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巡航ミサイルを F15 に搭載するそうだが、これについて問題が報じられている。搭載のために F15 を改修するが、その費用が増えて、時期が遅れるそうだ。
航空自衛隊の主力戦闘機F15に自衛隊初の本格的な対地攻撃用巡航ミサイルなどを搭載できるようにする改修をめぐり、改修に先立って準備に必要な初期費用「初度費」が当初見積もりより膨れあがり、予定されていた20機分の改修が大幅に遅れる見通しであることが防衛省関係者への取材でわかった。
長い射程の兵器を備えた敵の上陸部隊や艦隊に離島や周辺の海域が占拠された状況などを想定し、防衛省はF15に巡航ミサイル「JASSM-ER」(射程約900キロ)などを搭載することを決定。中期防衛力整備計画(2019〜23年度の5年間)に改修機数を20機と明記した。予算の計上から納入までに約5年間かかる想定で、20機の改修は27年度までに順次終える計画だった。
だが、機体改修費として実際に計上されたのは19年度予算の2機分(108億円)だけであることが、防衛省関係者への取材でわかった。20年度予算と21年度概算要求には改修費が計上されなかった。
( → F15改修、初期費膨れ大幅遅れへ 南西諸島防衛に影響:朝日新聞デジタル )
まあ、これはこれで問題なので、議論することは悪くはない。しかし、よく考えれば、もっと門限的な問題があるとわかる。
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そもそも巡航ミサイルは、かなりの長距離を飛べる。日本と北朝鮮なら距離は比較的短い。ならば、いちいち空中発射の空対地ミサイルにする必要はなく、単純に地上から発射する地対地ミサイルで済むはずだ。この場合には、地上基地から発射すればいいので、F15 の改修などはもともと不要になる。
そう思って調べたら、次のデータを得た。
・ 巡航ミサイル「JASSM-ER」の射程は、約900 km(上記記事)
・ 平壌と出雲との間の距離は、743km

Google マップ
このデータからして、巡航ミサイルは、山陰地方のどこから発射するのであっても、十分に足りる。高い金を払って、F15 から発射する必要など、さらさらないのだ。
そもそも、F15 はもともと戦闘機であって、巡航ミサイルを搭載するには、適していない。使い方を間違えているというしかない。こんな馬鹿げたことをすると、(余分な搭載装置が加わるせいで)F15 の戦闘機としての能力は落ちてしまう。ドッグファイトでもやったら、あっという間に撃墜されてしまうかもしれない。(不利になるようなハンディ・キャップを付けられているようなものだ。)
どうしても空中から巡航ミサイルを発射したいということであれば、他の航空機を使えばいいだろう。小型の民間ジェット機でもいいし、あるいは、飛行艇を追加発注して、巡航ミサイルを搭載するのでもいい。
記事によれば、2機で 108億円で、20機のことだから、総費用は 1080億円にも上る。これほどの金をかけるくらいなら、140億円の飛行艇を5機ぐらい購入する方が安上がりだろう。飛行艇ならば、1機に多数の巡航ミサイルを搭載することができるので、3機ぐらいで、F15 の 20機分ぐらいの巡航ミサイルを搭載できそうだ。
「ステルスでないと、あっさり撃墜されるぞ」
という心配があるかもしれないが、飛行艇なら、超低空飛行ができるから、敵のレーダーにはなかなか見つからない。そもそも巡航ミサイルは、超低空飛行なので、レーダー探知されにくい。(それが巡航ミサイルの意義だ。)巡航ミサイルをステルスにする必要性は、もともと薄いのだ。(的が最新のハイテクを持つのでなければ。)
というか、そもそも、山陰にある基地から地対地の巡航ミサイルを発射すればいいのであって、空中発射という発想そのものがおかしいのだ。(先に述べたとおり。)
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なお、射程の 900 km というのが物足りないと感じられるかもしれない。その場合には、射程の長い巡航ミサイルがいくらでもあるから、選り取り見取りで、好きなものを選べばいい。
品目の一覧は、下記で。
→ トマホーク (ミサイル) - Wikipedia
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ここで、疑問が生じるだろう。
「防衛省はどうして、こんな初歩的なこともわからないのか? なぜ地対地ミサイルで済むところを、わざわざ空対地ミサイルにするという、馬鹿げたことをやるのか?」
そう思って、よく調べたら、次のことがわかった。
「今回、導入しようとする JASSM-ER は、ステルス巡航ミサイルである。ステルスではあるが、コスパのいい最新鋭なので、価格は非ステルスミサイルと同程度で済む。ただし、空対地ミサイルに限定され、地対地ミサイルはない」
→ 軍事的雑学|何が違うのか?自衛隊が3種類も導入する「巡航ミサイル」の違い!
なるほど。これならば、「ステルスにこだわったので、地対地ミサイルでなく、空対地ミサイルにした」というふうに納得できそうだ。
しかしこれは、机上の空論であるにすぎない。なぜなら、北朝鮮は、高度な戦闘機を持たないからだ。したがって、ステルスでない巡航ミサイルを撃墜することはできない。北朝鮮に対抗する限りは、ステルス機能は、宝の持ち腐れとなるような、余剰な機能であるにすぎない。
一方、中国やロシアに向けてなら、ステルス機能は有益である。しかし、射程が 900 km であっては、中国やロシアに向けて飛ばすには距離が短すぎる。たとえ F15 から発射するにしても、広大な面積をもつ中国やロシアには、射程が 900 km の巡航ミサイルなんて、意味がない。
結局、防衛省は、「ステルス機能」という余分な機能にこだわるあまり、空対地ミサイルを選択せざるを得なくなり、そのせいで、何と 1080億円という余計な費用を必要とするようになった。
その一方で、肝心の巡航ミサイルは、1発 9500万円であるそうだ。( → 上記リンク)
1発1億円以下のミサイルを搭載するために、ただの搭載装置の方に 1080億円をかける。バカじゃなかろうか? そんなことなら、最初からすべて、非ステルスの巡航ミサイルを大量に発射する方がマシだろう。飽和攻撃ができるからだ。
たとえば、巡航ミサイルを同時に 200発も発射する。こうすれば、相手は対応できなくなる。しかもコストは激安で済む。(現行方式では、搭載装置のために 1080億円と、別途、ミサイルが1発1億円程度。)
過剰に高性能のものを選ぶという「質」の重視のせいで、「量が」劇的に低下してしまう、という愚策。こういうのは、兵器オタクの発想だ。あまりにも実戦を無視している。防衛省の兵器オタクは、アニメでも見ていれば、それで十分だろう。
もっとも、直線的に飛ばそうとすると
「ウリたちの領土の上を飛ばすニダ」と言われそうな気もするが…