、
野党との比較で相対的に評価している国民がいる点についてどうお考えかお教えいただけないでしょうか。

彼らも全員判断停止状態なのでしょうか?
それとも一部の国民は判断停止状態だが
それとは別に比較論で消極的支持層がいると分析されるのでしょうか?
Posted by A at 2020年11月09日 00:39
 判断停止とは、「悪に目をつぶること」であって、支持できる美点があるかどうかという話ではありません。
 本項は前者の話をしているのであって、後者はまた別の話。本項の範囲とは違います。本項では言及しません。(話が面倒すぎる。本項は政治分析ではありません。心理分析です。)

 
Posted by 管理人 at 2020年11月09日 07:33
 最後に [ 付記2 ] を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2020年11月09日 07:34
>「すばらしい菅時代が始まった」と喜んでいる人が多いようだ。特に、若い人では。


・菅政権を喜ぶ『社会的無知』な者



・マスクは無意味だと主張する者
・新型コロナはただの風邪だと主張する者
・インフルよりも死亡率が低いから大したことない、と新型コロナを軽視する者

は、共通しているように思えてしまいますね。(客観的な証拠はないけど)

まるで、共和党支持層がマスクを軽視するかのように。
Posted by 反財務省 at 2020年11月09日 08:30
国民は「自分にとっての損得」を重視して菅首相を支持するようになるとのことだが、それは違うと思う。

なぜなら、安倍=菅ラインを支持することは、大半の国民にとって「損」になるからだ。まあ、橋下みたいなのは現政権に阿ることによって自己の利益に繋げたいとの思惑があるのだろうが、それ以外の一般国民にとっては安倍政権そして菅政権を支持することは不利益にしかならない。

安倍はコロナ禍に対して、大して有効な対策を打ち出さなかった。少なくとも、諸外国の政府に比べればその立ち回り方は見劣りがした。そもそも、コロナ禍の前の段階で消費増税などによりGDPを大幅低下させており、とても国民のことを考えているようには思えなかった。

菅にいたっては、コロナ対策など「どこ吹く風」のごとく、何ら具体策を提示していない。せいぜい、携帯電話料金を下げるのどうのという小手先の方策でお茶を濁している始末だ。また「消費減税はしない」と明言している。

どう考えても、安倍=菅ラインよりも野党あるいは与党非主流派が政権を取った方が国民のためになるのだが、現政権の支持率は低くはない。だから、国民は決して「損得勘定」で現政権を支持してはいないのだ。

では、国民が菅政権を支持している理由とは何か。それは「強権的であること」だと思う。

日本人というのは、民主主義が嫌いなのだ。「お上」がパッパッと何でも決めてしまうのが好きなのだ。

多くの国民は、民主主義の名のもとに議論を重ねることは「時間ばかりが掛かってまどろっこしい」と思っている。強権的・高圧的な政権が、有無をも言わせずゴリ押しして何でも決めつけてしまうことに、快哉を叫んでいるのだろう。そたとそれが結果として自分たちの不利益になろうとも、政権が強権的なポーズを見せると、多くの国民はそれを見て「カッコいい!」とシビれてしまう。

別にこれは安倍=菅ラインに限った話ではない。かつての小泉政権時代でも、国民は「自民党をぶっ壊す」「構造改革なくして景気回復なし」といった、内容空疎ではあるが何やら高圧的で「無敵」なポーズに心酔していたではないか。

ともあれ、国民が今のポンコツな政権を支持することによる「不利益」を思い知るには、どん底にまで落ちて死屍累々になる状態になるのを待つしかないと思う。
Posted by スライ at 2020年11月09日 08:56
 国民全体が損をすることは関係ないんです。パイの全体が縮小することは気にしない。縮小したパイの中で自分の取り分が増えていれば、それでいい。
 農民は、農業補助金。
 企業は、法人税減税や補助金。
 若者は、就職倍率向上。(中高年の失業率悪化)

 自分の取り分が他人よりも増えていれば、それで満足する。国民全体の損については、「ともに苦しむ」ということで甘受する。

 なお、取り分の比率が実際に増える必要はない。「増えている」と見せかければ、それで十分。
Posted by 管理人 at 2020年11月09日 09:32
どの議員でも同じですが、支持者がいうことは全部同じで自分たちが得するようにしてほしい、これだけです
これを無視して国全体の損得がどうとか言ったら落選します。国から金を引っ張って地元にばらまける力が強い議員ほど歓迎されます。
支持者の声を無視して行動しろというなら民主主義を否定するしかないですね
Posted by 通りすがり at 2020年11月09日 10:34
フト思ったのですが、学術会議の推薦って断れないのでしょうか?薄給では嫌だから「やらない」という人が居そうな気が...
こぞってそんなことになれば独立性云々の前に「今のままでよいのか?」という議論にも至るような気もしました。「行政府の長の指揮下にもない。」としながらも、薄給で「意見を申し述べるために時間と労力を使え」というわけですよね?
学者さんたちだから「損得より正義が優先」なのでしょうか?どうも「首相に任免権はない」としながら、十分に「任命して使役している」ようにも見て取れます。

Posted by B at 2020年11月09日 11:04
 もちろん断れますよ。職業選択の自由が憲法で保障されていますから。

 一般に、現役世代の中年以下では、やる人はいないでしょう。功成り名遂げたので、あとは余生を社会への還元に尽くしたい、という老人の奉仕精神に頼っているだけです。

 学者だから、ということではなく、年を食ったから、ということでしょう。現役世代の人は、自分の業績のために時間を使うはずです。
Posted by 管理人 at 2020年11月09日 12:06
菅義偉の政権運営がうまくいっていないと見るや否や、自民党応援メディアから、「民主党政権はやっぱりダメでしょ?」と言わんばかりの記事が出てきますね。8年前に倒された政権の悪口を言っても何も良いことはないのに。

(産経新聞より)
https://www.sankei.com/politics/news/201116/plt2011160030-n1.html
Posted by 反財務省 at 2020年11月16日 21:30
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