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電気自動車( EV )の電池は、リチウムイオン電池が主流だ。だが、別のタイプの電池も開発中だ、と前に述べた。
→ EV 用電池の動向: Open ブログ(2020年03月31日)
リチウムイオン電池の一種で、電極材を変えることで、性能を大幅に向上させるタイプのものが開発中だ。
一つは SCiB 電池だ。もう一つは、ニオブ電池だ。 (上記)
さらに、リチウムイオン電池とはまったく別のタイプで、全固体電池というものもある。 (上記)
将来の EV 用の電池は、以上のうちのどれかになりそうだ……と思っていたのだが、一転して、まったく別のタイプのものが現れた。それは「電池レス EV 」と言ってもいいタイプだ。
「電池レス? 電池がないのにどうして走るんだ」
と思われそうだが、そんなものはすでに実用化されている。電車やトロリーバスがそうだ。
これらは有線で電力を得るタイプだが、それとは別に、無線で電力を得ることもできる。電磁誘導というやつだ。
これは、現時点では商業生産はされていないが、実験室レベルでは技術的に可能となっている。詳しくは、以下の通り。
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NHK の「サイエンスZERO」で「次世代パワー半導体」というのが紹介された。(初放送は4月だが、先週に再放送された。)
ここで、白色 LED の素材となった窒化ガリウム( GaN )が、LED だけでなく、パワー半導体として開発されつつある。これを使うと、電力用の半導体として非常に高性能なものができる。
下記に放送の要約がある。
東京大学藤本博志准教授は、次世代パワーの(炭化ケイ素の)半導体と電磁誘導を応用して磁場を発生させるコイルに流れる電気の周波数が高いほど遠くまで電気が届く特性を利用して電気自動車が充電できる研究をしています。
次世代パワーの(炭化ケイ素の)半導体のインバーターでコイルから送った95.2%を自動車で受け取ることに成功しています。
出典:NHK
さらに、実社会で使うための検討も進んでいます。普通車が一般道を走った時の速度のデータを収集したところ、全走行時間の4分の1を信号から30mのところまでに滞在していることがわかりましたので、信号から30mのところまでに送電コイルがあればという走行シミュレーションもできています。
( → ノーベル物理学賞の天野浩教授、青色LEDの窒化ガリウム半導体を応用し、早ければ5年後には無線で電気が受けれる電気自動車が? | CYのブログ )
グラフからわかるように、通常は、走行距離が伸びるにつれて、充電容量はどんどん低下していく。しかし、電磁誘導で送電を受けると、いくら走行しても充電容量が低下しない。なぜなら、信号機の前を通る(停車することもある)たびに、そこから充電を受けるからだ。ちょっと走行しては、ちょっと充電する、という感じだ。
というわけで、充電容量が減らないのだから、充電池はごく小さなものがあるだけで足りることになる。まったくのゼロというわけには行かないが、コスト的にはほとんど無視できるぐらいの小額でも済みそうだ。
現在の電気自動車は、充電池の値段だけで 100万円を少し超える。しかるに、上記のように「走行しながら充電を受ける」というタイプなら、充電池の値段は 10万円でも足りることになる。ここまで少額になると、もはや充電池の値段を考慮しなくてもいい、というふうになるだろう。コスト的には「電池レス」も同然となる。(正確には小容量の電池が搭載されているが。)
電気自動車はガソリン車に比べると、エンジンがないかわりにモーターがある。一方、ガソリン車には変速機があるが、電気自動車には変速機がない。この分は、明らかにコストが低い。かわりに電池代がすごくかかるのだが、この電池代がゼロ同然になると、ガソリン車よりも電気自動車の方が安くなってしまう。
現状では、リチウムイオン電池がすごく高額なので、電気自動車は値段が高い。しかし、「電池レス EV 」が主流になれば、もはや電気自動車の方が安くなるのだ。そうなったら、ガソリン車は絶滅するかもしれない。
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電池レス EV が実用化するとしたら、次の順だろう。
・ 都会専用の EV (信号機の前で充電)
・ 高速道路も走れる EV (高速道路でも充電可能に)
一方、田舎の僻地では、充電池をやたらと設置するわけには行かないので、電池レス EV は使えない。そこでは、現状のように、巨大なバッテリーを積んだ EV を走らせるしかない。
あるいは、内燃機関による発電機を搭載したもの(レンジエクステンダー EV )を使うことになる。これは炭酸ガスを排出するので、環境には好ましくないが。
なお、高速道路で充電するとしたら、長い高速道路にいっぱい送電装置を敷き詰めることになるので、結構大変だと思える。だが、利用する自動車の数が多くなれば、コスト的には成立しそうだ。
実際、すでに実証実験もなされている。
→ 「電池なし」の電気自動車で有人走行、道路を電化しタイヤから送電
→ 大成建設、豊橋技科大/バッテリーレスEVの屋外走行に成功/道路からワイヤレス給電
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ともあれ、こういう技術があるのだが、その技術のカギを握っているのは、パワー半導体の開発だ。炭化ケイ素や窒化ガリウムのパワー半導体が開発中ではあるが、炭化ケイ素は最近はいくらか商業生産されつつあるというぐらいだし、窒化ガリウムはまだ商業生産のレベルに達していない。商業生産をめざして鋭意開発中とのことなので、商業生産まではあと一息というところらしい。
あと2〜3年ぐらいは待たされるらしい。
ペースメーカーをいれてる人は歩道を歩けないかも
ただ、インフラへの依存度が上がると、いざって時に車は使えなくなりそうですね。
地震とか戦争とか…で道路(の中の送電装置、配線)が壊れると、その車は使えない。
たぶん 50万円ぐらい高くなって、性能(加速と燃費)は2割ぐらい低下する。それでも、金にものを言わせて、デカいモーターとデカい電池を搭載して、高性能 EV にする。いざというときも大丈夫。
一方、庶民は、安さ重視の EV を都市部と高速道だけで使う。いざというときは諦める。
など